軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第114話 ラウルの居場所

ライトとレオニスはほぼ同時かつ即座に、それぞれ椅子から立ち上がってフェネセンの話に食いついた。

そのあまりの勢いに、話題の当人であるラウルはびっくり困惑する。

「……あ、いや、その、何だ……」

「ラウルはうちの大事な、大事な執事さんなの!どこにもやらないの!ね、そうでしょ?レオ兄ちゃん!」

「あ、うん、そうだな、ラウルはうちの執事だからな!うん」

「レオ兄ちゃん!このままじゃラウルが超モテモテになって、どっか他所に引き抜かれちゃう!ラウルのお給金と食費予算を今の倍に上げて!」

「なぬっ、倍!?」

実はライトと同じことを思っていたレオニス、最初こそ照れ隠しなのか少ししどろもどろになりつつも、ライトの言う『ラウルは大事な大事な執事』を肯定していたのだが。

その後に続くライトの『お給金&食費予算倍増要請』に驚愕させられる。

「レオ兄ちゃん!ラウルの作る美味しいおやつやご飯が食べられなくなってもいいの!?」

「うッ、そ、それは困る……」

「このラグナロッツァの家の手入れをする人も、いなくなっちゃうかもしれないよ!?」

「うッ、そ、それも困る……」

ライトのただならぬ剣幕に、レオニスはただただ気圧されるばかり。

ライトはなおも懸命に言い募る。

「それに、おやつやご飯だけじゃなくて、ラウルはぼく達の家族でしょ!」

「ラウルがいなくなるなんて、ぼく嫌だ!」

「ラグーン学園からこの家に帰ってきても、誰もいなくて出迎えてくれないのなんて寂しくて嫌だ!」

駄々をこねるようにそこまで言った時、ライトはふと何か思うことがあったのか、はたと止まり途端に勢いを失くす。

「……そりゃ、もしラウルがお店を持ちたいって、本人がそう思うなら……叶えてあげなきゃだけど……」

先程の勢いはどこへやら、しおしおと力なく消え入るような声になっていくライト。椅子にストン、と座り、しょげてしまった。

きっとライトは、自分の望みよりもラウルの望みや意思を優先しなければ、と思ったのだろう。

そんなライトの目まぐるしく移り変わる感情が、ライト以外の三人には手に取るように分かる。

俯いて無言になってしまったライトに、ラウルはライトの横にしゃがみ込んでライトの顔を見上げる。

「そんな心配しなくていい。俺はどこにも行かないから」

「……本当?」

「ああ、本当だ」

「ずっとここにいてくれる……の?」

「ああ、ご主人様達からクビを言い渡されない限りはな。……いや、もしクビを言い渡されても意地でも出ていかんぞ?」

クビになっても居座ると断言したラウル。

「ラウルは、自分のお店持ちたいとか、そういう希望はないの……?」

「店なんかより、この屋敷の執事をしている方がずっといい。それにだな……」

「それに……?」

コホン、と軽く咳払いをしてから、少し言い難そうな雰囲気を醸し出しつつもラウルは口を開く。

「この俺に、大人数相手の接客業が務まると思うのか?」

「…………」

「残念ながら、答えは『否』だ。カタポレンの妖精の里でも、俺は爪弾き者だったんだぞ?基本的に俺は、人見知り激しい方なんだからな!」

最後の方、ドヤ顔で言い切るラウル。

さすがラウル、己のことを軟弱者と言って憚らないだけのことはある。

謎の自信に満ち満ちたラウルだが、ライトを見つめる眼差しは優しい。

「だから、そんな要らん心配はするな。ご主人様達以外に仕える気はさらさらないし、何より―――俺の居場所は、ここしかない」

ラウルのその言葉に、ライトは無言で頷くことしかできなかった。

そしてラウルはレオニスの方に向き直る。

「……と、いう訳で。ご主人様よ、小さなご主人様の要望を叶えるためにも給金と食費予算の増加、頼むな?」

「お、おう、任せとけ」

「ま、倍まで増やせとは言わんがな」

「そうだな、両方とも5割増は約束しよう。特に最近は差し入れやらフェネセンの指導やらで、お前の仕事もかなり増えたしな」

「おッ、ラッキー!ライトのおかげで俺の給金増えたわ、ありがとうな!」

あっという間に労使交渉を円満に終えたラウルは、努めて明るく礼を言いながらライトを高く抱き上げ、そのまま腕の中に抱っこした。

いつもならヤキモチを焼いてキーキー言うレオニスも、今回ばかりは苦笑とともに無言で二人を見遣る。

ラウルに抱っこされたライトは、安堵したかのように無言でラウルの首っ玉にしがみつき、しばらく離れようとはしなかった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

それから数日が過ぎ、足輪10個が完成する予定日になった。

この日は日曜日だったので、ライトも朝早くから起きてレオニスとともにラグナロッツァの家に移動していた。

完成品はまたフェネセンが受け取ってくるのかと思いきや、今日はアイギス三姉妹が揃ってこの屋敷に届けに来るという。

その道中何かあってはいけないので、レオニスが一度アイギスに行き三人の護衛をしながら戻ってくるそうだ。

「ンまー何しろモノがモノだからねぇ、まかり間違って盗まれでもしたら洒落なんないしー」

「でも、何でアイギスの皆も届けに来るの?しかも三人揃ってとか、かなり珍しいことじゃないの?」

「うん、史上初かもしんないよ?何でも足輪を使う際に装着具合を見たいのと、後は……」

「「??」」

家で足輪の到着を待つ、レオニス以外の留守番三人組。

フェネセンの話に、ライトとラウルは首を傾げる。

「ほぼ毎日、とっても美味しい差し入れをしてくれたラウルっち師匠に御礼を言いたいんだってさ!」

ニコニコしながら言うフェネセンに、それとは反対にガビーン!という衝撃を隠せないライト。

「まさか……カイさん達、三人直々にラウルの引き抜きに来るんじゃ……」

「ちょ、落ち着け、ライト。まだそうと決まった訳じゃ……」

目を見開きわなわなと震えるライトに、おろおろしながらも何とかライトを宥めようとするラウル。

そんな二人を見て、フェネセンはきゃらきゃらと笑う。

「あー、それはないからダイジョブだよー。こないだアイギスで『ライトきゅんが大好きなラウルを引き抜かれたら困る!って泣いてた』って伝えといたからー」

「そしたらセイにゃんもメイにゃんも『あら、ライト君が困るっていうなら、それはできないわねぇ』『うん、ライト君を泣かせる訳にはいかないもんねぇ』って言ってたよー」

「ちょ、フェネぴょん!ぼく、泣いてない!」

ライトは顔を真っ赤にして、フェネセンに抗議した。

だが、実はあの時ラウルに抱きかかえられた腕の中で、ちょっとだけ涙ぐんでしまった自覚はあった。

しかし、それを認めてしまうのはとても恥ずかしいので、なかったことにしているのだ。

もっとも、それを隠しているつもりなのはライト一人だけなのだが。

そんな戯れを繰り返しているうちに、家の門扉の前に馬車が到着するのが窓から見えた。

今日はアイギス三姉妹が来るということで、レオニス含めて四人で乗れる馬車を手配したのだ。

急いで玄関に出迎えに向かうライトと、ライトの後を追うようについてくるフェネセンとラウル。

三人は、レオニスが玄関の扉を開けてアイギス三姉妹を屋敷に招き入れるのを玄関ホールで出迎える。

「皆、ただいま」

「「「お邪魔しますぅ」」」

レオニスの後ろから、カイ、セイ、メイの順に屋敷に入ってくるアイギス三姉妹。

「レオのラグナロッツァの屋敷に来るのは、何気に私達初めてよねぇ」

「そうねぇ、いつもレオの方からお店に来るからねー」

「レオちゃん、本当に立派な冒険者になったのねぇ……改めて実感できて、姉さんとても嬉しいわぁ」

三者三様、それぞれに初めての屋敷訪問の感想を口々にする。

アイギスとしては、貴族の屋敷に招かれることは珍しくも何ともないことだ。何せアイギスと言えば、ラグナロッツァで一番人気の仕立て屋で、王侯貴族からも引っ張りだこの超有名店なのだから。

だが、王侯貴族の屋敷は珍しくなくとも、相手が孤児院時代からの幼馴染となれば話は別だ。

その成長ぶりを確かめることができて、感慨も一入というものだろう。

「ラウル、早速だがカイ姉達を二階の例の部屋に案内してくれ」

「了解。アイギスの皆様方、初めまして。私はこの屋敷の執事を任されております、ラウルと申します。以後お見知りおきを」

「まぁ、貴方がラウルさん?いつも素敵な差し入れ、ありがとうございますぅ」

「あらー、こんな男前な執事さんなの!?」

「貴方のおかげで、普通のスイーツじゃ満足できない身体になりかけてましてよ?」

初めてラウルと対面したアイギス三姉妹。

「美しくも気高きアイギスの御婦人方に喜んでいただけたなら、幸い至極に存じます」

本物の執事のように、優雅に振る舞うラウル。

いつものラウルとは大違いのその様子に、ライトは目を見開きながら絶句する他ない。

一見和やかな空気で会話しながら、目的地の二階の寝室に向かう一行。

まずは全員部屋の中に入る。部屋の中には、先日見た時と変わらず八咫烏のマキシが結界の張られたベッドの中で眠り続けていた。

「今回カイ姉達に作ってもらった足輪は、この八咫烏に使うんだ」

「そうなのね……この子はずっと寝たままなの?」

「ああ、うちで保護してから三週間くらいになるかな」

「それは心配ね……」

カイと会話しながら、レオニスは結界を解きベッドの四隅の魔石を取り除くなどの準備をしている。

一方フェネセンは、セイから足輪の入った指輪ケース10個を受け取る。

「はい、これがご注文のヒヒイロカネ製足輪10個よ。検分よろしくね」

「セイにゃん、ありがとうね!」

「あ、あと、これもね。はい」

セイが指輪ケースとは別に、ペンダントケースを3つ出して机の上に置いた。

「フェネぴょん、これは何?」

「これはねぇ、万が一足輪10個でも足りなかった時の保険?」

ライトの質問に、フェネセンがペンダントケースを開けながら答える。ペンダントケースの中には、キラキラと輝く大粒のダイヤモンドのペンダントが入っていた。

「ヒヒイロカネ製の足輪10個もあれば、足りるとは思うんだけどさ?一応念には念を入れて、ダイヤモンドのペンダントも作ってもらったのー」

「足輪作るよりはペンダントの方がまだ簡単に作ってもらえるし、着けるのも首にかけるだけだから手軽だしさ」

他のことはともかく、こと魔術に関してはフェネセンは慎重だ。

術の施行は抜かりなく完璧に、万が一にも失敗することのないように十重二十重に策を巡らせて万事恙無く事を運び、必ず成功に導くのだ。

それこそが、彼が【偉大なる大魔導師】と呼ばれるに至る所以である。

準備が着々と進む様子に、ラウルはどことなく落ち着かなくなってくる。

ライトはそんなラウルの横に立ち、ラウルの手をそっと握りしめる。

「ラウル、大丈夫だよ。レオ兄ちゃんとフェネぴょんがやってくれることに、間違いや失敗なんてないから」

「ぼくもついてるから。……って、ぼくは何にもできないけどね」

自分の手を握り、懸命に励ましてくれる小さな手から伝わってくる温もり。

ラウルはそれを噛みしめながら、改めて前を向く。

「ああ……そうだよな、きっと大丈夫だ」

ラウルはそう自分に言い聞かせるように呟き、ベッドに横たわるマキシの姿を見つめた。