軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1272話 三大組織の長達の奮闘

そうして各々が成すべきことをこなし続け、亀裂出現から九日目の夜を迎えた。

十日目の最終日直前まで、『勇者候補生』なる者を見つけることはできなかった。やはりこのサイサクス世界には、ライト以外のBCOを知る埒外の者はいない、ということなのだろう。

避難勧告令により、貴族平民含めて約半数近くの住民がラグナロッツァの外に避難していった。

行く宛がなく居残る住民も、皆食料品の配給時以外はずっと家の中に閉じ篭って出てこない。

おかげでラグナロッツァは、日夜問わずすっかり人気がなくなった。とてもじゃないが、大陸一の強国アクシーディア公国の首都とは思えない程に寂れてしまっている。

しかし、そんなラグナロッツァの中で唯一多数の人々で賑わう場所があった。それは、冒険者ギルド総本部である。

今現在、冒険者ギルド総本部には『亀裂対策本部』なる部署が臨時で設置されており、魔術師ギルド、薬師ギルドとともに様々な対処を行っている。

この対策本部は亀裂出現の初日夕方には設置され、各ギルドのトップであるパレン、ピース、そして薬師ギルドの副ギルドマスターであるロイドが連日会議を開いては対策を打ち出していた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

時は少し遡り、亀裂対策本部が結成された日の翌日。

謎の亀裂出現二日目にそれは起きた。

結成されたばかりの亀裂対策本部に、本来ならば薬師ギルドマスターであるダニエル・ネイブルが冒険者ギルド総本部に出勤しなければならない。

なのに、薬師ギルドの代表として現れたのは副ギルドマスターであるロイドだった。

何故副ギルドマスターのロイドが代表として出てきたのかというと。驚くべきことに、ギルドマスターがさっさとラグナロッツァを出て逃げてしまったためである。

ロイドの話によると、もともと薬師ギルドのマスターはネイブル伯爵家という貴族の子息ダニエルが務めていたのだそうだ。

普段からサボり癖がある、四十代独身のダニエル・ネイブル。旧ラグナロッツァ孤児院に亀裂が出現した翌日の明け方に、何と当主の父親や母親とともにラグナロッツァを脱出したというではないか。

そして既にその日、薬師ギルド総本部に出勤していたロイドのもとに朝イチでネイブル家の召使いが使者として現れ『ダニエル様は今朝方、ウスワイヤに一ヶ月の出張に出かける、と言って旦那様方とともに出立されました……』という言伝を聞かされたらしい。

その時のことを語るロイドは、まさにこめかみに青筋が数本浮き出ていた。

そしてそれをロイドから聞かされたパレンとピースもまた、開いた口が塞がらなかった。

「ぇー……ネイブル家のお坊っちゃん、とっとと逃げちゃったのん?ウッソー、信じらんなーい……」

「ダニエル君、ちょっと臆病なところがあるのは知っていたが……まさかこれ程とはな」

「てゆか、薬師ギルドマスターが直々にウスワイヤに一ヶ月出張なんて、する必要あんの?」

「そんなもんある訳なかろう……そもそも冒険者ギルドだって、ウスワイヤには出張所もないぞ?」

「だよねーぃ……」

小声でゴニョゴニョと話すパレンとピースに、ロイドが縮こまりながら申し開きをする。

「全く以って、お恥ずかしい限りです……ですが、ギルドマスターが不在である以上、今は私が薬師ギルドの正式な代表です。前線で事に当たる皆様方の回復は、どうか我ら薬師ギルドにお任せあれ」

「おお、それは頼もしい!ロイド殿、頼みましたぞ!」

「うん、ギルドマスターがとっとと逃げ出したってのはいただけないけど。逆にネイブルのお坊っちゃんがここに来るよりは、ロイド君が来てくれた方が絶対に心強いよね!」

「お二方とも、ありがとうございます……このロイド、最後の最後まで戦い続けます!」

パレン達に向かって、深々と頭を下げて謝罪するロイド。

そんなロイドの真摯な姿に、パレンもピースも破顔しつつ受け入れる。

二人の気遣い溢れる言葉に、頭を上げたロイドが感激している。

そしてロイドは、持参してきていた大きなトランクを床に置き、パカッ!と開いて中から数本の瓶を取り出した。

パレンとピースにその瓶を一本づつ渡してから、ロイドが解説を始めた。

「こちらは最近になって当ギルドで開発に成功した、新種の回復剤です」

「ほほう、新種の回復剤とな?」

「えー、何ナニ、一体どんな効果があんの?」

「こちらは濃縮型の回復剤でして。濃い緑色の方は従来のエクスポーションの三倍、濃い水色の方はアークエーテルの三倍の濃度と効果があります」

「「何ソレ、すごい!!」」

ロイドが披露した新種の回復剤に、パレンもピースも興奮気味に驚いている。

二人とも、濃縮型の回復剤なんて一度も聞いたことがない。

初めて目にする斬新な回復剤に、二人の目は瓶に釘付けだ。興味深そうに繁繁と眺めるパレン達に、ロイドが誇らしげにしている。

「ロイド殿、この新しい回復剤の治験はもう済んでいるのかね?」

「もちろんです。当ギルドの精鋭薬師達が半年をかけて開発し、さらには自ら何度も服用して副作用等一切出ないことを確認しております」

「ねぇねぇ、ロイド君、これを市販品として売り出す予定はあるのん?」

「ええ、実は今年の四月一日から、薬師ギルドの売店でのみ購入できる専売品として販売を開始する予定でした」

興味津々でロイドに質問してくるパレンとピースに、ロイドが適宜真摯に答えていく。

ライトとレオニスが、濃縮エクスポーション等を新種の回復剤として薬師ギルドに持ち込んだのは、昨年の三月末頃のこと。

それからもうすぐ一年が経とうとしているが、その間薬師ギルドは濃縮回復剤の研究をし続けていた。

その甲斐あって、従来品の三倍もの濃度を実現したようだ。

もっとも、ライト達が持ち込んだのは五倍濃縮品なので、まだまだ改良の余地があるのだが。

しかし、従来品の三倍の回復効果が得られるというのは、それだけで十分にすごいことだ。

「今はその準備期間中として、増産体制を整えている最中でしたが……この『濃縮エクスポーション』と『濃縮アークエーテル』、今現在ある在庫の全てを明日にもこちらにお持ちしましょう」

「それはありがたい!」

「うん、すんげーありがたいよね!ロイド君、ありがとー!」

「お役に立てて幸いです。このラグナロッツァの一大事に、出し惜しみなどしていられませんからね」

大喜びしながら礼を言うパレンとピースに、ロイドも嬉しそうにはにかむ。

薬師は前線に立てる冒険者達や魔術師達と違い、彼らの回復を担う後方支援しかできない。

しかし、矢面に立つことだけが偉い訳ではない。前線で頑張る前衛の体力や魔力の回復を支援することもまた、とても重要な役割。

彼らの支援がなければ、前線を維持するのも困難なのだ。

するとここで、ピースがパレンに相談を持ちかけた。

「そしたらパレンちゃん、濃縮エクスポーションと濃縮アークエーテルの配分比率を7:3と3:7にしてもらってもいーい?」

「もちろん。我ら冒険者ギルドは体力回復、ピース君の魔術師ギルドは魔力回復を重点的に行わねばならんからな」

「でしたら、その比率で冒険者ギルドと魔術師ギルドにお届けしましょうか?」

「うん、そうしてくれるとすんげー助かる!対策本部はここだし、話し合いや作戦立案なんかもここでするけど。でも小生達魔術師が呪符を描いたり魔導具を作成するのは、向こうの魔術師ギルド総本部でやるからねーぃ!」

ピースがパレンに相談したのは、濃縮エクスポーションと濃縮アークエーテルの配分比率。

ピース達魔術師は、呪符や魔導具を作るためにMPを消費する。

一方パレン達冒険者は、MPよりもHPを回復するエクスポーションを多用する。

故に両方に半々づつ分けるのではなく、それぞれが必要とするものを多めに配分しよう!というのがピースの申し出である。

もちろんパレンもその意見に否やはない。むしろ大賛成するところである。

新種の回復剤という、強力な支援を得たパレンとピース。

万が一ビースリーが開始されてしまったとしても、これで当分は戦える。

この心強い支援に、パレンとピースが改めてロイドに礼を言う。

「ロイド殿、薬師ギルドの支援、誠にありがたい。この礼はいつか必ずする故、この危機をともに乗り越えましょうぞ」

「ロイド君、小生からもお礼を言わせて!こんなすんげー魔力回復剤を作ってくれて、本当にありがとう!これがあれば、小生達の呪符描きや魔導具作成がとても捗ること間違いナッシングだよー!」

「身に余る過分なお言葉、薬師冥利に尽きるというものです……是非とも全員でこの危機を乗り越えましょう!」

パレンとピースの心からの礼に、ロイドもまた真剣な眼差しで応える。

冒険者ギルドと魔術師ギルドと薬師ギルドという三つの公的機関、しかもそれらの総本部が一丸となって事に当たるのは、これが初めてのことかもしれない。

目の前に迫る危機を回避し、全員が無事生き残るためにも一致団結せねば―――三人の代表者達は、それぞれ心に固く誓っていた。