軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1217話 初めての果物と特別な思い出

ライトとレオニスが、アマロの披露宴に出席するために出かけた後。

ラウルはカタポレンの畑で、皇竜メシェ・イラーデ改めラーデとともに過ごしていた。

まずは林檎の実の収穫。

林檎の木の栽培に成功してから、ラウルは順調に本数を増やしていき今では二十本に増えた。

おかげで今は常に林檎が実り、毎日のように収穫できている。

ライト達が出かけた後も、林檎の収穫を続けるラウル。

高い位置にある、赤々とした艶やかな林檎を一つ一つ丁寧にもぎ取るラウル。その後ろでラーデがパタパタと飛びながら、ラウルの収穫作業を興味津々で見学している。

『この赤いものは何だ?』

「これは林檎という果物だ」

『果物とは、何ぞ?』

「定義は様々らしいが、主に樹木に成る実のことを総じて果物と呼ぶ。そのままでも美味しく食べられるし、ジュース……飲み物に加工したり加熱調理しても美味しいし、いろんな食べ方があるんだ」

ラーデの問いかけに、ラウルが収穫の手を止めずに作業しながら答える。

かつてラーデは神竜と呼ばれていた頃、天界に住んでいたという伝説がある。

実際にそうだったかは定かではないが、いずれにしてもラーデが果物やら野菜を食べていたことなど皆無だろう。

『一つの食物でいくつもの食べ方があるのか。実に興味深いな』

「後で食べてみるか?」

『是非とも』

「なら、これを持っててくれ」

『おおッ』

林檎を食べたいというラーデに、ラウルがこの日最も赤くて美味しそうな林檎をラーデにヒョイ、と渡した。

それは直径50cmはある巨大な林檎。今のラーデの身の丈とほぼ同じくらいの大きさだ。

それを落とさぬよう、必死に林檎を持ち続けるラーデ。その懸命な姿が何ともいじらしい。

今日穫れる分の林檎を一通り収穫したラウル。

ラウルから託された巨大林檎を抱っこするラーデを抱っこし、四阿に移動した。

空間魔法陣を開き、大きなまな板とミスリル包丁と二枚の皿を取り出して、四阿のテーブルの上に置く。

そしてまな板の上に林檎を乗せて、華麗なる包丁捌きで皮付きのままスパパパパ!と切り刻むラウル。その素早さたるや、目にも留まらぬ早業である。

食べやすいサイズにカットした林檎を二枚の皿に乗せて、そのうちの一枚を向かい側の椅子に座るラーデの前に置いた。

「さ、食べな」

『うむ、いただこう』

ラウルのOKをもらったラーデ、早速皿に乗せられた林檎を手に取りしばし眺める。

繁繁と眺めつつ、クンクン、と匂いを嗅いだりしているラーデ。

それが毒入りではない、絶対に安全な食べ物だと頭では分かってはいても、やはり初めて口にするには勇気が要るようだ。

そして散々林檎を眺めた後、意を決したようにパクッ!と齧りついた。

シャクシャク、という林檎を咀嚼する音とともに、口の中に林檎を含んだラーデの目がみるみるうちに大きく見開かれていく。

『……おお!これは美味だな!』

「だろう?」

『甘く芳しい水が溢れんばかりに出てくる!このように甘い水を食すのは、生まれて初めてだ!』

「気に入ったなら良かった。まだ林檎はたくさんあるから、好きなだけ食べな」

『うむ!』

ラウル特製のカタポレン産林檎、その美味さを甚く気に入った様子のラーデ。

目の前にある林檎をムシャムシャムシャムシャ!と一心不乱に食べ続けた。

そうしてあっという間に皿を空にしたかと思うと、ペカーッ☆と輝かんばかりの笑顔でラウルに声をかけた。

『おかわり!』

「おお、そんなに気に入ったか。そしたらこっちの皿のも全部食べていいぞ」

『む? それは其方の分の林檎ではないのか?』

「俺はまたいつでも食べられるからいいんだ。それより、この一皿だけで足りるか? 足りないならもっと林檎を切るぞ?」

『うーむ……ならばその言葉に甘えて、次のおかわりの分も用意しておいてもらいたい』

「はいよー」

存外食いしん坊のラーデに、ラウルもくつくつと笑いながら二個目の林檎を空間魔法陣から取り出す。

食いしん坊とは言えど、それでもラウルの分の林檎を心配するあたり、ラーデの心根の優しさが窺えるというものだ。

そしておかわりの林檎を無心に頬張るラーデに、ラーデのために三皿目のおかわりの用意をするラウル。

冬の冷たい朝の空気の中、穏やかな光景がそこにはあった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

朝食代わりの林檎をたらふく食べたラーデ。

巨大林檎三個分を食べたところで満腹になったようだ。

まん丸に膨れたお腹で、コロン、と四阿の長椅子に寝転がる姿は、とてもじゃないが皇竜だの神竜だのの神々しい存在とは到底思えない。

しかし、悠久の時を生きるラーデの長い竜生?の中で、こんな平和なひと時があってもいいだろう。

それは瞬き程の短い間だけだとしても、その一瞬の煌めきは花火にも負けぬ美しい思い出となってラーデの中にずっと残り続ける。

こんな長閑なひと時が、ずっと続けばいいな、とラウルは心の中で思う。

「さて、と……俺はまた畑に戻るが、ラーデはそこで好きなだけ休んでな」

『……うむ……』

只今絶賛食休み中のラーデに一声かけてから、ラウルは再び畑に戻る。

朝イチの林檎収穫を終えたら、次は新しい果物苗の手入れだ。

ラウルが林檎の次に植えたのは苺である。

ラウルが二つ目の果物に苺を選んだ理由は二つあり、一つは苺の旬が冬であるため。

もう一つは、苺の場合は種苗で育てて露地栽培が可能だから。樹木を育てるより敷居が低く、難易度的にもかなり容易だからである。

苺用に高めに立てた畝に、たくさんの大きな葉といくつかの実がついている。

ラウルが苺の栽培を開始したのは、今年に入ってからのこと。

毎日午前中に一回、エクスポーション入りの栄養豊富な水を惜しみなく与える。

それからラウルが植物魔法をかけるのだが、ラウルは朝昼夕の三回に渡ってかけ続けてきた。

その甲斐あって苺はぐんぐん育ち、花がたくさん咲いて実もぼちぼち大きく膨らみ色づき始めた。

今の時点で最も大きな実は、ラウルの手を広げた程の大きさになっている。

ここまで大きく育ったら、普通の人間なら一個食べただけで十分お腹が膨れそうだ。

ラウルは苺の実の色を見ながら、エクスポーション入りの水を苺の蔓にかけ続ける。

一粒一粒がここまで大きいと、一個だけでホールのタルトが作れそうだ。

しかし、赤いのが表面だけで中の白い部分が多くなると、苺のタルトらしくない見た目になるよなぁ……こういう時、どうすりゃいいんだろ?

赤い表面部分をタルトやケーキに用いて、芯に近い白い果肉部分はジュースとかジャムに回せばいいかな?

赤くない苺ジャムというのもおかしなもんだが、それはそれで面白いかもな。とりあえず一度そうしてみるか……

ラウルはそんなことをつらつらと考えながら、苺の水遣りを続けていく。

水遣りを一通り終えたら、後は苺に向けて植物魔法をかけるだけだ。

植物魔法と言っても、それは特別な呪文を唱える訳ではない。

ラウルがひたすら心の中で『苺よ苺、大きくなぁーれー、美味しく育てー、大ぉーきくなぁーれぇー!』と強くイメージしながら、畑の作物に向けて己の魔力を放出しているだけである。

そんなラウルの応援魔法?のおかげで、苺は今日もすくすく育っていく。

するとそこに、食後の一休みを経て復活したラーデが来た。

『これはまた、先程の樹木とは異なるものだな』

「ああ。こっちは苺といって、これもまた果物の一つだ」

『林檎とはまた違う味がするのか?』

「そりゃもちろん!苺もそのまま食べる他、ケーキやジャムにしたりジュースにもできるし、人族の間ではとても人気の高い果物なんだ」

『ほう、その苺なるものももう食べられるのか?』

ラーデが目をキラキラと輝かせながらラウルに問う。

その目の輝きは、苺という未知の果物に対する期待感の表れ。先程食べた林檎が余程美味しかったとみえる。

「いや、こっちの苺はまだ育て始めたばかりでな。見ての通り、実の色もまだ赤さが全然足りん。もうちょいっつーか、もっと赤くなってからでないと収穫はできん」

『そうなのか……それは残念だ』

苺もまたすぐに食べられると思っていたラーデ。まだ収穫できないと聞いて、途端にしょんぼりとしている。

そんなラーデに、ラウルが苦笑いしつつ慰めの言葉をかける。

「そんなしょんぼりするなって。実の大きさ自体はもう十分だし、あと三日もすれば真っ赤な実が成るさ。そしたらご主人様達といっしょに、皆で苺の試食会をしような」

『おお、三日待てばこの苺とやらを食べられるのだな!?』

「ああ、多分な」

ラウルの見立てを聞いたラーデの顔が、再び明るさを取り戻す。

皇竜メシェ・イラーデがこんなにも食に対して執着するとは、正直ラウルも予想外だった。

もっとも予想外だったのはラウルだけでなく、ラーデ自身もそうなのだが。

「さて、ではお次は焼却炉の方に行くぞ」

『焼却炉? 焼却炉とは何ぞ?』

「焼却炉ってのはな、物を焼くための炉のことだ。その炉を使って、先に砕いておいた貝殻や蟹、魚の骨なんかを焼いて肥料にして―――」

果物類の手入れを終えたら、今度は殻の焼却処理に向かうラウル。

殻類を焼くにはそれなりに時間がかかるので、カタポレンの畑に移動したら真っ先に焼却炉で殻類を焼き始める。

こうしておくことで、殻類を焼く間に林檎や野菜類の収穫を行うのがラウルの常なのである。

ラウルの事細かい丁寧な説明に、いちいち頷きながら聞き入るラーデ。

久しぶりに己の身体を取り戻したから、というだけではなく、初めて触れる人族及びラウルの習慣にラーデの好奇心は尽きないようだ。

その後もラーデはラウルにくっつき回り、ラウルの行動の逐一を見届けている。見るもの聞くもの全てがラーデにとっては新鮮で、新しい知識を得ることがとにかく楽しくて仕方がないらしい。

真剣な眼差しでラウルの教えに頷くラーデに、教えるラウルの方も自然と笑みが溢れる。

妖精(ラウル) と 皇竜(ラーデ) の距離がより縮まった、穏やかでのんびりとしたひと時であった。