軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1060話 呪いのアイテム

ロレンツォを待っている間、ライトがのんびりと店内の品々を見て回っていると、店内の入口扉が開いた。

中に入ってきたのはラウルだった。

「あッ、ラウル!おかえりー!」

「ただいま、ライト。皆へのクリスマスプレゼントは見つかったか?」

「うん!とっても素敵なプレゼントをたくさん買えたよ!もちろんラウルの分もちゃんとあるからね、楽しみにしててね!」

「おお、そりゃ良かったな。クリスマス当日を楽しみに待つとしよう」

ライトが店に入ってきたラウルのもとに駆け寄る。

嬉しそうな顔でプレゼントを買えたことを報告するライトの頭を、ラウルもまた微笑みながらワシャワシャと撫でる。

するとそのすぐ直後に、ロレンツォが店のカウンターから出てきた。

「ライトさん、お待たせいたしました。……おや、ラウルさんもいらしてたのですね。お仕事を無事お勤めになられたようで、何よりです」

「ああ、店主のおかげで心置きなく仕事することができた。感謝する」

「いえいえ、お気になさらず。私の方も、ライトさんとはいつも楽しく過ごさせていただいておりますので」

「そう言ってもらえると助かる」

ラウルが来店していることに気づいたロレンツォが、早速ラウルにも声をかける。

ラウルはライトがいなくても調理器具関係なら買ってくれる、ルティエンス商会にとって数少ない貴重な常連客。ロレンツォの接客が丁寧になるのも当然である。

「店主、あれからまた何か面白そうなものは入ったか?」

「そうですね……ラウルさんのお眼鏡に叶うかどうかは分かりませんが、先日珍しい鉄鍋が入荷いたしまして」

「ほう、鉄鍋か。俺も鉄鍋はいくつか持っているが、一体どんな鉄鍋なんだ?」

「実物を持って参りますので、少々お待ちくださいませ」

ロレンツォが言う新商品の鉄鍋が気になるラウル、早速興味を示してきた。

そんなラウルに実物を見せるべく、ロレンツォは一旦店の奥に引っ込んでいく。

しばらくして再び現れたロレンツォの手には、見たところ普通サイズの鉄鍋(木蓋&木製玉杓子付き)があった。

「こちらは『芋煮専用鍋』でございます」

「芋煮専用なのか? 見たところ、ただの鉄鍋にしか見えないが……」

「それがですね……見た目では分からないのですが、この鍋にはとある呪いがかけられているのです」

「「……呪い?」」

真剣な眼差しで『呪い』という物騒な言葉を出してきたロレンツォに、ライトもラウルも思わず息を呑む。

RPGゲームに『呪いのアイテム』はつきものだが、大抵は装備品を指していうものだ。

だが、ロレンツォはその鉄鍋に呪いがかけられていると言うではないか。一見普通の鉄鍋に、一体どんな呪いがかけられているのだろう。

「……まさか、その鍋で作ったものは全て猛毒になる呪い、とかか?」

「いいえ、料理が猛毒になるといったことはございません。むしろこの鍋で作った芋煮は、例え入れた食材がクズ野菜であろうとも天にも昇る美味さを誇る、と言われております」

「??? 美味しくなるなら、それは呪いじゃないだろ? むしろ祝福としか思えんが……」

一度は猛毒化を疑ったラウル。

呪いと言うからには、間違いなく持ち主に害をもたらす影響があるはずだ。なので、ラウルはそれを猛毒化を引き起こすものかと推察したのだ。

だが、ロレンツォは猛毒化を否定しただけでなく、むしろ芋煮が超絶美味に仕上がると言うではないか。

ならば一体何が呪いなのだろうか? その答えは、ロレンツォの口から明かされた。

「この鍋の恐ろしいところはですね……『芋煮以外の料理が美味しく作れない』ところにあるのです」

「……な、何だと……?」

「そ、それは一体どういうことなんですか……?」

目をキラーン!と光らせて鉄鍋の呪いを語るロレンツォに、ライトもラウルも思わず愕然とする。

その後ロレンツォが語ったところによると、その鉄鍋はとある家で長年芋煮を作る時だけに用いられ続けてきたという。その歴史は何と、三桁はとうに超えているのだとか。

その結果、芋煮以外の鍋料理を作っても味が一切しなくなった、というものである。

「作った料理の味が一切しなくなるって……塩とか味噌とか唐辛子とか、調味料をたくさん入れても味がしなくなるんですか?」

「はい。不思議なことに、鍋の具材に少なくとも里芋、長葱、こんにゃくが入っていないと、どれ程大量の調味料を入れても全く味がない鍋になるのだそうです」

「確かにそれは、もう立派な呪いですね……」

ライトの問いかけに、ロレンツォがさらなる解説をする。

芋煮鍋の基本的な具材である、里芋、長葱、こんにゃく。この三つが入っていないと、この鉄鍋は鍋としての仕事を放棄するどころか全ての味を奪い取るのだという。

何という恐ろしくも極悪非道な鍋だろう。これはもう立派な呪いと言って差し支えないレベルである。

「しかし、この鉄鍋は悪いことばかりでもないのですよ」

「そ、そうなんですか?」

「ええ。逆に言えば、鍋の具材に里芋、長葱、こんにゃくが入れられていさえすれば、最初に申し上げました通り『天にも昇る美味なる鍋』に仕上がるのです」

「「………………」」

呪いの内容だけでなく、ちゃんと利点?も語るロレンツォ。

その信じ難い話に、ライトもラウルも思わず黙り込む。

そもそも鍋料理なんて芋煮以外にも様々な種類があるし、何なら十日くらい日替わりで毎日違う鍋を作ることができるくらい豊富なメニューを誇るのが、鍋料理というものである。

そのメニューが芋煮にしか使えないとは、調理器具としては致命的な欠陥品であると言わざるを得ない。

だが、意外なことにラウルはかなり前向きなようだ。

「芋煮専用鍋、か……そういう尖ったのが一つくらいあってもいいかもな」

「え!? ラウル、もしかして買う気満々なの!?」

「他の料理ができんというのは、ちとアレだが……それでも芋煮鍋にすれば、他の鍋で作るより壮絶に美味くなるんだろ? なら是非ともその味を堪能して、他の鍋との出来上がりの違いなんかもみてみたくなるってもんだ」

「まぁねぇ……ラウルは空間魔法陣持ってるから、鍋の一つや二つ増えたところで問題ないだろうし」

「そゆこと」

既に鉄鍋を買う気満々なラウルに、ライトはびっくり仰天している。

だが、ラウルはもともと料理馬鹿に加えて調理器具マニアでもある。そんなラウルに、世にも珍しいこの鉄鍋が刺さらない訳がない。

『こんな尖った品が、手持ちの中に一つくらいあってもいい』———調理器具に対してこんな台詞を吐けるのは、世界広しと言えどラウルくらいのものであろう。

もはや物好きというレベルを超えたラウル、早速ロレンツォに問うた。

「店主、この鉄鍋の値段はいくらだ?」

「呪いの鉄鍋ということで、調理器具としての使い勝手が今一つということもありますので、3000Gでの販売を予定しております」

「よし、買った!」

「お買い上げいただき、ありがとうございます。梱包いたしますか?」

「いや、そのままでいい。すぐに空間魔法陣に仕舞うから」

「承知いたしました」

呪いの鉄鍋の値段を聞いたラウル、即時購入を決定した。

3000Gと言えば、日本円にして三万円。一つの料理しかできない呪いの鉄鍋に、この値段は如何なものかと思うライト。

だが、鉄鍋の作り自体はかなりしっかりしたものだし、セットで木蓋と玉杓子もついているところが何気にポイントが高い。

それに、先程のラウルの言い分じゃないが、この鉄鍋で作る絶品芋煮の味はライトもかなり気になるところだ。

ラウルが作る料理はどれも美味しいが、そんなラウルの料理の腕だけでなく鉄鍋の持つ謎の力が加わったら―――一体どれ程美味しい芋煮鍋になるのだろうか。

ラウルが空間魔法陣から財布を取り出し、呪いの鉄鍋の代金3000Gを支払う。

代金を受け取ったロレンツォ、ニコニコ笑顔でラウルに呪いの鉄鍋を渡した。

「ラウル、また面白い調理器具を買えて良かったね!」

「ああ。今日は氷蟹の殻処理依頼で稼いだばかりだし、俺が俺のために買う少し早いクリスマスプレゼントだと思えばな。良い買い物ができた」

「当店の品をそこまで高く評価してくださるのは、ラウルさんとライトさんくらいのものです……」

良い買い物ができたと喜ぶライトとラウルに、ロレンツォがホロリ……と涙を零す。

胸ポケットからサッ、とハンカチを取り出して涙を拭うロレンツォ。その仕草こそ優雅だが、言ってることは閑古鳥店主の悲哀たっぷりである。

「じゃ、そろそろ帰るか」

「うん!……あ、ロレンツォさん、さっきのアレは……」

「はい、こちらにございます」

冒険者の仕事も買い物も済ませたし、そろそろ帰るかと言うラウルに、ライトは頷きながらもロレンツォに声をかける。

そしてロレンツォの方も、ライトの呼びかけに応じて折り畳んだメモを一枚渡した。

それは、ラウルが迎えに来る前にロレンツォと話していた『神威鋼の交換に必要な素材のリスト』である。

本当なら、今すぐにもリストをチェックしたいところだが、ラウルが横にいる今ここでメモを開く訳にはいかない。

ラウルがそれを横から覗き込んで「何だ、そのリストは?」と聞いてきたら困るからだ。

ロレンツォからメモを受け取ったライト。

家に帰ってからゆっくり見よう……と思いつつ、アイテムリュックにそそくさと仕舞い込む。

そしてアイテムリュックを背負い、ロレンツォに別れの挨拶をする。

「ロレンツォさん、今日もありがとうございました!」

「いえいえ、こちらこそありがとうございます。私もとても楽しい時間を過ごさせていただきました」

「店主、また面白い調理器具があったらとっといてくれ」

「畏まりました。ラウルさんのご期待に添えるよう、良い品を探しておきます」

店の扉を開けて、外に出ていくライトとラウル。

ロレンツォもまた店の前に出て、二人が帰っていく背中を見送っていた。