軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1386話 コルルカ高原の空の旅

ゼスや風の女王とともに、辻風神殿を出たライト達。

風の女王を背に乗せたゼスと横並び、ものすごい勢いでコルルカ高原奥地に向かう。

『皆、飛ぶ速度がものすごく速いねぇ』

「おう、こないだバルトからもらった鱗な。あれをほんのちょびっとだけ切り取って、欠片を飲み込むことで飛行速度がものすごく上がったんだ」

「うん、これも全部バルトのおかげだよ!ありがとうね!」

『それは良かった。僕の鱗が皆の役に立てて、とても嬉しいよ』

風を司る青龍のゼスや風の女王はともかく、人族のライトやレオニス、妖精のラウルまでもがゼスの高速飛行にピッタリとついていけているのは驚きだ。

そしてその高速飛行の秘訣が、ゼスが先日ライト達に渡した青龍の鱗の力を用いたおかげだということを知り、ゼスの顔も綻ぶ。

そんなライト達の会話に、ラウルや風の女王も混ざる。

「バルトの鱗を欠片にして飲むのを思いついたのは、小さなご主人様の発案だがな。俺もご主人様もそれを真似て、そのおかげで俺達まで早く飛べるようになったって訳だ」

『へー、ライトって頭がいいのね!』

「ぃゃぁ、それほどでも……」

ラウルの補足説明に、風の女王が感心したようにライトを褒める。

大好きな風の女王に褒められたライト、照れ臭そうにはにかんでいる。

その後も『どのくらい鱗を飲んだの?』「全部合わせても小指の爪くらいですかねー」といった雑談に花を咲かせるライト達。

赤茶けた広大で殺風景なコルルカ高原も、大勢での移動なら楽しく過ごせるというものだ。

しかし、コルルカ高原はとにかく広い。何しろ広い。とんでもなくだだっ広い。

行けども行けども赤茶色の台地や窪地が果てしなく続く。

ライト達がフラクタル峡谷を出てから一時間以上飛び続けた。

するとここで、ライトが心配そうに風の女王に声をかけた。

「風の女王様、辻風神殿からだいぶ離れましたけど……大丈夫ですか? 気分はどうですか?」

『だだだ大丈夫よ……女王になってから、こんな遠くまで来たことは一度もないけど……』

『風の女王、本当に大丈夫? 僕の我儘に付き合わせちゃってごめんね……』

『そそそそんな!我儘だなんて、とんでもない!』

『具合が悪いなら、今からでも引き返すよ?』

『ほほほ本当に大丈夫です!だって、これまでもバルト様と毎日お空の散歩をしてきて、神殿から離れることにもだいぶ慣れてきていましたし!』

風の女王の体調を気遣うライトに、ゼスも彼女の様子を心配そうにしている。

レオニスの誘いに乗ってコルルカ高原奥地まで飛んできたが、風の女王は辻風神殿から離れ過ぎると何故か不安や焦燥感に駆られるのだ。

このことを忘れていた訳ではないが、風の女王も皆といっしょに出かけて当然のようにゼスの背中に乗り込んできたので、ついいっしょに出発してしまった。

そんなライト達の気遣いに、風の女王が一転して奮起した。

『大丈夫です!だって、バルト様といっしょですもの!貴方様といっしょなら、ワタシは世界中のどこへだって行けますわ!』

『そっか、僕も風の女王といっしょに出かけられて嬉しいし、とても心強いよ』

『はい!ワタシもバルト様のお背中に乗せてもらえて、とっても幸せです!しかも、こんな遠く離れたところまで来られるなんて……本当に夢のようですー!』

ゼスの背中にぴっとりとくっつきながら、嬉しそうに応える風の女王。

確かに風の女王の言う通りで、ゼスが生まれるまでの彼女は辻風神殿からろくに外に出られず、鬱屈した日々を泣き暮らしていた。

そんな風の女王にとって、こんなにも遠出できるというだけで既に素晴らしい出来事だった。

属性の女王は常に各自の神殿に縛り付けられているが、そうしたゲームの強制力も敬愛して止まない神殿守護神という心強い相棒の存在の前では弱まるのだ。

今のところ風の女王の体調も問題ないようだし、ライト達は安堵しながら再び西に進んでいった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

それからさらに一時間ほど飛び続けたライト達。

ようやく野生の鷲獅子達が住む縄張りに入った。

「皆、ここら辺から鷲獅子の縄張りだから一応注意しながら進むぞ」

「はーい」

『レオニス君、鷲獅子の王の居場所は分かってるの?』

「アウルムがよくいる場所は何ヶ所か知ってる…………おっと!」

レオニスがゼスと話をしていると、その最中に何者かがレオニスの飛んでいる場所に向かって突っ込んできたではないか。

咄嗟に避けたレオニスが後ろを振り返ると、そこには小型の鷲獅子が三体いた。どうやらレオニス達のことを侵入者と判断し、排除しにかかってきたようだ。

歯を剥き出しにしながら、グルルルルル……と呻りライト達を威嚇する小型の鷲獅子達。

大型種に比べたら小ぶりな体格だが、その闘志と威勢の良さは紛れもなく鷲獅子のもの。

小型の鷲獅子達の勇敢さに、レオニスが感心しきりといった様子で呟く。

「おぉおぉ、熱烈な歓迎じゃねぇか。……ま、俺も鷲獅子騎士団のあいつらも、小型の奴らとはろくに遊んでねぇしな」

「レオ兄ちゃん、大丈夫!?」

「ああ、大丈夫だ。ライトはラウルやバルト達といっしょに後ろに下がってろ。ここは俺が何とかするから」

「う、うん、分かった。レオ兄ちゃん、気をつけてね」

「おう、ありがとうな」

野生の鷲獅子に襲われたレオニスを心配して駆け寄るライトに、レオニスが事も無げに返す。

そしてライト達を後ろに下がらせた後、レオニスは野生の鷲獅子三頭と睨み合いしつつ目線を下に移す。

「……フン、下にもまだ数頭隠れていやがるな。いいだろう、まとめて相手してやろうじゃねぇか」

「「「…………ッ!!!!!」」」

空中に一人留まっていたレオニスから、突如強い闘気が発せられた。

そのあまりの強さに、レオニスと対峙していた三頭の小型鷲獅子だけでなく、地上で隠れ控えていた他の複数の鷲獅子達も身体が固まってしまっている。

そうして数瞬の後、小型の鷲獅子達は這う這うの体で逃げ出してしまった。

大型種相手には厳しいが、小型の鷲獅子ならこの程度の威圧で十分蹴散らせるのだ。

「さ、片付いたぞー。アウルムがいつもいるのはもうちょい奥だから、皆で固まって進むぞー」

「はーい」「おう」

『『…………』』

ライト達を呼び寄せるレオニスの声に、ライトもラウルも事も無げに再びついていく。

しかし、ゼスと風の女王はぽかーん……としたままレオニスを見つめている。

彼らはこれまで穏やかなレオニスしか見たことがなく、最強冒険者としての苛烈な面を目の当たりにするのはこれが初めてだったためだ。

『レオニス君って、あんなこともできるんだねぇ……』

『ですねぇ……でも、鷲獅子達を傷つけることなく退けられるのは良いことですわ』

『そうだね。それもきっと、レオニス君なりの優しさなんだろうね』

『ええ、きっとそうですわ!』

しばし呆気にとられていたゼスと風の女王だったが、それも次第になくなっていく。

ゼス達は、レオニスはいつでも気の良い善良な人族の青年だということを知っている。

そしてこの先何があろうとも、レオニスはライトとともにゼスの生みの親の一人であり、彼らが絶対的な信頼を寄せる数少ない人族の英雄なのだ。

こうしてライト達は、再びコルルカ高原奥地に向かって進んでいった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

野生の鷲獅子達の縄張りに入ってから、約十分が経過した頃。

先頭を飛んでいたレオニスが右腕を横にし、ライト達に止まる合図を出した。

「レオ兄ちゃん、ここら辺にアウルムさんがいるの?」

「ああ。ライト、お前にもアウルムの強い氣が感じられるだろう?」

「……うん、確かにこのもう少し先にとても強い魔力があるのが分かるね」

レオニスの話に、ライトも頷きつつ同意する。

そこは、アウルムが好んで日向ぼっこをする場所の一つの近く。

レオニスの魔力感知で、そこにアウルムがいると確信しているようだ。

そしてライトが横にいたゼスをふと見ると、その表情がいつにも増して固い。

ゼスもライト達同様に、強者の気配を感じ取っていた。

『レオニス君……これが、君の言う鷲獅子の王の気配?』

「ああ。このすぐ近くに鷲獅子の王、金鷲獅子アウルムがいる」

『辻風神殿にいる時でも分かるくらいの存在感だったけど……近くに来ると、その強さが痛い程よく分かるね』

「これでもまだ療養中らしいがな。何しろ瀕死の状態から復活したばかりだし」

『これでまだ弱ってる状態なんだ……本当にすごいね』

アウルムの強大な気配に、ゼスが強張ったままの表情で息を呑む。

ゼスは四神の一角である青龍、しかも辻風神殿の守護神だけあって彼自身が強大な存在だ。

しかし、そんなゼスであってもアウルムが放つ気配に畏れを感じるようだ。

「さ、そしたらアウルムのところに行くぞ」

「はーい!」「おう」

『うん!』『……ええ!』

レオニスの軽い呼びかけに、皆が口々に応じる。

ライトとラウルはレオニスと同じく軽い口調だが、ゼスと風の女王は意を決したような意気込みを感じる。

ここら辺は、既に知己を得た者と初見の者との差か。

そうして再びレオニスを先頭にして、アウルムがいるであろう場所に今度はゆっくりと近づいていった。