軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1353話 別れの旅立ち

銀碧狼親子と一つのベッドで雑魚寝した翌朝。

空が白んできた頃、シーナが目を覚ました。

ふぁぁぁぁ……と大きなあくびをしながら起き上がり、両腕を真上に上げて背を伸ばすシーナ。

ふと横を見ると、ラーデとアル以外の面々=人外ブラザーズがいない。

シーナとしては早起きしたつもりだったが、どうやら遅い目覚めだったようだ。

シーナはまだ寝ているアルを起こさないように、そっとベッドから出て家の外に出た。

すると畑の方に人影が見える。それは、朝イチの収穫に励むラウルだった。

『おはよう、ラウル。朝から精が出ますね』

「お、シーナさん、起きたのか。おはよう」

『今日は何を収穫しているのですか?』

「さっきまで大根を収穫してたんだが、今からシーナさん達の朝食と手土産にする林檎を採ろうと考えていたところだ」

『まあ、私達のために林檎を採ってくれるのですか。それは嬉しいですね』

ラウルの言葉に、シーナの顔がパァッ!と明るくなる。

早速ラウルが林檎の木の前に移動し、ふわり、と宙に浮いて赤々とした大きな林檎を一個もぎとった。

そしてシーナの前にストッ、と降り立ち、もぎたての林檎を差し出した。

「ほら、今採ったばかりの林檎だ。よかったら食べてくれ」

『お言葉に甘えていただくとしましょう』

ラウルから林檎を受け取ったシーナ、人化の術を解いて本来の銀碧狼の姿に戻る。

そして早速もぎたての林檎をパクッ☆と一口で頬張る。

シャクシャク、ボリボリ、ゴッキュン…………

巨大林檎を噛み砕く音がしばし響いた後、口の中のものを飲み込んだシーナの顔は非常に満足そうだ。

『ここでいただく林檎は、本当に美味ですねぇ』

「今のうちにたくさん食べてってくれ、ツェリザークに帰れば当分は食えんだろうしな」

『そうですね、ここにいるうちにしか味わえない甘味ですものね』

二個目、三個目と次々に巨大林檎を採ってはシーナに渡すラウル。それをシーナが遠慮なくもっしゃもっしゃと食べている。

巨大林檎をせっせと運ぶラウルの健気なことよ。美味しいものを食べて喜んでもらいたい、というラウルの情熱はここでも発揮されていた。

するとそこに、朝の魔石回収ルーティンワークを終えたライトが帰ってきた。

ライトは家には入らず、ラウル達がいる畑に一直線に向かってくる。

「ラウル、ただいまー!あッ、シーナさんもおはようございます!」

「おう、おかえりー」

『おかえりなさい、ライト。幼いうちから毎朝の修行を欠かさないというのは、とても立派なことですね』

「ありがとうございます!」

シーナに褒められたライトが嬉しそうに破顔する。

毎朝の修行は、今となってはすっかりライトの生活の一部だが、それでもこうして面と向かって褒められると嬉しいものだ。

「というか、アルはまだ寝てるんですか?」

『ええ。私が起きた時には、ラーデを抱っこしながら寝てましたよ』

「そっかぁ、アルとラーデも仲良くなってくれて良かった!」

『私もねぇ、まさかここで皇竜などという高位の存在にお目にかかるとは夢にも思っていませんでしたよ……』

未だレオニスのベッドで仲良く眠るラーデとアル。

もともとアルは全く人見知りしない性格で、ラーデともすぐに仲良くなれた。

もっとも、皇竜に敬意を払わないアルにシーナはハラハラし続けていたが。

そしてここで、森の警邏から帰ってきたレオニスがライト達のもとに来た。

「お、何だ何だ、皆で畑で井戸端会議か?」

「あ、レオ兄ちゃん、おかえりー!」

「おかえりなさい、レオニス。貴方も毎朝の見回りご苦労さまです」

「おう、シーナ達が帰る前にちゃちゃっと済ませてきたわ」

警邏の仕事をサクッと終えてきたレオニスを、ライトとシーナが出迎える。

そこに、それまで巨大林檎を収穫していたラウルも合流した。

「お、ご主人様もおかえりー」

「おう、ラウルも朝の収穫ご苦労さん。俺にも後で林檎を十個ほど分けてもらえるか?」

「了解ー。……さ、大小ご主人様達も帰ってきたことだし。皆で朝飯にするか」

「賛成ー!」

ラウルの提案にライトが真っ先に反応し、両手を挙げて賛成している。

『そしたらラーデとアルも起こさないといけませんね』

「俺は朝飯の支度をするから、そっちはご主人様ととシーナさんに任せるわ。ライトは畑の水遣りよろしくな」

「分かった!」

「おう、任せとけ」

人族二人と妖精、そして人化した銀碧狼。

四人は仲良くカタポレンの家に入っていった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

そうしてカタポレンの家で皆で朝食を食べたライト達。

いよいよ別れの時がやってきた。

まずシーナがアルとともに玄関を出て、ライトとレオニス、ラウル、ラーデがそれに続く。

朝から巨大林檎と大好物の唐揚げをたくさん食べて、満足そうなアル。その首っ玉に、ライトがそっと抱きつく。

「アル、もうお別れなんて寂しいな……」

「クゥーン……」

「でも、会おうと思えばいつでも会えるもんね……」

「ワゥワゥ……」

「またいつか、シーナさんといっしょにお泊まりに来てね。ぼくもツェリザークに遊びに行くから!」

「ワォン、ワォン!」

ライトが寂しげに語りかけるとアルも寂しそうに返事をし、ライトが空元気で話しかけるとアルも大きな声で元気よく返す。

アルはライトの心情を機敏に察知し、寄り添っているのだ。

そんなライト達の横で、レオニスとシーナも会話している。

「本当にツェリザークまで送らなくていいのか? ウィカに頼めば、黄泉路の池までひとっ飛びだぞ?」

『大丈夫ですよ。人族が用いる叡智の素晴らしさは、この滞在中に存分に堪能しました。ですが、我ら銀碧狼は野に生きる者。本来ならそうした叡智とは無縁なのです』

「……そうだな」

アル達の帰路を心配するレオニス。

このカタポレンの家からツェリザーク近郊は、ものすごく距離的に遠い。健脚を誇る銀碧狼の足でも、二日か三日はかかるだろう。

しかし、ウィカに頼んで帰ることを良しとしないシーナはレオニスの気遣いを固辞した。

シーナの言うことも尤もで、ライト達が使う転移門やウィカ達水の眷属が用いる水場を介した瞬間移動は、銀碧狼には本来無縁のもの。

そうした強力な手段で楽をして帰るよりも、自分達の身の丈に合った手段で帰るべきだ、とシーナは考えていた。

『それに、ここから氷の洞窟に帰るのもまた鍛錬のうち。アルにとっても良い修行となりましょう』

「そうか……まぁな、修行っちゃ修行になるわな。アル、かーちゃんに置いていかれないように、氷の洞窟まで頑張って走って帰れよ!」

「ワォン!」

シーナの決意に、レオニスも納得したように頷く。

そしてシーナの横にいるアルに、レオニスが檄を飛ばすとアルも元気よく応えた。

そしてシーナが人化の術を解き、本来の美しくも凛々しい銀碧狼の姿に戻ってアルに声をかけた。

『さあ、ではいきますか』

「ワゥワゥ!」

「アル、シーナさん、さようなら!」

「またいつでも遊びに来いよ!」

「美味しいものを作って待ってるからな!」

『銀の娘とその子よ、またいつか会おうぞ!』

氷の洞窟のある方角に向けて、一斉に駆け出していったアルとシーナ。振り返ることなくカタポレンの家を後にする。

朝日を浴びてキラキラと煌めく銀碧狼達の旅立ちを、ライト達は万感の思いで見送っていた。