軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1237話 いよいよ遠征

カタポレンの家の風呂で、人族二人と妖精と八咫烏と皇竜の賑やかな入浴の後。

三人と一羽と一頭はリビングでのんびりと寛いでいた。

リビングと言っても、ラグナロッツァの屋敷のような広々とした空間ではない。こじんまりとした部屋だが、手狭な分距離もより縮まるような気がしてライトは個人的に好きだったりする。

ライトがラーデの身体や羽をバスタオルで優しく拭う後ろで、レオニスがライトの濡れた髪の毛をバスタオルでワシャワシャと水気を拭き取ってから風魔法で乾かす。

ライト達の横では、八咫烏姿のマキシをラウルがバスタオルで包んで、同じくワシャワシャと水気を拭き取っている。

ラウルが翼の下にタオルを潜らせると、マキシが「うひゃひゃひゃ!ちょ、待、ラウル、やめてやめて、くすぐったいーーー!」と叫び、身を 捩(よじ) る。

軽く暴れるまん丸体型のマキシに、ラウルは「ちゃんと乾かさないと風邪引くぞ」と言いながらタオルドライを続行する。

翼の下ということは、人間で言えば脇の下をくすぐられるようなものと同じなのだろうか。

何とも賑やかな乾かし合いの後、風呂後のスイーツとしてラウル特製バニラアイスを皆で食べる。

季節は冬だが、風呂で温まった後のアイスはまた格別に美味しいものだ。

皆でバニラアイスを堪能していると、ここでレオニスがライト達に大事な話を切り出した。

「あ、そういや俺、来週の月曜日から数日の間遠征に出かけるからよろしくな」

「遠征? どこに行くの?」

「コルルカ高原奥地」

「あー、もしかして、アレ? 鷲獅子騎士団関連のお仕事?」

「そそそ、それそれ」

ライトの問いかけに、レオニスがバニラアイスをパクパクと食べながら相槌を打つ。

レオニスの言う遠征とは、コルルカ高原奥地に出向き『伝説の金鷲獅子を探して知己を得る』という任務を指している。

いわゆる『野良グリフォンと友達になろう!大作戦』であり、その決行がいよいよ近づいていることを意味していた。

「何日くらいお出かけするの?」

「そうだなぁ、一応往復で一週間は動けるよう予定を調整しとく、とは言っていたが」

「え、今回は誰か他の人もいっしょに行くの?」

「ああ。鷲獅子騎士団代表として、騎士団長のアルフォンソが同行することになってる」

「騎士団長さん自らが遠征するの!? すごい気合い入ってるんだねぇ」

鷲獅子騎士団の騎士団長とともに遠征すると聞き、ライトがびっくりしている。

この手の任務で組織のトップが自ら出てくることなど、普通ならあまり考えられないことなのだ。もし出るとしても、斥候役を数回派遣した後相手方の重鎮が出てくるような、交渉事における最終場面になってから出てきそうなものだ。

しかし、今回のケースは全く異なる。

鷲獅子騎士団員は漏れなく鷲獅子大好き人間の集団であり、鷲獅子の生息地コルルカ高原奥地は彼らにとって聖地にも等しい場所だ。

そんな場所に出かけられる任務となると、是が非でもその任務を担当したい!と思うのは当然のこと。そしてそれは、騎士団長であるアルフォンソも例外ではなかった。

「あいつら、鷲獅子が好き過ぎて誰がコルルカ高原奥地に行くかを決めるのに、そりゃもう大揉めに揉めたらしいからな」

「へー、そうなんだー。竜騎士団の人達みたいだねー」

「全くだ。俺はもうあいつらのことは『ドラゴンファンクラブ』とか『グリフォンファンクラブ』って呼ぶ方がいいと思うわ」

「アハハハハ、確かにね!」

半ば呆れ気味に呟くレオニスに、ライトが大笑いしながら頷く。

レオニスが聞いたところによると、コルルカ高原奥地行きの任務に関する会議でそれはもう壮絶な討論バトルが繰り広げられたらしい。

「鷲獅子の王に 見(まみ) えるのだ、レオニス卿とともに人族代表として出向くなら鷲獅子騎士団団長たる私の役目だ」

「団長、ズルい!そんなこと言って、実は金鷲獅子に会いたいだけなんでしょう!?」

「そうだそうだ!俺達だって、鷲獅子の聖地に行きたいですー!」

この任務には自分こそが最適!自分が行って当然!と主張するアルフォンソに、他の団員が一斉にブーイングを起こす。

実際団員達が言うように、アルフォンソも伝説にして憧れの金鷲獅子に会いたい思いが強かったりする。

もっとも、団員達の手前そんな素振りは決して見せないが。

そんな風に騎士団長を糾弾する中、誰かが別の案を出した。

「どうせなら、十騎くらいで行きません!?」

「馬鹿言え、そんな大集団で出向いてみろ、鷲獅子達から侵略者だと思われて警戒されるだろうが」

「しかし……レオニス卿と二人だけってのは、さすがに危ないのでは?」

「それは心配ない。ディランから『レオニス卿は正真正銘化物クラスの強さだ』と聞き及んでいるしな」

「ディラン卿……シュマルリの山中の修行で、一体何を見たんですかね……?」

確かにその案は、数いる騎士団員の中で一人しか選出されないことへの不満を解消する最善策に違いない。

だがそれは、他の誰かが窘めたように野生の鷲獅子達の警戒を強めかねない。

故に此度のコルルカ高原奥地遠征は必要最小限、レオニスと鷲獅子騎士団側の代表一人の計二名で赴くという話になったのだ。

そうして喧々諤々の議論が交わされた末に、やはり当初の予定通り二名での遠征、そして鷲獅子騎士団側の代表は騎士団長のアルフォンソということで決まった。

この会議の後、レオニスは様々な鷲獅子騎士団団員から「レオニス卿、是非とも遠征頑張ってくださいね!」「私達もいつか、コルルカ高原奥地に行けるよう精進します!」と、それはもう熱いエールを送られたという。

「伝説の金鷲獅子かぁ……いつかぼくも金鷲獅子に会いたいなぁ」

「ま、そのうちな」

「てゆか、どうせなら遠征に行く日を土曜日にしてくれたらいいのにー。そしたらぼくもついていけるのにさー」

「馬鹿言え、いくらお前の頼みでもそりゃ聞けんわ。お前にはラグーン学園があるし、何よりコルルカ高原奥地ってのは渓谷やら断崖やらたくさんあって、シュマルリ山脈と大差ないくらいには危険な場所なんだからよ」

「ちぇー。早く大きくなりたいなぁ」

レオニスに素気無くあしらわれて、ライトの頬がぷくー、と膨れていく。

実際のところ、遠征初日を土曜日にしようと思えばできないこともない。

だがしかし、敢えてそうせずに月曜日出立にしたのは、まさにライトのせいであった。

遠征のことを知れば、ライトは絶対に「ついていきたい!」と言うに違いない。レオニスにはその未来が手に取るように分かる。

だがそれも、平日の出立にしてしまえば問題ない。

伝家の宝刀『お前はラグーン学園に行かなきゃならないんだからダメ!』を遺憾なく発揮できるのだから。

己の幼さに悔しい思いをしているライトを他所に、レオニスはラウルとマキシに声をかける。

「ラウル、マキシ、そんな訳で俺は来週から遠征に出かけなきゃならん。俺が不在の間、ライトとラーデをよろしくな」

「おう、任せとけ。何なら晩飯は俺達がこっちに来て、ライトとラーデといっしょに食うことにしよう」

「そうだね、それがいいね。ラーデ君は向こうのお屋敷に連れていけないもんね」

「手間をかけさせてすまんな」

「いいってことよ」

「そうですよ!こんなの手間のうちにも入りませんから!」

ライト達のことを頼むレオニスに、ラウルもマキシも快く引き受ける。

そうしてカタポレンの森の夜は、静かに更けていった。