軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1174話 敬う心と確かな絆

シャーリィの旅立ちを見送ったライト達。

レオニスはそのまま二階の自室に上がり、昼まで寝ていた。

ライトは朝の修行兼魔石回収のルーティンワーク、ラウルはカタポレンの畑の収穫と手入れをした後、皆でユグドラツィのもとを訪ねることになった。

神樹襲撃事件の後、昨年八月下旬と十月半ばにフギンとレイヴンがユグドラツィのもとを訪れている。そしてその驚異的な回復ぶりを、ウルスとケリオンも話に聞いてはいた。

だが、せっかく人里見学で近くまで来たのだ。どうせならウルスもケリオンもユグドラツィに直接会って、その無事を直に確認したいというもの。

レオニスが仮眠を取っている数時間の寸暇、その間にユグドラツィに会いに行こう!となったのだ。

そうしてライトとラウル、マキシとウルスとケリオンがユグドラツィのもとを訪ねた。

冬の凛とした冷たい空気の中、ユグドラツィは以前にも増して豊かな緑の葉を生い茂らせ、威風堂々とした佇まいでそこに立っている。

あの襲撃事件から半年弱が経過し、事件の傷跡はほとんど感じられない。強いて言えば、ユグドラツィが立つ周辺の平地がかなり広がったくらいか。

「ツィちゃん、こんにちは!」

「よう、ツィちゃん。元気にしてたか?」

「お久しぶりです、ツィちゃん!」

『皆、よく来てくれました』

ライトにラウル、そしてマキシが嬉しそうにユグドラツィと挨拶を交わす。

その横で、ウルスとケリオンが無言のまま感慨の面持ちでユグドラツィを見上げていた。

ウルスとケリオンは、ユグドラツィと初めて会ったのがあの半年前の襲撃事件の時だった。その時のユグドラツィの無惨な姿を思うと、今でも八咫烏達の胸は痛む。

しかし今二羽の前に立つユグドラツィは、八咫烏達が守る大神樹ユグドラシアに負けぬ程の豊かな枝葉を誇っている。

その誇らしげな隆盛を目の当たりにし、ウルスとケリオンの眦にうっすらと涙が滲む。

感極まって言葉も出てこない二羽に、ユグドラツィの方から声をかけた。

「「…………」」

『ウルス、ケリオン、初めまして、こんにちは。貴方方ときちんと言葉を交わすのはこれが初めてのことですね』

「おお、我らの名をご存知で!?」

『もちろん。シア姉様から、貴方方二羽が人里見学に出たと聞いていましたからね』

「そうでしたか……」

自分達とユグドラツィは初対面なのに、名を知っていたことに驚きを隠せないウルスとケリオン。

その理由は、ユグドラシアから彼らの人里見学出立を先に聞いていたからだ、と聞けば納得である。

そしてユグドラツィから声をかけられたことで、何とか我に返ったウルスとケリオン。

慌てて跪きながら、自己紹介を始めた。

「ご挨拶が遅れて申し訳ございません。私は大神樹シア様をお守りする八咫烏一族族長、ウルスと申します」

「私は族長ウルスが次男、ケリオンと申します。ユグドラツィ様におきましては、ご健勝」

『ツィちゃん』

「「うぐッ」」

きちんとした名乗りを上げる最中、今日もユグドラツィの名称に関するダメ出しが炸裂する。

この手のダメ出しは、ユグドラツィだけでなくユグドラシアからも食らっている。故に二羽とも『あ、これは抵抗したところで無駄なヤツだ』と早々に悟る。

敬愛する神樹、その似た者姉妹ぶりにウルス達は早くも白旗を上げた。

「で、では、せめてシア様と同じく『ツィ様』とお呼びさせていただきたく……」

『ふむ……シア姉様とお揃いの呼び方、ですか。それもまた良いですね』

「ハハハハ……シア様とツィ様、姉妹だけによく似ていらっしゃいますな」

『そうですか? 我が敬愛するシア姉様と私が似ているなんて……フフフ、嬉しいことを言ってくれますね』

ユグドラツィの機嫌を損ねることなく、むしろ上機嫌にさせつつ妥協点のツィ様呼びの許可を得られたことに安堵するウルス。

さすがは八咫烏一族を束ねる族長を務めるだけのことはある。

「このウルス、兎にも角にもツィ様のお元気そうなお姿を拝見することができて、本当に……本当に安堵いたしました」

「私共も、先にツィ様にお会いできたフギン兄様やレイヴンから『ツィ様は、それはもう壮健でおられた』と聞いていましたが……冬にあっても瑞々しい緑葉を湛えておられるお姿に、心より感動しております」

『ウルス、ケリオン……貴方方が皆とともに私の生命を救ってくれたこと、生涯忘れません。本当にありがとう』

ユグドラツィの無事を心から喜ぶウルスとケリオンに、ユグドラツィもまた心から礼を言う。

そこにはただ神樹を敬うだけでなく、壮絶な戦いを生き抜いた者同士の確かな絆があった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

その後ウルスとケリオンは、フギンとレイヴンがしていたように海樹の枝を用いた結界を見学したり、ユグドラツィの根元でライト達とお茶会を楽しんだりした。

見る物全てが斬新で、八咫烏の里にはないものばかり。

お茶会で出された一口ドーナツを啄みながら、ウルスとケリオンが心底ため息を漏らす。

「本当に、里の外には我らの知らないものが溢れているな……」

「ええ……物質的な物だけでなく、人里における様々な知恵や知識には驚かされることばかりです」

「あの海樹の結界というのも、ナヌスという小人族が作るものなのだとか。海樹の枝が放つ魔力はもとより、結界に用いる駒の一つ一つに刻まれた緻密な魔法陣が素晴らしい出来栄えだ」

「あれと同じものを我が里でも運用できるよう、レオニス殿が手配してくれているのですよね。実にありがたいことです……」

特に海樹の枝を用いた結界に、甚く感銘を受けたウルスとケリオン。

この素晴らしい結界術に比べたら、八咫烏の里の結界など児戯以下の塵芥に思えてくる。

だが、その海樹の結界を八咫烏の里にも作る予定となっている。

その手配は主にレオニスとラウルが担当している。

アイギスのセイに海樹の枝を均一サイズの駒に切り出してもらった後、レオニスもしくはラウルが暇を見てはナヌスの里に駒を持ち込んで魔法陣を刻んでもらい、後日また駒を持ち込みついでに完成品を回収する。この繰り返しを今行っている真っ最中である。

そしてこの結界用の駒を百個は用意しなければならないので、十月半ばから始まった計画だが未だ全個数を揃えられていない。

しかし、このまま順調にいけば三月頃には八咫烏の里にも海樹の枝の結界を作ることができるだろう。

ウルスもケリオンも、今からそれを心待ちにしていた。

そしてラウルはラウルで、ユグドラツィからお小言をもらっていた。

それは、先日の炎の洞窟での一件である。

ユグドラツィは、ライトが用意したブレンド水『ツェリザークの雪解け水 with 濃縮コズミックエーテル』五杯をラウルにかけてもらいながら、ブツブツと呟く。

『全くもう……あまり無茶はしないでくださいね? 見ている私の方まで寿命が縮む思いがしましたよ』

「そりゃすまん。ツィちゃん達にまで心配をかけてしまったな。でもあれは、俺が力を得るためにどうしても必要なことだったんだ」

『もちろんそれも、分かってはいますけど……』

木属性が強い妖精が、炎の洞窟に突入する―――どう見ても自殺行為としか思えないラウルの無謀な行動に、ユグドラツィがお小言を言いたくなるのもよく分かる。

だからこそラウルも素直に謝るのだが、その素直さにユグドラツィの毒気が抜かれて怒る気も失せてしまう。

「あの時、ツィちゃん達も俺に力を貸してくれてたよな。本当にありがとう。ツィちゃんや皆のおかげで、俺はまた大事なものを守る力を得ることができた」

『貴方の役に立てたなら、これ程嬉しいことはありません……新たに得たその力で、貴方の大事な者達を守ってくださいね?』

「もちろんだ。その中にはちゃんとツィちゃんも入ってるから、安心してくれ」

『ッ!!!』

シレッと宣うラウルに、ユグドラツィの枝葉が一瞬大きくザワッ!と揺れ動く。

ラウルが生命を賭してまで得た力で、守りたい大事なもの。その中にユグドラツィも入っているから大丈夫、心配するな―――こんなことをサラッと言われたら、ユグドラツィが動揺しまくるのも無理はない。

ユグドラツィの『~~~~ッ』という、声にならないざわめき。

ライトとマキシは内心で『あー、ツィちゃんが照れてるー』と思いながら見守っているが、もちろんラウルはそんなことに気づくことはない。

徐にポケットから懐中時計を出し、時刻を確認したラウルが椅子から立ち上がる。

「……さ、そろそろ昼の十二時になるし、大きなご主人様もぼちぼち起きる頃だから帰るか」

「そうだね、向こうでお昼ご飯食べてから出かけるもんね!」

「パレードを良い位置で見るには、屋台回りを早めに済ませなきゃですもんね!」

帰宅を宣言したラウルの言葉に、ライトとマキシも頷きながら同意する。

そして三人で食器類やテーブル、椅子を片付けて帰り支度を始めた。

テキパキと片付けを終えて、ライト達が改めて横一列に並びユグドラツィを見上げる。

「ツィちゃん、また来ますね!」

「ツィちゃんのために、またツェリザークの雪や氷もたくさん採っておくからな」

「さようなら、ツィちゃん!」

「ツィ様、またいつの日かお会いしましょう」

「我ら八咫烏一同、心よりその日を楽しみにしております」

『皆、いつもありがとう。レオニスにもよろしくお伝えくださいね』

明るい笑顔で別れの挨拶を告げるライト達に、ユグドラツィも軽やかな声で応える。

そうしてライト達はユグドラツィのもとを去り、カタポレンの家からラグナロッツァの屋敷に戻っていった。