軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1066話 新たな門出と祝い

その後の新ラグナロッツァ孤児院に関する諸々は、全て滞りなく事が進められた。

土曜日の開所式には多数の関係者が参加し、大々的に執り行われた。

参加者には、ラグナ大公の名代という肩書で来たラグナ官府のお偉いさんを始めとした貴族の方々、工事を請け負ったガーディナー組の会長、シスターマイラが所属する修道院長など、錚々たる面子が名を連ねる。

中でも注目されたのは、ラグナ神殿から来た二名。新大教皇ケニー・フォレストヒルと、新総主教サン・ド・レーヴェである。

ラグナ教のトップツーが、揃って同じ行事に出席するのは異例中の異例だ。

だが、どちらもラグナ教の指導者についたばかりで日も浅い、という事情がある。そして孤児院とは、数ある慈善事業の中でも最もイメージアップ効果が見込める。

ラグナ教としては、イメージアップも兼ねてケニーとサンの両名の顔と名を広く知らしめよう!という思惑もあり、二名での参加が決定したのだ。

ケニーは開所式の中盤で、新ラグナロッツァ孤児院のこれからの明るい未来を祈願する儀式が行われた。

この新大教皇ケニーは抜群に見目麗しく、ただそこにいるだけで周囲の人々は顔を赤らめつつ『ほぅ……』とため息を漏らす程の美男子。その笑顔の眩しさは、まるで投光器かサーチライトの如き輝きを放つ。

実際開所式に立ち会ったレオニスとラウルも、ペカーッ☆と光り輝くケニーの尊顔があまりにも眩し過ぎて直視できなかったくらいだ。

そんなケニーは、新孤児院の礼拝堂と生活のための別棟の間に立ち、建物そのものに祝福をかけていく。

それはまるで空から降ってきた雪の結晶のように、天からキラキラとした光が湧いて建物全体を包み込んでいた。

これは結界の役割も果たす浄化魔法の一種で、悪しき存在や強い悪意、害意を持った者を強制的に外に排除する効果がある。

礼拝堂という場にはぴったりの贈り物であり、普段から女子供しかいない孤児院の警備としても最適である。

ケニーの祝福の次は、サンの出番だ。

華やかなケニーとは正反対の陰鬱な顔で、サンが前に進み出る。

ひと仕事を終えて後ろに退るケニーと入れ替わり、彼もまた天に向けて高く両手を掲げる。

すると今度は地面がゴゴゴ……と揺れ出したではないか。

すわ地震か!?と身構える参加者達。だがその揺れはほんの十秒程度で収まり、以後は一日中揺れることはなかった。

その後サンが解説したところによると、先程の術は物理的な防御結界を張ったのだという。

それは例えば本物の地震だったり、人魔問わず何らかの襲撃が起きた際にも建物が崩れたりしないように、ということらしい。

新孤児院は煉瓦を用いて作られたものなので、歳月面での耐久性は高いが地震などの物理衝撃にはからっきし弱い。そうした弱点を補ってくれるのは、非常にありがたいことだ。

そしてこの物理的防御結界は、ケニーの浄化魔法結界同様に何事もなければ五十年は持つそうなので、新孤児院の警備面は完璧である。

その他お偉いさんのスピーチも無事終わり、午後は立食ガーデンパーティー形式の交流会となった。

パーティーの食事はラウルが総指揮を取り、配膳は孤児の年長者数人が手伝っている。

最初のうちのマイラは、子供達に給仕役を務めさせることに難色を示した。

ラグナロッツァの大物人物達が集う場所で、もし子供達が粗相をしたら……と心配したのだ。

だが、レオニスの『やるかやらないかは、子供達に意見を聞いて尊重しよう』という言葉にマイラは納得し、子供達に意見を聞いた。そしてその答えが『やる!』だったのだ。

子供達は子供達なりに、少しでも孤児院の役に立ちたかったのだろう。

子供達が懸命に働く姿を、ガーデンパーティーの一番隅のテーブルにいたレオニスが微笑みながら見守っている。

だが、金剛級冒険者であるレオニスを周囲は放っておかない。特に貴族達はレオニスと直接接点を持つ機会など滅多にないので、これを機にお近づきに……という下心を持ってすり寄ってくるのがほとんどだ。

最初のうちは適当にあしらっていたレオニスだったが、あまりにもそれが続くとさすがに苛立ちを隠せなくなってくる。

もしここにラウルがいてくれれば、KY大魔神のオーラを全力で発揮して追い払ってくれたことだろう。

しかし、残念ながら今日のラウルはパーティーの食事の用意その他で裏方に回っている。

そんなラウルを呼びつけるのも忍びないし、さてどうしたもんか……とレオニスが考えていると、そこにマイラが来た。

「レオ坊、今日も来てくれてありがとうね」

「シスター!そりゃそうさ、この新しい孤児院の目出度い門出だ、何が何でも駆けつけるさ!」

「フフフ、あの鼻タレ食いしん坊がこんなに立派になって……レオ坊、お昼ご飯代わりにたんと食べていっておくれ。……といっても、この食事を用意してくれたのもレオ坊だけどね」

「ったく……俺はもう鼻タレ小僧じゃねぇぞ? つーか、この俺を小僧扱いするのなんて、シスターくらいのもんだぞ?」

未だにレオニスのことを子供扱いするマイラに、レオニスは不服そうな顔をしつつ文句を言う。

だが、レオニスの顔はそこまで不満に満ちてはいない。むしろ何だか照れ臭さを隠そうと必死に誤魔化しているように見える。

「それよりシスター、シスターもラウルの美味い飯を食ってくれてるか?」

「ああ、こんなご馳走を昼間から食べられるなんて、本当に贅沢だねぇ」

「これと同じものを明日、孤児院の子供達にも食べさせてやるからな」

「ありがとう……ライト君にも小さい子達の面倒を見てもらって、本当に申し訳ないけど助かったよ」

レオニスはマイラと言葉を交わしながら、空き皿の上にオードブルやサンドイッチなどを盛り付けてマイラに渡す。

マイラはそれを受け取り、一口、二口、感慨深そうに食べていく。

マイラが言うように、今日のライトは旧孤児院の方で小さい子達とお留守番をしている。

マイラは開所式に出席しなければならないし、レオニスもラウルもマイラとともに開所式の参加者となっている。その上大きい子達も、立食パーティーの給仕のために新孤児院の方に来ているときた。

残された小さい子達だけで留守番させるのは不安しかなかったのだが、ともに留守番役を買って出たのがライトだった。

「ま、ライトのことなら心配すんな。ライトだって孤児院の子供達と何度もいっしょに遊んでて、とっくに顔見知りの仲良しだし」

「そうだね……それに、レミに似て年下の子供達の扱いがとても上手いようだしね」

「今頃あっちでも、皆で昼飯食ってんじゃねぇかな」

「あのオンボロ建物とも、今日でお別れだねぇ……」

「………………」

少しだけしんみりとするマイラに、レオニスは黙り込む。

レオニスもディーノ村のオンボロ孤児院で育った身だけに、マイラの気持ちがよく分かる。

レオニスが幼少期を過ごしたディーノ村の孤児院も、大概酷いオンボロ建物だった。

建付けが悪くて蝶番も壊れかけてろくに締まらない玄関、どれだけ閉めても絶対に隙間風が入る窓、雨漏りする屋根に雨漏りのせいで傷んだ床、軋む床が抜けないように木の板を打ち付けた箇所も一つや二つではない。

そんな幽霊屋敷一歩手前のオンボロだけに、住み心地は決して快適とは言えない。

だが、長年暮らしているうちに何となく愛着が湧き、そこで過ごした様々な思い出が積もり積もっていくものなのだ。

「まぁな、オンボロ建物にもそれなりに風情はあるがな……でも、シスターの年だともうボロ過ぎる建物のお守りは無理だろう?」

「そんなことあるもんかい!……と言いたいところだが、実際かなり厳しいのが正直なところだねぇ」

「だろう? それに、ここで育つ子供達のためにも、良い環境を整えてやりたいしな」

後輩の孤児達を気遣うレオニスの言葉に、マイラが嬉しそうに微笑む。

「そうだね、レオ坊のおかげで良い年末年始が過ごせそうだよ」

「明日の引っ越しも、俺とラウルとライトで手伝いにくるからな」

「ありがとう。頼りにしてるよ」

レオニスとマイラは今日も和やかな空気の中、ラグナロッツァ孤児院の新たな門出をともに噛みしめ、喜びを分かち合っていた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

開所式の翌日の日曜日。

この日も予定通り、ラグナロッツァ孤児院の引っ越しを手伝うライト達。

荷造りは既にマイラと子供達が済ませていたので、特にライト達が手伝うことはなかった。もっとも荷造りと言っても、新しい孤児院の方にまで持っていくような品などほとんどなかったのだが。

子供達は各々の数枚の衣服といくつかの思い出の品を持ち、各自リュックに入れて旅立ちの支度をする。

マイラが日々使っている事務用品や、これまでの孤児院の資料や帳簿類などは、レオニスが空間魔法陣に入れてひとまとめで持っていく。

まだ使える食器類や食糧などは、ラウルの空間魔法陣に入れた。

最後に各自の部屋や礼拝堂、食堂、共用風呂などを掃除するマイラと子供達。

全ての支度を終え、マイラ達はレオニスとともに礼拝堂の外、入口の前に全員で立つ。

「皆、忘れ物はないかい?」

「うん!大丈夫だよ!」

「……じゃ、この孤児院ともお別れだ。最後に皆で挨拶するよ。……今までお世話になりました、本当にありがとうございました」

「「「ありがとうございました!!」」」

オンボロ建物に向かって、深々と頭を下げるマイラ。

そのマイラに倣い、ありがとうの言葉を大きな声で言いながらペコリと頭を下げる子供達。

ラグナロッツァ孤児院の新たな門出に伴う別離。その厳粛な空気を、ライト達はただただ静かに見守っていた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

旧孤児院を出立し、新しい孤児院に向かうライト達。途中公園で休憩を挟みつつ、馬車の停留所に向かう。

ラグナロッツァ孤児院には総勢四十人の子供がいて、全員で歩いていったら日が暮れそうだ、ということで馬車に乗ることにしたのだ。

孤児の中には五歳にも満たない幼児も何人かいる。一歳二歳の子供はマイラやレオニスが背負うにしても、人出が足りない。そう、今回の引っ越しでの最大の懸念は『子供達の移動』であった。

それを解決するために、レオニスは予め馬車をスラム街手前に手配しておいたのだ。

大きな幌馬車三台分に、それぞれ適当に分かれて乗り込む。

一台目にはレオニス、二台目にはマイラ、三台目にはラウル。一台に必ず一人は大人がいるように配慮してある。

ちなみにライトはマイラのいる馬車に乗った。何故マイラのいる馬車を選んだかというと、マイラからレオニスの幼少期話を聞くためである。

そうして三台で新しい孤児院に向かう孤児院一同。

だんだん人気も疎らになっていく。

馬車に乗ってから小一時間経った頃、新しい孤児院の建物がある場所に到着した。

「新しい孤児院に着いたぞー。皆馬車からゆっくり降りろよー」

「「「はーい!」」」

真っ先に馬車を降りたレオニスの掛け声に、子供達が元気な声で返事を返す。

無事全員が降りて荷物も降ろし、レオニスから乗車賃を受け取った三台の馬車はラグナロッツァ中央に向かって帰っていった。

一方の孤児達は、昨日給仕の手伝いに来た子以外は初めて目にする新居を呆然と見上げていた。

「「「「「………………」」」」」

「何だ、どうした? ここがこれから皆が住む家だぞ?」

「ぃ、ぃゃ、これ……大っきくね?」

「うん……私もこんなに大きいおうちとは思ってなかった……」

「……すっごい……」

ただただ呆気にとられている子供達に、レオニスとラウルが事も無げに声をかける。

「皆、ぼけっとしてる暇はないぞ。これから皆が持ってきた荷物を、二階や三階に運んだりしなきゃならんからな」

「そうだぞ。午前中に荷解きをして他の荷物もちゃんも整理して、昼飯食ったらもっといいことが待ってるぞ」

「え? もっといいことって、何ナニ?」

檄を飛ばすレオニスに続いたラウルの『昼飯の後にもっといいことがある』という言葉に、孤児達が耳聡く反応した。

目をキラキラに輝かせて食いついてきた子供達に、レオニスがニヤリ……と笑いながらその答えを明かす。

「今日の引っ越し祝いも兼ねて、俺達から皆に一足早いクリスマスプレゼントを用意してある」

「えッ!? クリスマスプレゼント!?」

「それホント!?」

「何ナニ、プレゼントをもらえるの!?」

「皆に一個!? それとも一人一個!?」

プレゼントという言葉に、壮絶な勢いで食いついてくる孤児達。

一斉にレオニスを取り囲み、興奮気味に質問を浴びせてくる子供達に、レオニスはまたもニヤリ……と笑みを浮かべる。

「それはもちろん……」

「「「……(ゴクリ)……」」」

「一人一個だ」

「「「ヤッターーーー!!」」」

腰を軽く曲げて、目線を合わせながら人差し指を立てて子供達に一人一個のプレゼントを約束したレオニス。

その答えを聞いた子供達が、一斉に飛び上がって喜んだ。

キャーキャーと大声で飛び跳ねて全身全霊で喜びを現す子供達に、今度はマイラが大きな声を上げた。

「さぁさぁ、お前達!今日クリスマスプレゼントをもらいたかったら、すぐにでも引っ越し作業に取り掛からないと間に合わないよ!皆でちゃんとお昼ご飯を食べてからでないと、プレゼントはもらえないんだからね!」

「えッ!? じゃあ急がなくっちゃ!」

「シスター、私達のお部屋はどこにあるの!?」

マイラの言葉に仰天した孤児達。

慌てながら問い質す子供達に、マイラは手提げ袋から一枚の紙を取り出してピラッ☆と子供達に見せた。

「皆の部屋割はもう決めてあるから、皆それぞれ荷物を持ってついておいで!」

「「「はーーーい!」」」

意気揚々と建物の中に入っていくマイラの後を、同じく子供達が元気よく返事をしながらぞろぞろとついていく。

実に賑やかな孤児院の面々の行進に、ライト達はニコニコとした笑顔で眺めていた。