軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1096話 黒い紳士と白い乙女

その後ライト達は、三つのグループに分かれてお茶会や会話を楽しんだ。

まず一つ目のグループは、ライトレオニスと地の女王。

敷物の上に用意された、様々なスイーツや飲み物を堪能しながらまったりとした話をしていた。

「地の女王様も、地上に出たい!とか思ったり、実際に地上に出かけることはあるんですか?」

『ンー、そうねぇー……地上のどこかで天候不順が長く続いたり、あるいは激しい地殻変動が起きた時には、私が直々に地上に赴く時はあるわねぇー』

「それ以外は、あまり出かけないというか、興味は全くない……?」

『全く興味がない訳ではないんだけどー。この地底世界でも十分楽しく過ごしているから、特に不満はないのよねぇー』

ライトが敷いた敷物の上でぺたんこ座りをしながら、出された紅茶を啜る地の女王。

時折クッキーを食べては紅茶を飲む、その愛らしい姿にライトはすっかりメロメロである。

一方ユグドランガは、白銀の君と和気藹々と会話をしている。

『失礼ですが、ランガ様は樹齢おいくつであらせられるのですか?』

『地底世界しか知らぬ我には、齢を数える術がなくてな……だが、エル姉様と我とシアはほぼ時を同じくして生まれたので、エル姉様達とほぼ同い年と考えれば間違いない』

『何と……エル様やシア様と同じということは、ランガ様も五千年も生きておられるのですね……!』

ユグドランガの樹齢が五千年にも及ぶことを聞き、白銀の君が感動している。

竜族も長命種族ではあるが、白銀の君から見ても五千年とは気の遠くなるような年月である。

そして三つ目のグループは、ウィカと白虎のシロ。

敷物の上でちょこんと座るウィカの前で、シロがもじもじと身体をくねらせている。

『あ、あのぅー……貴方様のお名前を、改めて今一度お尋ねしてもよろしい、かしら?』

『ボクの名前はウィカ、水の精霊だよー。君は確か、シロちゃん、だったよね?』

『ハ、ハイ!……てゆか、イケネコ様に名前を覚えてもらえてたなんて……キャーーー!幸せ過ぎて死ねるぅぅぅぅ!』

涼やかな糸目笑顔で微笑みながら、白虎の名を呼ぶウィカ。

その真ん前で、ウィカに名を呼んでもらえたことを大喜びしているシロ。前脚で真っ赤な顔を覆い隠しながら、ゴロゴロと左右に大きく転がり悶絶している。

前回の出会いでは、地底の池を泳いでいたシロがライト達に呼ばれて現れたウィカに一目惚れしていた。

だが、池で泳いでいたシロがずぶ濡れの姿を恥じて早々にウィカの前から逃げ出してしまった。

そのため、白虎はウィカときちんとした挨拶を交わしていなかった。

あの日以来、そのことをずっと悔み続けていたシロ。次にあのイケネコ様にお会いできたら、今度こそちゃんとご挨拶しよう!と心に固く誓っていたのだ。

そんなシロの念願叶い、晴れて名前を明かしたシロとウィカ。

外見はネコそっくりな者同士、なかなかにお似合いに見える。

いや、似た者同士でもそこは神殿守護神のシロの方が、使い魔のウィカよりもはるかに格上なのだが。

己の前で思いっきり悶絶するシロを見ながら、ウィカがニコニコとした笑顔になる。

『シロちゃんって、結構面白い子だね☆』

『お、面白い!? ……あーでも怖がられたり嫌われたりするよりはね、全然いいわよね……』

『え? 君みたいに可愛くて面白い子を、嫌ったり怖がるヤツなんているの? そんな分からず屋はね、放っとけばいいよ!』

『……ウィカ様……』

率先してシロを擁護し憤慨するウィカに、シロは感激の眼差しでウィカを見つめる。

シロは、これまでの言動からも分かるように、実は中身はとても可愛らしい女の子である。

だが、白虎という見た目のせいで、他者から必要以上に怖がられるきらいがあった。

確かに虎というだけでも既に相当厳ついイメージがあるのに、そこへきてこの巨大な体躯となれば怖がる者が出てくるのも無理はない。

だが、その度に彼女の繊細な心は傷ついてきた。

そんな彼女の心を、ウィカは優しく包み込むように肯定してくれたのだ。

しかし、シロはまだ自分に自信が持てないでる。

それは神殿守護神としての力云々ではなく、女の子としての魅力に自信がなかった。

シロはおずおずとした様子で、ウィカに問いかける。

『ウィカ様は……ワタシのことが、怖くはないの?』

『怖い? どうして?』

『だって……ワタシはウィカ様より何倍も身体が大きくて、見た目もゴツいし……』

『そりゃ確かに、見た目だけならシロちゃんの方がずっと大きいけど。でもボクは、知っているよ? 君がとても素敵で可愛らしい女のコだってことをね!』

いつもの糸目をさらに細めて、ニパッ☆と笑うウィカ。

ウィカもまた特別な精霊であり、見た目よりもその本質を見抜き中身を評価しているのだ。

そう、ウィカもまた見た目の愛らしさに反して中身は男前なのである。

そんなウィカに、シロはますます惚れてしまう。

その好感度はもはや留まることを知らず、天元突破の勢いである。

『ウィカ様……ワタシ、ウィカ様に似合う女になってみせますわ!』

『ン? 君はボクなんかよりもっと高位の存在でしょ?』

『ボクなんかより、なんて言わないでくださいまし!ウィカ様は、ワタシの理想の殿方なのですから!』

『……そうなの? そんなこと言われたことないから、何だかすっごく恥ずかしいけど……でも、嬉しいな!』

シロに『理想の殿方』と言われたウィカ、照れ臭そうにしている。

ウィカがこのサイサクス世界にうまれてから、まだ一年とちょっと。

その短い生の中で、異性からこんなに持ち上げられたことは今まで一度もない。

まさにモテ期到来!である。

そんなウィカとシロの様子を、いつの間にかライト達も見つめてニコニコとしている。

「ウィカ、モテてるねぇ」

「もともと物怖じしない性格だし、白虎とも話が合うようだな」

『うちのシロちゃんはねー、とっても可愛らしい女のコだからねぇー♪』

ふくよかな地の女王が、ニコニコ笑顔でシロの女子力アピールをしている。

そしてユグドランガの枝葉もサワサワと揺れる。

それはまるで『うむ、うむ』と満足げに頷いているかのようだ。

『シロも良き伴侶に巡り会えたようだな』

『精霊と守護神、何かしら惹かれ合うものがあるのでしょう』

ユグドランガだけでなく、白銀の君までにこやかな笑顔でウィカ達を見つめている。

黒猫姿のウィカと白虎のシロ。色だけでなく体格も大小異なる、見た目だけならデコボコで正反対同士。

そんな二者の仲睦まじい交流に、周囲は心癒やされていた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「……さて、俺達の目的はほぼ達成された訳だが。地の女王、帰る前に一つ、お願いがあるんだが」

『何ナニー?』

「俺達が地の女王の無事を確認したという証として、勲章をもらえないだろうか。できれば俺とライト、二人分の勲章をもらいたい」

『ああ、勲章ねー。その程度なら、お安い御用よー』

レオニスからの要望に、地の女王が快く引き受ける。

いつもなら、属性の女王に会った時に必ずもらっていた勲章。

前回はシロの逃亡時に、地の女王まで問答無用で連れ去られてしまったため、勲章をもらいそびれていたのだ。

この勲章がなければ、他の女王達に地の女王のもとを訪ねたという証明ができない。

故にレオニスは、地の女王に勲章をおねだりしたのだ。

地の女王が手のひらに魔力を集め、彼女だけが生み出せる地の勲章を作り上げていく。

一つ目の勲章はレオニスに渡し、すぐに作り出した二つ目はライトに渡した。

これでライト達は、晴れて地の女王のもとを訪ねたことを証明できるようになった。

「地の女王様、ありがとうございます!」

『いえいえ、どういたしましてー。私も今日は美味しいものをご馳走になったし、アナタ達とのお茶会?でのお話も、とても楽しかったわぁー』

「また遊びに来てもいいですか?」

『もちろんよー。いつでもいらっしゃーい』

嬉しそうな顔で勲章をもらった礼を言うライト。

そのついでにまた遊びに行く約束を取り付けるとは、実にちゃっかりしている。

そしてライト達はお茶会の後片付けを始めた。

その様子を見た白銀の君やウィカも、それぞれに別れの挨拶をし始めた。

『ランガ様、今日はとても有意義で楽しいひと時を過ごさせていただきました。心より御礼申し上げます』

『フフフ、其方は本当に生真面目よの。次にここに来る時には、もっと寛げるようになると良いのだが』

『ありがたくももったいないお言葉……そのお気持ちだけで、十分でございます』

『ラグスにもよろしく伝えてくれ。そしてこれからも、どうかラグスのことを支えてやってほしい。よろしく頼む』

『もちろんでございます!』

ユグドランガの雄大な姿を見上げながら、別れの挨拶をする白銀の君。

ユグドラグスを思う心は同じ。その同じ思いを通して、ユグドランガと白銀の君の間にも固い絆が生まれていた。

そしてウィカとシロも、別れの挨拶を交わしていた。

『ウィカ様、もう地上にお帰りになられてしまうのですね……』

『うん、ライト君達もそろそろ帰る時間のようだし。ボクもおうちに帰らないとね』

『寂しゅうございますわ……』

『またボクも、ライト君達といっしょにここに遊びに来るよ。だからシロちゃんも泣かないで、ね?』

大粒の涙を浮かべながら、ウィカに頬ずりするシロ。

シロが零す涙、その一粒だけでウィカはびしょ濡れになりそうな勢いだ。

『それに、君にもいつもともに過ごしてくれる大事な仲間がいるじゃないか。ね?』

『……そうですね。ワタシには、チーちゃんもランガ君もいますものね』

『でしょ? また皆でお茶会しようね☆』

『……ハイ!』

涙ぐむシロを懸命に励まそうとするウィカの言葉に、シロも次第に笑顔を浮かべる。

その笑顔はどことなくぎこちなくて、少しだけ無理をしているように見える。

だが、ウィカが言った言葉は正しい。

白虎には、地の女王という常にいっしょにいてくれる仲間がいる。そして地の女王だけではない、冥界樹ユグドランガもまたシロと仲良しであり、かけがえのない親友なのだ。

全員別れの挨拶を済ませたところで、レオニスが地の女王達に改めて声をかけた。

「今日はいろいろとありがとうな」

『どういたしましてー』

「また皆さんに会いに来ますね!」

『いつでも来るがよい。心待ちにしておるぞ』

『またねー☆』

『皆、絶対にまた遊びに来てねー!』

まず白銀の君が一礼をした後、設置したばかりの神樹族用転移門でシュマルリ山脈に瞬間移動していく。

白銀の君の移動を見届けたら、次はライト達の番だ。

ライトとレオニス、そしてライトの頭にちょこんと乗っかったウィカ。

神樹族用転移門の中に入り、地の女王や白虎、ユグドランガに向けて手を振りながら消えていく。

スッ……とライト達の身体が消えたのを見届けた、地の女王と白虎とシロ。

再び地底世界に静寂が戻る。

『……地上からのお客様は、本当に賑やかよねぇー』

『ああ。その分帰った後は、若干寂しく感じてしまうがな』

『ランガ君ー、そしたら今日はランガ君のお膝の上で寝てもいーい?』

『もちろんいいとも』

『シロちゃーん、今日はランガ君といっしょにねんねしようねぇー』

『……うん!』

祭りが終わった後のような静けさは、普段なら感じないような人恋しさをも運んでくる。

その寂しさを埋めるべく、地の女王は白虎のシロとともにユグドランガのお膝、幹に近い根元でゴロン、と寝転ぶ。

程なくして、地の女王とシロのスヤァ……という寝息が聞こえてくる。

地の女王とシロのぬくもりを樹皮に感じながら、ユグドランガもしばし微睡みの中に落ちていった。