軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1282話 その後のラグナロッツァとレオニスの動向

その後もラグナロッツァは、しばらくは混乱の日々が続いていた。

レオニスから亀裂消滅の報告を受けたパレンが即刻現場に赴き、その目で報告は事実と認めた。

その後パレンは亀裂対策本部司令官であるピースとロイドを伴い、再度現場に赴き亀裂の消滅を三者同時に直接確認。

三人はそのままラグナ宮殿に向かい、ラグナ大公に亀裂の消滅を報告。その場で非常事態宣言と夜間外出禁止令、そして避難勧告令が解除された。

そして三者の各組織、冒険者ギルドと魔術師ギルド、薬師ギルドの全支部でラグナロッツァにおけるビースリーの危機が回避されたことが速やかに通達された。

これにより、その日のうちにラグナロッツァに再び安全と平和がもたらされたことがアクシーディア公国全土に拡散されていった。

他の街に避難していた人々も、ラグナロッツァが無事に危機を乗り越えたことを知り続々と戻ってきた。

平民貴族問わず、たくさんの人々がラグナロッツァに帰ってきて南北の門は連日大行列を成していた。

ちなみに薬師ギルドの 元(・) ギルドマスターのダニエル・ネイブルも、非常事態宣言他が解除されてから一週間後に両親とともに馬車で悠々とラグナロッツァに舞い戻ってきたという。

そしてその翌日、ダニエルが薬師ギルドに行くと、既に薬師ギルド内に彼の居場所はなかった。

亀裂出現の翌日に、ダニエルが職務放棄してさっさと逃亡したことがラグナ宮殿にも伝えられており、事態を重く見たラグナ大公や貴族院によって薬師の資格を剥奪されて薬師ギルドからの永久追放処分が確定していたのだ。

これにより、薬師ギルドは副ギルドマスターのロイドを昇格させて新ギルドマスターに据えた。

それを知ったダニエルが、何やら薬師ギルドで暴れたらしいが、新ギルドマスターのロイドによって鎮圧されて外に放り出されたそうだ。

その光景の一部始終を目撃していた薬師ギルドの受付嬢は、後にその時のことを『マスターロイドから発せられた怒気は、そりゃもう冷たくて冷たくて……あれはツェリザークの真冬の外の空気よりも冷たかったわぁ……』と語ったという。

そしてライト達が通うラグーン学園は、非常事態宣言解除から一週間後に再開される運びとなった。

ラグーン学園には貴族の子息令嬢もそこそこ在籍しているため、避難した街からラグナロッツァに戻る移動期間を鑑みて猶予を設けた格好だ。

レオニス邸のご近所であるグレアム家やメレディス家も一家全員で戻ってきたし、もちろんウォーベック家も非常事態宣言解除の四日後には使用人達とともに皆帰ってきていた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

ハリエットはラグナロッツァ帰還後の翌日の昼過ぎに、ライトに帰ってきたことを報告をするため兄ウィルフレッドとともにレオニス邸を訪れた。

だが、ハリエットはライトに会えなかった。

レオニス邸の執事であるラウルが、申し訳なさそうにハリエットに謝る。

「ハリエットちゃん、すまんな……ライトは今ちょっと出かけててな、こっちの家にはいないんだ」

「いいえ、大丈夫です。こうして家の外に出かけられるようになったことは、本当に喜ばしいことですもの!」

「……そうだな……」

ラウルは嘘にならない程度の言い訳で、ライトの不在を何とか誤魔化した。

ハリエットはその言葉を信じ、笑顔でラウルと会話をしている。

本当のことをハリエットに言えないのは、ラウルとしてもかなり辛いことだ。

だがしかし、ラウルにとってはそれ以上に『ライトの秘密は絶対に守らなければ』という思いの方が強かった。

ライトはラグナロッツァを守るためにコヨルシャウキのもとに向かい、ともに去った。

十歳にも満たない子供が、己の身を挺してまでこの街を守ったのだ。それを思うとラウルの胸は痛む。

そして、そんな偉大な英雄が『ぼくが勇者候補生だってことは、皆にはナイショにしてね!』と望んでいるのならば、それは絶対に叶えなくてはならない。

ライトの秘密や名誉を守りつつ、レオニスへの置き手紙に書いてあった『必ずここに帰ってきます』という言葉を信じて待つ他なかった。

「では、ライトさんに『ラグーン学園でお会いできるのを楽しみにしています』と、ラウルさんの方からお伝えくださいますか?」

「もちろんだとも。ライトがこっちに帰ってきたら、ちゃんと伝えておこう」

「よろしくお願いいたしますね」

ライトに会えなくてちょっぴり残念そうなハリエットに、ラウルも自分が答えられる精一杯の言葉を返す。

玄関から外に出て、門扉までウォーベック兄妹を見送ったラウル。

その後ラウルは、二階の旧宝物庫の転移門でカタポレンの家に移動していった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

カタポレンの家に移動したラウルがその後向かったのは、神樹ユグドラツィのもと。

ラウルには、ユグドラツィに聞きたいことがあった。

カタポレンの家からユグドラツィのもとまで、ラウルは一直線に空を飛んでいく。

「よう、ツィちゃん」

『ようこそいらっしゃい、ラウル』

ラウルが空からふわり、と地面に降り立ちながら、ユグドラツィに挨拶をする。

もちろんユグドラツィはいつだってラウルの来訪を歓迎する。

「ツィちゃん、早速だが聞きたいことがあるんだ」

『何なりと聞いてくださいな』

「うちのご主人様は、今どの辺りにいる?」

ラウルがユグドラツィに聞きたかったのは、レオニスの行方と安否。

そう、レオニスはカタポレンの森の警邏に出かけて以降、一度もカタポレンの家に戻ってきていなかった。

しかし、レオニスの居所なら分かる。神樹達に聞けばいいのだ。

レオニスもライトやラウル同様に、六本の神樹の分体入りの装飾品を身に着けている。

故に神樹達にその分体入りの装飾品を通して、レオニスの居所や安否を視てもらえばいいのである。

『今は……どこかの山中にいるようです。木々が生い茂る急な坂道……いいえ、獣道をかき分けて進んでいっているのが見えます』

「山の中にいるのか? それもうカタポレンの森の警邏じゃねぇだろ……」

ユグドラツィの答えに、ラウルが呆れ返ったように呟く。

レオニスは『カタポレンの森の警邏に出かける』と言って家を出ていったのに、何日も戻らない挙句に森の外のどこかの山の中にまで出かけているとは。ラウルの予想外もいいところである。

しかし、山中を歩いているということは、少なくとも怪我を負ったり負傷して動けなくなるような事態には陥っていない、ということでもある。

このことに、ラウルは少なからず安堵する。

あのご主人様のことだ、ちょっとくらい遠出したからってどうこうなるとは思わんが……それでもライトがいつ、どこから、どこに、どうやって帰ってくるか全く分からんのだから、あまり遠出され続けられるのも困るんだがな……

しかし、ライトのいない家に帰るのも辛いんだろう……さて、あのご主人様をどう説得したもんか……

レオニスの安否が確認できたラウルは、レオニスの心情を慮りつつ今後どうしたらいいかを思案する。

そんなラウルに、ユグドラツィが心配そうに声をかける。

『ラウル……ライトはまだこちらに帰ってきていないのですか?』

「ああ……ツィちゃんも知っての通り、小さなご主人様は今、この世界とは違う異空間にいる。しかし、そこからどうやってこっちに帰ってくるのか、その方法を俺達は知らされていないんだ」

『そうなんですね……確かにあの星々が輝く色とりどりの異空間は、この世のものではありませんものね……』

ラウルやレオニス同様に、ユグドラツィもまたライトの行方を案じている。

というのも、ライトもユグドラツィの枝で作った分体入りのタイピンを着けているので、その分体を通してユグドラツィはライトがコヨルシャウキとともに異空間に去った場面を視て知っていた。

しかし、ユグドラツィが視ることができたのはライトが謎の亀裂の中に入ったその瞬間まで。

それ以降は何故か真っ黒い画面しか映らなくなってしまったのだ。

これは電波の届かないラジオやインターネットのようなもので、ライトが異なる空間に入ってしまったことで分体との繋がりも中断されてしまったのが原因だった。

もっとも、そうした原理まではラウルもユグドラツィも分からなかったのだが。

「……ま、ご主人様が元気で飛び回っているようなら、それだけでも良しとするか」

『本当は、分体入りの装飾品を通して何らかの言葉なりを伝えられればいいのですが……力不足ですみません』

「いや、そんなのツィちゃんが謝ることじゃないさ。ご主人様も、今は心を落ち着かせるために時間が少し必要なだけだ」

己の力不足を嘆き謝罪するユグドラツィに、ラウルが慰めの言葉をかける。

『ライトも、一刻も早くあの異空間から帰還できることを……私も心から祈っています』

「ありがとう。ツィちゃんにそう言ってもらえるだけでも、ライトはきっと喜ぶと思う」

『だといいのですが……』

ライトとレオニスの身を案じるユグドラツィ。その豊かな緑溢れる枝葉がザワザワと揺れ動く。

それはいつもの軽やかな葉擦れの音とは違い、心がざわつくような重苦しいものに聞こえるから不思議なものだ。

そしてラウルがふと真上の空を見上げる。

今日はどんよりとした曇り空で、残念ながら厚い雲に覆われていて青空は見えない。

このサイサクス世界とは違う、どこか別の空間にいるはずのライトを思うラウル。その顔は、ライトの安否を知りたくても知ることができない不安感やもどかしさで暗い影を落としていた。