軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第121話 旅立ちの宣言

コホン、と小さな咳払いをひとつしてから、フェネセンが再び口を開いた。

「えー、そんな訳で。先程も言うたように、吾輩これから世界中にばら撒かれているであろう【女帝】の仕掛けた罠―――穢れを探し出して、一つ残らず潰す旅に出なければならないの」

「奴等の魔力を集める手口が分かった以上、それらを徹底的に潰して回ることが廃都の魔城の真の根絶への一番の近道だからね」

「マキシんぐに仕掛けられた穢れを見れば分かるように、見つけること自体がかなり困難だし、それがこの全世界にいくつ仕掛けられているかも全く分かんないけど」

「それでも、吾輩は行かなきゃならない」

「それができるのは、この世界でただ一人。吾輩だけだから」

フェネセンは前を向きながら、力強く言った。

そんなフェネセンを、皆黙って見守るしかない。

だが、そんな中でライトだけは黙っていられなかった。

「フェネぴょん……行っちゃうの?」

「うん、行くよ」

「……どうしても?」

「うん、どうしても」

「その旅は……いつ終わるの?」

「ンー、それは分かんない」

言葉少なの問答を繰り返していくうちに、ライトの目がどんどん涙で潤んでいく。

「たまには、ここに帰ってきてくれる?」

「うん、吾輩転移門のあるところならいつでも飛んでこれるよ」

「それは知ってる……あの時は、本当に驚かされた……」

「ヒョエッ……その節は大変驚かせてごめんねぃ」

ライトとフェネセンの初対面の場面を思い出した二人。

ライトはシクシク泣いたままで、フェネセンは慌てながら改めてライトに謝る。

「月に一度は帰ってきてね?」

「ンー、それは約束できない、かなぁ」

「月一がダメなら、半年に一度くらいならいい?」

「それくらいならいいかなぁ……吾輩も幻の鉱山に行きたいし」

「それ以外にも、皆の誕生日には帰ってきてね?」

「誕生日?うん、それは吾輩もお祝いに参加しないとね!」

ライトのお願いに、フェネセンは明るい顔で答える。

「約束だよ?」

「うん、約束する」

「約束なんだから、破っちゃダメなんだからね?」

「大魔導師フェネセンの名にかけて、吾輩ライトきゅんとの約束を決して破らないと誓うよ」

「もし約束破って、帰ってきてくれなかったら……」

「たら??」

そーっとライトの顔を覗き込むフェネセンに、ライトはキッと睨むように眼力を込めて言い放つ。

「ぼく……フェネぴょんのこと、忘れちゃうからね?」

「!!!!!!!!!!」

ライトから放たれた衝撃の言葉に、迸る無数の雷に撃ち抜かれるフェネセン。

『好きの反対は、嫌いではなく無関心』とはよく言うが、確かにそれは言い得て妙だと思う。

無関心―――つまり忘れるというのは、相手の存在そのものを認めることなく記憶の中から抹殺する、ということに他ならない。

それは、嫌われるという嫌悪の感情を向けられるよりも、はるかに辛く厳しい仕打ちだ。

「ラ、ライトきゅんが、そんな冷たいことを言うなんて……」

「吾輩、立ち直れない……」

四つん這いになり、打ちひしがれるフェネセン。

項垂れるフェネセンの前に、ライトがしゃがみ込んで話しかける。

「それは、約束を破った時の話だから」

「フェネぴょんが、ぼくとの約束を守ってくれればいいだけの話だよ?」

「大魔導師フェネセンの名にかけて、約束は守るんでしょ?」

フェネセンは顔を上げて、シュタッ!と立ち上がる。

「もちろん!吾輩、嘘ついたことないからね!」

「……ホントにぃー?」

「うん、ホントホント!ね、レオぽん、吾輩そんな嘘ついたことないよねぇ?」

「……んー、多分、な?」

「え、多分とかレオぽんしどい」

突然話を振られたレオニス、適当な相槌を打つ。

適当な相槌を打たれたフェネセンは、その顔に『ガーン』と書かれたかの如くショックを受けている。

「……ま、フェネセンもこの通り、その名に誓って約束は守ると言ってるんだ。ライト、ここは気持ち良く送り出してやるのが 漢(おとこ) ってもんだぞ?」

「……うん、分かった……」

ライトは涙に濡れた己の顔をぐしぐしと拭いながら、改めてフェネセンの方を向いた。

「フェネぴょん、いつ旅に出るの?」

「少なくともマキシんぐの足輪を取り外し終えるまでは、吾輩が責任を持って監督するよ」

「それって、何日くらいかかるの?」

「そうだねぇ、本当はもう少しゆっくり進めてあげたいけど……吾輩もなるべく早く出立したいから、最初の5個は明日から一日おきに1個、残りの5個は1日1個のペースで外していこうと考えてるよ」

「じゃあ、今からだいたい二週間後くらい、なんだね」

「うん、そういうことになるかな」

ライトの質問に答えた後、フェネセンはラウルとマキシの方に顔を向ける。

「ラウルっち師匠、マキシんぐ、申し訳ないけどそういうことでいいかな」

「ああ、俺はそれで構わない。フェネセン、よろしく頼む」

「僕もそれで大丈夫です」

「ありがとう。特にマキシんぐにはちょっと負担かけるけど、恙無く完璧に完了させるからそこら辺は心配しないで吾輩に任せてね」

フェネセンとラウル、マキシの間での話は問題なく済んだようだ。

「俺達の誕生日には、帰ってきていっしょに祝ってくれるんだろう?」

「うん、ライトきゅんとそういう約束したからね」

「なら、その日はお前が食いきれないほどのご馳走を用意しといてやるよ」

「ホント?ラウルっち師匠のご馳走山盛り……うん、これは吾輩ますます這ってでも帰ってこなくちゃならないね!」

「そうだぞ、だから……忘れるな。皆がお前の帰りを、ここで待ってるってことをな」

「……うん……うん、吾輩絶対に忘れないからね!」

努めて明るく振る舞うフェネセンの目尻に、キラリと光るものがあった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

翌日から、フェネセンの告げた予定通りに足輪外しが進んでいった。

フェネセンは、日中はマキシのもとを何回も訪れて体調の様子を見たり、マキシの膨大な魔力に身体がより早く馴染むように魔力拡張のための魔力をマキシの体内に向けて流したりしている。

それ以外の時間は、ラウルから料理の指導を受けたり、レオニスの空間魔法陣研究に付き添ったり、連絡用の魔導具作成のためにアイギスに出かけたり。

フェネセンのみならず、皆が皆寸暇を惜しむように動き続けていた。

「……ねぇ、フェネぴょん。そういえば、その足輪はどうするの?また使う日のためにとっておくの?」

マキシの足から外した2個目の足輪を、魔力遮断の手袋を嵌めたフェネセンが指輪ケースにそっとしまう様子を、ライトはその横で眺めながら問うた。

「このヒヒイロカネの足輪?」

「うん。いつかまた使うの?」

「ンー。これさぁ、ヒヒイロカネって金属でできてるじゃん?」

「そうだね、それってものすごく稀少性高いんでしょ?」

「そう、『幻の金属』なんて言われるくらいには稀少だよ」

フェネセンは、一旦仕舞ったヒヒイロカネの足輪入りの指輪ケースの蓋を開けてライトに見せた。

そこには爛々と赤く輝くヒヒイロカネの足輪が入っている。

「この足輪一個で数百万G……いや、1000万Gは絶対に超えるね。素材の稀少性だけじゃなく、アイギスが製作したという付加価値もつくからね」

「ヒョエッ……」

フェネセンから聞かされたその驚愕の価値に、ライトは思わず息を呑む。

1000万G、日本円に換算すれば1億円相当だ。それが10個分ともなれば10億円にもなるのだから、ライトが驚くのも致し方ない。

「でさ、本当ならこの足輪の権利というか、所有者はレオぽんなんだよね。ヒヒイロカネを提供したのも、アイギスに製作依頼をしたのも、アイギスへ製作報酬を払ったのも、全部レオぽんだから」

「うん、そうだよねぇ」

「でもね。レオぽんがね、この足輪を全部吾輩にくれるって言うのよ」

「えっ、そうなの?」

レオニスが足輪を全てフェネセンに譲渡するとは、ライトも初耳だったので驚いた。

「うん。レオぽんがね、『この足輪には、高純度の魔力がこれでもかってほどに溜め込まれている。お前はもともと魔力食いで燃費も悪いんだから、万が一魔力不足に陥った時のために持っておけ。魔石を山ほど持ち歩くより、よほど使えるだろう』ってね、言ってくれたの」

フェネセンはその無尽蔵にも思える膨大な魔力量保持者のため、いくら食べても満腹にはならないという。

そんなフェネセンに、魔力がぎっしりと溜め込まれた足輪を持たせてやるのは、その使い道としては間違いなく最適と言えるだろう。

そして、Gでも億を超える価値を持つアイテムを、友のために惜しげもなくポンと譲るレオニス。

何とも剛毅で、仲間思いのレオニスらしい逸話だ。

「そうなんだ……レオ兄ちゃんらしいや。フェネぴょんも良かったね、絶対に旅の中で役に立つ時が来るよ」

「うん、そうだね。レオぽんの太っ腹さに吾輩感謝しなくちゃだよー」

フェネセンははにかみながら、再び足輪入りの指輪ケースをそっと閉じて、大事そうに自分の空間魔法陣にしまい込む。

そんなフェネセンの姿を見て、ライトは思う。

レオニスが足輪を譲ったように。ラウルが料理を教えるように。自分にも、これから旅立つフェネセンに対して、何かしてあげられることはないだろうか?と。

フェネセンが旅立つまで、あと僅か。

ライトは懸命に、自分にもできることを模索し続けていた。