軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1368話 砂漠蟹の買い付けのその後

そうしてラウルと厨房で楽しいひと時を過ごしたライト。

今日のお題であるホールのアップルパイが予定通り十個焼き上がった。

ラウルとマキシもカタポレンの家に移動して、ラーデを含めた皆で晩御飯を食べる。

そして本日のメインスイーツ、ライト特製アップルパイの登場だ。

見た目はラウル特製のものと遜色ない出来に、皆が囃したてる。

「おお、これがライトが作ったアップルパイか、美味そうだな!ラウル、後で俺の分三個くれよー」

「おう、ご主人様の分もちゃんととっといてあるから安心しろ」

「うわぁ、すっごくいい匂いがしますねー……さすがライト君、お料理も上手にこなしちゃうんですね!」

レオニスはラウルにアップルパイ三個分の譲渡を確認し、マキシはアップルパイの出来上がりを食べる前から褒めちぎる。

まだ食べてもいないうちから大絶賛され、ライトが照れ臭そうにはにかむ。

「そそそそんなことないよ!パイ生地はラウルの作り置きをそのまま使わせてもらったし……ぼくがしたことなんて、林檎の皮剥きと細かく刻んで煮込んだだけだよ」

「いやいや、それがちゃんとできるだけでもすごいですって!それに僕、ラウルがパイ生地を作るところを見たことありますけど……あれを料理初心者がいきなりやるのは、絶対に大変ですもん。だから、最初のうちはラウルに手伝ってもらうのは全然アリですよ!」

「そうだぞ。まずは料理の楽しさを知るところから始めなきゃな」

「そ、そうかな……ていうか、皆まず食べてから感想を聞かせてよぅ!」

とにかくライトの料理の腕前を絶賛するマキシに、ラウルもうんうん、と頷きながら同意する。

余程の超弩級の天才でもない限り、最初は誰でも失敗するものだ。

しかし、失敗を乗り越えられる強い精神力を持ち合わせていなければ、料理の楽しさを知る前に苦手意識を持ってしまう。

そうならないよう、まずラウルは自分の手持ちの材料を惜しみなく与え、ライトに料理の楽しさを教えることを最優先したのだ。

そしてライトの照れ隠しの催促に、皆一斉にライトのアップルパイを食べ始めた。

「おお、これは美味いな!いくらでもおかわりできそうだ!」

「ホントですね!ラウルのアップルパイにも負けないくらいに美味しいです!」

『この家の畑で育った林檎が、このような甘露に変身するとは……』

「フィィィィ♪」

レオニスやマキシだけでなく、ラーデやフォルもライトのアップルパイを美味しそうに頬張っている。

そうして皆に食後のデザートとして出したホールのアップルパイは、あっという間に完食となった。

もちろんライトも食べたが、一切れを食べている間に他の皆がパクパクとものすごい勢いで食べていったので、ライトの口には一切れ分しか入らなかった。

しかし、皆が口々に美味しいと言って食べてくれたのでライトは満足していた。

「ねぇ、ラウル、次はパイ生地作りに挑戦したいな!」

「おお、そしたらライトが春休みのうちにもう一回料理教室を開くか」

「やったー!ありがとう、ラウル!」

「どういたしまして。ライトも将来冒険者になるなら、料理だってできるに越したことはないからな」

「うん!」

ライトのおねだりを快く受け入れるラウル。

嬉しそうに礼を言うライトに、ラウルも小さく微笑みながらライトの頭をくしゃくしゃと撫でる。

こうしてカタポレンの森の夜は和やかに過ぎていった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

ライトとレオニスがノーヴェ砂漠遠征から帰還した翌日こと。

レオニスはラウルを連れてネツァクに来ていた。

昨日の今日で再びネツァクを訪れた理由、それはルド兄弟宅にあった。

ルド兄弟の家の玄関に入り、中に向けてラウルが声をかける。

「おーい、リカルド、いるかー」

「はいはーい……お、ラウルさんだけじゃなくてレオニスさんもいるじゃねぇか!」

「よ、リカルド。こないだぶり」

「ノーヴェ砂漠から無事帰ってきたようで何よりだ!あれからちょうど一週間経つし、どうしたのかずっと気になってたんだぜ!?」

「来るのが遅くなってすまんな。本当は昨日帰ってきてたんだが、ネツァクに戻ったのが夜明け直後でな。さすがに朝っぱらから押しかける訳にはいかんと思って、日を改めたんだ」

「そっかそっか、何にしても無事な姿を見せてくれただけで御の字だ!」

レオニスとラウルの来訪、そしてレオニスの無事を心から喜ぶリカルド。

ほんのりと日焼けした小麦色の肌で浮かべる人懐っこい笑顔は、リカルドの善良な性格を現していてレオニス達の心も和む。

「今日はこないだの注文品を受け取りに来たんだろ? ささ、玄関で立ち話も何だ、裏の生け簀で注文品を直接確認してくれ」

「ああ。良い蟹は入ってるか?」

「もちろん!うちの兄貴が釣ってくるサンドキャンサーは、どれも極上品だからな!」

奥の客間に移動する間に、買い付けた砂漠蟹の様子などを聞くレオニス。

もちろんリカルドは、自分達が扱う商品=砂漠蟹の品質に自信を持って応える。

そして裏庭に出ると、たくさんの生け簀とともにそのほぼ全てにゆったりと寛ぐサンドキャンサーがいた。

立派な魔物であるサンドキャンサーが、温泉に浸かるかの如くのんびりと寛ぐ様はいつ見ても不思議な光景である。

するとここで、リカルドが奥で作業しているヘラルドに向かって声をかけた。

「おーい、兄貴ー、ラウルさんとレオニスさんが来たぞー」

それまで何やら土を掘っていたらしいヘラルド。後で聞いた話によると、サンドキャンサー用の生け簀の増設をしていたらしい。

ルド兄弟の砂漠蟹はとても人気があって、今ある設備だけではとても足りないのだとか。

リカルドの呼びかけにヘラルドが振り返り、一旦手を止めてレオニス達のもとに来た。

「おお、レオニスさん、無事帰ってきて良かった!」

「おかげさまでな。今日はこないだ注文したラウルの土産用の砂漠蟹を買い取りに来たんだ」

「土産を渡す相手を直接連れて買い物に来たのか。なかなかに粋なご主人様と執事様だな!」

「こいつの場合、空間魔法陣を持っているからな。砂漠蟹丸ごと一匹だろうと余裕で持って帰れるし」

「違いない!」

カラカラと高笑いしながらレオニスと会話するヘラルド。

確かにヘラルドの言う通りで、土産を渡す相手を伴って砂漠蟹を買いに来る客などそうそういないだろう。

その後ラウル用に確保されていたサンドキャンサーをリカルドが締め、解体作業場を借りたラウルがその場でテキパキと捌いていく。

相変わらずの手際の良さに、リカルドだけでなくヘラルドも「俺らが捌くより早くね?」と心底驚嘆していた。

そうしてあっという間に砂漠蟹を解体し、ラウルが空間魔法陣を開いていそいそと収納していく。

砂漠蟹丸ごと一匹3万G、日本円にして約30万円の高級食材を土産にもらえたラウルはホクホク顔である。

一方レオニスは、リカルドに『砂漠蟹お買い上げ証書兼引換券』を渡しながら、今日のルド兄弟へのもう一つの用件を伝え始めた。

「そういや買い付けの時に頼まれた件、きちんと確認してきたぞ」

「ン? 何か頼んだことあったっけ?」

「何だ、もう忘れちまったのか? 砂の女王に会ったことがあるっていうあんた達の爺さんの爺さんの話だよ」

「…………ああ!ハロルド曾々祖父さんのことか!」

レオニスの言葉に、一瞬きょとんとした顔をするリカルド。

最初は何のことだか分からなかったが、レオニスの話を聞いて自身の四代前の爺様のことだと思い出したようだ。

「砂の女王も、あんた達の爺さんのことを覚えていたよ。と言っても、そのハロルドを助けたのは先代の砂の女王だそうだ」

「先代? てことは、爺様の爺様を助けてくれた砂の女王は、もうこの世にはいないってことか?」

「ああ。属性の女王は歴代の女王の記憶も引き継ぐからな、それで今代の砂の女王も先代の女王の記憶として覚えていたんだ」

「そっか……」

「そりゃ何とも寂しいもんだな……」

レオニスの話に、リカルドとヘラルドがしょんぼりとしたように呟く。

四代前の爺様の体験談ともなれば、それは確実に百年以上も前の話だ。

それだけ月日が経っていれば、砂の女王だって代替わりしていてもおかしくはない。

しかし、実際に砂の女王と会ってきたというレオニスから代替わりの話を聞くと、ルド兄弟も無性に寂しく感じるようだ。

そんなルド兄弟に、レオニスがさらに話を続ける。

「でな、今代の砂の女王からハロルドの子孫に渡してくれって頼まれたものがあるんだ」

「「???…………ッ!!!」」

レオニスが空間魔法陣を開き、砂の女王から預かった砂の勲章を取り出してルド兄弟の前に差し出した。

二人ともそれが何なのか、初めのうちは分からなかった。しかし、ノーヴェ砂漠を凝縮したような渦巻く砂色の紋様を見て、それが砂の勲章であることをすぐに理解した。

「これは、もしかして……砂の勲章、か?」

「ああ。今でも砂の女王から受けた恩義を忘れない、とても律儀な子孫達に私から勲章を授けたい、と砂の女王は言っていた」

「「…………」」

思いがけない品の登場に、ヘラルドもリカルドも言葉を失う。

その後レオニスは、砂の女王から聞いた話をルド兄弟にも語って聞かせた。

先代の砂の女王は、弱者を見つけると後先考えずに手を差し伸べるようなとても心優しい女王だったこと、ハロルドのことを助けた後もずっと気にしていたこと、ハロルドが人族の生を終えてこのノーヴェ砂漠に埋骨された時に彼の魂とともに天に帰ることを望み、先代の女王は消滅したこと等々。

その話をずっと静かに聞いていた二人の目が、次第に潤んでいく。

「そっか……爺様の爺様がずっと持っていた、砂の女王様への想いは届いたんだな……」

「ハロルド爺様は、生涯独身を貫いたんだ。この家業だけは途絶えさせる訳にはいかないから、と言って遠縁の親戚から養子を迎えたことで、こうして俺達の代まで続いているんだが」

「ハロルド爺様、あの世で敬愛する砂の女王様といっしょに仲良く過ごしてるといいな……」

一族に代々伝わる物語として、幼い頃からずっと聞かされていたハロルドと砂の女王の物語。

人の身でありながら精霊の女王に恋をした、分不相応な悲恋だと思われていたそれが、実はハッピーエンドだったことを知ったヘラルドとリカルド。

二人の瞳からは感動の涙が溢れていた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「レオニスさん、こんなとんでもなく貴重な物を届けてくれて本当にありがとう」

「俺からも礼を言わせてくれ。あの時レオニスさん達には『女王様に会ったらハロルド爺様のことを覚えてるか聞いてくれ』なんて気軽に言ったが、本当に聞いてもらえるなんて思っていなかったんだ。なのに、こうして砂の女王の話を聞かせてくれただけでなく、女王様から勲章までもらってきてくれるなんて……一生恩に着る、本当にありがとう」

砂の勲章を受け取ったヘラルドとリカルドが、レオニスに向けて深々と頭を下げる。

そんな律儀なルド兄弟に、レオニスが明るい声で応える。

「そこまで恩に着るこたないさ。もののついでと言っちゃアレだが、もともと俺達は砂の女王に用があって探してたんだし」

「いやいや、砂の女王に会いたいと言って本当に会える人間がどれだけいる? 少なくとも俺達は、これまで砂の女王に一度も会えたことはないし、何ならこのネツァクの街にだって一人もいないと思うぞ?」

「ぁー、そりゃまぁな……今代の砂の女王は基本的に出不精らしいしな……」

レオニスに反論するリカルドの言葉に、レオニスは今代の砂の女王は基本引き篭もり体質っぽいことを思い出す。

日中は暑くて外に出たくない、出ても満月の夜くらいしか出歩かない、となれば近年の目撃例が激減しても致し方ない。

「あ、そういやその砂の勲章な、それを手に持ちながら呼びかけると砂の女王達に声が届くそうだぞ」

「そうなのか!? そりゃ良いことを聞いた!」

「だな!そしたら普段は兄貴が身につけるといい!ノーヴェ砂漠で狩りをしている最中に何か起きた時に、砂の女王様に助けを求めることができるってことだもんな!」

「それが一番だな」

砂の勲章の使い方?をレオニスから伝授されたルド兄弟。

その効果を聞いて、興奮気味に二人で話し合っている。

確かに普段からノーヴェ砂漠でサンドキャンサー狩りに出るヘラルドに砂の勲章を持たせれば、万が一その身に危険が迫った時に砂の女王やガベリーナに助けを求めることが可能になるだろう。

これからもネツァクの街で砂漠蟹職人を続けていきたいルド兄弟にとって、これ以上ない加護である。

そしてルド兄弟が改めてレオニスに礼を言う。

「レオニスさん、本当にありがとう」

「ハロルド爺様と砂の女王様の話とともにレオニスさん、あんたのことも子々孫々まで語り継ぐことを約束する」

「え"!? 精霊の女王の話を語り継ぐのは分かるが、俺のことまで代々語り継いでいく必要なんかあんの!?」

「「あるッ!!」」

ルド兄弟の突然の提案?に、レオニスが目を丸くしながら仰天している。

ルド兄弟が一体レオニスの何をどう語り継ぐつもりなのか、現時点ではさっぱり分からないが、何かとんでもない話になりそうな予感しかしない。

しかし、レオニスに恩義しか感じないルド兄弟にとっては大真面目な話である。

気合い十二分でその必要性を断言するルド兄弟と、泡を食いながらオロオロとするレオニス。

それを横で見ていたラウルが、堪らずくつくつと笑う。

「ご主人様の伝説がまた一つ、ネツァクで生まれたな」

「何だとぅ!? お前、他人事だと思って適当なこと言いやがって!」

「いやいや、俺だってご主人様のことはすごく尊敬しているぞ? だからこうしてご主人様が伝説の英雄として、今より一層その名を馳せることはものすごく嬉しい」

「ぐぬぬぬぬ……」

最初こそくつくつと笑っていたラウルだったが、次第にその顔が大真面目になっていく。

そしてこのラウルの言葉に嘘偽りはない。もともと嘘をつくことができないラウルのこと、今つらつらと語る言葉も全てが本音であり本心なのだ。

そのことはレオニスも重々承知しているだけに、他の人になら言えるであろう「嘘つけ!」等のツッコミすらできずに口篭る。

その一方で、ルド兄弟はラウルの言葉に大いに賛同していた。

「ラウルさん、本当に素晴らしいご主人様をお持ちで羨ましいな!」

「そうだろうそうだろう、うちの大小二人のご主人様はどちらも世界一強くて賢くて素晴らしいからな!」

「前に、もし執事の仕事を辞めることがあったらうちに来てくれ、なんて言ったこともあったが……そんな日は絶対に来ないな」

「ああ、俺は一生ラグナロッツァでご主人様達の執事をしていくと決めてるからな」

ラウルとルド兄弟の、レオニスの持ち上げ方がとにかく半端ない。

特にラウルなど、親バカならぬ執事バカもいいところである。

三人で大盛り上がりしている横で、レオニスだけが右手で顔を覆いつつ「はぁー……」と呆れたようにため息をつくばかりであった。