軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第112話 アイギスでの打ち合わせ

まずは奥の作業場の隅にある、応接用の小さなテーブルと椅子のある場所に五人が集まった。

横長の向かい合わせにはフェネセンとカイ、セイとメイが座り、ライトは邪魔にならないよう短辺の方の椅子に座り、四人の打ち合わせ風景を見守る。

「ンーとねぇ、レオぽんから既に話は聞いてると思うけど、これ鳥の足に着用させるから単なる指輪状のものではダメなの。取り外ししやすい形状でないと使えないの」

「でしたら、鎖状にするとかはどうです?」

「ンー、鎖状で表面積が増えるのはいいことなんだけど、それだと魔法陣代わりの文字の刻印が入れられなくなるんだよねぇ。何しろ物自体がかなり小さいし」

「でしたら、ここは…………」

「できれば、こんな感じで…………」

アイギス側は主にカイが中心となって、話を進めている。

聞くところによると、カイは鍛冶や裁縫の主戦力、セイはデザインと素材の買い出し担当に作業場でのカイの補佐、メイは接客や店番に経理全般と空いた時間に二人の姉の補佐、という役割分担がなされているのだとか。

そんな話を、ライトと同じく見守るだけで手持ち無沙汰なメイから聞いているうちに、どうやら足輪の製作方針がまとまったらしい。

「これでよし!んじゃ、日数ちょっとかかっちゃうけど、この仕様でよろしくねーぃ!」

「かしこまりました、フェネセン閣下」

「んじゃお茶しよう、お茶お茶おやつーぅ!今日のお菓子、吾輩とっても楽しみにしてたのーん!」

「ふふふ、分かりました。じゃああちらの応接間に移動しましょうか」

「やったー!カイにゃん、セイにゃん、メイにゃん、ライトきゅん、早く行こ!行こ!」

「「…………!?」」

ウッキウキで小躍りしながら、早速応接間のある方にいそいそと移動するフェネセン。

それに対してセイとメイは、フェネセンから『セイにゃん』『メイにゃん』と呼ばれたことに、顎が外れそうなほどに驚愕の色を隠せない。

「えーっと、ぼくがフェネぴょんに言いまして」

「ライト君が……?」

「はい。さすがに『セイみょん』や『カイぽよ』はアレだと思ったので……ここに来る道すがら、フェネぴょんに言ってみたんです」

「セイさんもメイさんも、カイさんととっても仲良しでお姉さん大好きなんだから、カイさんと同じ『セイにゃん』『メイにゃん』に揃えて呼んであげれば、カイさん達ももっと喜んでくれるんじゃないかな?って……」

「そうだったの……」

妙齢の女性達相手に、にゃん付けで呼ぶというのも相当微妙っちゃ微妙だが、それでもみょんやぽよに比べたらだいぶマシなはずだ。

「ライト君にまで気を遣わせちゃって、すまなかったわね」

「いえいえ、そんな……ただ、ぼくは皆がすれ違うことなく仲良くなれたらいいな、と思っただけですので……」

「その気持ちだけでも、とても嬉しいわ」

「それに……ライト君、貴方フェネセンにとっても気に入られているのね」

「えっ?そうなんですか?」

セイから思いもかけぬことを言われて、ライトはちょっとびっくりした。

「そうよ?多分というか、間違いなくフェネセンはライト君のこと大好きで仕方ないと思うわ」

「セイ姉さんもそう思う?私もそう思ったわー」

「でしょでしょ?フェネセンが人の言うことを素直に聞いて受け入れる時点で、その人のこと相当大好きよねー」

「そうそう。だからね、ライト君。貴方の提案を受け入れて、私達のことをにゃん付けで呼ぶということ自体が、フェネセンが貴方のことを信頼して受け入れている証拠なのよ」

「だって、私達がいくらやめろと言っても『セイみょん』『カイぽよ』は直らなかったからね?」

半目になりながら、遠い目をするセイとカイ。

フェネセンは人の心の機微に疎い傾向が強いが、それでも自分の知る誰かが喜ぶかも?という提案ならばすんなり受け入れるあたり、そこまで性悪とか性格が悪いという訳ではないのだ。

ただ頭ごなしにやめろ、と言うだけではフェネセンに伝わらなかっただけで、むしろ言い方さえ変えれば暴走する前にちゃんとコントロールできる可能性だってある。

問題は、そのコントロールできそうな人が指折り数える程度しかいないのと、フェネセン自身がかなりの風来坊なのでそういう人が身近にずっといてあげられないことか。

そんな会話をしながら、フェネセンのことをもっと理解してくれる人が増えたらいいなぁ、とライトは思いを馳せていた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「今日のおやつは何かなぁー。……やったぁ、アップルパイだぁ!」

ワクテカしながら待っていたフェネセンが、飛び上がって喜ぶ。

セイが切り分けて持ってきてくれた差し入れの品は、ラウル特製アップルパイだった。

思えばライトが初めてラグナロッツァの屋敷を訪れた時、ラウルが初めて出してくれたおやつもアップルパイだった。

ライトがカタポレンの家とラグナロッツァの屋敷を往復するようになってから、まだそんなに月日も経っていないというのに何だかとても懐かしい思い出のように感じる。

「まぁ、とっても美味しいわねぇ」

「カイにゃん、でしょでしょ!ラウルっち師匠の作る食べ物は、おやつはもちろんご飯だって何だって美味しいからねぃ!」

「これならお店に並べても遜色ないというか、絶対に大人気売り切れ間違いなしじゃない?」

「ていうか、フェネセン、その『ラウルっち師匠』って、何?貴方その人に弟子入りしたの?」

カイとセイがアップルパイの味を絶賛し、メイが耳聡く師匠という言葉に反応した。

「そうなの。吾輩大魔導師だから、魔法や魔術のことなら誰にも負けないんだけどね?でも他のこと、特に料理のことなんて門外漢もいいとこでねぇ」

「今回、料理の達人であるラウルっち師匠のもとで、料理とは何ぞや?ということを、徹底的に学ぶことになったのだー」

胸を張りながら、えっへん!とふんぞり返るフェネセン。

何故そこでふんぞり返るのか甚だ謎であるが、そんな疑問を抱いてはいけない。

何故ならば、彼は大魔導師フェネセンなのだから。彼の行動理由など、大半はそれひとつで十分なのである。

「へぇー、そうなの。珍しいこともあるもんね、貴方が誰かに弟子入りするなんて」

「でも、何かを学ぶというのはとても良いことね」

「そしたら、いつかフェネセン閣下お手製のアップルパイなんかもいただける日が来るのかしら?」

「もっちろん!吾輩天才だからねぃ、何でもすぐに上達しちゃうもんね!アップルパイなんてすぐに作れるようになるから、カイにゃん達も楽しみに待っててねぃ!」

アイギス三姉妹がそれぞれに感想を口にする。

それに対し、得意気に請け負うフェネセン。

その横で、ライトはというと……

『アップルパイ な(・) ん(・) て(・) 、だとぅ……?百億年早ぇわ、この戯けが!!』

腕組みして仁王立ちするラウルが『ズンドコズゴゴゴゴ……』と怒りのオーラを撒き散らしながら眼光鋭くフェネセンに怒鳴る姿が、ライトの脳裏に過っていた。

「フェネぴょん、今のそれ……ラウルに聞かれたら、ものすごーく叱られると思うよ?」

「ヒョエッ……ライトきゅん、今のはナイショね?ラウルっち師匠には絶対に言わないでね?ね?ね?」

ライトからの思わぬ忠告に、フェネセンはビクンッ!と反応した後、慌ててキョロキョロと周囲を見回してから、唇の前に人差し指を立ててライトに必死に懇願する。

その姿が何とも可愛らしく、ライトとアイギス三姉妹はにこやかに笑ってしまうのだった。