軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1152話 ウルス達の目に映る様々な景色

ラウルを探すべく主道場を出てから、厨房や裏庭に移動するまでの間。ライトの肩に乗ったウルスとケリオンは様々な話をしていた。

「ぃゃー、壮絶な戦いだったな……」

「ええ……我らが八咫烏の里でレオニス殿から受けた稽古なんて、児戯にも思えるものでしたね……」

「そうだな。だが……レオニス殿の凄まじさもさることながら、それ以上に最後まで決して諦めずに挑み続ける、あの剣士達の不屈の精神が素晴らしい」

「ですね。あの粘り強さは、是非とも我らも見習いたいところです」

先程まで主道場で繰り広げられていた特別稽古に、二羽とも心から感嘆している。

ライトはウルス達の会話に頷きつつ、先頭を歩くスパイキー達からなるべく離れるよう一行の最後尾を歩くようにしている。

これは、ウルス達の会話が万が一にもスパイキー達に聞こえないようにするためである。

もちろんウルス達も小声でひそひそ話しているのだが、念には念を入れて先頭との距離を取っているのだ。

そして二羽の話は、自然ととある人物のことになっていく。

「あの最後まで奮闘していた人物が、ムニン姉様の人化の術の手本となっている御仁のようですね」

「そうだな。コルセア、という名であったか……確かにあの顔立ちは、ムニンが人化した時の顔にそっくりであったな」

ウルス達の話題に出てきたのは、ヴァイキング道場次期道場主である長兄コルセア。

それはかつて八咫烏の里で、ライト達に人化の術の習得具合を披露した時のこと。

まだ人化の術を会得していないウルスとケリオン以外の皆が、それぞれに人里見学で見てきた理想の人物像?をもとに人化した。

その中の一羽、七羽兄弟姉妹の長姉ムニンが人化のモデルにしたのはヴァイキング道場師範のコルセアであった。

「コルセア殿の立ち居振る舞いの中に、あの子が目指したい姿を見い出した……ということなのだろう」

「ムニン姉様は、八咫烏の里を守ることにかけては誰よりも―――それこそフギン兄様にも負けないくらい、心血を注いでおられますからね」

「フフフ……全く以てムニンらしい選択だな」

「ええ、本当にムニン姉様らしい選択ですよね」

ムニンが人化の術で変化した姿、コルセアにそっくりの顔立ちのムニンを思い浮かべながら、ウルスとケリオンがくつくつと笑う。

人化の術で異性をモデルにしたのは、ムニンだけである。

このことに、当時のレオニスやラウルは度肝を抜かれていたし、その話を聞いたウルス達も内心『何故ムニンは、わざわざ異性を選んだのだろう?』と疑問に思っていた。

しかし、今日実際にこのヴァイキング道場でモデルとなったコルセアを見て、ウルスとケリオンは得心した。

強く逞しい腕前だけではない。最後の一人となっても決して諦めずに敵に立ち向かう、その不撓不屈の心意気にムニンは心惹かれたのだ、と。

ムニンという娘や姉の性格をよく知るウルスとケリオンは、実に彼女らしい価値観と選択に改めて感心しきりだった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

厨房にいなかったラウル達を探しに、今度は裏門近くの裏庭に向かうライト達。

裏庭に辿り着くと、まだハンザ達は来ていないようだ。

その代わり、レオニスの予想通りラウルとマキシ、そしてグレイスがいた。

三人はライト達に背を向けた状態で、しゃがみながら座っている。

ラウルとマキシは六羽のカラスに、グレイスは飼い犬のエイリークに何か食べ物を与えているようだ。

先頭を歩いていたスパイキーとヨーキャが、真っ先に三人の背中を見つけ早速声をかけた。

「おー、ラウルの兄ちゃん、いたいた!」

「あ、マムマムもいる!マムマム、おひさでーす!キャハ☆」

スパイキーとヨーキャの呼び声に、ラウル達が振り向きながら立ち上がった。

そして近寄ってくるスパイキーとヨーキャを見て、ラウルの顔がパァッ!と明るくなる。

「おお、スパイキーにヨーキャじゃないか!どうしてここに?」

「俺達も一週間程前に、ホドに里帰りしてたんだ」

「そそそ。バッカ兄のお兄さんのアマロ先輩が、近々結婚式を挙げるからねー。そのお祝いに、ボクらも全員で里帰りしたってワケ!ウキョキョ☆」

「あー、そういやさっき俺達もそんな話を聞いたな。ということは、バッカニアもここに帰ってきてるのか?」

「「もちろん!」」

久しぶりの再会を喜ぶラウル達。

ラウルがスパイキーとヨーキャと最後に会ったのは、昨年夏にライトやレオニスとともに出かけた氷蟹狩りツアー。

五ヶ月ぶりの再会を喜ぶ三人に、グレイスも会話に混ざってきた。

「スパイキー、ヨーキャ、久しぶりじゃないか!」

「マムもお元気そうで何よりです!」

「アマロ先輩の結婚を聞いて、ボク達もバッカ兄といっしょに皆でホドに帰ってきました!」

「「ご結婚、おめでとうございます!」」

グレイスと向かい合った途端、背筋を極限までシャキーン!と伸ばすスパイキーとヨーキャ。

アマロの結婚を寿ぐ言葉の時には、二人して一斉にガバッ!と頭を深々と下げた。

グレイスはヴァイキング道場の女主人であり、スパイキーとヨーキャもまた幼少の頃からグレイスには世話になっている。

なので、二人も他の門下生達同様グレイスには頭が上がらないようだ。

「アッハハハハ、そんなに畏まらなくていいよ!二人とも、もうとっくの昔にうちの道場から卒業したんだしさ」

「いいえ!そんな訳にはいきません!」

「そうですヨ!マムマムは一生ボク達のマムマムですから!」

「ふふふ、嬉しいことを言ってくれるねぇ。アマロの結婚のお祝いの言葉までくれるなんて、本当に嬉しいよ。二人とも本当に大きく成長したねぇ」

スパイキーとヨーキャの成長ぶりに、グレイスもまた大いに喜んでいる。

そしてライトはマキシと話をしていた。

「マキシ君、ここでカラスさん達におやつをあげてたの?」

「はい!ラウルとグレイスさんといっしょに、厨房で焼き上げたドングリクッキーやたまごボーロをあげてたんです。とてもおとなしくて、お利口さんなカラスさん達なんですよ!」

「そっか!ぼくも皆におやつをあげたいな、まだクッキーとか残ってる?」

「あ、はい、まだたくさんありますよー、ちょっと待っててくださいねー」

カラス達におやつをあげていたと言うマキシ。

そんな話を聞けば、ライトもカラスに直接おやつをあげてみたくなるというもの。

そんなライトの願いに、マキシも早速空間魔法陣を開いてドングリクッキーを三枚ほど取り出そうとした、その瞬間。

それまで地面に置かれたドングリクッキーを美味しそうに啄んでいた六羽のカラスが、何故か一斉に身体が固まっていた。

そしてどういう訳か、六羽同時にライトの足元に集まり平伏したではないか。

突如豹変したカラス達をよくよく見ると、プルプルと小刻みに震えている。

あまりにも突拍子のないカラス達の様相に、マキシは戸惑うばかり。

だがライトは、その理由を即座に理解した。

「ど、どうしたんですか、カラスさん?」

「……ぁー、これ多分、ウルスさんとケリオンさんがいるからだ……」

「え? 父様達がどうかしたんですか?」

「いや、前にぼく達ムニンさんとトリスさんといっしょにここに来た時にね? ここのカラスさん達皆、ムニンさん達に頭を下げてたんたよね……」

「ああ……そういうことですか……」

ライトの解説に、マキシもようやくこの事態を理解した。

マキシは人化の術で人族の姿をしていたため、カラス達にその正体が八咫烏だということは分からなかった。

だが、今ライトの肩には文鳥サイズに変化したウルスとケリオンがいる。

特にウルスは八咫烏一族の族長を務める程の傑物。サイズが違うとはいえ、身体を小さくした程度では霊鳥八咫烏の高貴なオーラは隠しきれないらしい。

カラスの究極形態とも言うべき八咫烏。その存在を目の当たりにし、ヴァイキング道場のカラス達はただただ恐縮して平伏するばかり。

そんな従順なカラス達に、何を思ったのかウルスがライトの肩から飛び立ち、カラス達の前に舞い降りた。

そしてウルスはその小さな翼で、カラス達の頬や嘴を次々と撫でていった。

「「「!!!」」」

八咫烏一族の頂点であるウルスに撫でられたカラス達。

その 円(つぶら) な瞳がさらに大きく見開かれる。

そしてウルスは、カラス達だけに聞こえるように小声で話しかける。

「善き心を持つ者達に、祝福があらんことを」

「「「………………」」」

「そして願わくば、我をただ崇めるではなく、諸君らと同じ一羽の鳥族として迎え入れてくれると嬉しいのだが」

「「「……(コクコク)……」」」

崇高なウルスの気さくな言葉に、カラス達は感激の面持ちで頷いている。

ウルスにここまで丁寧なお願いをされては、カラス達としても無碍にすることはできない。

今度はカラス達の方から、次々とウルスに頬ずりをしだした。

六羽のカラスに代わる代わる頬ずりされるウルス、もみくちゃにされながらもどことなく嬉しそうな顔に見える。

いつもは八咫烏一族の族長として、威厳と気品溢れる態度を崩さないウルスの何とも珍しい姿に、すぐ傍で見ていたライトとマキシ、そしてケリオンまでもが微笑んでいた。