軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第135話 城塞都市ツェリザーク

ツェリザークに移動したライト達一行は、クレアの案内で転移門から広間のある場所へ向かう。

広間に到着すると、そこには既に結構な数の冒険者達が依頼の掲示板を見たり受付に並んでいた。

建物の大きさや冒険者の数を見るに、首都ラグナロッツァ程ではないがそこそこの規模ではあるようだ。

「ここには私の妹のクレハが勤務していまして。ほら、あすこで今も受付業務していますが」

クレアに言われて受付の方を見ると、確かに遠目から見てもクレアにそっくりの女性が仕事をしていた。

もちろんその出で立ちは、帽子から服から何から何までほぼラベンダーカラーに染まっている。

「是非とも彼女にも挨拶していきたいところですが、今は見ての通り業務多忙の時間帯ですので。帰りに声をかけることにしましょう」

「そうですね。お仕事の邪魔しちゃいけませんし」

「うぃうぃ、んじゃ早速氷の洞窟に向かおっか!」

一行は冒険者ギルドの建物から外に出た。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

建物から外に出ると、そこは既にもう完全なる冬景色だった。

空はどんよりとした灰色に染まり、吐く息も白く宙に広がっていく。

「うわぁ……ここがツェリザークかぁ……」

誰に語りかけるでもなく、ライトの口から白い息とともに感嘆の言葉が漏れる。

この寒々とした空、冬独特の静寂とそれに伴う陰鬱な閉鎖感、空や建物だけでなく木々ですらも灰色に染まったかのような彩り。

その全てが、かつてライトが画面越しに見ていたツェリザークという街の景色そのものであった。

「クレアどん、ここから氷の洞窟まで行くのにどれくらいの時間かかったっけ?」

「そうですねぇ、ツェリザークの城壁門から出てそのまま北進で徒歩一時間半、てところですかねぇ」

「一時間半かぁ。まぁ歩いて行けない距離ではないし、せっかくだから散策も兼ねてのんびり行こっかー」

「そうだねー。まだ市場とかお店も開いてないだろうからねー」

三人と一頭はのんびりと歩きながら、今後の行動について話し合う。

冒険者ギルドのツェリザーク支部は城壁門のすぐ近くにあるようで、少し歩くともう城塞の外壁が見えてきた。

城壁門の守護担当であろう衛兵が数人いて、ドラゴンのクー太を見て一瞬だけ驚いたが、すぐに平静を取り戻したようだ。

普通なら街中でドラゴンを見ること自体がかなりの異常事態のはずだが、そこは『幼体である』ことと『ラベンダー色の女性』というお約束のセットが揃っていることで、『このドラゴンはクー太=クレアのペット=無害』という認識が広まっているのだろう。

城壁門の外に出ると、少し先に森林が広がっているのが見える。カタポレンの森である。

カタポレンの森といえばライトの住処でもあるが、ライトの知るカタポレンの森の景色とはだいぶ違う。

木々に生い茂る緑葉はなく、幹や枝だけが林立する。その枝や地面には白い雪が積もり、冬という季節を色濃く映していた。

「フェネぴょん、ここら辺には魔物はいるの?襲われたりしない?」

ライトは少し心配になってきて、フェネセンに聞いてみた。

「ン?普通にそこら辺にいるとは思うけど、吾輩やクレアどんがいる時点で近寄ってすらこないと思うよ?」

「そうなの?」

「うん。邪龍の残穢とかの強力な魔物ならともかく、フォーリンエビルとか狗狼くらいなら本能的に逃げちゃうねぃ」

「……コホン。フェネセンさん、大魔導師である貴方と冒険者ギルドの一受付嬢に過ぎない私を一緒くたにしないでください」

クレアがさも心外だ!とばかりに、フェネセンに抗議する。

「ぃゃ、あのね?クレアどん。そんな巨大なハルバード背負いながら言われてもね?説得力皆無過ぎるんでないかい?」

「これですか?見た目程の重さではありませんよ?」

「えー、 嘘(ウッソ) だぁー……」

「いえいえホントですってー。箸やスプーンフォークと大差ないですから」

「「…………」」

クレアはその背に背負ったハルバードをヒョイ、と軽々と持ち上げて、それこそペンか箸でも持つかのようにその場でくるくると回転させる。

確かにこんな図を見れば、雑魚モンスターなど近寄りもしないだろうな、とライトは内心思う。

あのレオ兄だって、クレアさんがお仕置きと呟く度に割と本気で慌てるもんなー……と納得してもいた。

「ま、今日は狩りが目的ではありませんからね。向こうから襲ってくれば退治するのは吝かではありませんが、寄ってこなければその方が手間取ることもないですし」

「ンだねー。まずはライトきゅんの友達探ししないとだからねー」

そう、今日の目的は普段は氷の洞窟の周辺にいるというアル達銀碧狼母子を探しに来たのだ。

「ライトきゅん、その銀碧狼の友達の詳しい居場所は分かるのん?」

「ううん、人間みたいにおうちに住んでる訳じゃないから、具体的な細かい場所までは分かんないの」

「だよねぇ。そしたら、氷の洞窟周辺に到着したら吾輩が探索魔法かけて探してあげるねーぃ」

「ホント?フェネぴょん、探索魔法使えるの?」

フェネセンからの思わぬ提案に、ライトは聞き返した。

「もっちろん!吾輩を誰だと思っておるのかね?稀代の天才大魔導師フェネセンであるよ?」

「フェネぴょん、ありがとう!お言葉に甘えてお願いしちゃうね!」

鼻も高々にふんぞり返るフェネセンに、その頼もしい言葉を受けてライトが眩しいくらいの全力の笑顔とともに礼を言う。

そのあまりの眩しさに、何故かライトの横にいていっしょに歩いていたクレアがクラッ、と蹌踉めいた。

「……ああッ、何故だか今私の目の前に眩くも神々しい、温かくて優しい光が大量に輝いていました……」

「クレアどん、ダイジョブ?回復魔法かけよっか?」

「いえいえ、心配御無用です。今見えた光こそが私にとって癒やしの光そのものですので」

「「???」」

どうやら先程の蹌踉めきは、クレアにとって癒やしのもとであるライトの笑顔とフェネセンとの仲睦まじいやり取りにKO寸前だったからのようだ。

そんな様子のクレアを、クー太が心配そうに覗き込む。

「クー太ちゃん、大丈夫ですよ。心配かけてごめんなさいね」

クレアはクー太を気遣うように、声をかけながらその背を撫でる。

そしてクー太の背を撫でながら、クレアは内心思う。

あの唯我独尊だったフェネセンが、少し見ない間に何とも変わったものだ、と。

そしてそれはおそらくライトの影響によるものが大きいであろうことも、クレアは察していた。

きゃらきゃらと笑い合いながら、寒空の下で二人並んで仲良く歩くライトとフェネセン。

その二人の少し後ろをクー太とともに歩くクレアは、その様子を微笑ましく眺めていた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

ツェリザークの城壁門を出てから一時間ほど歩いたところで、三人と一頭は一度休憩を取ることにした。

氷の洞窟に近づくにつれ、辺りの景色は樹氷が増えていく。地面にももう雪が数cm積もっている。

樹氷生い茂る極寒の中での休憩とは何とものんびりしているが、フェネセンやクレアはともかくライトはまだ普通の子供なのでこのような寒い地での長距離の徒歩移動などに慣れていない。

故に、それなりの休憩を適宜挟む必要があった。

「ライトきゅん、疲れてない?ダイジョブ?」

「うん、大丈夫だよ。こんな寒いところは初めてだけど、防寒対策はばっちりしてもらってるし」

「ならいいけど。そしたら、休憩がてらラウルっち師匠からもらったおやつを少しここで食べよっか」

「賛成ー!」

フェネセンはそう言いながら、空間魔法陣を開いてまず小さな木製のテーブルを取り出し、それから三人分の木製椅子をテーブルの周りにヒョイ、ヒョイ、ヒョイ、と素早く置いていく。

そして最後に、バスケットをひとつ取り出しテーブルの上にバスケットを置きいた。

バスケットの蓋を開けて、各自シュークリームを手に取る。

「えーっと、これは何かぬーん……お、シュークリームだぁ」

「そしたら温かい飲み物もほしいよね、飲み物は……ああ、あったあった、これだ」

フェネセンは温かいお茶の入ったポットを取り出し、カップに注いでからライトとクレアに渡す。

「そういえば、フェネぴょんは氷の洞窟に入ったことはあるの?」

「何度かあるよー。あすこにしかいない魔物もいるしねー」

「そうなんだね。ぼくもいつか氷の洞窟の中に行ってみたいなぁ、最奥には氷の女王もいるんでしょ?」

「いるいる、氷の洞窟の主ね。あのおねいちゃん、見目麗しいから冒険者の間では人気だけど……」

フェネセンが何故か若干言い淀む。

ライトはそれを不思議に思い、フェネセンに問うた。

「人気なのは分かるけど……それがどうかしたの?」

「うん……あまりにも人気過ぎて、その美しさを一目見ようとたくさんの冒険者が押しかけてねぇ。中にはストーカー紛いのもいてさ、そんなことばっか続くもんだから氷の女王はすっかり怯えて人間嫌いになっちゃったんだ」

「えええ、そうなの……」

「そなの。でもって、ただでさえもとから極寒氷点下の氷の洞窟が絶対零度に近いような、超絶極寒の地になっちゃったのよ」

フェネセンにしては珍しいことに、ため息をつきながら語る。

「ツェリザークという街もね、確かに氷の洞窟から一番近い街ではあるけど、もともとそこまで寒い土地じゃなかったんだ」

「だけど、今の氷の女王が壮絶な人間嫌いに陥ったことで氷の洞窟の内部どころか周辺地域にまで寒気が漏れて、どんどん寒冷地化しちゃってね」

「吾輩、あの子が氷の精霊時代からの友達なんだけどさ。吾輩以外の人間は基本信用しないというか、まず会いたがらないんだよねぇ」

何と、フェネセンは今代の氷の女王と友達だという。

だが、そこまで人嫌いになってしまっていては、ライトが会いたくても取り付く島もないであろう。

「そうなんだぁ……ぼくも氷の女王に会いたかったなぁ」

「そしたら今度、吾輩が氷の洞窟の奥に行った時に氷の女王にお願いしておくよん」

「えッ、ホント!?」

「うん。今日はライトきゅんの護衛だから氷の洞窟の中には入らないけど、どの道吾輩世界各地の洞窟も全て調べなきゃなんないからね。そうなると、当然いずれは氷の洞窟にも行くことになるし」

「フェネぴょん、ありがとう!行ったら忘れずに聞いてね!」

「あいあいさー!氷の洞窟には早めに回ることにするねーぃ」

ライトはまだ見ぬ本物の氷の女王に会えることを、今から楽しみにするのだった。