軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1322話 ライトの思惑と真意

ラウルから譲ってもらったツェリザークの雪解け水で、せっせとブレンド水を作るライト。

そんなライトに、ユグドラツィが声をかけた。

『ライト、せっかくですからリィにも何か美味しいお水をあげてください』

「分かりました。リィは生まれたばかりだから、今日はツェリザークの雪解け水をそのままあげることにしますね!」

『そうしてやってください』

ユグドラツィの心優しい願いに、ライトもすぐに承諾する。

ライトはアイテムリュックから小さなコップを取り出し、ブレンドする前の水を汲んで早速リィの前に差し出した。

「リィ、これはね、魔力をたくさん含んだ美味しいお水だよ。君のママ、ツィちゃんもとても大好きなんだ。良かったら飲んでみて」

『……(コクン)……』

ライトの勧めに頷きながら、コップを受け取るリィ。

しばしコップの中の水を眺めた後、コクリ、と一口飲んだ。

すると、もとからつぶらなリィの瞳がさらに大きくなり、続けてコクコク、とコップの水を夢中になって飲んでいる。

どうやらリィも、ツェリザークの雪解け水が気に入ったようだ。

コップの水を一気に飲んで、ぷはぁー……と満足そうに一息つくリィ。

両手でコップを持ちながら、ライトに向けてグイッ!と差し出した。

『おかわり!』

「気に入ってもらえたようでよかった!このバケツの水、好きなだけ飲んでいいからね!」

『ありがとう!』

キラキラと輝くようなリィの満面の笑み。

その反則的なまでに愛らしい笑顔に、思いっきり胸を射抜かれるライト。

仰け反るライトの、ハァッ!という小さな呻き声とともに、バギューーーン!という効果音がどこからともなく聞こえてきた、気がする。

「ハァ、ハァ……な、何この破壊力……リィ、恐ろしい子……ッ!」

『???』

『ライト、分かりますよ、その気持ち……』

両手で胸を抑えながら蹲るライトを、リィがきょとんとした顔で不思議そうに見つめている。

そしてライトの不審な挙動に、ユグドラツィが理解を示していた。

そんなことをしていると、ラーデがふよふよと飛んでライト達のもとに来た。

『ライトよ、神樹にも水をやるのだろう? この緑の幼子の世話は我に任せて、其方は神樹への水を用意するといい』

「あ、ありがとう、ラーデ!リィ、ラーデと仲良くしながらお水を飲んでてね!」

『うん、いってらっしゃい』

ラーデの気遣いに、ライトも我に返り再びブレンド水作りに戻る。

後を任されたラーデが、空のコップをリィから受け取ってバケツの水を汲んで手渡す。

二杯目の水もとても美味しそうに飲むリィに、ラーデも微笑みながら優しく見守っていた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

そらからしばらくしてライトのブレンド水作りも完了し、まずは振る舞う相手であるユグドラツィに向けてメニュー解説?を始めた。

「今日のツィちゃんへのブレンド水は、アクアの泉の水にラウルの畑で採れた林檎の果汁を混ぜたものでーす!」

「ラウルが作る林檎はカタポレン産なので、アクアの泉の水の芳醇な魔力に負けないくらいカタポレンの森の魔力をたっぷりと含んでいます!」

「泉の水と林檎果汁の比率は3:1で、さっぱりとした薄めの林檎ジュースを目指してみました!」

「水神アクアと水の女王様が生み出した奇跡の水と、ラウルが丹精込めて作った林檎果汁のスペシャルコラボ、フレーバー水です!さぁ、どうぞお召し上がれ!」

ブレンド水からさらに神化した『フレーバー水』なる新ジャンルを開拓したライト。

その力説ぶりたるや、まるで前世のテレビショッピングを彷彿とさせる。

そしてライトはラウルと手分けして、フレーバー水をユグドラツィの根元にフレーバー水をかけていった。

バケツ五杯分のフレーバー水が全てユグドラツィにかけられ、しばし無言の後ユグドラツィが感想を述べた。

『これは……瑞々しい林檎の芳しい香りがとても素敵ですね。何とも心癒やされる味です。この林檎は、ライト達の住む家の横でラウルが育てたものなのですね』

「はい、そうです!ラウルの林檎作りはとても順調で、いつかツィちゃんにもご馳走したかったんです!ね、ラウル!」

「ああ。ツィちゃんにあげられるのは水しかないと思っていたが……俺が畑で作った林檎の果汁を水に混ぜたらどうか、とライトに提案されてな。早速林檎を搾りまくったんだ」

ラウル特製林檎を味わえたことに、ユグドラツィがとても嬉しそうに呟く。

ユグドラツィ達神樹には、属性の女王達のようにお茶会などと称して美味しい食べ物を食べさせてあげることはできない。

しかし、林檎なら果汁にしてツィちゃんにもご馳走できるんじゃないか?とライトは考えたのだ。

それをラウルに伝えると、ラウルもすぐに「おお、それはいいな!」と賛同した。

林檎果汁をユグドラツィにご馳走するなど、それまでラウルは全く思いつきもしなかった。

うちの小さなご主人様は、本当に天才だよな!とつくづく思うラウルである。

その後ラウルは巨大林檎をオーガの里に持ち込み、料理教室の際にリーネ達奥様方に手伝ってもらって果汁作りに励んでいた。

ちなみにこの果汁作りに用いたおろし金は、リーネが愛用している大根おろし用のもの。オーガの里にまだ三枚しかないという、貴重なおろし金だ。

ラウルやライトには巨大な林檎で、一個すり下ろすのも一苦労どころか百苦労だが。リーネ達オーガがその手に持てば、極々普通サイズの林檎と化す。

そう、オーガ達の手にかかれば巨大林檎をおろし金でジョリジョリとすり下ろすことなど、簡単らくらく朝飯前なのである。

そうしたライト達の創意工夫、その熱意は全てユグドラツィに向けられたもの。

そんなライト達の思いを受けて、ユグドラツィの心に熱い何かが込み上げてくる。

『ライト、ラウル、ありがとう。こんなにも美味なる林檎を味わえるなんて……私は世界一幸せな神樹です』

「どういたしまして!ツィちゃんに気に入ってもらえて良かったね、ラウル!」

「ああ。ツィちゃんが美味しいと言ってくれて、これ程嬉しいことはない。……よし、次は今作っている苺を果汁にしてツィちゃんにご馳走しよう」

『フフフ、苺のフレーバー水?も楽しみにしていますね』

ユグドラツィの礼の言葉に、ライトは破顔しラウルも嬉しそうに微笑む。

そして今度は苺の果汁をユグドラツィにご馳走するつもりのようだ。

苺果汁となると、果汁量の面で林檎よりはるかに大量の苺が要るだろう。

だがしかし、ラウルならばきっとやり遂げることだろう。

農作物への熱意、そしてユグドラツィのことを大事に思う気持ち。この二つが合わされば、ラウルに出来ないことなどないのである。

外の空気はまだ肌寒いが、三月のほんのりと温かい日射しの中、ライト達は穏やかなひと時の幸せを噛みしめていた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

ユグドラツィへのブレンド水のご馳走を振る舞った後、ライト達もひと休みすることにした。

時刻は午後の二時半少し前、ちょっと早めのおやつタイムである。

テーブルと椅子を三つ出し、ライトとラウル、そしてラーデが個々に座る。

リィは背丈が小さくライトの半分程度なので、ちょっとお行儀が悪いがテーブルの上に直接ぺたんこ座りで座らせている。

ラウルがテーブルの上でちょこん、と座るリィを見ながら「早いとこハドリー専用の椅子を作らなきゃな……」と呟いている。

リィ以外にも、テーブルの上にはラウル特製スイーツとぬるぬるドリンク橙などの飲み物が並ぶ。

そして話は自然とリィの話題となった。

「ライト、リィはこれからどうするんだ? ツィちゃんのことをママと慕っているようだし、このままここで暮らしてもらうのか?」

「うん、そうだねー。ラニの時もラキさんの家族として受け入れてもらえたし、リィもツィちゃんに懐いているようだからね。ツィちゃんさえ良ければ、いっしょに過ごしてもらうのもアリなんじゃないかな?」

「そうだな……リィの種族、ハドリーは草木の精霊だそうだから、神樹のツィちゃんとも相性は抜群に良いだろうしな」

ラウルの問いかけに、ライトも頷きながら肯定する。

ライトが今日ここで、使い魔の卵にラウルの巨大大根を与えて孵化させたのは、実はそれこそがライトの密かな目的だったのだ。

ユグドラツィ以外の神樹達には、それぞれ相棒と呼べるような異種族の友がいる。

例えば大神樹ユグドラシアには八咫烏の里があり、竜王樹には白銀の君他多数の竜族がいる。天空樹にもドライアドやパラス達天使がいるし、海樹ユグドライアには人魚達がついていて近くに海底神殿もある。冥界樹ユグドランガにだって、地の女王と白虎のシロという強力な友がいる。

なのに、神樹ユグドラツィのもとには何もなく、誰もいない。

ライトは以前から、このことが非常に気がかりだったのだ。

そんな時に出会ったのが、今日の転職神殿で孵化した五番目の使い魔ハドリーだった。

先程ラウルが言っていたように、ライトもまた『草木の精霊なら、ツィちゃんの身近な友達に最適じゃね!?』と考えたのである。

そんなライト達の会話に、ユグドラツィも加わってきた。

『私は、リィさえ良ければここに住んでほしいと思いますが……リィは、どうですか? どこか他に行きたいところとかありますか?』

『僕は、ママといっしょにいたい……ママ、僕、ここにいてもいいですか……?』

おずおずとした様子で、リィさえ良ければ、と言うユグドラツィ。

そんなユグドラツィの言葉に、リィもまたおずおずとした口調でユグドラツィにお願いをした。

まさに相思相愛状態なのだが、両者とも控えめで奥ゆかしいところがそっくりで本当の親子のようだ。

戸惑い気味なリィに、ユグドラツィが今度は力強く肯定する。

『もちろんですとも!リィ、貴方さえ良ければいつまででも……ずーーーっとここに居てくれていいのですよ!?』

『……ありがとう、ママ!』

ユグドラツィの答えに、それまでテーブルの上に座っていたリィが嬉しそうにふよふよと宙を飛んでユグドラツィの幹に抱きついた。

リィの抱擁と同時に、ユグドラツィの枝葉もワッシャワッシャと大きく揺れる。

それは、こんなに可愛らしい同居人を得たユグドラツィの、心からの歓喜を表すかのような仕草だった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

ユグドラツィとリィの温かい交流に、それまでずっと見守っていたライトもラウルも本当に嬉しそうに呟く。

「ツィちゃんにも同居人ができて、本当に良かったなぁ」

「うん!あの卵から草木の精霊が生まれて、本当に良かったね!」

「欲を言えば、リィ以外の草木や花の精霊がもっと増えてくれるといいんだがな。シアちゃんとこの八咫烏やエルちゃんとこのドライアド達のように、里を形成できるくらいになってくれればツィちゃんも寂しくないだろうし」

ラウルが何気なく呟いた言葉に、何故かライトの目がギラン!と輝いた。

「あ、やっぱラウルもそう思う?」

「そりゃそうさ。他の神樹には常に誰かしら近くにいるのに、ツィちゃんのところには誰もいないんだからな。もちろん俺達だってツィちゃんの友達だけど、他のところみたいに常駐している訳じゃないし」

「実はね、そのことでラウルに相談があるんだけど…………」

「ン? 相談って何だ?」

何事かを相談したいというライトに、ラウルがホットコーヒーを啜りながら問う。

ライトは足元に置いていたアイテムリュックを膝に置き、何やら両手でゴソゴソと漁り始めた。

そうしてライトがアイテムリュックから出してきたのは、十個以上の使い魔の卵だった。

「実はコレ、リィやラニが生まれたのと同じ卵がこれだけあるんだよね!」

「ブフッ!」

ジャジャーン!とばかりに両手にたくさんの使い魔の卵を持って、ラウルの目の前に差し出すライト。

あまりにも想定外のことに、ラウルが口に含んでいたコーヒーを噴き出した。

噴き出した先にはライトがいたが、ライトはササッ!と咄嗟に動いてコーヒーの噴霧を避けきっている。

何とも器用なことだが、BCOのシステムや日々の修行で培った訓練の成果が遺憾なく発揮できて何よりである。

一方でラウルは思いっきり噎せ込みながら、ライトを問い質した。

「ゲホッ、ゴホッ……ラ、ライト……これ、全部あの卵か?」

「そう!コレ全部、フォルが持ち帰ってきた卵なの。でもって、この卵をラウルの作った大根で孵化させれば、ハドリーの集落が作れると思うんだ!」

「!!…………そういうことか」

突如大量の卵を突き出してきたライトの真意を、ラウルは早々に理解した。

ユグドラツィのもとに何らかの集落、里ができれば一番いいと考えていたのはラウルだけではない。

ライトも全く同じ考えだったし、レオニスもかつて似たようなことを言っていた。

それを今、ライトが持っている多数の卵とラウル特製の巨大大根を用いて実現しよう!とライトは言っているのだ。

その案に、ラウルが否やを唱えるはずもない。

ラウルは口元についたコーヒーを右手の甲で拭いながら、改めて口を開いた。

「ライト、その卵は全部で何個あるんだ?」

「えーとねぇ、ぼくが今出せるのは十五個かな」

「そんなにあんのか……里を形成するには十分な量だが、そうすると今度は俺の方の大根の数が足りんな」

「そうだね。今日のリィの例でいくと、一個につき二十五本の大根が必要だから……四百本くらいの大根が必要になるね」

「四百本か。それくらいなら半月もあれば作れるな」

「ラウル、ホンットすごいね……」

卵の数と大根の必要量を互いに確認し合うライトとラウル。

ライトが持っている使い魔の卵の数は、実は現時点で二十個を超えている。

しかし、ここで全部を出し切るのもどうかと思うので、少しだけ過小申告していた。

そして大根四百本という大量の必要数に対し、ラウルは事も無げにサラッと半月で仕上げる宣言を出す。

まさに辣腕農家ここに極まれり、である。

「今ちょうど北側と南側の畑を休ませていてな。明日から何を植えようか考えていたところだ。その両方の畑を使えば、大根の四百本程度なら何とでもなる」

「半月後なら、ちょうどぼくもその頃にラグーン学園の春休みに入るよ!」

「おお、そうか、ならライトにもまたたくさん手伝ってもらわなきゃな」

「うん!任せて!そしたらレオ兄ちゃんにもお手伝いしてもらおうよ!」

「お、それいいな。せっかくだからご主人様にもここで、ハドリーの里の形成に携わってもらうとするか」

「賛成ー!」

ライトとラウルのハドリーの里形成計画が順調に進んでいく。

その計画には、当然のようにレオニスも組み込まれている。

当人のいないところで人員に組み込まれたレオニス、きっと今頃盛大なくしゃみを連発していることだろう。

クックック……と悪巧みでもするかのような怪しい笑い声を漏らすライトとラウルに、ラーデが胡散臭いものを見つめるかのような目でジーーーッ……と見ている。

ちなみにユグドラツィは、リィがユグドラツィの上の方に登っていっていて、それをハラハラとしながら見守っていたのでライト達の会話を全く聞いていない。

もうすぐ来るライトの二回目の春休み。

春休みにすることの一つ目が決まった瞬間だった。