軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1173話 シャーリィの旅立ち

皆でレインボースライムショーを存分に楽しんだその日の夜。

ラグナロッツァの屋敷では、一際豪勢な晩御飯が用意されていた。

何故なら明日の朝、シャーリィが『暁紅の明星』のもとに帰るからである。

タコ焼きやお好み焼きなどのお祭りフードとともに、火山蜥蜴の唐揚げやジャイアントホタテの刺身、ペリュトンのミートソースラザニア、カタポレンの畑で採れたトウモロコシのコーンスープ等々、ここでしか食べられない超豪華なメニューがテーブルの上にずらりと並ぶ。

それを見るシャーリィの目はキラキラと輝きつつも、ハッ!と我に返りラウルをキッ!と睨みつける。

「ラウル、貴方ね……まだ私を太らせるつもり?」

「おう、そのつもりだぞ」

「何ですってぇー?」

体型維持を気にしなければならないシャーリィに、こんな高カロリーな食事を出すなんて一歩間違えなくても嫌がらせにしか思えない行為だ。

シャーリィも暗にそれを咎めたのだが、ラウルはニヤリ……と口角を上げて笑う。

その不敵な笑みに、シャーリィのこめかみにピキピキと青筋が浮き出る。

しかしラウルは、そんなシャーリィの怒りなどどこ吹く風で朗らかに宣う。

「考えてもみろ、シャーリィ。お前が俺様特製の晩飯を食えるのは、今日までだぞ?」

「うぐッ……そ、それは……そうだけどぉー……」

「つーか、もともとお前はダイエットだの節制だのは得意な方だろ。だったら節制は明日からすればいい 」

「うぐぐ……」

「それに、明日はパレードの本番があるじゃねぇか。本番前はしっかり食べて、そして本番でガンガン動いてエネルギー消費すりゃいいさ」

「…………そうね」

ラウルの悪魔の如き囁きに、最初のうちこそ抵抗していたシャーリィ。

だがその誘惑は、実に魅惑的かつ強烈なものだった。

シャーリィの頭はだんだんと項垂れていき、最終的には頷いている。

そしてガバッ!と顔を上げたと思うと、右手にナイフ、左手にフォークを持って垂直に立てた。

「よーし!そうと決まったら、今夜は食べまくるわよ!ラウル、たくさんおかわりしちゃうからね、覚悟なさい!」

「おう、望むところだ。おかわりならいくらでも出してやるぞ」

「言ったわね!? 貴方のお料理のストックを全部食べてやるー!」

「やれるもんならやってみろwww」

「ええ、やってやるわよ!見てらっしゃい!いッただッきまーーーす!」

ラウルの挑発にまんまと乗ったシャーリィ。そんな奸計など打ち破ってやる!とばかりに、目の前のごちそうをバクバクと食べ始めた。

それでも食べ始める前に、ちゃんといただきますの挨拶をするあたりが何とも律儀で可愛らしい。

なるべくたくさん食べて、ラウルの懐を痛めつけてやる!と思いながらごちそうを食べているはずなのに、火山蜥蜴の唐揚げを一口食べては「何これ、 美味(うま) ッ!」と叫び、ペリュトン肉のラザニアを一口食べては「やーん、何でこんなに美味しいのッ!?」とほっぺたを押さえ、カタポレン産トウモロコシのコーンスープを飲んでは「あァン、トウモロコシの甘みが全身に染み渡るぅー……」と嘆息を漏らすシャーリィ。

全身全霊全力でラウルの料理の美味しさを堪能するその姿に、ラウルはもちろんライトやマキシ達もほっこりしながら温かく見守っていた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

晩御飯を存分に食べ、フォルやマキシ達八咫烏とともにお風呂にも入り、後は寝るだけとなったシャーリィ。

風呂上がりにラウルにおねだりして、客間で髪の毛を風魔法で乾かしてもらっている。

シャーリィは一人用の椅子に座り、その後ろにラウルが立ちシャーリィの濡れた頭を包み込み、風魔法で温風を送る。

ラウルの大きな手のひらと、そこから生み出される風魔法―――熱くない程度の柔らかな温風に、シャーリィがうっとりとしている。

「はぁー、お風呂もすっごく広くて気持ち良かったけど……ラウル、貴方の風魔法はもっと温かくて気持ちいいわぁ……」

「そうか、そりゃ良かった」

「貴方を私の専属マネージャーとして、『暁紅の明星』に連れて帰りたいくらいよ」

「他の奴が聞いたら、それはとても光栄なことなんだろうな」

「フフフ、ラウルもよく分かってるじゃない♪」

シャーリィは目を閉じながら、後ろにいるラウルを口説き始める。

その口調は軽やかで、どこまでがジョークでどこまで本気か分からない。

だが、本気でも冗談でもラウルには関係ない。彼が出す答えはただ一つのみ。

「俺がその誘いに頷く訳がないことも、お前には分かってるだろ?」

「ええ、分かってるわ。でもこの世には、例え結果が分かっていても挑みたくなる時があるでしょう? 私にとっては、今がその時なのよ」

「そうか……お前の期待に応えてやることはできんが、お前がまたラグナロッツァに来てこの屋敷を訪ねてきた時には、大きなご主人様の許可を得て美味い飯と温かい布団でもてなしてやろう」

「期待してるわね」

二人で和やかに会話をしているうちに、シャーリィの艶やかな黒髪も乾きさらさらの美しい巻き毛になったところで、ラウルが風魔法を止める。

そしてシャーリィが椅子から立ち上がり、くるり、とラウルの方に身体を向き直した。

「じゃ、私はそろそろ寝るわね。今日はフォルちゃんとマキシ君とウルス君、ケリオン君といっしょのベッドで寝る約束をしてるの」

「マキシやフォルはともかく、ウルスとケリオンはもうベッドでぐっすり寝てるんじゃないか?」

「かもしれないわね。でもいいの、綺麗可愛いもふもふ達といっしょに寝れるだけで幸せだから」

ウキウキな様子でもふもふ達と寝る約束を交わしたことを語るシャーリィ。

シャーリィが所属する『暁紅の明星』にも、もふもふがいない訳ではない。大きな狼型の従魔を複数、旅路の護衛のために飼っているという。

だがその従魔は、シャーリィ個人が所有している訳ではないのでいっしょに寝るなどはしないらしい。

故に今日フォルやマキシ達といっしょに寝るのは、シャーリィにとってものすごく楽しみなことなのだ。

するとここで、シャーリィが『閃いた☆』という顔をしながらラウルに声をかけた。

「あ、そしたら今日はラウルもいっしょのベッドで寝る? 私が使わせてもらっている客間のベッド、あれキングサイズよりもさらに一回り大きいから皆で雑魚寝できるわよ?」

「いや、遠慮しとく。シャーリィ、お前プーリアの里にいた頃すげー寝相悪かっただろ」

「あらヤダ、そんな昔のことをまだ覚えてたの? ていうか、今はそんなに寝相悪くないわよ?」

シャーリィがもふもふ達との雑魚寝にラウルも誘うも、素気無く断られたことにぷくー!と頬を膨らませてむくれている。

ちなみにラウルが言っていたことは正真正銘真実で、他のプーリアやフォレット達も『シャーリィの寝相の悪さはプーリア 一(イチ) !』と口を揃えて言うくらいには里内で有名な話である。

プンスコと怒るシャーリィに、ラウルは『仕方ないヤツだ』という顔をしながら宥めにかかる。

「つーか、せっかくお前が楽しみにしているもふもふの楽園を、もふもふじゃない俺が邪魔しちゃ悪いだろう?」

「ンー、それもそうねぇ……貴方はいつでもフォルちゃんやマキシ君といっしょに寝ることができるものね」

「……(マキシ達といっしょに寝たことなんて一度もねぇけどな)……」

ラウルの言葉に、シャーリィが口元に手を当てながらうんうん、と頷いている。

一方のラウルはスーン……とした顔で無言を貫いている。

確かにシャーリィの言う通り、皆でいっしょに寝ようと思えばできないこともない。だが、ラウル自身にその気は全くない。

「じゃあラウルのお言葉に甘えて、今日のフォルちゃんとマキシ君達は私が独り占めしちゃうわね!」

「おう、いくらでも独り占めしてくれ。今晩一晩くらいなら、フォルもマキシも受け入れてくれるだろ」

「そうと決まれば早いとこ寝室に行かなくちゃ!おやすみー!また明日ねー!」

「おやすみー」

にこやかな笑顔と軽やかな足取りで、客間を出ていくシャーリィ。

喜怒哀楽がコロコロと変わるその姿は、ラウル同様プーリアとは思えない感情の豊かさだ。

ったく……俺もプーリアの里では変わり者と散々言われ続けてきたが、今のシャーリィの方が余程変わり者だよな!

でも……あいつも人里に出てから変わったんだろうな。あいつが人里で得たものは、きっと俺よりもたくさんなんだろう……

人里でも人気者のあいつに、俺がしてやれることは少ないが―――あいつがこの先もずっと、楽しく幸せに過ごしていけることを祈ろう……

シャーリィが出ていった後の閑散とした客間で、一人佇むラウル。

森の外で会える唯一の同胞の未来に幸あれ、とただ願うばかりであった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

そうしてアクシーディア公国生誕祭三日目の朝を迎えた。

シャーリィは夜明けとほぼ同時に起き、まだベッドの中で寝ているフォルやマキシ達を起こさぬようそっとベッドから出る。

ちなみに昨夜のシャーリィは裸族ではなく、公国生誕祭初日に露店で購入したラフな上下服を寝間着代わりにして寝ていた。

寝間着を脱ぎ、もとから着ていたアラビアン・プリンセス衣装を身にまとう。

艶やかな黒髪を手櫛でササッと整え、ティアラを頭に被せてウエストポーチを腰に着ければ準備万端だ。

身支度を整えたシャーリィは、階段を下りて一階に向かう。

そして食堂に行くと、そこにはライトとラウルがいた。

「あ、シャルさん、おはようございますー」

「おはよう、シャーリィ」

「ライト君、ラウル、おはよう。ラウルはともかく、ライト君も起きてたの? すごい早起きねぇ」

「今日はレオ兄ちゃんが仕事を終えて、朝イチで帰ってくるので。ぼくもちゃんとレオ兄ちゃんを出迎えたいんです」

「ああ、そうなのね。それなら納得だわ」

ラウルだけでなくライトまで早起きしていることに、一瞬だけ驚いたシャーリィ。だがその理由を聞けば、納得するというものだ。

そしてシャーリィがふと視線を移すと、テーブルの上には三人分の朝食が用意されている。

これはライトとラウル、そしてシャーリィの分の朝食だということがすぐに分かる。

シャーリィは食事が用意されている空き席に座りながら、ラウルに問うた。

「大きなご主人様の朝食は用意しなくていいの?」

「夜勤明けで帰ってくるからな。すぐに上の部屋で昼まで寝るから、朝食は要らないんだ」

「ああ、そうなの……高位の冒険者のお仕事ってのも、なかなかに大変なものなのねぇ」

レオニスの朝食の心配をしたシャーリィだったが、その気遣いは不要と聞きレオニスの仕事の大変さに思いを寄せる。

そして三人は朝食を食べ始めた。

「はぁー……こうしてラウルの食事が食べられるのも、これで終わりなのねぇ……」

「別にこれで終わりじゃないさ。また来年の公国生誕祭の時にも……いや、別に公国生誕祭じゃなくても構わん。ラグナロッツァに来た時にまたここに立ち寄れば、いくらでも美味い飯を食わせてやる。昨夜も約束しただろ?」

「!!……そうね、公国生誕祭以外でも遊びに寄らせてもらうわね」

しんみりとしながら最後の食事を惜しむシャーリィに、ラウルが事も無げにシャーリィの来訪に歓迎の意を示す。

本当に取り付く島もなかった去年に比べたら、ラウルのシャーリィに対する態度はかなり軟化していた。

そんなラウルの変化に、シャーリィも嬉しそうにはにかむ。

そうして三人は朝食を取り終えて、玄関ホールに向かう。

するとそこに、冒険者ギルドでの勤めを終えたレオニスが帰ってきた。

玄関の扉が開き、屋敷の中に入ってきたレオニスとライト達三人が鉢合わせる。

「ただいまー…………って、お? 何だ、三人してどうした?」

「あ、レオ兄ちゃん、おかえり!ちょうど今シャルさんが帰るところで、お見送りしようとしてたところなんだ」

「ご主人様、おかえり」

「レオニスさん、お仕事お疲れさま!」

玄関を開けたら人がいたことにびっくりするレオニスに、ライト達がそれぞれ説明しながら労いの言葉をかける。

「そうか、シャルは今帰るところだったのか。帰る前に会えて良かったよ。昨日と一昨日の二日間、楽しめたか?」

「ええ!おかげさまで、それはもう楽しい二日間を過ごさせていただいたわ!本当にありがとう!」

「そりゃ良かった」

レオニスの問いかけに、とびきりの笑顔で答えるシャーリィ。

彼女の輝かんばかりの笑顔に嘘偽りないことがレオニスにも伝わり、レオニスも嬉しそうに微笑む。

そしてシャーリィの方も、最後の最後にレオニスと会えたことに満足したのか、そのままラウルの方に身体を向き直し声をかける。

「家主様にもちゃんとご挨拶できたことだし、私もそろそろ行くわね」

「ああ。シャーリィも達者でな」

「シャルさん、さようなら!またお会いできる日を楽しみにしています!」

「小さなご主人様も、本当にありがとうね。皆で行ったいろんなお店やレインボースライムショーもすっごく楽しかったわ。また来年、皆でいっしょに行きましょうね」

「はい!」

ライトとシャーリィが再会の約束を交わす中、ラウルがふと思い出したように空間魔法陣を開く。

そして空間魔法陣から二個の箱を取り出して、そのままシャーリィに差し出した。

「ほら、シャーリィ、これを持っていけ」

「ン? これは何?」

「俺が作ったアップルパイだ。一つはお前が世話になっている『暁紅の明星』の皆への差し入れ。そしてもう一つはシャーリィ、お前用だ」

「……二つももらっちゃっていいの?」

「ああ。アイテムバッグ持ちなら長期保存可能だからな」

「……ありがとう!」

ラウルの心遣いを知ったシャーリィ、破顔しながら二箱のアップルパイを受け取ってウエストポーチに仕舞い込んだ。

シャーリィのウエストポーチがアイテムバッグだと知らなかったレオニスが、そのやり取りを見て「おおッ!?」と驚いている。

そんなびっくり顔のレオニスに、シャーリィがニコニコ笑顔で声をかける。

「レオニスさん、本当にありがとう。五年後には貴方の後輩になれるよう、私も頑張るわ!」

「ン? 俺の後輩? 五年後? 一体何の話だ???」

「じゃ、またね!午後のパレード、絶対に皆で観に来てね!」

「はい、絶対に観に行きます!シャルさんもパレードのお仕事頑張ってくださいね!」

「頑張れよ、シャーリィ」

「?????」

冒険者を目指すことにしたシャーリィの謎の言葉に、レオニスの頭の上には???が無限に湧き出ている。

レオニスの問い返しに答えることなく、シャーリィは笑顔のまま颯爽と玄関を開ける。

そして朝日の光が玄関に差し込み、逆光の中シャーリィは己の帰るべき場所に向かって立っていった。