軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第123話 人化の術と着痩せ

学園の図書室でおまじないの本を見つけたライトは、その日の放課後に教室で一生懸命に八咫烏とフェンリルの項目の概要を書き写していた。

傍から見れば居残り勉強でもさせられているかのようだが、図書室の書籍は学園外に持ち出すことが一切禁止されているため、必然の作業である。

ライトが無言で懸命に本の内容を書き写していると、教室に誰かが入ってきた。1年A組担任のフレデリクである。

「あれ? ライト君、こんな遅くまで教室にいるなんて、どうしたんだい?」

「あ、フレデリク先生」

フレデリクから声をかけられるまで、ライトはフレデリクが教室に入ってきたこと自体気が付かなかったようだ。

それほど書き写しに集中していたのだろう、ライトがふと窓の外を見ると夕焼け空が目に飛び込んできた。

「一年生の下校時刻はもうとっくに過ぎてるよ。ライト君も早くおうちに帰りなさい」

「はーい」

ライトは書き写す手を止め、急ぎ下校の支度を始める。

おまじない本を机に仕舞おうとしたところで、フレデリクがライトの机の傍まで来た。

「ライト君、何をしていたんだい?」

「あ、えっと、図書室から借りてきた本の書き写しをしていました」

「そうなんだ。まぁねぇ、図書室の本は家に持って帰れないもんねぇ」

「はい、この本の中に参考にしたいことがあって、それを書き写してたんです」

ライトはフレデリクにおまじない本を見せる。

フレデリクはおまじない本を手に取り、パラパラと捲っていく。

「ふーん……ライト君、この中に書かれているおまじないを実践したいの?」

「はい。近々長旅に出る友達がいて、その友達のために何か御守とか作ってあげたいな、と思ってて……」

「そうなんだ。それはとっても良いことだね。その友達もきっと喜んでくれるだろうね」

「そうだといいんですが……」

フレデリクに褒められて、ちょっとだけ照れ臭そうにはにかむライト。

「それで、どんな御守を作る予定なの?」

「えーと、この『ヤタガラスの羽根で、幸運のお守りを作ろう!』っていうのと、『フェンリルの抜け毛で作る、開運厄除け腕輪』を作ろうと思ってます」

ライトはおまじない本の該当するページを捲り、フレデリクに見せながら教える。

「八咫烏にフェンリル……またすごいものを選んだね……素材は手に入るの?」

「はい、どちらも入手できるアテがあるので」

「……そんな簡単に入手できる代物じゃないと思うけどなぁ」

「そうですか? 八岐大蛇(ヤマタノオロチ) の抜け殻や 灰闘牙熊(グレイファング) の爪の垢とかに比べたら、よほどマシですよ? 青龍の鱗や人魚の涙なんて、もっとあり得ないし……」

ライトが作ろうとしているものの素材を聞き、フレデリクが若干ドン引きしている。

確かに八咫烏やフェンリルなどの神獣と呼ばれる類いの者達は、普通に暮らしていれば一生縁のない存在であろう。

だが、ライトは今もカタポレンの森に住み、世界一の冒険者と謳われるレオニスとともに暮らしているのだ。その住環境を思えば、八咫烏やフェンリルに会う機会はそこそこあって当然なのである。

「でもまぁ、ライト君ならレオニス卿に頼めば一通りのものは揃えられそうだよね」

フレデリクは、特に他意無くレオニスの名を出した。

だが、ライトにしてみればそれは非常に面白くない物言いである。

それはまるで、裏を返せば『レオニスに頼まなければ、ライト如き子供が自力でレア素材など入手できる訳がない』と言われているようなものだからだ。

普段はそういう部分も多分にあることは否めないし、ライトも否定するつもりはない。実際、ライトはレオニスに養ってもらっているのだから。

だが、今回の御守の件に関しては、レオニスの力だけに頼りきっておんぶにだっこするつもりはなかった。

「いいえ、今回の御守の素材はどちらもぼく自身が入手する予定です」

少しだけ頬を膨らませながら、フレデリクに反論するライト。

その言葉を聞き、今度はフレデリクが驚愕する。

「えっ、八咫烏の羽根とフェンリルの抜け毛をライト君自身が用意するの?」

「はい。八咫烏の羽根はうちの執事の友達の八咫烏に一本譲ってくれないかお願いする予定ですし、フェンリルの抜け毛はその末裔である銀碧狼で代用しようと思ってます。ぼくにも銀碧狼の友達がいますので」

「ライト君、八咫烏や銀碧狼の友達がいるの……すごいねぇ」

フレデリクは更にドン引きモードである。

「はい、今度の土日に銀碧狼の友達の住処を訪ねようと思ってます」

「そうなんだ、頑張ってね」

「はい!ではぼくももう帰宅します。先生、さようなら」

「さようなら。気をつけて帰宅するんだよ」

ライトはフレデリクにさようならの挨拶をして、教室を出ていった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

ラグナロッツァの屋敷に帰宅したライトは、制服を着替えてからマキシのいる寝室に向かった。

その目的はもちろん、羽根を譲ってもらえないか交渉するためである。

寝室の扉をノックしてから、部屋に入る。

するとそこには、ラウルと見知らぬ少年がいた。その少年は、マキシが寝ていたベッドに腰掛けている。

「ただいまー……って、ぼく、邪魔かな?」

「お、ライト、おかえりー。別に邪魔じゃないぞ? どうした?」

「いや、だって、その……知らない人がいるから……」

ライトがおずおずと言うと、ラウルと見知らぬ少年は顔を合わせてきょとんとしている。

そして、二人同時にライトの方に向いた。

「そうか、ライトはまだマキシの人化した姿は見たことなかったな。こいつはマキシだ」

「ライト君、僕、マキシです。この姿では初めまして、かな?」

「………………」

ライトは、開いた口が塞がらないどころか顎が外れる!というくらいに、目も口も大きく開かれている。

ライトが驚くのも無理はない。マキシと名乗ったその少年は、ほんのりと赤味がかった淡い薄桃色のような美肌なのだ。

しかしその髪はマキシの持つ八咫烏の羽そっくりの、いわゆる 濡烏(ぬれがらす) と言われる非常に艷やかで美しい黒色をしている。

その瞳の色も、八咫烏族が最も重視するという 深紫(こきむらさき) をしており、手の指先を見ると瞳と同じく爪が深紫だ。

これらのことを総合的に見るに、この少年がマキシであるというのは事実のようだ。

「うん……本当にマキシ君なんだね、あまりにも八咫烏の姿と違うから驚いちゃった。ジロジロ見ちゃってごめんね、すごく失礼だよね」

「ううん、そんなことないです。いつも皆に驚かれますから」

「だな、カラスは黒いから人化しても真っ黒のまま!とか思ってるやつが多いからな。かく言う俺もかつては同じこと考えてて、マキシの人化の姿を初めて見た時にはすんげー驚いたが」

マキシは慣れているのか気にしていない様子で、ラウルもライトを咎めることはなかった。

そういえば、前世でテレビだか動画か何かで見たカラスの皮膚は、鶏なんかと同じ鶏皮色だったな……とライトは前世の記憶を脳内サルベージする。

ちなみに身体つきの方は若干細めの中背で、立つとラウルの頭ひとつ分くらい小さく華奢に見える。

ラウルの身長は190cm弱のレオニスと大差ないくらいなので、マキシの身長は155〜160cmといったところか。

服も今まで見たことのない服を着ていた。身長的に誰の服も合わなさそうなので、おそらくどこかのお店で購入してきたのだろう。

「マキシ君って、人化の姿になるとかなり細めなんだね」

「うん、僕って昔から着痩せするタイプみたいなんですよね」

「……着、痩、せぇ……?」

そりゃまぁ確かに、八咫烏に限らず鳥類は羽根や羽毛をその身に纏ってはいるが、八咫烏時のマキシはそれはもうまんまるそのものである。

その姿は現代日本の公園に屯している餌付けされた鳩ですらスリムに思えるほどで、『マキシ君の八咫烏時の体型って、むっちりむちむちプリップリの球体型だったじゃん……』とライトは内心思っていた。

何しろマキシの言うのが本当に着痩せの一言で済むならば、エステやダイエットの詐欺レベルのビフォーアフター写真でもお咎め無しの無罪になること間違いなしであろう。

「ていうか、マキシ君は今初めて人化した訳じゃないの?」

「はい、カタポレンの森にいた頃にも人化の術は使えたんだけど、魔力量が少なかったから長時間保てなかったんです。できても一分も保たないくらいで」

「でも今は、フェネセンのおかげで本来の魔力を取り戻せたからな。人化の術を使っても何の問題もないか、今日一日ずっと人化の姿のまま試してたんだよな」

「うん。フェネセンさんのおかげで魔力量が増えたことにもだいぶ慣れてきたよ。もうすぐ足輪も全部取れるし」

マキシが自身の右手の指に嵌っている、ヒヒイロカネの足輪を眺めながら言った。

本来なら足首に嵌めているはずの足輪だが、人化の術を試す時にフェネセン監修のもと足輪を足趾の方に移動させてから行ったらしい。確かにそのままでは足首を締めつけるどころの騒ぎではないだろう、瞬時に千切れるレベルだ。

そこまで話を聞くうちに、フェネセンの名が出てきたことでライトは本来の訪問目的を思い出した。

「そういえばね、ぼく、マキシ君にお願いがあって今日ここに来たの」

「僕にお願い?何ですか?」

「実はね、八咫烏の羽根を一本欲しいの。わざわざ抜かなくてもいいから、自然に抜け落ちた羽根とか、ないかな?」

ライトは学園の図書室で見つけたおまじない本のことを、マキシとラウルに話す。

旅に出るフェネセンの御守を作ってあげたい。その目的を話すと、二人はニッコリと笑顔になりながらライトを見た。

「そういうことなら、是非とも協力させてください。僕の羽根で良ければいくらでも……って、全部毟られても困るけど」

「マキシが八咫烏の姿から人化する時に、羽根が抜けたりすることあるよな?」

「うん、今日の人化の時にも一本二本くらいは抜け落ちてるかも」

「よし、じゃあ俺が明日この部屋を掃除する際に探して、見つけたらとっておくわ」

マキシもラウルも、ライトのお願いに快く応じてくれた。

「本当?ラウル、ありがとう!マキシ君もありがとう!」

「どういたしまして。マキシを救ってくれたフェネセンへ贈る御守になるってんなら、俺達何でも協力するさ。な、マキシ?」

「うん、ラウルの言う通りだよ。僕、フェネセンさんには一生かかっても返しきれない恩があるもの」

「じゃあラウル、お掃除の時にマキシ君の羽根を見つけたら、よろしくね」

「了解。そうだ、ライト。今日の晩飯分作ってあるから、レオニスに届けてやってくれ」

「はーい。ラウルもいつもありがとうね」

ライトは安堵しつつ、カタポレンの家に帰るべくラウルとともに寝室を出た。