軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1046話 世界の命運を賭けた大仕事

ライト達が様々な策を講じている間に、街はどんどんクリスマス一色に染まっていく。

ここはRPGソーシャルゲームがベースの、魔法や魔物、精霊に神樹など数多のファンタジー要素が具現化した世界。

だがその創造神は現代日本企業であり、ゲームのイベントなどでも四季折々の題材を利用してきた。故にこのサイサクス世界にも、現代日本と全く同じ季節行事が普遍的かつ当然のように取り入れられているのである。

そうして迎えた、十二月十五日。レオニスがラグナ神殿にて【晶瑩玲瓏】の復元作業を実行する日である。

この日のために、ライト達は本当に日々奮闘してきた。

属性の女王達に宝珠を作ってもらったり、神樹達にさらなる協力を取り付けたり、魔石も毎日ガンガン作成したり。兎にも角にもレオニスの身に万が一のことが起きないように―――皆その一心で頑張ってきた。

いよいよ今日は、その成果を見せる時である。

復元作業の舞台となるラグナ神殿では、午後から教皇達の新任式が行われる予定になっている。

そして、教皇達の新任式が終われば大教皇エンディと総主教ホロはお役御免となり、役職を持たぬ一介の聖職者となる。

そうなる前に、レオニス達は聖なる聖遺物の復元を成さねばならない。

聖なる聖遺物、その存在自体が新たな大教皇や総主教の預かり知らぬこと。何も知らない新執行部に、復元作業にまつわる諸々の責任を負わせる訳にはいかないからだ。

新たな大教皇達の行く先を守るためにも、エンディとホロは全ての泥を被るつもりだった。

復元作業実行当日の朝。まだ外が仄暗いうちから、ライト達はラグナ神殿に向かった。

レオニスの復元作業に立ち会うのは、レオニス側はライト、ラウル、マキシ、オラシオン。ラグナ神殿側はエンディとホロ。総勢七人で挑むこととなった。

ラグナロッツァの屋敷から出たライト達、白い息を吐きながら、静まり返るラグナロッツァの街を歩く。

ちなみに今日のマキシは、有給休暇を使っての休日だ。

勤め先のオーナー兼直属上司であるカイ達には『ライト君とお出かけしたいので、土曜日にお休みをください!』と申請しておいた。

ここら辺の入れ知恵はもちろんライトがしたものである。

もしカイが、今日のこの復元作業のことを知れば―――レオニスの身を案じるあまり、目を回しながら卒倒するに違いない。

そんなことにならないためにも、土曜日に出かける=ライトとお出かけ!ということにしたのだ。

険しい顔で前を見据えつつ、無言のまま歩くレオニス。

そのピリついた表情に、ライト達は気軽に声もかけられない。

レオニスにしては珍しいことだが、やはりそれなりに緊張しているのだろう。

実際今日の復元作業は、世界の命運を賭けた大仕事である。廃都の魔城という巨悪を倒せるかどうか、全てはレオニスの双肩にかかっているのだ。

そうしてラグナ神殿に到着したライト達。

正門の脇には、オラシオンとエンディが立っていた。

二人の姿をいち早く見つけたレオニスが、早速声をかける。

「よう、オラシオンに大教皇。おはよう」

「レオニス卿、おはようございます」

「皆様、ようこそお越しくださいました」

早速朝の挨拶を交わすレオニス達に、ライトやラウル、マキシもそれぞれ「おはようございます!」等々挨拶を口にする。

レオニス達を出迎えたエンディ達は、正門から中に入っていった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

エンディの後をついていくライト達。

その間それぞれ軽く雑談をしている。

「理事長先生、土曜日にもお仕事なんて大変ですねぇ」

「レオニス卿に呼ばれたこともありますが、他ならぬ弟エンディのためですからね。兄として、一肌脱がない訳にはいきませんよ」

「理事長先生も、うちのレオ兄ちゃんに負けないくらい頼もしいお兄ちゃんなんですね!」

「ぃゃぁ、それ程でも……」

ライトとオラシオンがのんびりとした会話をするその数歩前で、レオニスとエンディもまたこれからの話をしている。

「この方向は……聖堂でやるんじゃないのか?」

「主教座聖堂はあの通り、倒壊の危険性がありますからね。レオニス卿の話によると、例の作業は暴風が巻き起こるということなので……本日は大教皇執務室にて執り行っていただきます」

「まぁな……作業中に建物が全壊したら洒落ならんからな……」

「そういうことです」

エンディの歩く方向が、主教座聖堂のある方角ではないことに即座に気づいたレオニス。

その理由を聞けば、レオニスも納得である。

エンディ他歴代大教皇が使用してきている大教皇執務室。

道すがらホロが語るところによると、この建物は普段から大教皇が使う場所とあってかなり頑強に作られている。

物理防御に各種魔法攻撃無効の結界はもちろんのこと、破邪魔法や騒音対策の防音魔法までかけられているという。

ある意味主教座聖堂よりも復元作業向きの場所といえよう。

「あの後ラグナ教上層部で話し合った結果、来年の二月に主教座聖堂を取り壊し、新しく立て直すことが決まりました」

「ま、そうした方が安全だろうな」

「あの主教座聖堂は歴史ある建物で、この地で何百年とラグナ教を見守ってきてくれました。私だけでなく、ラグナ教信徒全員が、できることなら残しておきたかったのですが……皆の安全を思うと、そうも言っていられませんからね」

寂しそうに笑いながら、主教座聖堂の取り壊しを伝えるエンディ。

やはりあの事件で建物が負ったダメージは、取り返しがつかないくらいに相当深刻だったようだ。

ラグナ教総本部が誇る、歴史ある建物主教座聖堂。それを己の代で手放すことになってしまった無念は如何ばかりか。

そして、エンディやホロはその場では語らなかったが、実はあの主教座聖堂にも大教皇執務室同様の厳重な防御魔法がかけられていた。

多少の魔法攻撃なんかはもちろん弾き返すし、何ならかなり大きな地震がきても倒壊しない程度には頑強な建物のはずだった。

だが、そんな主教座聖堂ですら倒壊の危機という憂き目に遭ってしまった。

それは、過日主教座聖堂内で勃発した破壊神イグニスと【深淵の魂喰い】の激闘が、如何に苛烈なものであったかを表している。

しかし、彼らの激闘が起きたのが主教座聖堂内だったのは不幸中の幸いでもあった。

もしこれが、他の場所で起きていたら―――建物内ならば間違いなく激闘の最中に倒壊していただろうし、よしんば野外だったとしても余程何もない荒野でもない限り周辺に被害が及んでいただろう。

これらの起こらなかったif、未来は誰にも知る術はないのだが。

そうして大教皇執務室の建物に辿り着いたライト達。

建物に入る直前に、レオニスがエンディに向けて声をかけた。

「あ、すまんが皆ちょっとここで待ってくれ」

レオニスはそう言うと、顔を上げて宙に向かって言葉を発した。

「精霊達よ、力を貸してくれるか」

誰に向かって言った訳でもないのに、次の瞬間複数の精霊がレオニスの前に現れた。

それは、光の精霊に闇の精霊、そして水の精霊。水の精霊はレオニスの目の前に、光の精霊は陽のあたる場所に、闇の精霊は建物の影の中にいる。

そして驚くことに、どの精霊も体長30cm以上ある上級精霊だ。

先日光の女王が、精霊達にも声をかけておくから呼べ、とは言っていたが。まさか上級精霊が現れるとはレオニス達も思っていなかった。

ちなみに水の精霊と闇の精霊は、天空島訪問後にラウルが目覚めの湖の水の女王と暗黒の洞窟の闇の女王に頼み込んでおいたものだった。

水の女王も闇の女王も快諾し、特に水の女王など『光のお姉ちゃんってば、考えることが天才ね!? 私も見習わなくっちゃ!』と感心することしきりであった。

この精霊というのは、基本的に魔力が高い者にしか見えない。

そしてその属性の適性が乏しい者は、魔力が高くても見えない場合が往々にしてある。

そしてこの場にいる全員が高魔力持ちなので、全員が上級精霊の姿をその目で捉えていた。

「おおお……レオニス卿、精霊の力を借りられるようになったのですか……」

「属性の女王達が、精霊達にも力を貸すよう伝えておいてくれると言っていたんでな。そのお言葉に甘えただけだ」

「にしても、水の精霊に光の精霊に、闇の精霊までいるとは……実に驚くべきことです」

各精霊を呼び出したレオニスに、オラシオンもエンディも感嘆の声を上げる。

精霊を呼び出したり使役できるのは、このサイサクス世界では【エレメンタラー】と呼ばれる者達だ。

レオニスにエレメンタラーの素質があるとは知らなかったオラシオン達だが、属性の女王の協力のもとに集ったと聞けばそれも納得である。

レオニスの最後の仕上げが整ったところで、ホロが恭しく扉を開けてエンディを筆頭に全員が室内に入っていく。

執務室の中は、綺麗さっぱり片付けられている。

執務用の机は部屋の隅に置かれているし、来客用の応接ソファも見当たらない。書類などが保管されていた書棚も空っぽで、中の物全てどこかに移動させたようだ。

これは、復元魔法により発生する突風対策である。

暴風にも等しい突風が起こることが分かっている以上、それによって散らばったり吹っ飛んだりしそうなものは極力取り除いておいたのだ。

引っ越し前の部屋のような、広々とした執務室の真ん中にレオニスが一人立つ。

そのレオニスのもとに、エンディとホロが折れた【晶瑩玲瓏】を手に持って運んでいった。

その【晶瑩玲瓏】は、昨晩までは閉鎖中の主教座聖堂内にて保管し、今朝になってからエンディとホロが大教皇執務室にこっそり移動させておいた。

「レオニス卿……よろしくお願いいたします」

「ああ、任せとけ」

エンディとホロから折れた白銀の剣を受け取ったレオニス。

二人が部屋の隅に移動する間に、レオニスはその場で跪いて折れた剣をくっつけるように合わせた状態で床の上に置く。

そしてレオニス空間魔法陣を開き、三つの宝珠を一つづつ取り出す。そのうちの一つ【水の宝珠】を自分の左横に置き、残りの二つを深紅のロングジャケットの左側ポケットに仕舞い込んだ。

「……じゃ、今から始めるぞ。皆、吹っ飛ばされないようにな」

復元作業開始のかけ声に、ライト他全員が無言のまま頷く。

レオニスは、右手を折れた剣の繋ぎ目の上に起き、左手を【水の宝珠】の上に乗せる。

そしてレオニスが何事かをぶつぶつと呟く。復元魔法の呪文だ。

次第にレオニスの両手の下が光っていく。

その輝きは、レオニスの復元魔法が開始されたことを示す光であった。