軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1336話 銀碧狼と皇竜の邂逅

冒険者ギルドの転移門でツェリザークからラグナロッツァに移動したライト達。

転移門がある事務室を出て大広間に行くと、そこには多数の冒険者達で賑わっていた。

時刻は午後四時を過ぎていて、依頼達成の報告をする冒険者達がたくさん集まっている。

混雑する人混みの中を、縫うようにして進むラウル。

その後ろをシーナ、ライトの順に続いて歩く。

途中ラウルが顔見知りの冒険者達に「よう、ラウルの兄ちゃん、仕事帰りか?」などと話しかけられ、ラウルも「おう、ツェリザークから帰ってきたところだ」と適宜答えながら出口に向かう。

いつもならもっと話をしていくところなのだが、今日はシーナとアルを連れているので早々に帰宅すべく話し込まずに適当に済ます。

そうして何とか冒険者ギルド総本部の建物から出たライト達。

人熱(ひといき) れから脱して、まだ肌寒い外の空気に触れながら、ふぅー……と一息つく。

そしてラグナロッツァの屋敷に向かってのんびりと歩く。

『ラウルの言っていたように、ここは本当に先程の人里よりもはるかに大きいですね』

「だろう? ここには人族の王様も住んでいるし、たくさんの人族が住んでいるんだ」

『人族以外の種族はいるのですか?』

「猫系の獣人族や竜人族が住んでいるのは知っている。あるいは俺が知らないだけで、他にもいろんな種族がいるかもな」

『そうですか……』

道を行き交う人々を、シーナが興味深そうに見ている。

ラウルの話を聞きながらよくよく見ると、確かに頭に獣耳がついた男性や女の子がいる。

彼ら彼女らは普通に歩いていて、差別や弾圧などはされていないようだ。

そうしてライト達はラグナロッツァの屋敷に戻り、門を潜って建物の中に入った。

ラウルが先頭を歩き、一行は転移門がある二階に向かう。

『ここが、貴方方が住んでいるというもう一つの家、ですか?』

「ああ。俺は普段は基本的にこっちの家にいるが、最近はカタポレンの家の横に畑を作ったんで向こうと頻繁に行き来している」

「ぼくもこっちと向こうの半々ですねー。ぼくはこっちにあるラグーン学園という学校に通っているので」

『その移動は、先程の転移門とやらで行っているのですか?』

「ああ。それがないと、森と街の往復なんてそう易々とできんからな」

『人族とは、私が思っていた以上に叡智を備えているのですねぇ……』

シーナが感心したようにため息をつく。

シーナももちろん魔法を使えるが、それは主に氷魔法など攻撃魔法や防御魔法などの、いわゆる『戦って生き残るための手段』であり、人族のように『日々の生活をより便利にしよう!』といった類いの使い方は全く知らない。

冒険者ギルドで利用した転移門だって、最初は何をしているのかさっぱり分からなかったし、瞬間移動した後も何が起きたのか理解できていなかった。

野に生きる者には無縁の、人族特有の文明の底力。それはシーナにとって目を見張るものであった。

そして二階の旧宝物庫に入ったライト達。

そこにも先程見た転移門があることにシーナが驚く中、ラウルはライトに向けて話しかけた。

「俺はマキシとご主人様が帰ってきてから、皆でいっしょにそっちに行く。ライトは先にシーナさん達とカタポレンの家に行っててくれ」

「うん、分かった!シーナさん、カタポレンの森に行きましょう!」

『ええ、よろしくお願いしますね』

ライトが転移門の魔法陣の中に入り、シーナもライトの横につく。

「じゃ、先に向こうに行ってるね。ラウル達も早く来てね!」

「ああ、皆でいっしょに晩御飯を食べような」

「うん!」

ライトはラウルと会話しつつ、転移門のパネルをピコピコと操作する。

そうしてライトと銀碧狼親子は、ラウルに見送られながらカタポレンの家に移動していった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

ラグナロッツァの屋敷からカタポレンの家に移動したライト達。

到着したのはライトの部屋で、先程までいた豪奢なラグナロッツァの屋敷から一転、素朴な部屋をこれまた興味深そうにシーナが眺めている。

『この家は……見覚えがありますね』

「ですよね。シーナさんも一度お泊まりしましたし、一ヶ月ほどアルを預かっていた家ですから」

『………………』

シーナが興味深そうにしていたのはほんの数瞬で、何やら険しい顔で部屋の窓の向こう側を睨みつけている。

『ライト……ものすごい魔力を持つ者が、どうやらこの近くにいるようです』

「……あ、ラーデのことですか?」

『ン? ラーデとは何者ですか? というか、ライト、貴方もしかして、この強大な力の塊に心当たりがあるのですか?』

「あ、はい。ちょっと待っててくださいねー」

『え、ちょ、待、今外に出るのは危険ですよ!?』

ライトはそれまで抱っこしていたアルをシーナに渡し、シーナが止める間もなくとっとと家の外に出ていった。

アルを抱っこしたシーナが、慌ててライトの後を追い家の外に出た。

そこにはもうライトの姿はなく、シーナはライトがどこに行ったのか分からずにキョロキョロと周囲を見回し続けている。

すると、木々の向こうからライトがヒョイ、と現れた。

そしてライトの腕の中には赤黒い何かが抱っこされている。

「シーナさんが感じた力の塊というのは、このラーデのことだと思います!」

『…………ラーデ?』

「はい!ラーデは皇竜メシェ・イラーデといって、全ての竜族の始祖なんだそうで。ちょっと事情があって、こないだからぼく達の家にいっしょに住んでるんです!」

『皇竜……竜の始祖……メシェ・イラーデ…………』

ラーデを抱っこしたライトと、アルを抱っこしているシーナが向かい合う。

ライトはニッコニコの笑顔でラーデを紹介しているが、シーナが目をまん丸に見開きながらラーデを見つめたまま固まっている。

あまりにも想定外のこと過ぎて、もはやシーナの思考回路はショート寸前だった。

そんなシーナを他所に、ラーデが誰に言うともなく呟く。

『ぬ? この者は人族ではないな?』

「うん。大人の女性に人化しているのはシーナさんで、シーナさんが抱っこしているのはシーナさんの子供のアルっていうんだ。シーナさん達は銀碧狼という種族で、ぼくとアルは親友同士なんだよ」

『ほう、銀碧狼か。森の王者と呼ばれし者達と親友とは、其方らの交友関係の広さには驚かされてばかりだ』

ライトの解説に、ラーデがくつくつと笑う。

天空島の面々や属性の女性達と親交がある、これだけでも驚くべきことなのに、今度は何と『森の王者』と讃えられる銀碧狼の親子を連れてきたではないか。

これにはさすがのラーデも驚きを通り越して、腹の底から笑いが込み上げてきてしょうがないらしい。

そうしてラーデが一頻り笑った後、改めてシーナ達に声をかけた。

『シーナにアルと言ったか。我は皇竜メシェ・イラーデ、ここでは『ラーデ』という名で呼ばれておる。今は訳あってこのような小さき 態(なり) をしているが、まぁそこら辺は気にせず普通に接してもらえるとありがたい』

『ぇ、ぇぇ……私の方こそ、竜の始祖にお目にかかれて光栄に存じます。私の名はシーナ、以後お見知りおきを……』

「ワゥワゥ、ワォン!」

『ちょ、待、アル、貴方……ご挨拶するにしても、もう少し丁寧な言い方というものが……』

「ワゥ?」

簡単な自己紹介をしたラーデに、シーナもハッ!と我に返り礼を尽くす。

シーナは森に住む者故、天空にいる皇竜のことを詳しく知っている訳ではない。だがそれでも、ライトから『全ての竜族の始祖』と紹介されれば、只者ではないことは瞬時に理解できる。

というか、これ程強大な力の塊を目の当たりにすれば、嫌でもそれは只者ではないことを理解せざるを得ない。

故にシーナは礼を失さぬよう、ラーデに恭しく挨拶をしていた。

なのに、そんな中ここでも空気を読まないアルが、一際大きな声でラーデに挨拶?を放ったではないか。

無邪気なアルの『こんにちは!ぼくはアル、ラーデ君、よろしくね!』という挨拶に、シーナは泡を食いながら小声で窘める。

しかし、ラーデがそれに気分を害することなどない。

柔らかな笑みを浮かべながらシーナに語りかける。

『これ、母御や、堅苦しい挨拶は無しぞ。そこは我が子を見習え』

「ぃぇ、お言葉を返すようで申し訳ございませんが……この子を見習っていたら、私は生命がいくつあっても足りません……」

『フハハハハ!わんぱく坊主を子に持つ母ならではの悩みか!』

ラーデの言に、眉間に皺を寄せながら苦々しそうに反論するシーナ。

我が子に振り回される母の苦労を垣間見たラーデが、思わず大きな声で笑いだした。

古今東西種を問わず、子育て中の親に苦悩はつきものである。

『皇竜、笑い事ではありません……』

『いや、すまぬ、其方ら親子があまりにも仲睦まじく見えたのでな。気を悪くしないでくれるとありがたい』

『ぃぇ、私もこの程度のことで目くじらを立てる程狭量ではないつもりです』

『なら良かった』

ラーデにいきなり笑われたシーナだったが、そのことに怒らないと明言したのでラーデが一安心している。

そしてラーデがふと視線を上に見遣りながら、シーナに問うた。

『もうすぐ夜になるが、其方らもこの家に泊まっていくのか?』

『はい。そこにいるライトと我が子アルは、親交と呼び合う同士でとても仲が良く……今日はライトと以前交わした約束、この家に泊まっていくという願いを叶えるべく、こちらにやってきた次第です』

『そうか、ではそのついでで良いので我とも仲良くしてくれると嬉しいのだが』

『…………鋭意努力いたします』

「バゥワゥ、アォーン!」

ラーデの『自分とも仲良くしてほしい』という思いがけない申し出に、シーナは一瞬固まりながらも何とか返事を捻り出す。

もちろんアルの方は、そんなシーナの葛藤などどこ吹く風でニコニコ笑顔で承諾している。

アル親子とラーデ、三者の挨拶が無事済んだことに、ライトが破顔しつつ声をかける。

「ラーデ、お友達が増えて良かったね!」

『ああ、これも其方の付き合いの広さ故の恩恵だ。其方にも感謝せねばな』

「そんな、感謝なんていらないよ!ぼくは、アルやシーナさんがラーデと友達になってくれるだけで十分嬉しいんだから!」

『そうか……』

感謝など不要というライトに、ラーデも感じ入ったように応える。

『では我も今度、我が友である金鷲獅子アウルムをライトに紹介しよう。あれも良い奴だからな、きっと其方らも気に入ると思うぞ』

「うん!近いうちにレオ兄ちゃん達といっしょにアウルムさんに会いに行く予定なんだ!ラーデもいっしょに行こうね!」

『ああ、是非ともともに行こうぞ』

ラーデの申し出に、ライトが嬉しそうに春休みの計画を話す。

もともとライトはこの春休み中に、レオニスとともにコルルカ高原奥地にいる金鷲獅子アウルムに会いに行くつもりだった。

そこに皇竜メシェ・イラーデの橋渡しがあれば、間違いなくアウルムとも友誼を結ぶことができるだろう。

まだ見ぬ金鷲獅子に思いを馳せ、ワクテカ顔のライト。

その真向かいで、シーナが呆然としながら『え? 金鷲獅子? アレ(・・) とも友達になるの?』とか呟いているような気がするが。多分気のせいだろう。キニシナイ!

アルとシーナとラーデ、銀碧狼親子と皇竜の友誼が無事結ばれたことに、ライトは心から喜びを感じていた。