軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1333話 氷の女王の悩み

アル親子とともに氷の洞窟に向かったライト達。

しばらくすると洞窟の入口が見えてきて、そこに誰かが立っている。

それはラウルの言う通り、玄武を抱っこしている氷の女王であった。

『ラウル、待ち侘びたぞ!』

「よう、氷の女王に玄武。元気にしてたか?」

『もちろん!我も玄武様もこの通り、元気も元気ぞ!』

「ンキュ!」

白い吐息を棚引かせながら、満面の笑みでラウルのもとに駆け寄る氷の女王。

その胸に玄武を抱っこしているので、いつものように抱きつくことはできないが、大好きなラウルに会えて本当に嬉しそうだ。

そしてラウル以外の面々がいることにすぐに気づき、これまた嬉しそうな顔でライト達を出迎えた。

『おお、今日はシーナ姉様にも来てくださったのだな!シーナ姉様、お久しぶりです!アルにライトも、よう来てくれたの!』

『氷の女王、こんにちは。玄武様もご健勝のことと存じます』

「ンキュ!」

「氷の女王様、こんにちは!お久しぶりです!」

「ワォン!」

氷の女王の挨拶にライト達が笑顔で応え、玄武も右前肢をピッ!と上げてシーナの挨拶にご機嫌そうに応じている。

氷の女王が愛するラウルを真っ先に出迎えるのはまぁ当然として、ライト達もまた彼女にとっては数少ない親しい知己。

普段はそれ以外の招かざる客=氷蟹目当ての冒険者ばかり来るが、愛しいラウルや姉と慕うシーナとその子供アル、そして友と認めたライトやレオニスなら氷の女王も大歓迎である。

『ラウル、今日も雪拾いに来たのか?』

「ああ、春になる前に少しでもたくさんの雪を採っておきたくてな」

『そうか、其方の役に立つならばこれ程嬉しいことはない。好きなだけ持っていくがよい』

「ありがとう、そうさせてもらう」

ラウルに甘々な氷の女王に、ラウルもありがたくその言葉に甘える気満々だ。

そしてラウルは氷の洞窟の入口脇に立ち、空間魔法陣を開いてテーブルや椅子を出した。

「雪狩りは後でもうちょいするとして、とりあえず皆でお茶にしようか」

『おお、其方の作った『すいーつ』を食べさせてくれるのか?』

「ああ、もちろん玄武にも出すぞ」

「キュアッ♪」

ラウルの魅惑的な誘いに、氷の女王と玄武が目を輝かせている。

シーナは椅子に座りやすいように人化の術で美女に変化し、楚々とした華麗な仕草で席に着く。

アルはライトとシーナの席の間に入り、お行儀良くお座りをしている。

「シーナさんとアルには、温かい肉まんと唐揚げを出そう。氷の女王にはツェリザークの雪の苺ソースがけ、玄武には氷蟹の刺身な」

『雪原で食べる、温かい肉まんと唐揚げ……このふんわりとした湯気がまた風情があっていいですねぇ』

「ワゥワゥ!」

『おお……白い雪の上に、まるで深紅の花が咲いたようだの……』

「ンキュゥ♪」

テーブルの上にテキパキと美味しいものを並べていくラウル。

それぞれの目の前に出されたスイーツに、氷の女王達は目も心も奪われている。

果たしてほかほか肉まんや唐揚げから立ち上る湯気に、風情があるかどうかは定かではないが。それを見い出せるシーナの感性こそが豊かなのだろう。

そしてライトやラウルの分のおやつも出して、お茶会の準備が万端整った。

ライトとラウルが手を合わせると、他の面々も自然と手を合わせる。

さすがにアルは合掌できないが、玄武は前肢の先端をピッ☆と合わせている。氷の女王の仕草を真似る姿が何とも可愛らしい。

「「『『いッただッきまーーーす!』』」」

お茶会でもお約束となった挨拶をし、それぞれがラウルに勧められたスイーツやおやつを頬張り始めた。

『おお、花の如き赤いところは甘酸っぱいのう!』

『温かい食事というのは、人族ならではですねぇ』

「ワフ、ワフ!」

「……(もくもく)……」

ライトやラウルはともかく、普段こうした食べ物を食べることのない氷の女王やシーナ達が実に美味しそうに食べ進めている。

そしてラウルは、氷の女王やシーナ達の顔を微笑みながら眺めている。

自分が作った美味しいものを喜んで食べている姿を見るのは、ラウルにとっても幸せなひと時なのだ。

そうして一通り食べたところで、ラウルが氷の女王に声をかけた。

「ああ、そういや邪龍の残穢の件、人間達が氷の女王に感謝していたぞ」

『む? そうなのか?』

「ああ。氷の女王が精霊達を通していち早く知らせてくれたおかげで、被害を最小限にすることができた、ととても喜んでいたぞ」

『そ、そうか、それは良かった……』

ラウルが伝えた感謝の言葉に、氷の女王が照れ臭そうにはにかむ。

だが次の瞬間、ムスッとした不機嫌そうな顔で呟く。

『ならばラウル、其方の方から一つ、人族に伝えてはくれまいか』

「ン? 何か伝言したいことがあるのか?」

『ああ。ここ最近、冒険者とやらがまた氷の洞窟にやたらと押しかけてくるのだが。あれはどうにかならんか? 我だけならともかく、今は玄武様もおられる。もし奴らが玄武様の御座す広間にまで押しかけてきたら、と思うと気が気ではないのだ』

氷の女王の機嫌が悪くなったのは、冒険者達が氷の洞窟に押しかけてくる頻度が高くなったこと。

彼女の力を以ってすれば、人族を撃退することなど容易い。

だがしかし、それはそれとして人族が大挙してくること自体が鬱陶しい。

なるべくならばその鬱陶しさを解消したい、と氷の女王が願うのも当然である。

すると、ラウルが突然氷の女王に向かって頭を下げた。

「それについて、俺は氷の女王に謝らなければならん。本当にすまない」

『え"? ラウル、何故に其方が我に謝るのだ?』

「人族に氷蟹の美味さを広めたのは、実は俺なんだ」

『……そ、それは……』

ラウルの謝罪とその理由に、氷の女王が戸惑っている。

かつてラウルは、冒険者ギルドツェリザーク支部の限定品にして罰ゲーム用の定番アイテムだった『ぬるシャリドリンク』を廃番の危機から救うために、雑煮やあら汁などを作って多数の冒険者達に振る舞い、その美味しさを広く知らしめた。

そのおかげでツェリザークに氷蟹ブームが起こり、氷蟹の需要が一気に高まった結果、冒険者達が挙って氷の洞窟に挑むようになったのだ。

ラウルにとって、ぬるシャリドリンクは良質な出汁を手軽に得られる貴重な調味料だ。罰ゲーム用アイテムなどという不名誉かつ理不尽な扱いなど許せないし、そのせいで廃番の危機に瀕するなど到底受け入れられない。

だがしかし、ぬるシャリドリンクの地位と名誉を向上させた結果、氷蟹ブームに発展してそのしわ寄せが氷の女王達に及んでいることにまで思い至らなかった。

「氷蟹の本当の美味さを知った人族は、これからも氷蟹を狩るために氷の洞窟に押し寄せるだろう。そしてそういった原因を作ってしまったのは、他ならぬ俺だ」

『…………』

「つまり、氷の女王達の平穏な日々を害してしまった元凶は、この俺で……俺は一体どうすれば償えるだろうか?」

『…………』

端正な顔を歪めて懺悔するラウルに、氷の女王は言葉を失う。

ラウルの話が本当なら、氷の女王はラウルに何らかの罰を与えるなり報復するのが妥当だ。

しかし、氷の女王はラウルを罰したくない。

そりゃ確かに今の氷の洞窟を取り巻く喧騒は、ラウルのせいかもしれない。だが、それを差し引いてもラウルには大恩があるし愛情もある。

しばし無言だった氷の女王は、意を決したようにラウルに声をかける。

『そうか……ラウル、我は其方が正直に己の罪を悔い打ち明け、償うと言ってくれたことをとても嬉しく思う。だから、この件に関しては不問としよう』

「……いいのか?」

『ああ。我がそうすると言っているのだから、何も問題はない。玄武様、そうですよね?』

「クァッ!」

ラウルを許すと言う氷の女王。

彼女の横にいる玄武も、氷の女王の確認の言葉を受けて右前肢をピッ☆と上げた。それはまるで『うん!オールオッケー!』と言っているかのようだ。

そして氷の女王が再びラウルの方に向き直り、改めてラウルに語りかける。

『確かに人族が再び押し寄せてくるようになったのは鬱陶しいが……それを追い返せぬ程、我は軟弱ではない』

「そ、それはそうかもしれないが……」

『ただし。其方やレオニスのような、とんでもない実力者が現れれば我とて苦戦するやもしれんがの。なのでラウル、一つ頼まれてはくれまいか』

「俺でできることなら、何でもしよう。俺は何をどうすればいい?」

真剣な眼差しの氷の女王に、ラウルは覚悟を決めつつ氷の女王の頼みごとを尋ねる。

氷の女王や玄武の平穏な日々を脅かしてしまった責任は、間違いなくラウルにある。

だからこそラウルは、己の力の及ぶ限り何でもしよう、そう決意したのだ。

そんなラウルに、氷の女王が小さく微笑みながら答えた。

『何、そんなに難しいことではない。人族の長達に『氷蟹を狩りたいなら、入口付近だけにしろ。洞窟の最奥にいる氷の女王や玄武には、決して仇なすな』と伝えてくれればよい。要は人族が安易に我らに近づいて来なければいいのだからな』

「……それだけでいいのか?」

『もちろん、この警告を無視して洞窟の最奥に来た奴には生命の保証はないぞ? 玄武様をお守りするためならば、いくらでもこの手を血で染め上げてくれよう』

眼光鋭く言い放つ氷の女王の鬼気迫る断言に、ライト達の背筋が凍る。

もともと人嫌いで知られた氷の女王のこと、侵入者に対してもきっと容赦なく排除に動くだろう。

そしてそれはただの人払いなどでは収まらず、生命を奪い取ってでも侵略を阻止する。これはハッタリや虚仮威しではなく、正真正銘氷の女王の本意だった。

「……分かった。俺の方から人族の長達に必ず伝えよう。必要以上に氷の洞窟の奥に行かないように、徹底周知してもらうよう掛け合っておく」

『そうしてもらえると助かる。我とて好き好んで人族と対立したい訳ではないのだ。人族であるレオニスやライトは、我と玄武様の恩人でもあるのだからな』

「心遣い、感謝する」

氷の女王の言葉に、ラウルが改めて深々と頭を下げて謝意を示す。

事が然程拗れずに済み、氷の女王が妥協する方向の道を選んだのは、レオニスとライトの存在が大きい。

彼女が言うように、レオニス達が氷の洞窟を訪ねてこなければ玄武は誕生しなかった。

氷の洞窟に人族が群がるのは鬱陶しいが、氷の洞窟の守護神が誕生したのもまた人族がもたらした恩恵であることを、氷の女王は決して忘れてはいなかった。

楽しいはずのお茶会が、一気に深刻なムードになってしまった。

だがしかし、そんな重苦しい空気を全く読まない者がここに一頭。

「ワォン!」

「え? 唐揚げのおかわり?」

『アル……貴方、この空気でよくおかわりなんて言えましたね……』

重たい空気を蹴散らしたのは、肉まんと唐揚げをペロリ☆と平らげておかわりを所望したアルの一声だった。

ニコニコ笑顔でおかわりをねだる我が子の食いしん坊ぶりに、シーナがほとほと呆れた様子で脱力している。

一方で、先程までものすごい圧を放っていた氷の女王は、毒気が抜かれたようにクスクスと笑いながらアルを見つめる。

『アルは玄武様やライトと同じで、育ち盛りだものなぁ。ラウル、アルの願いを叶えてやってはくれまいか』

「ぁ、ぁぁ、そりゃもちろんいいとも。唐揚げのおかわりを今すぐ出すから、ちょっと待っててな」

「ワォン!」

「モキェ!」

『え? 玄武様も氷蟹の刺身のおかわり、ですか?』

肉まんと唐揚げのおかわりがもらえることに、ニッコニコの笑顔で喜ぶアル。

そして何故か玄武までアルのおかわり要望に乗っかり、氷蟹の刺身のおかわりを言い出したようだ。

確かに玄武の前に置かれている皿を見ると空っぽで、『これ美味しい!もっと食べたーい!』ということなのだろう。

アルに負けないくらいにニッコニコの玄武に、氷の女王がフフフ、と笑いつつ玄武の甲羅を優しく撫でる。

『玄武様も、アルに負けず劣らず食いしん坊ですものねぇ。ラウル、玄武様のおかわりも出してやってくれるか?』

「もちろん。おかわりならいくらでも出すから、腹いっぱいになるまで遠慮なく食ってくれ」

『玄武様、お聞きになりましたか? ようございましたねぇ、思う存分食べてくださいまし』

氷の女王の願いを受けて、ラウルがおかわりし放題を宣言する。

早速空間魔法陣を開き、アルのおかわりの肉まんや唐揚げ、そして玄武のおかわりの氷蟹の刺身が山盛りに乗った皿を次々とテーブルの上に出し続けた。

無邪気なアルと玄武のおかげで、場の空気が徐々に和んでいく。

皆の顔に柔らかな笑顔が戻っていくのを、ライトは内心で心底安堵しつつアルに感謝しながらその背中をそっと撫でていた。