軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1123話 火の姉妹達の願い

他の神殿守護神達は、固有の名前を持っているのか―――

火の女王が発した問いかけは、それまでずっとガンヅェラをそのままの名で呼んでいた彼女が初めて抱いた疑問だった。

そしてそれは火の女王だけでなく、朱雀のことを『朱雀様』と呼んでいた炎の女王にも当てはまることだ。

ここで、これまでライト達が出会ってきた、火の姉妹を除く他の属性の女王達の神殿守護神について情報整理をしよう。

火の女王が興味を示した、水神アープのアクアとノワール・メデューサのココ=クロエは、湖底神殿と暗黒神殿の神殿守護神だ。

どちらも生誕の瞬間に立ち会った関係で、アクアはライトが、クロエはパパ認定されたレオニスが名付けを行っている。

一方で、それ以外の神殿守護神は愛称もしくは種族名のままで呼ばれていた。

例えば海底神殿のディープシーサーペントは『デッちゃん』、天空神殿のグリンカムビは『グリンちゃん』、雷光神殿のヴィゾーヴニルは『ヴィーちゃん』。これらは種族名が由来の愛称だ。

地底神殿の白虎の『シロちゃん』も、白虎特有の白い毛並みと種族名の『白虎』が由来と思われる。

そして、エリトナ山のガンヅェラと炎の洞窟の朱雀は、特に愛称もなく種族名そのままの名で呼ばれている。

これは、氷の洞窟の玄武や辻風神殿の青龍も同じである。

そうした現状を、ライトとレオニスが火の姉妹に説明していく。

「水の女王のところの『アクア』はライトが名付け親で、闇の女王のところの『ココ』は俺が名付け親だ」

「海の女王様のディープシーサーペントは『デッちゃん』で、光の女王様のグリンカムビは『グリンちゃん』、雷の女王様のヴィゾーヴニルは『ヴィーちゃん』、ですね」

「あー、あと地の女王の白虎は『シロちゃん』だったか?」

「そそそ、そこら辺は皆ぼく達と出会う前に生まれていて、皆生まれながらの愛称っぽいよねー」

ライトとレオニスが語る他所様の状況を、火の姉妹は食い入るように話に聞き入っている。

その後、玄武や青龍など他の四神も種族名のままということを知り、まず火の女王が徐に口を開いた。

『それはつまり……種族名と全く異なる独自の名を持つのは、其の方達が名付けをした者だけ、ということか?』

「ン……まぁ、つまるところそういうことになる、か?」

種族名とは全く違う独自の名前を持つのは、ライト達人族に深く関わった者のみ―――

この事実に気づいた火の女王。身を乗り出すようにして、ズズイッ!とレオニスに迫った。

『ならば!レオニスよ、妾のガンヅェラにも名をつけてはくれぬか!?』

「えッ!? また俺!?」

火の女王からの突然のご指名に、レオニスが己の顔を指差しながら仰天顔で驚愕している。

「そうだね!レオ兄ちゃん、火の女王様のお願いなんだから、ここは叶えてあげなくちゃね!素敵な名付けよろしくね!」

「ラ、ライト、お前まで俺に重圧をかけるんじゃない……」

『よろしく頼んだぞ♪』

『レオニス、火の姉様の期待に応えてくれてありがとう!』

ライトの力強い後押しに、火の姉妹も嬉しそうに喜ぶ。

三者からの期待のこもった眼差しに、思わずレオニスが後退る。

だが火の女王からの直々のご指名とあっては、レオニスも断る訳にはいかない。レオニスは目を閉じ、首を上下左右に捻りながら無い知恵を絞り懸命に考え込んでいる。

すると、ふとレオニスが目を開けて火の女王に問うた。

「名付けの前に、一応聞いておくが……ガンヅェラの性別は? 男女どっちだ?」

『ン? それはもちろん ♂(オス) に決まっておろう? ガンヅェラほど雄々しくも立派な守護神はおらぬぞ?』

「そ、そうなんか……」

レオニスの質問に、火の女王がきょとんとしつつ答える。

ガンヅェラがオス=男の子?だとは、レオニスはおろかライトですら初耳情報だ。

というか、ガンヅェラのような巨大な亀型の生物のオスメスの区別の仕方など、熟知している者の方が圧倒的少数派なのではなかろうか。

とりあえず、ガンヅェラの性別がオスだと知ったレオニス。男の子に相応しい名をつけるべく、再び名付けの思案と模索に戻る。

途中「ぁー……『ガンちゃん』じゃダメか?」と弱々しく尋ねるも、ライトに「そんなのダメッ!それじゃ種族名まんまじゃん、火の女王様が求めてるのは愛称じゃなくて、独自の名前でしょ!」と速攻で却下されてしまう。

その後も「タロ……」「不可!」「チビ……」「却下!」「ポチ……」「犬から離れてッ!」等々、レオニスが何かを呟いてはライトに即却下されるという応酬が続く。

いつぞやに味わった大苦戦の再来に、レオニスどころかライトまでハァ、ハァ、と息切れしてきている。

それはかつて、どこぞの某神殿で繰り広げられた光景を彷彿とさせる。

「な、なら、『タロン』でどうだ……俺の頭じゃこれが限界だぞ……」

「『タロン』、ね……うん、いいんじゃないかな……響きも男の子っぽくてカッコいいし……」

「じゃあ『タロン』で決まり、だな?」

「火の女王様のOKが出たらね……」

ゼェハァ言いながら、何とか案を出した二人。

レオニスが出した『タロン』という名も、おそらくはその少し前に出した『タロ』をちょいとだけ捻ったものと思われる。

だがレオニスも、これでも一生懸命に頑張ったのだ。彼なりに努力したのだ。そこは認められて然るべきである。

というか、そもそもレオニスにカッコいい名付けなど期待してはいけない。もとからそういったジャンルには特に疎いのだ。

『タロン、か……なかなかに力強い響きではないか。妾もその名で良いと思う。妹よ、どう思う?』

『妾も『タロン』が良いと思います!』

『では、これからガンヅェラのことは『タロン』と呼ぶことにしよう』

火の女王が、レオニスがやっとの思いで捻り出した『タロン』という名をガンヅェラにつけると決定した。

それは一応炎の女王の意見も聞いての上だが、火の女王自身も『タロン』という名を気に入ったのだろう。

寝ているガンヅェラ自身に確認することはできないのが残念だが、こればかりは致し方ない。

そして、ガンヅェラに新たな名がついたことを炎の女王が殊の外喜ぶ。

『姉様、エリトナ山の守護神に相応しい名がついたこと、誠におめでとうございます!』

『ありがとう。これもレオニスのおかげぞ。レオニスよ、ガンヅェラの新たな名付け、大儀であった』

「ぉ、ぉぅ……あんた達にそんなに喜んでもらえて良かったぜ……」

ガンヅェラの名付けを寿ぐ炎の女王に、火の女王も嬉しそうに微笑みながらレオニスに礼を言う。

レオニスは未だにヘロヘロのままだが、火の姉妹がとても喜んでいるのを見て少し報われた思いになる。

するとここで、今度は炎の女王がもじもじしながら話を切り出す。

『そしたら今度は、朱雀様の名付けをしてほしいのだが……』

『おお、そうだな。妾のガンヅェラに新たな名がついて、其方の朱雀に名付けを行わぬのは道理に適わぬものな。……ならば、朱雀の名付けはライトに頼みたい』

「え? ぼくですか?」

火の女王からの突然のご指名が、何と今度はライトに向けてなされたではないか。

というのも、レオニスはガンヅェラの名付けで未だにヘロヘロだし、ラウルは今日初めて会ったばかりで名付けを託すには荷が重い。

残る人材はライトのみ、という訳である。

レオニス程ではないが、ちょっぴり意外そうな顔をしているライトに炎の女王が声をかける。

『ライト……妾の我儘ではあるが、朱雀様の新たな名前を是非とも汝に託したい。……頼めるか?』

「もちろんです!……あ、朱雀の性別を教えてもらってもいいですか?」

『朱雀様は 男子(おのこ) だ。是非とも朱雀様に相応しい、格好良い名前をつけてほしい』

「朱雀も男の子なんですね、分かりました!」

朱雀もガンヅェラと同じくオスだと炎の女王から聞いたライト。朱雀の名付けのための思考に入る。

朱雀は見た通り火の化身。新しい名前だって、火が関係した言葉を用いるのが最善だ。

火にまつわる言葉を探すべく、目を閉じしばし考え込んでいたライト。パッ!と目を開いたかと思うと、炎の女王の顔を真っ直ぐに見据えつつ意見を出した。

「人族の言葉で、『火』という意味がある『フラム』はどうですか?」

『フラム……どことなく高貴さが漂う名で、妾はとても良いと思うが……朱雀様、火の姉様、ライトが今言うた『フラム』という名はどうでしょうか……?』

「ピィピィ♪」

『実に良き名だ。朱雀様もこの通り喜んでおられるし、妾もその名で良いと思う』

ライトの出した案『フラム』という名は、満場一致で即採決された。新たな名の響きの良さに、炎の女王はもちろんのこと朱雀も火の女王も喜んでいる。

特に朱雀など、両翼をパタパタとばたつかせて大喜びしている。どうやら朱雀自身『フラム』という名を 甚(いた) く気に入ったようだ。

そんな朱雀の様子を見て、炎の女王が朱雀を抱き寄せて静かに語りかける。

『そうですか、それ程までにお気に召されましたか。ではこれから朱雀様の名は『フラム』と相成りました。妾もこれからフラム様に、ますます誠心誠意お仕えすることをここに誓います』

「ピチチチ♪」

朱雀の背中をそっと撫でながら、さらなる忠誠を誓う炎の女王。

そんな炎の女王達の和やかな交流を、ライトと火の女王はにこやかに眺めている。

そしてレオニスはレオニスで、サクッ☆と名付けを済ませてしまったライトの有能さに「お、俺もライトみたいに、名付けセンスに恵まれたかった……」と項垂れ、ラウルは「さすがは小さなご主人様だ!」と心から感嘆かつ賞賛していたのだった。