作品タイトル不明
第1267話 不用意な言葉と突きつけられる現実
ミーア達の献身的な介抱?によって、気持ちが落ち着いてきたライト。
今ラグナロッツァに起きている出来事を、ミーア達に話して聞かせていった。
三人はライトの話を静かに聞き入っていたが、事件の概要をほぼ話し終える頃には皆顔が青褪めていた。
『この国の首都で、そんなことが起こるなんて……』
『BCOのイベントって、そんな恐ろしいものまであるんですか……!?』
『一体どうしてそんな恐ろしいものが、大都市のど真ん中に出てきたんでしょう……』
眉間に皺を寄せながら、信じられない、といった様子で呟くミーア達。
ミーア達は皆BCO由来の出身だが、ミーアは転職神殿のNPC、ミーナとルディは使い魔であり、己が属するコンテンツ以外のことは全くと言っていい程分からない。
ましてやビースリーのような、ライト達 勇者候補生(ユーザー) が遊ぶためのバトル要素が強いコンテンツのことなど全く想像もできなかったのも無理はなかった。
そんな中、ミーナがとても心配そうな顔でライトに尋ねた。
『主様だけでも、どこか別の街に避難なさらないのですか?』
『そうですよ!パパ様だけでもどこかに逃げてください!何ならこの転職神殿に来てくれてもいいですし!』
『まぁ、それはいいわね!主様だけじゃなくて、主様の親御様代わりであるレオ兄ちゃん様?や、向こうでいっしょに過ごしておられる執事のラウル様、マキシ様もごいっしょにここに来てください!ミーアお姉様、いいですよね!?』
ミーナの問いかけに同意したルディの案に、ミーナが顔を綻ばせながら賛同する。
しかし、ミーナに許可を求められたミーアは困ったような顔をしている。
そしてライトの方も、彼女達の綻ぶ笑顔に反してその顔は浮かない。それどころか、力なく頭を横に振った。
「それは無理だよ。ぼくだけ他の場所に逃げるなんて、そんなことはできない」
『どうしてですか!? 主様だけでなく、主様の大事な方々もごいっしょに避難なさればいいじゃないですか!』
『そうですよ!もしこの転職神殿の存在がバレるのがお嫌ならば、他所の街に避難したっていいんですし!』
ミーナ達の避難案を否定するライトに、ミーナとルディが懸命に説得にかかる。
だが、ライトは頑として頷くことはなかった。
「ミーナもルディも、考えてみて。もしこの転職神殿が、何者かに襲われることが前もって分かったとして……転職神殿から外に出られないミーアさんを置き去りにして、ミーナ達だけで避難できる?」
『『ッ!!!』』
ライトの例え話に、ミーナとルディの顔がハッ!とする。
それは、先程までミーナ達がライトに言っていたことと同じだ。
そして我が身に喩えられることで、ようやくミーナ達は思い知る。自分達がライトに勧めていたことが、如何に無理難題で残酷な物言いであったかを。
ミーナとルディは、ハッ!とした顔のまま、ミーアの方に視線を向ける。
二人の視線に気づいたミーアは、少しだけ困ったような顔をしながら苦笑いを浮かべた。
『ミーアお姉様!ごめんなさい!私達、そんなつもりで言ったんじゃないんです!』
『僕達が考え無しで至らないばかりに、あんなことを言ってしまって……ミーア姉様、本当にごめんなさい!』
ミーナとルディが慌ててミーアの両脇に駆けつけ、必死に謝っている。
自分達が間違ったことを言ったがために、心無い言葉でミーアを傷つけてしまった!と思っているようだ。
自分より体格の良い弟妹に両脇を挟まれたミーア。フフフ、と小さく笑いながら弟妹達を宥める。
『ミーナ、ルディ、別に貴女達がそこまで謝ることはありませんよ。貴女達も、ライトさんのことが心配だからこそ避難してほしい、と言ったのでしょう?』
『はい。でも……主様にはそれができないということが、主様のお言葉でよく分かりました……私達だって、もし同じことがこの転職神殿で起きたら……ミーアお姉様を一人置いて、自分だけ逃げ出すなんて……そんなこと、絶対にできませんもの!』
『僕達は、本当に浅はかで愚かでした……その結果、パパ様を困らせただけでなく、ミーア姉様まで傷つけるなんて……本当にごめんなさい……』
左側のミーナ、右側のルディ、それぞれの頭や身体を優しく撫でるミーア。
ミーナ達が意図せず発した不用意な言葉に、ミーナは傷ついてなどいなかった。それは、ミーナ達がそれだけライトの身を心配しているからこその発言だったことを、ミーアもちゃんと理解していたからだ。
そんなミーアの優しさに、ミーナ達の悔恨はさらに深まる。
ミーナ達の瞳はあっという間に潤み、涙がポロポロと溢れ落ちる。
『あらあら、ミーナもルディも泣き虫さんですねぇ』
『ミーアお姉様、こんな不出来な妹でごべんなざいいいい』
『ミーア姉様のことは、僕が絶対にお守りしますぅぅぅぅ』
『『うわぁぁぁぁん!』』
種族も生まれも全く異なる姉弟達の、互いを思い遣るやり取り。
その温かさにライトは微笑みつつ、アイテムリュックからタオルを取り出してミーナとルディに渡す。
「ほら、ミーナもルディもこれで顔を拭いて。二人とも顔がぐしゃぐしゃだよ?」
『主様、ありがとうございばずぅぅぅぅ』
『パパ様のことも、僕が絶対にお守りしますぅぅぅぅ』
『『うわぁぁぁぁん!』』
ライトの優しさにも触れて、ミーナとルディの涙はなおも止まらない。
ミーナ達はライトからタオルを受け取り、涙や鼻水を拭きながら号泣するのであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
号泣していたミーナとルディの気持ちもだいぶ落ち着いた頃。
ライトはミーアに向かって話しかけた。
「あの、ミーアさん。ぼく、ミーアさんに一つお聞きしたいことがあるんですが……」
『はい、何でしょう?』
「ここ十年か二十年……いや、五十年くらいの間に、ぼく以外の勇者候補生と会ったことはありますか?」
ライトがミーアに聞きたかったこと、それは『自分以外の勇者候補生=BCOを知る転生者を知っているか?』ということだった。
このことは、今回の事件が起きる前から気になるところではあった。
しかし、改めてわざわざ聞くのも躊躇われたし、何よりライト自身がそれを聞くのが何となく怖かったのだ。
そんなライトの問いかけに、ミーアは考え込む素振りも見せずに即答した。
『いいえ、私がこの転職神殿に来てから今までの間―――ライトさん以外の勇者候補生様に出会ったことは、一度もございません』
「そうですか……やっぱりそうですよね……」
『はい……残念なことではありますが』
「はぁー……」
ミーアの答えに、ライトはがっくりと肩を落とす。
いや、ライトとてこの答えは十分に予想していたし、そう言われる覚悟もしていた。
もし他にも勇者候補生がいたら、かつてライトがそうしたように絶対に転職神殿を探し続けて、いずれはここを訪れているはずだからだ。
ライト達勇者候補生にとって、BCOを遊ぶ上で転職神殿は絶対に欠かせないシステムだ。
キャラクターをより強く育てるには、兎にも角にも六種類の職業=十二種類の四次職を極めなければならない。
職業を極めることで、勇者候補生達は様々なスキルを手に入れることができる。
物理攻撃に魔法攻撃、回復、能力強化のバフに敵能力低下のデバフ、これらを駆使することで特に戦闘場面において有利に事を運べるのである。
そしてもしライト以外のBCOユーザーがこの世界にいたら、ライトと同じようにまず転職神殿を探すはずだ。
転職神殿がなければ、もしマイページを使えたとしても職業は『ルーキー』、つまりは無職のまま。
無職の状態では六つの職業を選び就き、修めることができない。職業システムとは、転職神殿無くしては成り立たないのだ。
もちろん無職のままでも、このサイサクス世界独自のジョブシステムだけを用いて生きている勇者候補生がいるかもしれない。だがしかし、ライトにとってはそれこそあり得ない話だ。
一生一度きりのジョブシステムなどよりも、BCOの職業システムははるかに優秀だ。そしてこの職業システムを知る者が、ジョブシステムだけに甘んじて生きていくはずがない。
だからこそライトも、このサイサクス世界に生まれてここがBCOを模した異世界であることを知ってから、必死に転職神殿の在処を探した。
転職神殿はBCOではディーノ村にあることを思い出し、このサイサクス世界のディーノ村には旧教神殿跡地なるものが存在することを知り、それがライトが探し求めた転職神殿であることを突き止めて今に至る。
つまり、ライト以外にこの転職神殿を訪れる者がいないということは、それは即ちライト以外の勇者候補生は未だ存在しないということの証左でもあった。
多分自分以外の勇者候補生なんて、いないんだろうな……と薄々分かってはいても、こうして改めて厳しい現実を突きつけられるとライトの気持ちはまたも沈む。
もし自分以外の勇者候補生がいたら、まずその人にコヨルシャウキと対談してほしい、とライトは思っていた。
他力本願この上ない考えではあるが、ライトとしては自分が勇者候補生であるという事実は、できることなら今後も周囲に伏せたまま生きていきたい。そんな異質な力を持つことに、他者の理解が得られるとは到底思えないからだ。
しかし、そんな儚くも淡い期待は見事に打ち砕かれた。
そして今、ライトの大事な人達がいるラグナロッツァが滅亡の危機に瀕している。
その危機をもたらしている元凶であるコヨルシャウキは、勇者候補生を求めている。
これを拒み続ければ、コヨルシャウキは宣言通りビースリーを開始するだろう。
事ここに至っては、もはや自分の正体を隠し通すのは無理かもしれない―――少しづつではあるが、ライトはそういう覚悟をする他なかった。