軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1298話 取り戻した日常と急務

その日ライト達は、夜までずっとカタポレンの家で過ごした。

外はまだ明るかったため、ライトが急いで五日ぶりの魔石回収に出ようとするとレオニス達三人から「そんなもん明日からでいいから!」と止められた。

(それまでの五日間は、ラウルが代わりに魔石の回収と入れ替えを毎朝していたらしい。ラウル曰く『俺だってライトには野菜収穫を代わりにやってもらってたしな』とのこと)

晩御飯を皆で食べ、これまた五日ぶりに食べるラウルの美味しい食事にライトは感激の涙を流す。

星海空間にいる間は、空腹感も眠気も一切起きなかった。

食事や睡眠の手間暇が不要だから非常に楽ちんではあったが、その分『生きている』という実感は皆無だった。

絶対に死なない世界というのは、生命が脅かされる危機が全くなく安全な反面、生への実感や執着、延いては人が持つ喜怒哀楽全ての感情をも取り去ってしまう世界なのだということを、ライトは身を以って体感していた。

ご飯を食べた後は、皆で風呂に入る。

温かくて広々とした風呂は、またもライトに生への実感を強烈に感じさせた。

星海空間での巨大桶風呂とは大違いの極楽湯船の中で、顎まで湯に浸かりながら「ふぁーーー……生き返るぅーーー……」と呟くライトに、レオニス達が苦笑している。

そしてライトの背中は、今日はレオニスが流してくれた。

それはライトの無事の帰りを労るだけでなく、身体に傷や怪我がないかを確認するためのものでもあった。

帰還前にヴァレリアからエリクシル一本を飲ませてもらったおかげで、今のライトの身体には傷痕一つ残っていない。幼子特有の、すべすべぷりぷりのお肌である。

だが、レオニスは気づいていた。きっとライトはあの亀裂の向こう側で、自分達では想像もできないような凄絶な戦いをし続けていたのだろう、ということを。

帰宅直後のライトの姿を見れば、それはレオニスだけでなくラウルやマキシでさえも気づく。ライト愛用のマントやズボンが、かなりボロボロに擦り切れていたからだ。

故にレオニスは、身体の方にも傷が残っていないかを心配して風呂の中でさり気なく確かめていたのだ。

ライトの背中を流し、髪の毛まで洗ってやっているレオニスがライトに話しかける。

「お前、もう絶対に家出とかすんなよ? 俺達に黙って遠くに出かけるとか許さんからな?」

「うん!もう二度と無断外泊なんてしないよ!」

「是非ともそうしてくれ。またこんなことが起きたら、俺の寿命がホントになくなっちまう」

お風呂の気持ち良さに上機嫌のライト、悪びれることなく元気な返事をしている。

しかし、洗髪中で頭が泡だらけのライト、はたと気づいたようにレオニスに痛烈な一言を放つ。

「でもさー、レオ兄ちゃんも昔よく家出してたんでしょ? 前にシスターマイラさんから聞いたよ?」

「うぐッ」

「その時のシスターマイラさんも、今のレオ兄ちゃんみたくぐったりとした声で思い出話を聞かせてくれたなぁ」

「うぐぐッ」

「てゆか、ぼくの父さんもよく家出してシスターマイラさんを困らせてたんだってね!これはもう血筋かもね!」

「………………」

キャハハ☆と笑いながらレオニス達の黒歴史をシレッと暴露するライトに、レオニスはその度に見えない矢にグサグサと刺し貫かれている。

マイラが語る思い出話だけに、それらは全て紛うことなき事実であり、レオニスにも身に覚えがある。

こんなところで過去の所業を持ち出されるとは思わなかっただけに、レオニスががっくりと項垂れている。

レオニスの洗髪の手が完全に止まってしまったので、続きは自分の手でワシャワシャと髪を洗うライト。

ちゃちゃっと泡を流し、振り返ってレオニスに声をかける。

「でも、心配しないで!ぼくはもう絶対に、黙って家出なんてしないから!」

「……ホントだな?」

「うん、約束する!」

「男と男の約束だぞ?」

「うん!」

指切りげんまんしながら約束をするライトとレオニス。

レオニスは喉まで出かかっていた「俺の近所への家出とお前の異空間への家出じゃ全く違うがな?」という言葉を必死に飲み込んだ。

行き先からして文字通り次元が違う訳だが、家出の理由『シスターマイラに脳天チョップを十連打食らった反発』と『ビースリー危機からラグナロッツァを救うため』もまた天地の差があるからだ。

グラン兄、あんたの息子は正真正銘世界を救う勇者だったよ。

まだ冒険者にもなれない歳で、俺どころかグラン兄まですっかり追い越しちまったなぁ……

でも、そんな偉業を達成したってのに、誰にも自慢できないのがもどかしいがな……

こいつが冒険者として世に羽ばたき、大手を振って歩ける日が来るまで、俺ら大人がもうちょい助けてやらんとな。

グラン兄もレミ姉といっしょに、これからもずっとライトのことを見守ってやってくれよ……

レオニスはそんなことを思いながら、指切りげんまんの後にすぐにまた湯船に浸かりうっとりとするライトを見つめ微笑んでいた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

風呂から上がった後は、恒例の髪の毛乾かし合いタイムである。

今日もタオルドライでキャーキャーと騒がしいラウルとマキシを眺めながら、大笑いするライト。日常生活に戻ってこれた喜びを噛みしめる。

だが、いつまでものんびりとしてはいられない。

早急に着手しなければならない問題をレオニスに伝え始めた。

「あのね、レオ兄ちゃん……明後日ラグーン学園が始まる前に、明日のうちに行きたいというか行かなきゃいけない場所があるんだけどー……」

「……何だ? その様子だと、ただのお出かけって訳じゃなさそうだが……」

もじもじとしながら話を切り出したライト。

その様子に、レオニスは何だか嫌ーな予感がする。

ライトがこういう言い方をする時は、大抵普通の事柄では済まないことをレオニスもよく知っているのだ。

「うん、地底世界に行きたいんだ」

「地底世界? ランガや地の女王達がいるところにか? 何でまたそんなところに?」

「実はね、コヨルシャウキさんのことでヴァレリアさんと話し合ったんだけど……」

ライトが明日行きたいと告げた場所は、地底世界。

そこをコヨルシャウキのサイサクス世界の出入口にしよう、とライトは考えたのだ。

ライトがヴァレリアから聞いた話という 体(てい) で、コヨルシャウキの現状をレオニス達に語って聞かせる。

「あの亀裂の向こう側、星海世界にはコヨルシャウキさん以外に誰もいないんだって。それでね、勇者候補生のために働ける日が来るのをずっと一人で待ち続けてて、とても寂しい思いをしてたらしいんだ。それが原因で、旧ラグナロッツァ孤児院に勝手に飛び出てきちゃったみたいなんだよね」

「そうなんか……確かにあのだだっ広そうな宇宙で、ずっとひとりぼっちってのはかなり寂しいだろうなぁ」

「うん……一人でずっと出番を待っている間、星霊……ビースリー用の雑魚魔物をひたすら作り続けてて、とうとうビースリー五万回分以上は作っちゃったらしいよ」

「「「ごごご五万回……」」」

ライトの話にレオニス達が絶句する。

コヨルシャウキ率いるビースリーの戦闘一回分だけでも厄介だというのに。そんなものが五万回分も地上に押し寄せ続けた日には、ラグナロッツァどころか冗談抜きでサイサクス大陸滅亡まっしぐらである。

「だからね、ヴァレリアさんが『コヨるんもサイサクス世界にちょくちょく遊びに行き来できるようになれば、寂しさも紛れていいんじゃないかな』って話をしてたの」

「まぁなぁ……人恋しさにあちこちで出現されたら敵わんしなぁ……そうなる前に、特定の場所で他者と交流を深められるようにした方が絶対にいいだろうな」

「でしょ? それに、地底世界にはコヨルシャウキさんを差別したり嫌ったりするような人族の集落もないし、冥界樹のランガさんや地の女王様、白虎のシロちゃんならきっとコヨルシャウキさんを受け入れてくれると思うんだ」

コヨルシャウキを地底世界に連れていく理由を熱く語るライト。

その話にレオニスも頷きつつ思案する。

確かにライトの言う通り、コヨルシャウキの寂しさや出番がない不満、ストレスを晴らすのは有効だ。

それによりサイサクス世界でのビースリー勃発を防げるならば、それは人族にとっても最善だろう。

というか、如何に雑魚魔物といえどビースリー五万回分もの軍勢は洒落にならない。

その軍勢を従えるボスであるコヨルシャウキ、彼女が本気で他種族を滅ぼそうなどと考えないよう心穏やかに過ごせる日々を提供するのは、もはや急務ですらあると言えよう。

「つまりライトは、コヨルシャウキを地底世界で受け入れてもらえるよう、ランガや地の女王に話をつけに行きたい、ということだな?」

「うん、そういうこと」

「まぁな、地底世界はエルちゃんよりデカいランガがゆったりと過ごせるくらいに広いしな。あのデカいコヨルシャウキでも、問題なく普通に暮らせるだろ」

「あ、そうそう、コヨルシャウキさんね、身体の大きさも変えられるようになったからそこら辺は大丈夫。レオ兄ちゃんやラウルくらいの背丈にもなれるんだよ」

「え、マジ?」

「マジマジ」

コヨルシャウキが身体の大きさを変化させられるようになったと聞き、レオニスが目を丸くして驚いている。

レオニスとしては、ライトが地底世界を選んだのはてっきりあの図体のデカさを加味した場所選定なのだと思っていたからだ。

しかし、身体の大きさ云々を抜きにしても、コヨルシャウキの受け入れ先は地底世界以外にないだろうことも理解できる。

特に人族は、自分とは異なる容姿や能力を持つ他種族に対してとかく排除したがったり敬遠する傾向にあることは否めない。

それがもとでコヨルシャウキの怒りを買い、人族との関係悪化を招いたらそれこそ本末転倒。

ならば最初から、カタポレンの森なり地底世界なり、人族がおいそれと足を踏み入れられない場所にコヨルシャウキを導くべきである。

「……よし、そしたら明日の地底世界行きには俺もついていこう」

「レオ兄ちゃんもいっしょに行ってくれるの!?」

「ああ。俺もコヨルシャウキとは、監視の夜勤の間にそこそこ話をしててな。あれは相当な石頭だが、決して根は悪いやつじゃないってことは俺も知っているし、ランガ達との仲を取り持てるよう俺も力を貸そう」

「ありがとう!」

レオニスの同行の申し出に、ライトが嬉しそうに礼を言う。

そんなライトに、レオニスも小さく微笑みながら頭をくしゃくしゃと撫でる。

「何、礼を言われる程のことじゃないさ。お前はこっちに帰ってきたばかりだし、何よりラグーン学園が始まる前に一刻でも早く解決したいという気持ちも分かるからな」

「ううん、レオ兄ちゃんにも協力してもらえたらすっごく助かるもん!明日はよろしくね!」

「おう、任せとけ」

面倒事を快く引き受けてくれるレオニスに、ライトはただただ感謝するばかりだった。