軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1127話 久方ぶりの天空島

翌日の一月七日。

この日から、ライトのラグーン学園三学期が始まる。

冬休みの宿題もしっかりこなし、どれ一つ忘れることなくラグーン学園に登校するライト。

二年A組の教室には見慣れた同級生達が集まり、皆それぞれに友達と楽しそうに会話をしていた。

もちろんライトもお馴染みのイヴリンやリリィ、ジョゼにハリエットらと合流する。

まずはイヴリンとリリィの「おっはよーぅ!」という超元気な挨拶に迎えられ、その後にジョゼとハリエットの「おはよう」「おはようございます」という穏やかな挨拶が続く。

週末や長期休暇は常にオーバーワーク気味なライトにとって、彼ら彼女らとのゆったりとした交流は本当に貴重な心のオアシスなのである。

そして担任のフレデリクが入室し、まず全員で講堂に移動し全校集会に参加する。いわゆる始業式である。

ラグーン学園理事長オラシオンの話を静聴し、再び各教室に戻る子供達。

教室に戻った後は、冬休みの各種課題を提出する。

その際に、何故かフレデリクがライトの絵日記や書き初めを真っ先に目を通し、心から安堵していたように見えたが。多分気のせいだろう。キニシナイ!

三学期初日ということで、この日は授業はなく半日で終了する。

級友達と別れたライトは、寄り道することなくまっすぐラグナロッツァの屋敷に帰宅した。

玄関ホールに入り、ライトはすぐさま空に向かってラウルに呼びかける。

「ラウル、ただいまー!」

「おう、おかえり、ライト。昼飯いっしょに食うか?」

「うん!制服から着替えるから、ラウルはお昼ご飯の支度しててくれる?」

「了解ー」

ライトの呼びかけに、どこからともなく姿を現すラウル。

例えばもしカタポレンの畑など外に出かけていたら、如何にラウルとてさすがにこんなにすぐに現れることはできないが、今の時間はラグナロッツァの屋敷にいたようだ。

ライトは二階の自室に向かい、ラウルは食堂で昼食の準備をする。

私服に着替えたライトが食堂に行くと、パスタをメインにした昼食が既に用意されていた。

レオニスは不在なので、ライトとラウルの二人きりの昼食タイムである。

早速昼食を食べ始めたライトとラウル。自然と話は午後の予定の有無になっていった。

「ラウルは午後は何するのー?」

「天空島に行くつもりだ。年が明けてから、まだ一度も天空島に行ってないしな」

「あー、そっかー、ラウルは天空島の野菜栽培のお手伝いもしてるもんねー」

「そゆこと」

今日のラウルの午後の行き先に、ライトも納得している。

天空島の野菜栽培自体は、ラウルの熱心な指導により既に軌道に乗っている。バケツを用いた水遣りや実の収穫などは、もうラウルの手を離れて天使達だけでもやっていける。

だが、種苗そのものは未だにラウル頼みだ。ラウルが地上から持ち込む種苗をもとに、天空島の野菜が作られているのである。

そのためラウルは、月に二回程パラスのもとに足を運んでいるのだ。

「ライトは午後はどうするんだ? 何なら俺といっしょに天空島に行くか?」

「そうだねー、それもいいかなー。ぼくもここ最近全然天空島に行ってないから、久しぶりに行きたいな!」

「よし、そしたら昼飯食った後に行くか」

「うん!」

ラウルの天空島行きに、ライトも乗っかる形で午後の予定が決まった。

二人はサクッと昼食を食べ終えて、それぞれ出かける支度をしに食堂を出ていった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

カタポレンの家の外にある転移門から、天空島に移動したライト。

辿り着く先は、世界最古の神樹である天空樹ユグドラエルのすぐ横。

転移門から現れた客人二人に、早速ユグドラエルが声をかけた。

『ライトにラウル、こんにちは』

「こんにちは、エルちゃん!お久しぶりです!」

「よう、エルちゃん。元気にしてたか?」

『もちろんですとも。今日の私の枝葉は、いつにも増して瑞々しいですよ?』

ライトとラウルの明るい挨拶に、ユグドラエルもふふふ、と笑いながら答える。

ラウルやレオニスは、野菜栽培指導や宝珠作りの依頼などで時折天空島を訪ねているが、ライトは昨年九月中旬に野菜栽培のための泉を作った時以来のご無沙汰ぶりである。

時間にして四ヶ月ぶりの天空樹は、相変わらず大きくて圧巻だ。

いつ見ても圧倒される壮大な勇姿に、ライトはその都度感銘を受けている。

そんなライト達のもとに、早速何者かが近づいてきた。

一対の純白に輝く翼をはためかせてライト達のもとに降り立ったのは、パラスだった。

「ラウルにライト、よく来た!特にライトは久しぶりだな!」

「あッ、パラスさん!ご無沙汰してます!」

「よう、パラス。畑の方は順調か?」

「ああ、今日はヴィー様とグリン様の大好物、サツマイモをお昼に献上したぞ!」

「おお、そりゃヴィーちゃんもグリンちゃんも喜んだだろうな」

「もちろんだ!お二方とも、それはそれは大喜びでペロリと平らげてくださった!」

天空島の野菜栽培の順調さに、殊更ご機嫌な様子のパラス。

ペカーッ☆と輝くような眩しい笑顔は、パラスの今の生活がとても充実していることを表している。

そんなパラスの爽やかな笑顔に、ライト達まで嬉しくなってくる。

「そしたら今日は、トマトとキュウリの種と大豆を持ってきたぞ」

「おお、それはありがたい!どれもヴィー様達の大好物だからな、いくらでも栽培したいくらいだ!」

「ヴィーちゃん達に喜んでもらえるなら幸いだ」

ラウルのお届け物である野菜の種に、パラスが破顔しつつ喜ぶ。

しかし、トマトとキュウリは夏野菜の代表格だし、大豆も枝豆は夏で大豆そのものでも収穫期は秋。どちらも一月に植えるような野菜ではない。

そのことを不思議に思ったライトが、ラウルに質問をした。

「ねぇ、ラウル。トマトやキュウリって、夏の野菜じゃないの?」

「地上ではそうなんだがな。この天空島の畑では旬や季節、さらには気温に関係なく全ての野菜が順調に育つことが確認されている」

「そうなの!? すごいね!」

ラウルの答えに、ライトが心底びっくりしている。

冬なのに夏の野菜が育つなんて、一体誰が想像するだろうか。

この天空島には、温室やビニールハウスなどの細工もないというのに。

どういうからくりでそうなるのか、ライトにはすぐには思いつかない。

「……でも、どうして全部育つんだろ?」

「おそらく、アクアの泉の効果じゃないかとは思う」

「あー、アクアの泉の水のおかげかぁ……」

「実際その結果を受けて、俺も年末にカタポレンの畑で試しにトマトを植えてみたんだ。だが、やはり寒さがダメなのか、いくら植物魔法をかけても大きくならなかったんだよな」

「そっかぁー。地上と天空島の畑で何か違うとしたら、アクアの泉くらいしかないもんね」

「そゆこと」

ラウルの推察に、ライトも得心する。

ラウルが言うように、植物魔法はラウルも天使達も使えるのでアドバンテージの差はない。なのに地上のカタポレンの畑では、夏野菜のトマトは成長しなかったという。

その差は一体どこにあるのか。地上と天空島の畑を比較した時に、唯一違う点と言えばアクアの泉の存在しかない。

アクアの泉の持つ力を知ったライトが、思わず感嘆しつつ呟く。

「アクアの泉は、水の女王様と水神のアクアが魔力を込めて作ったもんねぇ。……それにしても、まさか季節の温度差まで飛び越えちゃうとは思わなかったけど」

「全くだ。俺もカタポレンの畑の横に、アクアの泉と同じものを一個作ってもらいたいくらいだ」

「アハハハ……でも、ぼく達には温室や結界とか他の手段があるからね」

「まぁな」

アクアの泉を欲しがるラウルに、ライトが苦笑しつつ窘める。

確かにカタポレンの畑の横にアクアの泉があれば、ラウルの野菜栽培は格段に飛躍することだろう。

アクアの泉があれば温室要らずの結界要らずで、どんな植物でも通年育てられるというのだから。ラウルが欲しがらない訳がない。

しかし、今でもそれなりに環境が整っているライト達がアクアの泉を欲しがるというのは、強欲過ぎるというものだろう。

天空島にアクアの泉を作ったのは、天空島という特殊な環境で水源が全く存在しなかったため。

天使達はほとんど水魔法を使えないというし、自然に降る雨以外に水が得られない天空島で野菜を栽培するためには、水の女王達にアクアの泉を作ってもらう以外に方法がなかったのだ。

そうしたやむを得ないような事情もなく、ただ自分達が楽をしたいがために水の女王達の力を頼るのは違うだろう―――

そうしたライトの考えは、もちろんラウルも理解している。だからこそラウルもそれ以上欲しいとは言わなかったのだ。

「……さて、俺は今から畑の島に行って、ログハウスの手入れなんかをしてくるが。ライトはどうする?」

「えーっとねぇ、ぼくは神殿の島に行って草むしりしたい!」

「草むしり、か? まぁ、確かにあっちの島の草もかなり生えてきてたし、それをライトが草むしりしてくれるってんなら光の女王と雷の女王は大喜びするだろうな」

「でしょでしょ?」

ライトの予想外の行動予定に、ラウルが一瞬だけ不思議そうな顔をした。

出かけた先で率先して草むしりをするなど、確かに不可解な行動にしか思えない。

だが、ライトにとって天空島での草むしりは重要なミッションだ。

天空島の神殿の島に生える草は閃光草。この閃光草もまたクエストイベントに必要な素材であり、その在庫はいくらあっても大歓迎なのだ。

そしてラウルは基本的にライトの行動を否定することはない。ライトに対して絶対的な信頼を置いているからだ。

この小さなご主人様がそうしたいって言うなら、それは必要なことなんだろう―――ライトの行動を不思議がることはあっても、拒否することなく受け入れる。それがラウルという妖精の本質なのだ。

「ぼくも草むしりが終わったら、ログハウスの方を見に畑の島に行くから。それまで待っててね」

「了解。ライトも草むしり頑張れよ。エルちゃん、また後でな」

『ええ、ラウルもライトもそれぞれのお役目を果たしてくださいね』

「はい!いってきまーす!」

ラウルとパラスがふわりと宙に飛び、ライトは転移門を操作し神殿の島に行き先を定める。

地上から来た客人の慌ただしさに、ユグドラエルの枝葉はくつくつと笑うかのようにサワサワと揺れ動いていた。