軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1137話 ライトが得た新たな力

冒険者ギルドケセド支部を出て、コルルカ高原に向かうライト達。

街の外の荒涼とした平地の中を、ライト達はしばらく駆け抜ける。

そしていよいよ地形が複雑になっていき、とうとうとある崖の前まできた。

三人は一旦立ち止まり、レオニスがフラクタル峡谷のある方向を見遣りながらライト達に声をかける。

「さて、そろそろ迂回も厳しくなってきたから、ここら辺からまた徐々に空を飛んでいこうと思うが……」

「うん、前に来た時もこの辺りからレオ兄ちゃんにおんぶしてもらったりしたよね!」

「確かになぁ……この谷の深さは、 いくらライトでも(・・・・・・・・) 飛び降りるのは危険過ぎるな」

「ラウル……何気にサラッとしどいこと言ってるよね?」

コルルカ高原からいきなり断崖絶壁となっている場所で、ラウルが宙に浮きながら崖下を見遣る。

その中でラウルが呟いた『いくらライトでも』とは、なかなかに失敬な物言いだ。それではまるで、ライトもレオニス同様の人外である、と断言しているようにしか聞こえないではないか。

だがしかし、ラウルはお見通しである。ライトのことだ、多少の崖なら実際そのまま垂直の崖を駆け下りるところであろうことを。

そしてライトの実力をよく知るラウルであっても、さすがにこの崖の高低差は相当危険なものに映るらしい。

如何にライトが桁違いの能力を持っているとしても、崖から何十メートルも下に飛び降りるのはさすがに大怪我を負うかもしれない。ラウルは何としてもその危険性を避けたいのだろう。

相変わらず歯に衣着せぬ物言いをかますラウルだが、その根底にはライトを思いやる心遣いがきちんとあるのだ。

そんなラウルにライトも軽く抗議するが、ラウルがライトの身の安全のためにそう言っていることは一応分かるので、それ以上の追求はしない。

それどころか、今のライトには余裕があった。

何故ならライトには、この日のために鍛錬したとある切り札があるからだ。

そんなこととは露知らぬレオニスとラウル。

深い谷底やはるか向こうの峡谷を眺めつつ、二人で相談している。

「今日は俺とラウルの二人いることだし、交代でおんぶして飛んでいくか?」

「そうだなぁ、その方が目的地に早く到着するってんならそうしたいな」

「そしたらどっちが先におんぶする?」

「じゃんけんで決めるか?」

これからの移動手段を相談しているレオニスとラウル。

ライトの切り札を知らない二人にそれを披露すべく、ライトはレオニスとラウルに声をかけた。

「フッフーンだ……レオ兄ちゃん、ラウル、ちょっとこっち向いてくれる?」

「ン?」

「何だ、どうした?」

「「…………ッ!?!?!?」」

それまで二人で向き合っていたレオニスとラウル、ライトの呼びかけに首を45°横にしてライトの方を見た。

するとそこには何と、ふわふわと宙に浮いているライトがいた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「「………………」」

まだ飛べないはずのライトが、宙に浮いて飛んでいる。

この、あまりにも衝撃的な光景を目の当たりにしたレオニスとラウル。

双方とも目を極限まで大きく見開き、あんぐりと口を開けたまま固まってしまっている。

一方のライトは、フッフーン☆とドヤ顔しながらふよふよと宙に浮き続けている。

しばし絶句していたレオニス達だったが、何とか我に返りライトの肩をガシッ!と掴みつつものすごい勢いで迫る。

「え、ちょ、待、待て待て!おい、ライト!何で!どうして!身体が浮いてんだ!?」

「もしかして、飛行魔法を覚えたのか!?」

「ぃゃぃゃぃゃぃゃ、ライトに飛行魔法を教えてくれるやつなんて、少なくとも身近な範囲にゃいねぇぞ!? つーか、そもそも飛行魔法なんてそう簡単に会得できるもんじゃねぇし!」

「ライト、一体誰から教わったんだ!? まさか自分一人で覚えたのか!?」

ライトの顔面10cm前までズズイッ!と迫るレオニスとラウル。

金髪碧眼の超弩級イケメンに、黒髪巻き毛の金眼のイケメン執事、二人の顔が至近距離に迫りくるのはかなりのド迫力だ。

ライトは「ちょちょちょ、ちょっと待って……」と後退りしながら、懸命に二人の大人を宥める。

そして一旦地面に降り立ち、背中に背負っていたアイテムリュックから何かを取り出した。

それをレオニス達に見せながら、ライトが種明かしを始めた。

「今ぼくが飛べたのはねぇ、コレのおかげなんだ!」

「……ンーーー?これは……何かの鱗、か?」

「…………あ"ーーーッ!そういうことか!!」

ジャジャーン!とばかりにライトが取り出した鱗を見て、ラウルが訝しむ横でレオニスが驚愕の顔で大声を上げた。レオニスはどうやらライトの手品?のからくりが分かったようだ。

ライトが手に持っている鱗は、とても澄んだ青色をしていて時折虹のような七色の煌めきを放っている。

その鱗は、何を隠そう青龍が親愛の証としてライト達にくれたものだった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

ライトが飛んだ理由が分かったレオニス。あまりにも驚き過ぎて、はぁぁぁぁ……という大きなため息をつき、その場でヘナヘナとへたり込みながらしゃがんでしまった。

半ば頭を抱えるように崩れ落ちたレオニスだが、ラウルにはその意味や理由が全く以って分からない。

仕方がないので、ラウルはライトに向かって直接問うた。

「ライト、その鱗がどうかしたのか?」

「これはねぇ、こないだ青龍がぼくとレオ兄ちゃんにくれたものなんだ!」

「ほう、青龍の鱗か……と、いうことは……ライトが飛べるようになったのは、その欠片を飲み込んだからってことか?」

「ラウル、正解!」

ライトの話に、ラウルも口元に手を当てながら納得している。

ラウルもこれと同じようなものを知っている。それは、目覚めの湖に住む水神アープ、アクアの鱗だ。

アクアが生み出した水神の鱗は、爪の先の一欠片ほどを飲み込むだけで様々な効果をもたらす。

ライト達は飲み込む以前に、既に水の女王やアクアの加護を直接受けていたのでイマイチ理解しきれていないが、その一欠片を体内に取り込むだけで水中での呼吸や会話等が全て可能になる。

そして、それまで理解できなかったアクアや巨大クラーケンイード、水の精霊ウィカ、そして蛇龍神ディープシーサーペントのデッちゃんの言葉まで分かるようになったのだ。

これまでラウルもそうした数々の経験を経ていたので、ライトの手品のからくりが何とか分かった。

しかし、それでも不可解なことがある。

いくら青龍の力を取り込んだとしても、果たしていきなり空を飛べることができるものなのだろうか?

「ライトが飛べるようになった秘訣は分かったが……そんなすぐに飛べるもんなのか?」

「青龍からこれをもらったのは、二週間前のことなんだけどさ―――」

ラウルの問いかけに、ライトは順を追って話していった。

…………

………………

……………………

ライトがレオニスとともにフラクタル峡谷を訪れた日の夜。

ラグナロッツァの屋敷からカタポレンの家に移動したライト。自室で早速手に入れたばかりのお宝、青龍の鱗を眺めてはうっとりとしていた。

「はぁー……このサイサクス世界で、青龍の鱗を手に入れられるなんて、本当に夢みたいだ」

「BCOでは『青龍の鱗』なんてアイテムはなかったけど。これもきっとアクアの鱗のように、すごい力を秘めてるんだろうなー。さて、どんな使い方ができるんだろう?」

七色に輝く青龍の鱗を見つめつつ、ライトは有用な使い方はないかと脳内で模索し始める。

そういやラグーン学園の図書室にあった、おまじない本?にも青龍の鱗を使ったおまじないが書かれていたよなー。

はて、どんなおまじないだったっけ……ぁー、確か『青龍の鱗と人魚の涙の神秘イヤリング』『魅了の力で想い人を君のトリコに!』とかいうようなのだった気ががが……

青龍の鱗はここにあるし、人魚の涙も人魚のお姉さん達に頼めば手に入れられるだろうけど……魅了や洗脳なんてする予定全くねぇし!

ライトはかつて、ラグーン学園図書室で見つけたおまじない本『子どもでもできる!つくれる!5さいからはじめるおまじないとまどうぐ』のことを思い出していた。

そのおまじない本にも、青龍の鱗を素材としたおまじないが載っていたからだ。

しかしその用途は恋愛向け。しかも魅了の力を謳う、何気にとんでも恐ろしいおまじないである。

今のライトは叶えたいような恋などしていないし、全く以って無用の長物どころか有害感すらある。

そんなくだらないことのために、青龍が親愛の証としてくれた貴重な鱗や人魚達の涙を使うはずもない。

ライトは頭を横にブンブン!と振り、おまじない本の存在を頭の中から追い出す。

そしてライトは、改めて鱗を眺めているうちに、はたとアクアのことを思い出した。

アクアもライトに同じような鱗をくれていて、ライトはそれを使うことでアクア達の声を聞けるようになったという経緯がある。

それを踏まえ、ライトは再び思考を巡らせた。

『そういやこれと似たアクアの鱗を、一欠片飲み込むことでアクアやイード、ウィカの声を聞けるようになったんだよな……』

『もしかしたらこの青龍の鱗も、アクアの水神の鱗のように一欠片飲むことで、何らかの力を得ることができる……かも?』

『…………よし、やってみるか!』

ライトは決意をし、青龍の鱗の根元を右手の親指と人差し指の爪で摘んでパキッ!と折り取る。

この青龍の鱗も、水神の鱗同様かなりの硬度を持つのだが。今のライトにかかれば、まるで薄い煎餅かポテチのようなものである。

アクアと青龍には『BCOではレイドボスだった』という共通点がある。

そしてこのサイサクス世界でも、両者は属性の女王を守る守護神として存在している。

ならばこの新たに手に入れた青龍の鱗にも、アクアがくれた水神の鱗のような途轍もない力があるのではないか。

しかも青龍は、風の女王を守る辻風神殿の守護神。風を司る青龍の力を取り込めば、もしかしたら自分も風の力を操れるようになれるかも―――ライトがそう期待するのも当然だった。

ライトは爪の先で折り取った、ほんの一欠片の青龍の鱗をじっと見つめる。

そして意を決したように、ライトは舌の上に青龍の鱗の欠片を乗せ、コクッ、と飲み込んだ。

……………………

………………

…………

「でね、欠片を一回飲んだだけだと、ふわふわと浮くだけだったんだよね」

「浮くだけ? てことは、浮いた後に前や上に進むことはできなかったのか?」

「うん、そうなの。でも、上にちょこっと浮いているだけじゃ何にもならないじゃん? だからね、欠片を追加で飲み込んだんだ」

「そ、そうなのか……」

ライトが語る実験の如き経緯に、ラウルもずっと驚愕しっぱなしだ。

人族の身でありながら、守護神の力を得る―――これは実はかなりハイリスクな行為だ。

ただでさえ人族とは脆弱な生き物。取り込む者の魔力の総量が少なければ、とてもじゃないが守護神が持つ膨大な魔力を受け止めきれない。

良くて魔力過多により昏倒、最悪の場合は体内で魔力が暴発して内臓損傷。その場で命を落とすことだろう。

だが、ライトに限って言えば全く問題は起きていない。

もともとライトは生まれた時からカタポレンの森の中に住み、魔の森が常時生み出す膨大な魔力に晒されて成長してきた。

その上BCOシステムを利用した数々の鍛錬、そして神樹族や属性の女王達の加護により、ライトのMPは齢九歳にして既に四桁後半を超えていた。

その結果、ライトは期待通りの力、飛行能力を得ることに成功したという訳だ。

「で? 結局その鱗の欠片を何回飲んだんだ?」

「四回!二回目は少し前に進めるようになって、三回目はそこそこ飛べるようになって、四回目でようやく速く飛べるようになったんだ!」

「よ、四回も飲んだのか……ホンット、この小さなご主人様は剛気過ぎる……マジ尊敬するわ」

ニコニコ笑顔で語るライトの、あまりにも無謀に思えるチャレンジ話にさしものラウルも脱力している。

青龍の鱗を一欠片飲む、これだけでもかなり勇気が要ることなのに。ライトはそれを四回もこなしたというではないか。

その胆の太さに、まさしくラウルは度肝を抜かれまくっている。

するとその時、それまでずっとラウルの横でしゃがんだまま項垂れていたレオニスが、ふと顔を上げた。

「ライト……お前ってやつは、本当に……本ッ当ーーーにすげーね……さすがはグラン兄とレミ姉の子だ」

「え? そ、そう? そんなに褒められたら照れちゃうなー」

「完全に褒めているだけじゃねぇけどな?」

しゃがんだままライトの顔を見上げるレオニス。

その顔は完全に呆れと諦観に満ち満ちている。

だが、その程度のことでライトがめげることはない。むしろ懸命に利点アピールを始めた。

「えー、でもさー、ぼくも飛べるようになったら、レオ兄ちゃん達の足を引っ張ることも減るでしょ?」

「そりゃそうだが……つーか、お前はまだ冒険者登録もできん子供だってのに。足を引っ張るとか言うんじゃねぇよ」

「だってぇー……」

ライトの懸命なアピールは、功を奏するどころか逆にレオニスに軽く窘められてしまった。頬をぷくー、と膨らませて不満そうに俯く。

実際ライトは、レオニスやラウルが空を飛べる中、自分だけが飛べずにお荷物になってしまうことに不満があった。

自分もレオ兄やラウルのように空を飛べたら、もっともっといろんなところに出かけられるのに……自身の非力さに常々不満を持っていたからこそ、ライトは人一倍努力しているのだ。

そんなライトの気持ちを、レオニスもちゃんと理解している。

かつて自分も尊敬するグランの背を追いながら、己の非力さを克服すべくずっと努力してきた。

レオニスがすくっ、と立ち上がり、しかめっ面をしながら俯くライトの頭をくしゃくしゃと撫でる。

「……まぁな。お前が人一倍努力しているのはな、俺が一番よく知っている。今回のことだって、お前は新たな力を得るためにしたんだろ?」

「……うん……」

「それはとても素晴らしいことだ。だが、一つだけ訂正しておこうか」

「???」

レオニスの言葉に、ライトが小首を傾げている。

これまでの話の流れで、何か訂正されるようなところなどあっただろうか?

一体何を訂正されるのか分からないライトに、レオニスがムスッとした顔で告げる。

「お前が力を求める気持ちは分かるが……俺達をあんまり侮るなよ? 子供一人に足を引っ張られるほど、俺達ゃ弱くねぇからな?」

「そ、それは、そうだけど……」

「お前がいることで何か不都合が起きたとしても、それは俺達大人が都度対応すりゃいいだけの話だ。それくらいのことができなきゃ、金剛級冒険者なんて名乗れねぇよ」

「……うん……」

ライトは自身をお荷物だと思っていたが、それは裏を返せばレオニス達の実力を信用しきっていないことにも繋がることに、ライトは気づいていなかった。

力を求めて自身を高めるのはいいことだが、周りの仲間を頼ることも冒険者として大事なことなんだ―――レオニスは暗にそう言っているのだ。

「つーかな? そもそもお前のことをお荷物だと思っていたら、絶対にいっしょに連れていかねぇよ。それこそ縄で柱にぐるぐる巻きに縛り付けてでも、家で留守番させてるわ」

「!!……そうだね!」

レオニスのフォローに、俯いていたライトがパッ!と顔を上げる。

そう、言われてみればその通りで、ライトの同行が本当に駄目だと思えばライトを縄で縛り付けてでも無理矢理留守番をさせるだろう。それがレオニスという男の性格だ。

なのにそうしないということは、例え何か想定外のことが起きたとしてもライトと自身を守り抜く自信があるのだ。

そのことに気づいたライトの顔に、もう憂いはない。

ライトとレオニス、二人の蟠りが消えたところでラウルが二人に声をかける。

「……さ、そしたらぼちぼち行こうぜ。俺もライトの飛ぶ様子を見たいし」

「そうだな。そしたらライトを真ん中にして飛ぼう。俺はライトの右側、ラウルは左側な」

「了解」

「ライト、とりあえず最初は全速力の半分くらいの力で飛んでみてくれ。俺達はライトの飛ぶ力がどれ程のものか、まだ全く分からんからな。それと、疲れたり息切れするようなら早めに言えよ。エクスポなりアークエーテルなり飲むための休憩を取るから」

「うん!」

レオニスの指示に、ライトもラウルも素直に従う。

飛ぶ位置が決まり、その速度も最初は手加減しながら様子見、ということで決まり、レオニスが改めて二人に声をかけた。

「よし、それじゃ行くぞ」

「うん!」

「おう!」

レオニスの掛け声で、ライト達は一斉にふわりと宙に浮く。

そして三人横並びで、コルルカ高原の空を駆けていった。