軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1408話 完璧な人化の術

再会や初めて会う喜びを分かち合ったアイギス三姉妹と八咫烏の女性陣達。

話は早速本日の目的に入った。

「さ、そしたら早速皆さんの人化の術を見せてくださるかしら?」

「そうね、どんな姿形に変身するのか、よく見てからでないとオススメする服の傾向とかも決められないし」

「スリーサイズだけでなく、顔立ちや全体的な雰囲気も把握しておきたいわ!」

「分かりました」

カイ達の催促に、アラエルを始めとした四羽の八咫烏女性陣達が一斉に人化の術を使った。

むっちりムチムチまん丸な八咫烏達の身体がシュルシュル……と縦に伸びていき、カイ達の前に四人の美女が現れた。

「まぁ……何て見事な変身の術なんでしょう」

「ホントね……皆、普通に人間にしか見えないわ……」

「街中ですれ違っても、絶対に誰も気づかないわね!」

アラエル達の見事な変身ぶりに、アイギス三姉妹が感嘆かつ大絶賛している。

アラエルはクレア十二姉妹をモデルにした妖艶な美魔女、ムニンはヴァイキング道場後継者でバッカニアの兄コルセアを手本とした男装の麗人風、トリスはセイにそっくりのスレンダー美女、ミサキはマキシに瓜二つの可憐な美少女。

四人ともタイプの違う美女で、カイ達がうっとりと見つめるのも無理はない。

そして、四人とも皆黒いワンピースやドレス風の衣装に身を包んでいる。

これは八咫烏の羽根をそのまま活かしたスタイルで、アイギス三姉妹もすぐに分かったようだ。

「その黒い服も素敵だけど、他の衣装も是非着せてみたいわね!」

「そうね、特にムニンさんにはパンツスタイルが絶対によく似合うと思うわ!」

「そしたらやはり、皆さんには人の姿を完璧に模倣してもらう必要があるわね……」

四羽の変身が素晴らしいが故に、カイ達の美を追求する姿勢もさらに強まる。

その結果、カイがマキシに申し訳なさそうに話しかけた。

「マキシ君、申し訳ないんだけどしばらく席を外してくれるかしら?」

「……あ、はい、分かりました。でしたら、今からしばらく作業場をお借りしてもいいですか? 皆さんを待つ間に、イアさんの枝の研磨を進めておきたいんです」

「もちろんいいわよ。道具もあるものを使ってくれて構わないわ」

「ありがとうございます!」

カイのお願いに、マキシも乗っかるような形で承諾する。

そしてマキシはすぐに、ミサキやアラエルに声をかけた。

「ミサキ、母様、姉様方、僕は作業場で仕事をしてきます」

「え? マキシ兄ちゃん、もう今日のお仕事は終わったんじゃなかったの?」

「そうなんだけど、せっかくだから部屋の外で皆を待っている間、自分のための修行をしておきたいんだ」

「修行? ていうか、どうしてマキシ兄ちゃんが部屋の外に出なくちゃなんないの??」

マキシが席を外すことが理解できないミサキ。

そしてそれはミサキだけでなく、他の三羽も同じようだ。

その理由を、マキシが噛み砕くように優しく説明する。

「ミサキ、人族というのは『異性に身体、特に裸を見られるのはとても恥ずかしいこと』という考えがあるんだ」

「へー、そうなの?」

「うん。僕達八咫烏はそういうことを全く気にしないけど、服を着る習慣のある種族というのは大抵そうなんだって。これは、僕も人里に出てから初めて知ったよ」

「服を着る種族の習慣、かぁ……うん、そう言われると何だか分かるような気がするー」

マキシの分かりやすい説明に、ミサキや他の三羽も納得顔で頷いている。

ミサキが言うように、八咫烏一族は裸体を見られるのが恥ずかしいという羞恥心は一切ない。霊鳥で服を着る必要もない彼らに、そもそも恥ずかしがる理由などないのだから。

しかし、人族や亜人族が服を着ているのは他者に裸を晒すのが恥ずかしいからなのだ、と考えれば納得がいく。

「僕もこれからずっと人里で暮らしていく以上は、そうした習慣を重んじなければならない。そしてミサキや母様達も、人化の術を会得して今後も八咫烏の里と人里を行き来をし続けていくつもりならば、こうした習慣をきちんと理解しておくべきなんだよ」

「そうね。種族毎に異なる文化や慣習があるのは当然のことよね」

「ええ。そうしたものを無視するのは悪手よね」

「マキシ、私達に人里ならではの新しい知識を教えてくれて、本当にありがとうね。とても助かるわ」

「ぃ、ぃゃぁ、それほどでも……」

とりあえずミサキに向けて優しく説明したマキシだったが、ムニンやトリス、アラエルもマキシの話を聞いて得心し礼を言う。

母達から改めて礼を言われたことに、マキシが照れ臭そうにはにかんでいる。

実際マキシも、ラグナロッツァに住んでアイギスで働くようになってから初めて知ったことがたくさんある。

異性の裸はもちろん着替えるシーンを見るのもタブーだというのは、このアイギスで働いていて真っ先にカイ達から教わったことだ。

このアイギスでは、王侯貴族のドレスや踊り子の衣装もたくさん手がけている。そうしたドレスの試着や衣装のお直しなどの時に、男であるマキシは席を外さなければならない場面も多かったのである。

「では、そういう訳なので、僕は少し席を外します。母様達は、カイさん達の言う通りにしてくださいね。カイさん達に全てお任せすれば、絶対に間違いありませんから」

「分かったわ。貴方も修行を頑張ってらっしゃい」

「ありがとうございます!カイさん、セイさん、メイさん、母様達のことをよろしくお願いします」

「ええ、後は全て私達に任せて」

マキシはカイ達に後を託し、一の客間から退室した。

その後一の客間では女性達の賑やかで楽しそうな会話が弾み、マキシはマキシで作業場で一人気楽に海樹の枝の研磨をこなしていた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

そうしてマキシとアラエル達が別々の場所に分かれてから、小一時間が過ぎた頃だろうか。

もうそろそろお屋敷に帰らないと、晩御飯が遅くなっちゃうなぁ……レオニスさん達を長く待たせる訳にもいかないし、母様達の様子を見てこようかな……と、マキシが海樹の枝の研磨の手を止めた、その時。

作業場にカイがやってきて、マキシに声をかけた。

「マキシ君、長く待たせちゃってごめんなさいね」

「あ、いえ、大丈夫です!そろそろ僕の方から、皆の様子を見に行こうと思っていたところですし」

「そう、それなら良かった。あのね、実は私達からマキシ君にお願いがあるんだけど……」

「??? 何でしょう?」

カイの突然のお願いに、マキシが小首を傾げながら何事かを尋ねる。

すると、カイから予想外の答えが返ってきた。

「あのね、マキシ君のお母様とお姉様、そしてミサキちゃんをしばらく私達に預けてほしいの」

「えッ!? どうしてですか!?」

「それはね、お母様達に完璧な人化の術を覚えていただきたいからなの」

「完璧な、人化の術……」

カイからの思いがけない提案に、マキシがしばし言葉を失う。

カイが言う『完璧な人化の術』とは、裸体のことを指している。

アラエル達の人化の術は、現状では黒い衣服っぽい姿を身にまとっている。

もちろんこれはこれで十分通用するのだが、厳密に言えば人化の術を完全にマスターしたとは言えない。人族の裸体の状態を再現できるようになってこそ、本当の意味で人化の術をマスターしたと言えるのだ。

しかしこれは、如何にライトやレオニスが有能であってもアラエル達女性陣に指南指導することは叶わない。できてもウルスやフギン達同性相手までだ。

そこで、出番となるのがアラエル達と同じ女性であるアイギス三姉妹だ。

彼女達なら、アラエル達の人化の術を完璧なものにしてくれるだろう。

それをマキシに納得してもらうべく、カイが話を続ける。

「私達は明日から、美肌効果で有名な温泉地のティファレトに行くでしょ? 温泉なら同じ女の人の裸をたくさん見ることができて、お母様達の人化の術の会得に役立つはずよ」

「カイさんの仰りたいことは分かりました。ですが……どうしてそこまでしてくださるんですか? 今の母様達の人化の術でも、上から服を着れば十分通用すると思うのですが……」

「そうね。それは私もそう思うんだけど……特にセイが乗り気でね」

「え? セイさんが、ですか?」

マキシの尤もな疑問に、カイもどことなくもじもじしながら経緯を明かす。

カイの話によると、特にセイが「皆に人族の女性の本当の姿、裸体で変身できるようになってもらいたい!」と強く主張しているのだという。

その理由は『ムニンにスラックスを履かせたい!』というもの。

要は『ムニンを完璧な男装の麗人に仕上げたい』という、サイサクス世界のファッションリーダーの一人であるセイの本能的な欲求。彼女の美的感覚が、これまでになく強く訴えかけているのだ。

「セイがね?『ムニンちゃんには、センタープレスのピシッ!としたパンツが絶対に、絶ーーーッ対に似合うはずよ!』と言っててね。実際のところ、私も人化したムニンちゃんにはパンツスタイルがよく似合うと思うの」

「確かに……今の母様や姉様達の人化の術では、パンツスタイルを着こなすことはできませんね」

「でしょう? だからね、もしマキシ君さえよければ、私達の温泉旅行にマキシ君のご家族をご招待したいの。もちろんマキシ君も、お母様達といっしょについてきてくれてもOKよ? せっかく久しぶりに家族に会えたのだから、マキシ君だってお母様達といっしょにいたいだろうし」

「………………」

カイの更なる提案に、マキシはしばし考え込む。

だが、その思考時間もほんの少しだけ。マキシはすぐに顔を上げて、カイを真っ直ぐに見つめながら答えた。

「いいえ、僕は遠慮しておきます。カイさん達だってせっかくの温泉旅行ですし、僕もライト君達との約束が入っていますので」

「そう、それは残念ね……」

「せっかくのご厚意を示してくださったのに、すみません」

「いいえ、それはマキシ君が謝るようなことではないから大丈夫、気にしないで」

マキシの同行も認めるつもりだったカイだが、当のマキシにすっぱりと断られてしまった。

それ自体はまぁさしたる問題ではないのだが、そうなると本題の方が気にかかる。

カイがマキシに向けて、おそるおそる問うた。

「そしたらマキシ君は、私達がマキシ君のお母様達を温泉旅行に連れていくのも反対?」

「いいえ、母様達がカイさん達とともに行きたいと言っているなら、僕は反対しません。反対するどころか、逆にカイさん達の旅行の邪魔にならないか心配なくらいです」

「邪魔だなんて、とんでもない!アラエルさんはとても優しくて素敵な方だし、ムニンちゃんやトリスちゃんだって明るくて可愛らしいし、ミサキちゃんなんてもうすっかり私達の妹も同然よ!」

カイ達の温泉旅行に、アラエル達の同意のもとで同行することを快く賛同したマキシ。

それを知ったカイは安堵し、決して旅行の邪魔になどならないことを強調してマキシに伝える。

その言葉にマキシは感動の面持ちでカイに頭を下げた。

「そこまで仰っていただけるなんて……ありがとうございます、本当に嬉しいです。ただ、今日の晩だけはレオニスさんのお屋敷に戻ってもいいですか? 今日の晩御飯は、ラウルが母様達の歓迎のためにご馳走を用意すると言ってくれてたんです」

「もちろんよ!ラウルさんお手製のご馳走なら、何が何でも食べておかなくっちゃね!」

「ありがとうございます。……そうだ、せっかくならカイさん達も、今日はレオニスさんのお屋敷で晩御飯を食べませんか? 大勢で食べる賑やかなご馳走は、絶対に楽しいですよ!」

「え、私達も? ……でも、そうね、それもいいかも。レオちゃん達といっしょにご飯を食べるなんて久しくしてないし、何よりマキシ君のご家族を温泉旅行に連れていくのは私達から申し出たことだもの。だったら私達の方から、レオちゃん達に説明するのが道理だものね」

今日の晩だけはレオニス邸に帰りたいというマキシに、カイも一も二もなく同意する。

ラウルがアラエル達の歓迎のためにご馳走を振る舞う予定だと聞けば、それを邪魔する理由などない。

むしろマキシの方から晩御飯をいっしょに食べましょう!と誘い始め、カイも次第に乗り気になっている。

「じゃあ、私はセイやアラエルさんに晩御飯のことを話してくるから、マキシ君も帰宅できるよう準備しといてね」

「分かりました!ここの道具やゴミを片付けてから、一の客間に行きますね!」

「うふふ、向こうで待ってるわね」

「はい!」

マキシとカイの間で話がまとまり、カイは一の客間に戻りマキシは作業場の後片付けを始める。

帰宅の準備が整った後、セイとメイが店と裏口の戸締まりをそれぞれしっかりと確認する。

そうしてマキシ達八咫烏とアイギス三姉妹は、揃ってレオニス邸に向かっていった。