軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第106話 初めてのお料理

「じゃあ、カラスの様子を見に行く前に、少しだけ休憩するか」

円満解決に至った三人に、レオニスが声をかける。

確かにここに至るまでに、全員かなり疲弊していた。特にライトは、先程までの騒動に加えカタポレンの森の家でもフェネセンとの初対面時で大絶叫したり等々、いろいろと衝撃の連続で相当疲れきっているはずだ。

「うん、ぼくもちょっとだけひと休みしたいかな……ラウル、ごめんね、少しだけ休ませてくれる?」

「いや、謝ることはない。俺達のせいで、ライトにも要らん気苦労させて迷惑かけてしまったし」

「うんうん、吾輩達のせいで疲れさせちゃったよねぇ。ライト君、ごめんねぇ」

本当ならライトも、すぐにでもカラスの様子を見に行きたいところだが、レオニスが休憩すると言ってくれたことに安堵もしていた。

「さ、そうと決まればラウル、フェネセン、二人でおやつの用意と休憩の支度をしてくれ」

「おう、任せとけ」

「吾輩も初のお料理、頑張るぅー!」

「二人での初の台所仕事だ、喧嘩なんぞせずにしっかり真面目にやれよ?」

「ラウル、よろしくね。フェネぴょんも、ラウルのことは師匠と呼んで、ちゃんと言うこと聞くんだよ?いいね?」

ラウルとフェネセンは決意も新たに頷き、ライトとレオニスも二人を激励する。

「あいあいさー!ラウルっち師匠、よろしくお願いするであります!」

「……師匠はつけても、結局『ラウルっち』は変わらんのか……」

「ラウルっち師匠、そこは吾輩譲れないであります!寛大なお慈悲の心で許容願いますです!」

「……ったく、しゃあないな」

ラウルは、フェネセンからの呼ばれ方が変わらず『ラウルっち』であることにぼやく。

対してフェネセンの口調が、何故か軍隊調になりつつある。

「俺は料理においては妥協しないからな?疑問や質問なんかは受けもするし聞きもするが、つまらん口答えや手抜きは一切許さん。ビシバシ鍛えてやるから、覚悟しとけ」

「はぁーい!」

「じゃ、厨房行くぞ」

「らじゃーであります!」

先程まで険悪だったラウルとフェネセンの関係も、ライトの尽力の甲斐あって好転したようだ。

四人は厨房と食堂に別れて移動した。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

ライトとレオニスが食堂で30分ほど休んでいると、ラウルとフェネセンがおやつと飲み物の乗せられたワゴンとともに入ってきた。

いつもなら、お茶にすると言えば10分もしないうちに全て用意されるのに、今日はやけに時間がかかっている。

おそらくはラウルからフェネセンに、早速いろいろと指導があったのだろう。

「ご主人様達、待たせたな」

「ラウル、おかえりー。今日のおやつは何?」

「本日のおやつは『ふわふわパンケーキのバニラアイス乗せ』だ。飲み物は、ライトにはぬるぬる薄黄、他三人は紅茶な」

「メープルシロップとホイップクリームもあるから、各自好きなようにアレンジしてくれ」

ラウルは解説しながら、テーブルの上に皿やカップを置いて並べていく。

ライトはワクテカ顔で準備が整うのを待っていたが、飲み物のラインナップを聞いて瞬時に表情が固まる。

だが、それもほんの一瞬のことで、パンケーキから漂う甘く香ばしい香りにすぐにワクテカ顔が復活する。

「「「「いっただっきまぁーす」」」」

ライト達だけでなく、フェネセンもちゃんといただきますの挨拶を皆と同時に声高らかに発する。

そこら辺は厨房にいる間に、ラウルからこの家での食事マナーとして指導されたのだろう。

「ねぇねぇ、ライト君、レオぽん、聞いておくれよ!このホイップクリーム、吾輩が泡立てて作ったんだよー!」

「そうなの?フェネぴょんの初めてのお料理?」

「うん!野山の野営で魚獲って焼いたり魔物退治ついでに丸焼きにしたのを除けば、お台所で食べるものを作るのって吾輩今日が初めて!」

「そりゃよかったな。初めてするクリームの泡立て作業はどうだった?」

「うん、思ってたよりもね、かなぁーり大変だったぁ。ラウルっち師匠には魔法の使用禁止を言い渡されたからさぁ、全部手動でやったんだよぅぉぅ」

フェネセンの『はじめてのおつかい』ならぬ初めての料理は、生クリームからホイップクリームを作ること、だったようだ。

現代日本でも電動の泡立ててマシンを使えば楽ちんに作れるが、ラウルは魔法を使うことを許さなかったようだ。

「そんなもん当たり前だろ。料理においては、まず何事も己の手で作ること。手作業でその感覚を覚えることが、最も重要なんだ」

「まずその感覚を身体で覚えんことには、その先にある更なる高みは目指せん。魔法や剣術だってそうだろう、基礎を知らずに高度な技など使えるようになる訳がない」

「だいたいだな、基礎をすっ飛ばしていきなり高等技術を使おうとする奴はろくなもんじゃねぇ」

「フェネセン、お前は魔法においては天才かもしれんが、料理に関しては全くの素人だ。そりゃ調理において魔力が役に立つ場面も多々あるが、美味いものを作るのに魔力の多寡は関係ない」

「調理法ひとつにしたって、お前の知らんこと、思いもしないこと、想像もつかんことが山ほどある」

「この俺に料理の弟子入りしたからには、そこら辺徹底的に叩き込んでやるからな?覚悟しとけ」

ラウルの言っていることは、全て正しい。どの世界でも言えることだが、基本を疎かにして楽に大成などできる訳がないのだ。

そしてフェネセンも、その理論を魔法に例えられればラウルの言うことは正しいということがよく分かる。

「そうだねぇ、魔法も魔力が多けりゃ何でもできるってもんでもないからねぇ。そりゃ魔力は多いに越したこたないけど、魔力だけが全てでもないし」

「そうそう。剣技だって、ただ単に毎日剣を素振りしてりゃいいってもんでもないが、それでも素振りなんて無駄なことと馬鹿にする奴は大成できんからな」

レオニスもラウルの持論に賛同する。

料理に魔法に剣技。分野は違えど、その道を極めた達人同士の会話には含蓄があった。

ただし、全員ふわふわパンケーキをもっしゃもっしゃと食べながらの会話なので、含蓄はあっても威厳やら崇高さなどは微塵もないのだが。

「ねぇ、ライト君、レオぽん。吾輩の作ったホイップクリームのお味は、どうかな?……美味しい?」

フェネセンは、初めての自身の料理への感想をライトとレオニスに求めた。

ライトを見つめるその眼差しと表情は、期待と不安が入り混じっている。

「うん、美味しいよ!お砂糖の量も良い感じだね、適度な甘さでパンケーキにとってもよく合ってて、ぼくは好きだなー」

「おう、俺もこのくらいの甘さがちょうどいいと思うぞ」

「……!!ライト君とレオぽんにそう言ってもらえると、吾輩とても嬉しいのねぃ!」

顔をパアッと輝かせて、頬を紅潮させながら喜ぶフェネセン。

「フェネぴょんも、自分の作ったクリームを使ったおやつ食べた感じはどう?たくさん魔力貯まる感じ、する?」

「うん!超々チョーーー美味しい!パンケーキはラウルっち師匠が焼いたものだから、もとから美味しいんだけど。それでも、そこに吾輩の作ったホイップクリームをつけて食べるともっと、もーっと美味しくなるの!魔力も今までにないくらい、たーっくさん!含まれているように感じるのよねーぃ!」

「そっか、よかったね!」

ホイップクリームを山盛り乗せたパンケーキを、それはそれは美味しそうに頬張るフェネセン。

そして、今までの食事風景と今日の経験を振り返り、フェネセンはしみじみと誰に言うでもなく語る。

「自分で食べるものを作るのって、こんなにも大変で、楽しくて、美味しいものなんだねぇ……吾輩、今まで長いこと生きてきて全く知らなんだよ」

「じゃあ、これからもっともっと知っていけばいいんだよ」

「うん、そうだね……吾輩、もっともっとお料理の腕を磨くのだ!」

「頑張って美味しいもの作って、ぼくにも食べさせてね!楽しみにしてるから!」

「もちろん!ライト君にも、たくさん美味しいもの食べさせてあげられるようになるからね!」

それはそれはとても嬉しそうに燥ぐフェネセンの姿に、ライトも微笑ましく思いながら休憩を楽しんでいた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「さ、おやつも食べ終えたし、そろそろカラスの様子を見に行くか」

「はーい、じゃあお皿だけ下ろしてくるねー」

おやつを食べ始めてから、30分ほど経過しただろうか。

全員見事にペロリと平らげ、空の皿や飲み物のカップだけがテーブル上に残っている。

レオニスの一声で、皆食器を下ろしたり各自動きだす。

食堂を片付け終えた一同は、カラスを寝かせている部屋に向かった。

「ラウル、カラスの様子はどうだ?」

「あれからずっと目を覚まさないだけで、他には特に異常な点は見当たらない。苦しんだりとか魘されたりとか、そういうことは今のところ一切起きていないのが幸いだ」

「そうか……今日ここにフェネセンを連れてきたのはな、フェネセンにカラスを診てもらおうと思ってな」

「そうだったのか?」

ラウルは少しびっくりしたような顔で、レオニスとフェネセンを見た。

「ああ、たまたま別件でカタポレンの森の家にフェネセンが訪ねてきてな。そしたらライトが、フェネセンにカラスを診てもらったらどうか、と言ってな」

「まぁこいつも普段はアレだが、これでも稀代の大魔導師であることは間違いない。その目でカラスを見れば、何か分かるかもしれん」

「普段はアレ、とか、これでも、って……レオぽんの吾輩の評価、マジしどいよね」

レオニスの横でフェネセンが何やらブチブチ言っているが、今日の言動を見るだけでも相当破天荒だ。もちろんフェネセンには、そこまでの自覚など全くないのだが。

むしろ『稀代の大魔導師』という、実力面はきちんと評価しているだけでもレオニスは公平な方だろう。

「そうか……フェネセン、すまないがマキシ……今この屋敷の中で保護しているカラスのことなんだが、もし助けられるのであれば頼む、力を貸してくれ」

「うぃうぃ、ラウルっち師匠の友達なら吾輩全力を尽して頑張っちゃうよー!」

稀代の大魔導師という心強い味方を得て、ラウルは一筋の光明を見い出したような気がした。