軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1203話 皇竜からの報酬と労い、そして安堵

レオニスと皇竜メシェ・イラーデが無事友好の握手を交わした後。

メシェ・イラーデは改めてレオニスに話しかけた。

『其方、名をレオニスと申したか?』

「ああ、改めて名乗らせてもらおう。俺の名はレオニス・フィア、人族の国アクシーディア公国で冒険者をしている。俺のことは普通に『レオニス』と呼んでくれ」

『レオニス、か。良き名だな。我も今更だが、一応名乗っておこう。我はメシェ・イラーデ、他の者からは『皇竜』とも呼ばれている。これからしばらく其方の世話になるが、よろしく頼む』

「こちらこそ、至らぬところも多いと思うがよろしくな」

互いに軽く自己紹介を済ませた二人。

するとここで、メシェ・イラーデが右手に持っていた剣をレオニスに差し出した。

『これは、今の我が持つ唯一の宝『皇竜剣メシェ・イラーデ』だ。幼き我の養育費代わりと言っては何だが、我の身を助く者にこれを託したい。良ければ受け取ってくれるか』

「え"ッ!? ちょ、待、ぃゃぃゃ、それ、メシェ・イラーデにとってとても大事なものなんだろ? ただの人族の俺なんかが持っていていいのか?」

メシェ・イラーデが所持していた大剣『皇竜剣メシェ・イラーデ』を差し出されたレオニスが、慌てて固辞しようとする。

その大剣がどれ程の性能を持つものなのか、レオニスはさっぱり分からない。そしてそれは、レオニスどころか所持者であるメシェ・イラーデとBCO知識を持つライト以外の誰も知らない。

だが、皇竜メシェ・イラーデが直々に差し出す剣だ、間違ってもそんじょそこらで簡単に手に入るような代物とは訳が違うはずだ。

しかし、当のメシェ・イラーデは意に介する様子もなく、レオニスに向けて平然と言ってのける。

『そんなことを気にする必要などない。其方ならばこれを使いこなせるであろうし、もしこの剣が気に入らなければ其方の好きにしてよい。煮るなり焼くなり売り払うなり、其方の自由にするがよいぞ』

「ぃゃぃゃぃゃぃゃ、こんなとんでもない宝剣を煮たり焼いたり売っ払うなんて、そんな罰当たりなこと死んでもできねぇっての……」

『さあ、ほら、皆待ちくたびれてあくびをしておるぞ? 四の五の言わず、ちゃちゃっと我が名を冠する宝剣を受け取るがよい』

「ちゃちゃっと、って…………しゃあねぇなぁ、そこまで言うならありがたくもらうことにするか」

何気に押しの強いメシェ・イラーデの言い分に、レオニスは若干呆れつつも結局は折れてメシェ・イラーデから宝剣を受け取る。

ちなみにレオニス達の周りでは、メシェ・イラーデが言うようにあくびをしている者など一人もいない。

強いて言えば、二者の会話を近くで聞いていたラウルがメシェ・イラーデの戯言を真に受けて『あの剣、煮たり焼いたりできるのか?』などと壮絶に罰当たりなことを考えているくらいである。

調理用語である『煮る』『焼く』に敏感に反応するあたり、実にラウルらしい。

おそるおそる皇竜剣メシェ・イラーデを受け取り、柄を両手で握りながら剣を垂直に立てて剣に見入るレオニス。

赤と黒と金でできたその剣は、実際に手に持つと見た目の大きさに反してかなり軽く感じる。

そして赤、黒、金という色合いは邪皇竜や皇竜と同じだが、邪皇竜のような禍々しさは一切感じられない。むしろ皇竜と同じく神気とも呼べる神々しさに満ち満ちていた。

「……これに合う鞘を新しく作らなきゃな」

『とりあえず受け取ってもらえたようで、何よりだ』

「これは、俺以外の者が触れても大丈夫か?」

『特に害はないと思うが……魔力が少ない者には少々、いや、かなりキツく感じるやもしれんな』

「そうだな……この剣自体からかなり強烈な神気が感じられるもんな」

レオニスがふと尋ねた問いかけは、この皇竜剣メシェ・イラーデの取り扱いに関わることだった。

この手の神器には、所持者以外誰も触れてはならない、といった厳しい制約が付随することも多い。

皇竜剣メシェ・イラーデもその例に漏れず、もしレオニス以外に誰も触れられないような代物ならば、武器として使うことなく厳重に保管しなければならない。

しかし、メシェ・イラーデの話によれば、そこまで慎重に取り扱う必要がある剣ではなさそうだ。

その答えにレオニスが安堵していると、メシェ・イラーデがはたと何かを思い出したように付け加える。

『というか、今其方に尋ねられて思い出したのだが。その剣は我の分身にも等しい故、本来は確たる意思を持っている。ただし、今は我とともに本来の姿を取り戻したばかり故に、まだその意識は深いところで眠りについておるようだがな』

「意思を持つ剣、か……あんたといっしょに力を取り戻していけば、いずれは喋ったり会話できるようになるってことか?」

『おそらくはな』

「なら、その日を楽しみにしておこう」

メシェ・イラーデの話に、レオニスはフフッ、と笑いながら空間魔法陣を開き、早々に皇竜剣メシェ・イラーデを仕舞い込んだ。

皇竜剣が本当の意味で目覚めたら、所持者や所持者以外の者に対して何か文句を言い出したりするかもしれない。神器というものは、得てして気難しい性格を持つものだ。

他にも何か注意点などあるかもしれないが、それはこれからメシェ・イラーデに追々聞いていけばいいことである。

無事レオニスに皇竜剣を渡したメシェ・イラーデ。

ホッ、と安堵の表情を浮かべながら、今度は白銀の君に向かって声をかける。

『そこな白き竜の娘よ。其方が率いる竜達とともに、邪皇竜に立ち向かう姿は見事であった』

『はッ!もったいないお言葉にございます!』

メシェ・イラーデに声をかけられた白銀の君。

ハッ!とした顔で慌ててしゃんと背筋を伸ばし、恭しく頭を下げた。

さらにメシェ・イラーデは、白銀の君の横にいたディランにも続けて声をかける。

『そして、飛竜の背に乗り空を駆けし人の子よ。其方らもまた我と天空島のために尽力せしこと、誠に嬉しく思う。大儀であった』

『ははッ!ありがたきお言葉にございます!我ら竜騎士一同、天空島の方々のみならず皇竜様のお力にもなれたこと、生涯の誉れにございます!』

メシェ・イラーデからの直々の礼の言葉に、ディラン他全ての竜騎士達が相棒の飛竜とともに頭を垂れる。

それはまるで、帝王や国王に対して恭順の意を示すような姿。いや、ラグナ大公に対してでさえもここまで敬意を払うことはないだろう。

しかし、竜騎士達にとって皇竜メシェ・イラーデはまさに神にも等しい存在。

神から直々に言葉をかけてもらえたことに、皆感動に打ち震えていた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

『さて……皆に挨拶できたことだし。我は疲れた、そろそろ寝ることにしよう……』

「お、何だ、メシェ・イラーデ、疲れて眠たくなってきたんか?」

『ああ、何しろ久しぶりに肉体の支配権を取り戻したのでな……ふゎぁぁぁ……』

主だった者達との会話を済ませて、ほっと一安心したのかメシェ・イラーデが大きなあくびを連発している。

身体を取り戻したばかりで、しかも30cmになるかならないかの本当に小さな身体。きっとさぞや疲れているに違いない。

ふらふらーっ……とレオニスの前に進み出たかと思うと、ぽすん……とその胸に飛び込んだ。

「おっと!」

『……カタポレンの森、とやらを……楽しみに、して……おるぞ……』

「…………メシェ・イラーデ?」

『……(スヤァ)……』

「……何だ、もう寝ちまったのか」

突如飛び込んできたメシェ・イラーデを、レオニスが慌てて両手で抱っこしながら受け止めた。

そしてメシェ・イラーデの顔を覗き込むと、もう既に寝息を立てているではないか。

レオニスの腕の中で、すっかり力が抜けて寝てしまったメシェ・イラーデ。その寝顔は実に無防備で、何とも可愛らしい。

おとなしく寝てしまったメシェ・イラーデの寝顔を、ライトやラウル、ピースに雷の女王も含めた三人の属性の女王、そしてレオニスの頭上からは白銀の君やディラン達竜騎士までもが挙って覗き込んでいる。

「ぉぉぉ……すっごく可愛いねぇ……」

「ああ……中身は皇竜なんてすげーもんなのにな」

「こうして見てると、可愛らしいちびっこドラゴンだよねぇー」

「ぉぃ、お前ら……あんまり突つき過ぎて起こすなよ?」

レオニスに抱っこされて、安心しきった顔で寝ているメシェ・イラーデの頬を、ライトやラウル、ピースがそっと突っついている。

小さなドラゴンのほっぺたは、ひんやりかつぷにぷにとしていて柔らかい。その心地良い感触は、いつまででもぷにぷにし続けていられそうだ。

そんなライト達の様子を見て、三人の女王達はクスクスと笑う。

『クックック……あの者達にかかれば、メシェ・イラーデとてただの仔ドラゴンよな』

『全くです……しかし、あの者達の豪胆さこそが、此度私達天空島の危機を救ってくれました』

『本当よね……ていうか、私もメシェ・イラーデ様のほっぺたをぷにぷにしたーい!』

皇竜を皇竜とも思わぬライト達の平然とした態度に、三人の女王は笑ったり呆れたり羨んだり。それぞれ違う反応をしている。

そんな彼女達の後ろで、白銀の君があまりの畏れ多さにプルプルと 戦慄(わなな) いているような気がするが。多分気のせいだろう。キニシナイ!

今宵新たにこのサイサクス世界に降臨した皇竜メシェ・イラーデ。新たな世話役レオニスの腕の中で、ふにゃふにゃと寝入る様はとてもそれが皇竜とは思えない。

皇竜が本来の威風堂々と姿を取り戻せるのは、果たしていつの日か。

それがいつになるかはまだ誰にも分からないが、力になれることがあれば何でもしてあげよう―――この場にいた誰もにそう思わせる、無防備で安らかな寝顔だった。