軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1166話 二人のプリンセス

魔術師ギルドの出店での買い物を無事終えたライト達。

次は冒険者ギルドの出店に行くことにした。

目的地に向かう道中、シャーリィは先程購入したばかりの『非モテお守り』を早速三つ身につけて、非常にご機嫌である。

「うふふ、すーっごく良い物買えちゃったー♪」

「シャルさん、良かったですね!」

「ええ、これもライト君達のおかげよ。ありがとうね!」

「どういたしまして!」

終始ご機嫌のシャーリィに、ライトとマキシも嬉しそうにニコニコしている。

実際『非モテお守り』を身に着けたシャーリィからは、先程までのハリウッドスター並みの猛烈な美女オーラが薄れているように感じる。

そしてそう感じるのはライトやマキシだけではない。道行く人々の視線が明らかにシャーリィに集まらなくなっていた。

「これがあれば、お忍びのお出かけも余裕でできるようになるわぁー♪」

「お忍び……シャーリィ、お前そんなに毎回抜け出してんのか?」

「そんな毎回ってほどでもないわよ? 新しい街に立ち寄ったら必ずその街のお店は見に行くけど」

「それほぼ毎回じゃねぇか……」

去年も今年も『暁紅の明星』を抜け出して、ラウルのもとを訪ねたシャーリィ。風の向くまま気の向くまま、あちこち単身で出かけるのはもはやお約束の癖らしい。

しかし、シャーリィのような目立つ超絶美女が護衛や伴も連れずにホイホイと歩き回るのは、正直感心しない。

悪漢に狙われて拐われたり襲われる危険性は十二分にある。

ラウルもそう思っているのか、渋い顔をしながらシャーリィに苦言を呈する。

「シャーリィ、お前……いくら何でも不用心過ぎじゃないか?」

「えー、いざとなったら空を飛んで逃げるから大丈夫よ?」

ラウルの苦言に、呑気に答えるシャーリィ。

実際シャーリィはラウルと同じ妖精プーリアなので、突然の襲撃に遭っても空を飛んで逃げることも十分可能だろう。

しかし、ラウルはさらに苦虫を噛み潰したような顔になる。

目を閉じ眉を顰め、こめかみを抑えながらシャーリィに話しかける。

「逃げられるとか捕まらないとかの問題じゃない。お前の身に何かあったら、心配する人達がたくさんいるだろう? その人達に要らぬ心配をかけるなと言ってるんだ」

「……それは……」

「カタポレンの森にいた頃ならともかく、シャーリィ、今のお前にはお前の無事を願い帰りを待つ人達がたくさんいるはずだ。違うか?」

「……ええ、そうね……」

ラウルの言葉に、シャーリィの黄金色の瞳が大きく開かれていく。

ラウルが言ったことは、シャーリィ自身もよく分かるし一言一句間違いなく頷ける。

カタポレンの森を飛び出したシャーリィは、様々な紆余曲折を経て約五年前にようやく今の『暁紅の明星』に落ち着いた、という経緯がある。

どこの誰とも分からないシャーリィを、『暁紅の明星』の団員達は一切の下心なく受け入れてくれた。

ラウルの言葉を聞いたシャーリィの脳裏に、団長クレールや他の皆の朗らかな笑顔が浮かぶ。

「……ラウル、貴方の言う通りね。これからは なるべく(・・・・) 他の団員達といっしょに出かけるようにするわ」

「 なるべく(・・・・) 、か……まぁいいさ、分かってくれたようだからな」

シャーリィが素直にラウルの苦言を受け入れた。

しかし、それでも『なるべく』という言葉を入れておいて、さり気なく抜け道を作っておく辺りがシャーリィらしい。

もっともラウルの方も、その抜け道を聞き逃してはいなかったが。

ふぅ……とため息をつくラウルの、未だに渋い表情が残る顔をシャーリィがじっと見つめている。

シャーリィの視線に気づいたラウルが、ン?と不思議そうな顔で問うた。

「どうした、シャーリィ。俺の顔に何かついてるか?」

「ううん、別にゴミとかついてる訳じゃないわよ? でも……」

「…………???」

未だにラウルの顔をじーーーッ……と真顔で見つめてくるシャーリィ。

その真っ直ぐな瞳を、ラウルもまた真っ直ぐに見つめ受け止めている。

そしてふとシャーリィが微笑んだ。

「ラウル、貴方……本当に変わったわね」

「そりゃあな。人里に出て十年も経てば、さすがに俺だって少しは成長するさ」

「少しなんてものじゃないわ。もともと貴方はフォレットの母さん達にもいつも優しかったけど……こんなにも他者を思い遣ることができるなんて、本当にすごいことよ。同じプーリアとして、貴方のことを心から尊敬するわ」

「……お褒めに与り光栄だ」

シャーリィの素直な褒め言葉に、ラウルは気恥ずかしいのかプイッとそっぽを向く。

今のシャーリィはいつもの揶揄うような口調ではなく、本当に心からの本心であることがその声音からも分かる。

他者に関心を持たないプーリアらしからぬ性格のラウル。

故郷ではついぞ得られることのなかった幸せを、このラグナロッツァという人里―――ライトやレオニスとともに暮らすあの屋敷でやっと手に入れることができたのだ。

その事実をシャーリィは改めて実感し、本当に心から嬉しく思っていた。

「ねぇ、ラウル。貴方、正式に冒険者になったのよね?」

「ああ。冒険者ギルド総本部で正式登録してから、もうちょいで一年になるかな」

「そしたら、今から行く冒険者ギルドの出店には貴方の仲間や先輩がたくさんいるのよね?」

「多分な。つーか、去年の公国生誕祭と同じならギルドマスターのマスターパレンもいると思うぞ」

「そうなのね!」

冒険者ギルドの出店について質問したシャーリィの顔が、パァッ!と明るくなる。

ラウルが冒険者になったという話は、昨日客間でレオニスの帰りを待つ間にライトやマキシから聞いて知っていた。

その時は「あのラウルが……!? 嘘でしょ!?」と思っていたが、今ならその話を信じることができる。

「じゃあ私も、ラウルの幼馴染として貴方の上司や職員の皆さんにきちんとご挨拶しなきゃね!」

「何でだよ……お前は俺のかーちゃんか?」

「かーちゃんじゃないけど、貴方は私の大事な幼馴染なのよ? 貴方のことが心配だから、周りの人達にくれぐれも貴方のことをよろしくお願いしますって頼んでおかないと!」

「へいへい、分かりましたよ……好きにしてくれ」

マスターパレン他冒険者ギルドの面々に挨拶する!と張り切るシャーリィ。

何故に冒険者でもないシャーリィが挨拶を?と思わなくもないが、唯一の同胞であるシャーリィから『ラウルのことが心配だから!』と言われればそれ以上無碍にすることもできない。

ラウルははぁ……と軽くため息をつきながら半ば諦めている。

そんな話をしているうちに、冒険者ギルドの出店が見えてきた。

店の周囲にはたくさんの人がいて、先程の魔術師ギルドの出店に負けず劣らず繁盛しているようだ。

ラウルとシャーリィの前を歩いていたライトとマキシが、その混雑ぶりを見て思わず感嘆している。

「おおお……冒険者ギルドのお店もすっごく混んでるね……」

「ですねぇ……あっちの方が特に人混みがすごいですね」

「多分あっちに『マスターパレンコーナー』があるんじゃないかな?」

「そうかもしれませんね。とりあえず、先にマスターパレンコーナーに行きますか?」

「うん。ぼくもマスターパレンさんにちゃんとご挨拶しときたいし!」

特に混雑している方向を見ながら話し合うライトとマキシ。

公国生誕祭での冒険者ギルドの出店では、二つの目玉コーナーがある。『魔物の串焼きコーナー』と物販コーナー内にある『マスターパレンコーナー』だ。

この二大コンテンツが冒険者ギルドの出店で大人気で、今も串焼きを焼く香ばしい匂いが辺り一面に漂っている。

もちろん魔物の串焼きコーナーにも立ち寄りたいが、それ以上にマスターパレンに会いたいライト。

冒険者ギルドには、ライトの養い親であるレオニスだけでなくラウルも常々世話になっている。

そして何より今年、

ライト自身が冒険者登録できるようになる。

レオニスとラウル、そして自身もこれから世話になる組織の長に挨拶をしておくのは、ライトにとって当然のことなのである。

早速物販コーナーがあるテントに向かうライト達。

その物販コーナーの一角から、ただならぬ怪しい空気が漂ってくる。

妙に熱気溢れる胡散臭い空間のその奥に、マスターパレンがいるはずだ。

何とか人混みを掻き分けて前に進んでいくと、案の定【マスターパレンコーナー】と描かれた濃桃色の立て看板が現れた。

そしてそこにはライトの予想通り、マスターパレンその人がいた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「……ンフォ? おお、これはこれは!ラウル君にライト君、そしてマキシ君じゃないか!よく来てくれた!」

「「「…………」」」

ライト達が訪ねてきたことに早々に気づいたパレン。

両腕を目一杯左右に広げて、全身全霊全力でウェルカム!なオーラを放っている。

だが、何故かライト達は無言のまま石のように固まっている。

その理由はパレンの格好、着ている衣装にあった。

本日のパレンのファッションは、よりによって『アラビアン・プリンセス』。

そう、シャーリィの服と被りまくりであった。

いや、正確に言えば二人の衣装は違うところがいくつもある。

パレンが着ているビキニのトップスとボトムは金色のスパンコールでできていて、それはもう煌びやかで直視するのも眩しいくらいに輝いている。

そして肩出しの長袖シースルーは濃桃で、シャーリィの淡い水色とも全く異なる。

頭のヘッドドレスだって、パレンのものは黄金に輝いていて発光しているスキンヘッドの眩しさにも決して負けていない。

そもそも体格からして、ムキムキマッチョのマスターパレンと絶世の美姫シャーリィとでは完全に違う。

だがしかし、腰から棚引く濃桃色のオーバースカートやシックスパックの腹筋丸見えヘソ出しルック、そして後頭部にも棚引くヴェールにスパンコールのチョーカー等々、全体的に見てほぼほぼ瓜ふたつと言っても差し支えない程に、二人のアラビアン・プリンセスファッションは似通っていた。

「「………………」」

マスターパレンとシャーリィ、アラビアン・プリンセスファッションをまとった二人が真正面から向かい合いながら無言で対峙する。

そしてシャーリィの横や少し後ろにいるライト達も、唖然としたままマスターパレンのアラビアン・プリンセスコーディネートを眺めていた。

ぁー……さっき冒険者ギルド総本部でクレナさんが泣いて謝っていたのは、これが原因かぁ……

そりゃそうだよなぁ……いくら偶然とはいえ、マスターパレンがシャルさんとほぼ同じ格好で出店の売り子をしてると知ったら、そりゃクレナさんじゃなくてもシャルさんに申し訳なく思えてくるよね……

でも……マスターパレンさんの、あのキラキラスパンコール。ずっと見てると、何だかすっごく格好良く思えてくるのが不思議……てゆか、俺じゃ絶対に着こなせない衣装だわ……

あれを難なく着こなすマスターパレンさんって、とても稀有な才能の持ち主かもしんない。ギルドマスターになる人って、やっぱすごい才能の塊なんだな!

アラビアン・プリンセスなパレンを眺めながら、頭の中で冷静に分析しているライト。

そう、先程の冒険者ギルド総本部でのクレナの謎の逃亡は、ライトの推察通りパレンの今日の衣装のせいであった。

しかし、後半の方ではパレンのファッションにおけるカリスマ性にライトも心酔している。その高評価ぶりは、レオニスのポジティブレビューにも負けていない。

そう、この人外ブラザーズでさえも、パレンのファッションの偉大さには心から感服せざるを得ないのだ。

そうしてしばし無言の空気が流れた後、その静寂を破ったのはパレンだった。

「おお、これは何と美しいご婦人か!黒髪巻き毛に金色の瞳は、ラウル君にそっくりだが……ご婦人はラウル君の縁者かね?」

「……ぇ? ぁ、えーと、縁者というか、幼馴染の、シャル、です……」

「ラウル君の幼馴染……そうか、君もまた森という大きな籠から羽ばたいた自由な蝶なのだな」

「…………」

パレンの優しい問いかけに、シャーリィは戸惑いながらも我に返り答え名乗る。

パレンはラウルがプーリア族という妖精であることを知っている。故にラウルと同じ特徴、黒髪巻き毛の金色の瞳を持つシャーリィのこともプーリアだと即時看破した。

しかしそこはプーリアという言葉を直接口にせず、自由な蝶という曖昧な表現で濁している。さすがはパレン、どこまでも気遣いに満ちた紳士である。

そんな紳士の中の紳士、パレンの優しさに触れたシャーリィ。

一気に顔が紅潮し、胸がドキドキと高鳴る。

「あ、あの……貴方様のお名前を聞いてもよろしゅうございますか……?」

「おお、これは失敬。私としたことが、美しいご婦人を前にして常識が吹っ飛んでしまいましたな。私の名はパレン・タイン、冒険者ギルドの総本部マスターを任されております」

パレンの名を問うシャーリィに、右手のひらを上に向けて胸元に寄せ、深々と頭を下げて挨拶をするパレン。これは『ボウアンドスクレープ』と呼ばれる紳士のお辞儀の作法である。

そして左手の方は、濃い桃色のオーガンジーのオーバースカートを摘んで上に上げる。こちらは淑女のお辞儀作法『カーテシー』からきている。

それはまさに、紳士淑女の礼儀作法が合わさったハイブリッドな作法。パレンならではの、いや、パレンにしかできない究極の挨拶である。

そんな恭しくも優雅な仕草に、シャーリィの頬はますます赤く染まっていく。

「まぁ、貴方様がこの冒険者ギルドのギルドマスターであらせられますの!?」

「ハハハハ、私などまだまだ未熟者だがね」

「そんな、とんでもない!貴方様が放つ高貴な氣は、今まで私が出会ってきたどんな人よりも高潔で素晴らしいものです!」

「麗しいシャル嬢にそう言っていただけるなんて、これ程光栄なことはありませんな!」

糸目の垂れ目釣り眉、そしてツェリザークの雪よりも白いパレンの歯がキラッ☆と輝く。

パレンの壮絶に眩しい笑顔を、真正面からダイレクトに食らったシャーリィ。

彼女の金色の瞳が極限まで開かれたかと思うと、そのままグラリ……と後ろに倒れ始めた。

シャーリィの斜め後ろにいたラウル、彼女の異変をすぐに察知して倒れかかる身体をしっかりと抱き留めた。

「……あ、おい、シャーリィ、しっかりしろ!」

「え? シャ、シャルさん!?」

「シャルさん、大丈夫ですか!?――――――」

シャーリィの視界が次第にホワイトアウトしていく中、ラウルやライト、マキシの懸命に呼びかける声が遠くに聞こえてくる。

そして次第にその声も聞こえなくなり、シャーリィはラウルの腕の中で完全に気を失っていた。