軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1316話 約束を果たす時

ディープシーサーペントのデッちゃんと崖で別れ、ライトとラウルはラウルの浄化魔法でブルーオクトパスのぬめりを取り除いてからクレエと三人でエンデアンに戻った。

巨大な青いタコを冒険者ギルドエンデアン支部内の解体所に預け、窓口でラウルの殻処理依頼の達成報告を済ませる。

今日のラウルの報酬は、四件の殻処理の10万Gの他にブルーオクトパスの運搬費として脚一本をクレエ個人から貰い受けた。

崖にいた時にクレエが『ブルーオクトパスの肉は美味しい』と言っていたので、料理好きのラウルは新しい食材がゲットできてホクホク顔である。

ちなみにこのブルーオクトパス、エンデアンでも滅多にお目にかかれない品だという。

年に一度水揚げされるかどうかという稀少性で、しかも今回クレエがディープシーサーペントにプレゼントされたものは超特大サイズなのだとか。

通常の倍近くある巨大なブルーオクトパスを見た解体所の職員達が大騒ぎしていた。

そしてこのブルーオクトパスは、クレエがディープシーサーペントにプレゼントされたものなのでクレエの個人資産となる。

吸盤や眼球、歯などの素材はエンデアン支部に買い取ってもらい、肉や皮などの可食部は市場に格安で譲るという。

如何にクレエが大食漢でも、さすがに50メートル超えのタコを一人で全部は食べ切れないようだ。

クレエ曰く「今回デッちゃんからもらったブルーオクトパスの売上で、アイテムバッグを購入する!」とのこと。

そうすれば、今日のような巨大なプレゼントをもらっても一人で持ち帰ることができる!という算段らしい。

実にクレエらしい合理的な考えである。

そうして諸々の手続きを終えたラウル。

エンデアン支部の受付窓口で最後の確認に入る。

「ラウルさんへの依頼達成報酬は、一両日中に口座に振り込みますので後日ご確認くださいませー」

「了解。俺も今日はブルーオクトパスなんて珍しい食材を入手できて幸運だった」

「このエンデアンには、ラウルさんが知らない海の食材がまだまだたくさんあるんですよー」

「そうか、なら俺ももっとこまめに通わなくちゃな」

「殻処理貴公子様、今後とも当エンデアンの殻処理依頼をよろしくお願いいたしますぅー」

「おう、任せとけ」

ラウルとクレエ、双方キラッキラに輝く笑顔で会話を交わしている。

そしてここで、ラウルがはたとした顔でクレエに小声で話しかけた。

「……ああ、そうだ、そういやクレエさんに一つ頼みがあるんだが」

「はい、何でしょう?」

「さっきのライトのアレ、飛べることはまだ誰にもナイショな」

「ぁー……はいはい、確かにアレはまだ公にはしない方がよろしいでしょうねぇ」

ラウルの相談に、クレエも大きく頷きながら同意する。

まだ冒険者にもなれない子供のうちから空を飛べるなんて、如何にこのサイサクス世界が剣と魔法のファンタジー世界であっても前例のないことだ。

せめてライトが冒険者登録するまでは、隠しておいた方がいいのは間違いない。

当のライトも申し訳なさそうにクレエに声をかける。

「クレエさん、よろしくお願いします。このことは、まだクレアさんにもお話ししてないんです」

「まぁ、そうなんですか。ではクレア姉さんにもナイショにしておきますね」

しおらしくお願いするライトに、クレエがフフフ、と小さく笑いながら優しい笑みを浮かべる。

ライトは将来有望な冒険者として大成するであろうことは、クレア十二姉妹全員が知るところである。

有望な人材の秘密を守ることは、冒険者業界にとっても有益なこと。

だがそれ以前に、クレエはライトの友達としてその行く末を温かく見守っていくつもりなのだ。

そんな優しいクレエに、ライトがホッとした顔になる。

そしてラウルがライトに声をかけた。

「さ、そろそろラグナロッツァに戻るか」

「うん!」

「じゃ、クレエさんもまたな」

「はい!今日もいろいろとありがとうございましたぁー!」

転移門がある奥の事務室に向かうライトとラウル。

大きく手を振りながら歩くライトと、右手を小さく振るラウルにクレエが深々と頭を下げていた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

エンデアンでの有意義な午後を過ごした二日後。

この日は待ちに待った土曜日。ビースリー騒動が収まって以降初めての週末の到来である。

ライトは朝イチの魔石回収ルーティンワークを終えて朝食を摂った後、早速転職神殿に移動した。

今日の目的は、先日ヴァレリアに依頼した瞬間移動用魔石の受け取りと、四次職【神聖騎士】マスターのご褒美の質問をするため他である。

転職神殿に行くと、そこではミーア達がテーブルに座りお喋りを楽しんでいた。

ライトの登場にいち早く気づいたミーア。席を立ち、ライトを出迎える。

『ライトさん、ようこそいらっしゃいました』

『主様、おはようございます!』

『パパ様、おはようございます!』

「皆、おはよう!」

ミーアに続き、ミーナとルディもライトのもとに駆けつける。

ライトが転職神殿を訪れたのは、三日前の水曜日。ラグーン学園が再開する前の日のことだ。

そんなに久しぶりという訳でもないのに、いつも変わらぬ笑顔でライトのことを出迎えてくれる。

皆の温かい笑顔と優しさに、いつもライトは救われる思いである。

『主様、今日は何をしましょうか?』

『咆哮樹狩りですか? それとも他の魔物狩りですか?』

「アハハハハ……魔物狩りはこないだまで散々散々やってたから、しばらくはいいや……」

『そ、そうですか……パパ様、本当にお疲れさまです……』

ルディの『魔物狩り』という言葉を聞いて、ライトの頬がピクピクと引き攣る。

先日のビースリーでは、本当に休む間もなく魔物狩りに明け暮れた。

一回につき2001体の魔物を倒すビースリー、それを五十七回繰り返した。その数、雑魚魔物11万4千体とコヨルシャウキ56体。

これだけ戦い続ければ、しばらくは休みたいとライトが思うのも当然である。

そんなライトの引き攣り顔に、ミーナもルディも思わずつられて引き攣り笑いするしかない。

するとここで、ライトが我に返りパッ!と明るい顔になる。

「あ、そうそう、今日はヴァレリアさんに会うつもりで来たんだけどね? ヴァレリアさんを呼ぶのはもう少し後でもいいし、その前にここでやりたいことがあるんだ!」

『やりたいこと、ですか?』

「うん!前にルディと約束したこと!」

『え、僕とした約束、ですか?…………あ!もしかして!』

「そう、使い魔の卵の孵化!ルディの弟か妹!」

『ヤッターーー!』

ライトが今日この転職神殿でやりたいことの一つ。

それは以前ルディと約束した、ルディの弟もしくは妹を与えてあげるということ。つまりは使い魔の卵の五回目の孵化である。

『パパ様、僕との約束を覚えててくださったんですね!ありがとうございますー!』

「もちろんだよ!ルディとの約束を、ぼくが忘れるはずないじゃない!」

『まぁ、そしたらまた私達の弟か妹が増えるのですね!』

『私、今度は妹がいいですー!……って、もちろん弟でも嬉しいですけど!』

大喜びでライトの身体に巻きつくルディ。

二人の話を聞いていたミーアとミーナも、新しく家族が増えることに花咲くような笑顔で喜んでいる。

「ミーアさんには、またお手数をおかけしてしまうかもしれませんが……」

『そんなことはありません。可愛い弟妹が増えることを喜びこそすれ、厭うなど決してございません!』

『主様、是非とも私もルディやミーアお姉様とともに、新しい弟妹のお世話をさせてください!』

「ミーナもありがとう!じゃ、早速始めるね!」

興奮気味にライトに詰め寄るミーアとミーナに、ライトも気圧されつつ早速準備を始める。

まずは卵に与える餌の支度。

今回ライトは、卵に野菜類を与えようと思っていた。

ライトが以前、ラウルからカタポレンの家の畑の一角を譲ってもらったのも、半分以上は今日のこの日のためだ。

ライトがアイテムリュックの蓋を開き、大量の大根を取り出した。

大きさはライトの身長くらいある巨大サイズで、手持ちは合計百本あるがとりあえず五十本出した。これは全て、ライトがカタポレンの畑で種から育てたものだ。

これをマイページのアイテム欄に収納すると、品目が『使い魔の餌(高級な野菜・D)』になることを確認済みである。

そしてその末尾についたDって何だろう…… 大根(Daikon) のD? と訝しがったライト。

同時に育てていたニンジンを一本、アイテム欄に入れてみたところ『使い魔の餌(高級な野菜・N)』と表示されたので、やはりこのアルファベットは品目名の頭文字と見て間違いなさそうだ。

ちなみにプランターで育てた普通サイズのものは『使い魔の餌(普通の野菜・D)』になった。

カタポレンの森の魔力を吸って大きく育った野菜類は、高級品に分類されるようだ。

使い魔の餌として与えるならば、普通のものよりも高級なものの方がいいでしょう!ということで、ここ最近のライトは地植えの大根をせっせと育てていた。

ライトが丹精込めて作った大根を、ミーア達が取り囲んで繁繁と見入る。

『うわぁー……すっごく大きな白い木ですねぇ……』

「あ、これは木じゃなくて大根っていう野菜なんだよー」

『まぁ、木じゃないんですか? ……ああ、確かに木ほど硬くないですねぇ』

『野菜ということは、ちゃんとした食べ物なのですね』

皆初めて見る大根に、興味津々のようだ。

確かにミーア達三人が、大根だのニンジンだのの生の野菜類を見ることなどまずないだろう。

食べ物を見るとしても、ケーキや大福、おでんなどの調理後のものばかりなのだから。

そしてライトがアイテムリュックから使い魔の卵を取り出した。

普段はアイテム欄に収納するのだが、この使い魔の卵だけは別だ。何故ならルディが初めて拾ってきた使い魔の卵で、ルディからライトに直接手渡されたものだからだ。

なので、ライトも気遣って他のものと混ざらないようにアイテムリュックに収納していたのである。

「さて、と。この使い魔の卵に、ぼくが用意した大根を食べさせていきます。ルディもお手伝いしてね!」

『もちろんです!』

『主様、ルディ、頑張ってー!』

ライトにお手伝いを頼まれたルディ、フンスフンス!と鼻息も荒く張り切る。その後ろで、ミーナがライト達に声援を送っている。

そしてライトが手のひらに持った使い魔の卵を、大根に触れさせた。

すると、ライトより大きな大根がシュン!と一瞬で消えた。カタポレン産の大根を餌として受け入れた証拠である。

『パパ様、大根が消えましたね!』

「卵が大根を食べたんだよ!」

『もっともっと食べさせてあげましょう!』

「うん!」

卵が大根を食べたことを大喜びするルディ。

ルディの後ろで見守っているミーアとミーナも笑顔になる。

そうして巨大な大根を十本、二十本と卵に与え続けていく。

二十五本を超えた頃には、卵の大きさもライトの身長の半分くらいになっていたので、卵を地面に置いて大根の方を持ち上げて卵に触れさせた。

三十本を超えたところで、卵の殻に一筋の罅が入った。

ピシッ、という小さな音の響きに、ライト達四人が全員『おおっ!』と歓声を上げる。

そこから三十五本、四十本、四十五本と大根を与えていく毎に細かい罅がどんどん増えていく。

そうして最後の五十本目の大根を吸収した時、卵の内側から殻を破る手が出てきた。

その手は二本の腕を伸ばし、卵の殻を少しづつ破り続ける。

そうして出てきたのは、淡い緑色の肌をした女の子だった。