軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1296話 帰るべき場所への帰還

ルティエンス商会の異空間から出て、中庭に出たライト。

外は曇天模様で、二月のツェリザークの冷たい空気にライトは思わず「寒ッ!」と呟く。

星海空間は暑さ寒さもない世界だったので、こうして久しぶりにサイサクス世界で寒暖を感じるのは何とも新鮮だ。

ライトは白い息を吐きながら、倉庫横のマッピング登録地点に移動してマイページのスキル欄を開く。

マッピングスキルを使えば、ここからカタポレンの家の自室までひとっ飛びで帰宅できる。

マッピングの登録地点一覧を前に、ライトの自室である『カタポレンの森/地点A』を押そうとする右手人差し指が、躊躇いがちに画面の寸前で止まる。

レオ兄、すっごく怒ってるだろうなー……もしかしたら本気でぶん殴られるかも。

ラウルもマキシ君も、普段怒らないだけに今回はすんげー怒られそうだ……ラウルからは『罰として、一年間おやつ抜き!』とか言われそう。そしたら本気で泣いちゃうぞ……

でも……俺だってそれだけのことをしでかしたんだから、仕方ないよな。皆に誠心誠意謝ろう。

謝るだけで許してもらえるなんて思わないけど、それでも……心から謝りたい。よし、カタポレンの家に帰るぞ!

…………あ、その前にレオ兄達にぶん殴られてもいいように、物理防御アップのバフだけかけておこう…………

これまでの自分の行いを振り返り、絶ーーーッ対に怒られるであろうと予想するライト。

しかし、それも致し方ない。全ては自分が撒いた種なのだから。

拳骨やグーパンの百発くらいは落とされることを覚悟したライト。マッピングの実行を慌ててキャンセルし、スキル欄を開いてバフスキルの物理防御『プロテクト』を四回かけた。

そして数回深呼吸の後、改めてマッピングスキルを開いてカタポレンの家に帰っていった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

ルティエンス商会中庭からカタポレンの家の自室に移動したライト。

体感時間で十日ぶりの自室は、とても懐かしいようなホッとするような何とも不思議な感覚になる。

部屋の中は、ぱっと見では何も変わっていない。

勉強机にベッド、本棚に箪笥。数日前まで普通に過ごしていた自室を目にすることで、ようやくライトの中で自宅に戻ってきたことをじわじわと実感していた。

すると、部屋の外からバタバタと騒がしい音がしてきた。

しかもそのドタドタ音は複数聞こえてくる。

そしてライトの部屋のドアがバタン!と勢いよく廊下側から開かれた。

ドアを開けたのはレオニスで、レオニスの後ろにはラウルとマキシ、そしてマキシに抱っこされたラーデがいた。

「…………ライト…………」

「あ、レオ兄ちゃん!」

帰宅後すぐに現れたレオニスを見たライトの顔が、一瞬だけパァッ!と明るくなる。

だがしかし、次の瞬間にはどんどん顔が曇り萎れていく。

「あの……勝手なことして、ごめんなさい……」

「………………」

「皆にすっごく心配させて、すっごく迷惑かけたよね……」

「………………」

「本当にごめんなさい!」

「…………ライト…………」

俯きながらひたすら謝り続けるライトに、レオニスがゆっくりと近づいていく。

そしてライトの目の前に立ち、震える声で話しかける。

「本当に……本当に、ライト、だよな……?」

「うん、ぼくはライトだよ。グラン父さんとレミ母さんの子、ディーノのライト!」

「………………ッ」

レオニスがライトの前にしゃがみ込み、顔にそっと手を伸ばして震える手でライトの頭や頬を触る。

それは、目の前にいるライトが夢や幻でもなければホログラムでもない、本当に実在していることをおそるおそる確かめるかのようなおっかなびっくりの仕草。

そうしてライトの真っ赤な髪を撫で、柔らかな頬を触り、鶯色の瞳をじっと見つめるレオニス。

あの日あの時、旧ラグナロッツァ孤児院でコヨルシャウキとともに亀裂の向こう側に去った金髪碧眼の少年ではない、本当の姿のライトがここにいる。

そしてそれが幻でないことを実感したレオニスの目に、じわりと大粒の涙が溢れた。

レオニスの天色の瞳からあっという間に涙がポロポロと零れ落ちる。

そしてライトの身体に縋るように抱きしめた。

「……ライト……ライト……」

それ以上言葉が出てこないレオニス。

ライトの肩に顔を埋めながら、声にならない声でライトの無事を喜び咽び泣くレオニス。

レオニスが人目も憚らず泣きじゃくるのは、実に珍しいことだ。

しかし、それだけ心配させたということの裏返しでもある。

てっきりライトはレオニスに激怒されるものとばかり思っていたし、ぶん殴られる覚悟までしていたのに。まさかこんなに泣かれるとは思っていなかった。

そして、こんなにも心配させてしまったことにライトの胸が痛む。

ライトはレオニスに謝りはしたが、コヨルシャウキのもとに向かったことは後悔していない。そうしなければ、間違いなくラグナロッツァは滅亡の一途を辿っていたはずだから。

だがしかし、そのために自分の身近な者―――レオニス達を泣かせてしまったことだけは、本当に申し訳なく思う。

その強い悔恨と胸の痛みで、ライトの目にも涙がじわりと滲む。

ライトも涙をポロポロと流しながら、震えるレオニスの背中を小さな両手で抱きしめ返す。

「レオ兄ちゃん……ただいま」

「………………おかえり」

ライトのただいまの挨拶に、レオニスも小さな声でたった一言、おかえり、とだけ返す。

レオニスの後ろで二人を見守っているラウルやマキシも、その目に大粒の涙を浮かべている。

ビースリーという生き地獄を必死に耐え抜いたライトが、ようやく自分が帰るべき場所に辿り着いた瞬間だった。