軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第110話 ヒヒイロカネ

アイギス三姉妹がキャイキャイと戯れている横で、レオニスは難しそうな顔をしてブツブツと呟いている。

「んー、やっぱヒヒイロカネを直接採取しに行かなきゃならんか……はて、ヒヒイロカネの産地ってどこだったかな」

「ねぇ、レオ兄ちゃん、そのことなんだけどさ……」

「ん?何だ、ライト。どうした?」

ライトがレオニスに小声でそっと話しかけた。

「あのヒヒイロカネって金属?多分あるよ」

「何?どういうことだ?」

「ほら、こないだ魔石用の水晶採掘で幻の鉱山行ったでしょ?」

「ああ、それがどうかしt…………まさか!」

「うん、あの時多分拾ってて、そこそこの数あると思うよ。あの赤くて綺麗な金属、ぼく見覚えあるもん」

「マジか!なら今ちょっとここで空間魔法陣から出してみるわ!」

ライトからとんでもなく重要な情報を聞き、レオニスは急いでカイ達のもとに近づいた。

「カイ姉!大きめの籠があったら貸してくれ!」

「え?大きな籠?いいわよ、ちょっと待っててね」

カイは作業場の棚から大きめの籠を取り出し、レオニスに渡した。

「これくらいの大きさでいい?」

「ああ、あとこの籠の中に敷ける生地があったら、すまないがそれも貸してくれ」

「分かったわ。…………これでいい?」

カイは手近にあった無地の大判の生地を、レオニスに手渡した。

生地を受け取ったレオニスは、籠の中に敷いてからその上に空間魔法陣を出現させた。

しばらくすると、空間魔法陣からいくつもの粒状の金属が出てきて、籠の生地の上にバラバラと落ちていった。

その金属の色艶、輝き、それらは紛れもなくヒヒイロカネである。

「ライト、でかした!」

「良かったぁ!これで足輪の材料、足りそう?」

ライトとレオニスは、予想以上にヒヒイロカネがたくさん出てきたことに、大いに喜ぶ。

籠の中に散らばったヒヒイロカネの粒をひとまとめにすると、レオニスの両手に山盛りに掬っても零れ落ちるくらいの量があった。

それを見たカイは、ライトに向かって嬉しそうに言った。

「ええ、これだけあれば十分足りると思うわ」

「うわー、ヒヒイロカネがこんなにたくさん!」

「これ、売ったらものすごい金額になるんじゃない?」

カイとともに、レオニスの両の手のひらいっぱいに集まったヒヒイロカネを見たセイとメイも、その量に驚嘆を隠せない。

このヒヒイロカネという金属素材、あまりにも稀少性が高く、また産出量もごく僅かなため、刀身など大量に使う部位には到底賄いきれない。

なので、普通は小豆ほどの粒状にしたものを刀剣の柄や鞘に嵌め込んだり、象嵌で装飾として埋め込んで用いるのが一般的なのだそうだ。

そして、ヒヒイロカネを組み込んだ武器や防具は、たとえそれが小豆粒程度の極小の合金でも魔力耐性がかなり跳ね上がり、持ち主の魔力も大幅に増強してくれるという。

その稀少性以上に有用性が高く、武器屋、防具屋などの鍛冶系のみならずアクセサリー屋などからも需要が高い。

だが、腐るほどある需要に対して供給がほぼ皆無に近いため、セイが持ってきた極小のひと粒でさえ相当な値段がつくらしい。

そんな稀少なヒヒイロカネを、足輪の素材として使うとは何とも贅沢極まりない剛毅な話なのだ。

「カイ姉、とりあえずこれで足輪10個作ってくれるか?」

「ええ、任せて。材料は確保できたから、次は直径とか形状などの細かい設計や仕様を詰めたいのだけど」

「フェネセンに明日アイギスを訪ねるように言っておくから、フェネセンの要望を聞いて設計してくれるか?」

「分かったわ。フェネセン閣下にお会いするなんて、とても久しぶり。ここに来てもらえるなら、私も嬉しいわ」

カイが嬉しそうに微笑む横で、セイとメイが何やら渋い顔をしている。

「フェネセン……あいつ、カイ姉さんにベタベタくっつくからムカつくのよねー」

「それもだけど、私達のこと変な呼び方するのが一番始末に負えないわ」

「??何て呼ばれてるんです?」

ライトはその変な呼び方というのが気になって、二人に聞いてみた。

「私は『セイみょん』、たまーに『セイみょいーん』になる」

「私は『メイぽよ』、たまーに『メイぽにょにょん』になる」

「ブフッ」

二人して半目の能面顔になりながらぼそりと呟く。

想像の斜め上を行く答えに、ライトは思わず噴き出した。

距離なしで変な呼び名をつけるのが得意?なフェネセンらしい話だ。

「あいつが大魔導師とか、ホント世も末だと思うわぁ」

「全くよね、もう」

「……セイさんとメイさんは、フェネぴょんのことが嫌いなんですか?」

セイとメイ、二人してブチブチ言っている。

その様子に、二人がフェネセンを心底嫌っていたらどうしよう、明日ここに来てトラブルになるんじゃないか?とライトは心配になる。

「ん?嫌い、というかー……まぁ別に、心底憎いとか、死ね!ってくらいに大嫌いって訳じゃないわよ?」

「そうそう、あんなんでも大魔導師と呼ばれるだけの実力と才能を持っているってことは、私達も知っているし」

「そこまで悪いやつじゃないってのは、分かるのよ」

「ただねぇ……」

「ただ?」

何だかラウルと似たようなことを言うセイとメイ。

「天才故の、奇天烈行動っての?まぁ私達のような凡人には理解しがたいことが多過ぎるのよね」

「何しろ突飛な言動が多過ぎて、手に負えないというか。普通の人間にはついていけないってことよ」

セイとメイは、揃ってため息をつきながら愚痴をこぼす。

「もっとも?カイ姉さんは、そんなこと全く気にしないというか、気づかない人だから。フェネセンに対しても普ッ通ーーーに接してるけど」

「それがまたあいつには嬉しいらしいわ。うちに来れば私達なんかそっちのけで、ずーっとカイ姉さんにべったりくっついてるし」

「そしてまたカイ姉さんも優しい人だから、困った顔しながらもいちいち相手してあげちゃうのよねー」

「カイ姉さんの呼び方だって『カイにゃん』一本だからね?私達とは大違いすぎて、いっそ清々しいわ」

何ともフェネセンらしい話である。

「ライト君も、その様子だともうフェネセンに会ったんでしょ?『フェネぴょん』なんて呼んでるあたり、もう毒されちゃった?」

「あー、それは……フェネぴょん本人が『これが吾輩の愛称だから、そう呼んでね!』と言ったんで……」

「あいつ、とうとう自分にまでへんちくりんな呼び方つけるようになったのね……」

カイが半ば笑いながら呆れた顔で呟く。

「ていうか、ライト君もあいつに変な呼び方されてない?」

「アハハハ……危うく『ライざえもん』にされるところでした……」

「「ライざえもん……」」

「レオ兄ちゃんが先手を打って阻止してくれて、危うく回避しましたけど」

「あらまぁ、レオもたまには良い仕事するわねぇ」

「ホントホント、それは立派なお手柄だわ。後で褒めてあげなくちゃ」

ころころと笑いながら、レオニスを褒め讃えるセイとメイ。

自分の名前が聞こえたのか、カイと打ち合わせを続けていたレオニスがこちらを向いて声をかけてきた。

「ん?何か呼んだか?」

「ええ、ライト君からレオが良い仕事をしたって聞いてたところよ」

「良い仕事?俺がか?」

「そうそう、あんた、ホントに良い仕事したわね!」

「どの仕事のことか分からんが、俺は良い仕事しかしないぞ?」

「ハイハイ、ソウデスネー」

「あッ、メイ、何だその如何にも心のこもってないおざなりな返事はッ」

世界にその名を轟かす金剛級冒険者も、アイギス三姉妹の前ではただの年下の幼馴染に戻る。

変な腹の探り合いも、取り入ろうとして媚び諂うこともない、昔からの仲間ならではの気の置けなさが心地良い。

その心地良さが何よりも嬉しく、安らげるレオニスだった。