軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1031話 池の名前と一目惚れ

『キャッホーーーィ!』

『ヒャッフゥーーー♪』

風のように駆けていく白虎のシロに、うなじ辺りに乗っかっている地の女王。二者ともものすごくご機嫌である。

地の女王の後ろに座っているライト達も、地底の星がまるで流れ星のように後ろに移る光景にしばし見惚れていた。

ちなみにライト達の身体は、後ろに吹き飛ばされることなく普通に座れている。

風は感じるものの、シロの走るスピードに反してそこまで仰け反ることなくその背に座れているのがとても不思議だ。

これはシロの白虎としての能力の賜物だろうか?

程なくして、ライト達が先程までいた冥界樹ユグドランガが見えてきた。

冥界樹の姿が見えたと思ったのも束の間、すぐさまその脇を駆け抜けるシロ。

すれ違いざまに地の女王が『ランガくーん!』と声をかけ、シロが『まったねぇーーー♪』と話しかける。

地の女王達に声をかけられたユグドランガは『またなー』とだけ返していた。すれ違ったのは本当にほんの一瞬なのに、よくあの一瞬だけでちゃんと返事ができたものだ。

そこからまたしばらく走り続ける白虎。

この地底世界に入ってからのライト達は、東西南北の方向が全く分からない。だが、ライト達が歩いてきた距離や時間、シロの走る様子からしてどちらか一方がとても長い構造になっているようだ。

途中、闇葬狼やガーディアンゴーレムなどがライト達目がけてちょっかいを出してきたが、シロに蹴散らされて敢えなく撃沈している。

もう魔除けの呪符の効果はとっくに切れているので、一行の中で最も弱いライトを狙って襲いかかってきたと思われる。

だが、通常魔物がレイドボスにして四神の一角である白虎に敵うはずもない。もし万が一白虎に蹴散らされなくても、ライトの横にいるレオニスやラウルがペシッ☆と弾き返して終了である。

やがてシロが走るスピードを落とし、ゆっくりと歩くようになった。

そして程なくしてシロが立ち止まり、背中にいるライト達に向けて声をかけた。

『皆ー、池についたわよー』

シロの言葉に、ライト達はシロの背中から下りて地面に足をつけた。

眼前に現れた大きな池、その水面に地底の星の光が反射していてとても幻想的な光景が広がっていた。

その美しさに、ライトは思わず感嘆の声を漏らす。

「うわぁ……すっごい綺麗な池……」

「思ってたよりもかなり大きな池だな」

「しかもこれ、かなり綺麗な水だな。後で少し持ち帰り用にいただいていこう」

思わず見惚れるライトとレオニスに、ラウルは早速この池の水の持ち帰りを検討している。

もちろんライトも後で少しいただくつもりではいるが、ラウルの皮算用の早さにはライトもびっくりである。

そんなライト達に、地の女王が誇らしげに話しかける。

『ここがー、地底世界唯一の池よー!どう、すっごくキレイでしょー♪』

「はい!すっごく綺麗な池で、見惚れちゃいました!」

『でしょでしょー♪』

池の美しさを褒めちぎるライトに、地の女王はご機嫌である。

ちなみにシロはというと、ライト達と地の女王を下ろした後、とっとと池に飛び込んでしまった。

こちらも超ご機嫌な様子で、池の中をスイスイ、スイー、と泳いでいる。

巨躯を誇るシロが悠々泳げる程大きな池だとは、ライト達も予想外だった。

そしてここでレオニスが、地の女王に向かって問いかけた。

「地の女王、この池は何て名前なんだ?」

『??? 池はー、池よー?』

「……そうか、ここも特に名前はないんだな」

地の女王からの答えに、レオニスは早々に察する。

かつてのラグスの泉同様、この池は地底世界で唯一の水場なので特に名前はつけられていないのだ。

実際ここで『池』と言えばここしかないのだから、いちいち特定するための名称など不要なのである。

「……ま、とりあえず『地底の池』ってことでいいか。ライト、早速だがウィカを呼んでもらえるか?」

「うん!」

ライトは池の畔から水面の上をトトト……と数歩歩いて進み、水面下に向けてウィカの名を呼びかける。

「おーい、ウィカー、ぼくだよー、ライトだよー!来てくれるー?」

ライトが水面に呼びかけ、しばらくすると空気の泡が一つ二つ浮いてきた。そしていつものように、水の中からウィカが出てきてちょこんと水面に座った。

愛らしい糸目笑顔でライトに微笑むウィカに、ライトも満面の笑みで迎える。

『ライト君、ヤッホー♪』

「ウィカ、久しぶりだね!来てくれてありがとう!」

『どういたしまして♪…………って、ここ、どこ? 初めての場所っぽいけど……』

「ここは地底世界だよ!」

『地底世界かぁ……道理で暗いと思ったー』

挨拶も早々に、周囲をキョロキョロと見回すウィカ。

先程まで目覚めの湖にいたウィカは、今は夜ではないことをよく知っている。なのに、突如呼び出された先はまるで夜のような暗い世界が広がっているのだ。不思議そうに見回すのも当然である。

「ウィカ、いつものようにこの水場を覚えてくれる?」

『OKー♪ ここ、何て名前の池なの?』

「名前は特にないらしいんだけど、この地底世界で唯一の池だから、『地底の池』でいいと思うー」

『地底の池ね、うん、了解☆』

ライト達のやり取りに、レオニスとラウルも参加する。

「よう、ウィカ」

『あ、レオニス君。こないだぶりだねー♪』

「ウィカ、久しぶり」

『ラウル君もいたんだね!三人で地底にお出かけ?』

「そうそう。今日はツィちゃんの兄ちゃんや水の女王の姉妹の地の女王に会うために、地底世界を探検してるんだ」

『おおー、皆すごーい!冒険者っぽいねー!』

この地底世界にレオニスとラウルまでいることに、ウィカは糸目を丸くして驚いている。

そして今日のライト達の目的、冥界樹ユグドランガと地の女王を探す冒険と聞き、ニパッ☆と笑う。

冒険者っぽいねー!ではなく、レオニスもラウルも現役冒険者そのものなのだが。

「さて、そしたらウィカも地の女王に挨拶しとくか?」

『うん♪ 水の女王ちゃんの姉妹なら、是非ともボクも挨拶しておかないとね!』

ひとまず挨拶を交わし、ウィカを地の女王に紹介すべく後ろを振り返るライト達。

するとそこには、目をキラキラとさせた地の女王がいた。

地の女王が池の畔に立ち、感動したような声でウィカに話しかける。

『うわぁー、すーっごい可愛らしいネコちゃんねー!アナタがウィカっていうのー?』

『うん!ボクの名前はウィカ、いつもは目覚めの湖にいる水の精霊なんだ。ヨロシクね☆』

『本当に見た目はネコちゃんそっくりねー』

人懐っこいウィカが、自ら地の女王に近づいていって挨拶をする。

地の女王が水の塊を苦手にしていることが分かっているようだ。

ウィカの方から歩み寄ってきてくれたことに、地の女王はますます破顔しながら足元に来たウィカを抱っこした。

『うちのシロちゃんもねぇー、大きなネコちゃんみたいなものなのよー?』

『シロちゃん? それは誰?』

『あっちで今ご機嫌に泳いでいる子よー。ああ見えても地底神殿の守護神でねぇー、ワタシと地底神殿を守ってくれてるのー』

『神殿守護神かー、目覚めの湖にいるアクア君と同じお役目の子なんだねー』

地の女王がウィカを胸元で抱っこし、撫でながらシロの説明をしている。

確かにシロ=白虎も大きな猫で、ウィカとの共通点がある。

もっともその大きさは壮絶に違うし、色も白と黒で真反対ではあるが。

するとここで、地の女王が池の中央にいるシロに向かって大きな声で呼びかけた。

『シロちゃーん、新しいお客様が来たわよー。ご挨拶しにこっちに来てぇーーー』

それまでフフフーン♪と鼻歌交じりで泳いでいたシロ。

地の女王からの呼びかけに『ン???』という顔で振り向いた後、スイスイー……と泳いでライト達の方に戻ってきた。

水から上がり、ライト達のいる場所から少し離れたところで身体の水分を飛ばすシロ。これは、地の女王に水飛沫を飛ばさないように、という配慮である。

そして再びライト達のもとに戻ってきたシロに、地の女王が声をかけた。

『シロちゃん、おかえりー』

『ただいまー。新しいお客様ー? どこどこー?』

『ここよー、ほら、ここー』

『?????』

地の女王が言う『新しいお客様』がどこにいるのか、シロは分からずキョロキョロと周囲を見回している。

というのも、地の女王の黒に近い焦げ茶色の身体に黒猫姿のウィカが溶け込んでしまって、ぱっと見では区別しづらいのだ。

一向にウィカに気づかないシロに、地の女王が抱っこしていたウィカを両手で高々と突き出すようにシロの目の前に持ち上げた。

『ほらー、ここよ、ここー!』

『…………』

『こちらはねー、さっき皆がお話していたー、ウィカちゃんですってー』

『…………』

『目覚めの湖に住んでいるー、水の精霊なんですってー。シロちゃんと同じネコちゃんの姿をしていてー、すーっごく可愛いわよねぇー♪』

『…………』

『ンー? シロちゃん、どしたのー?』

目の前にウィカを突き出されたシロが、何故かカチコチに固まってしまった。

突如固まったシロ、地の女王が何を話しても無言のまま目の前のウィカをジーーーッ……と眺めている。

そんなシロの不審な行動に、地の女王が不思議そうに尋ねたその時。

ようやくシロがその口を開いた。

『…………なんてカッコイイの…………』

「「「『『???』』」」」

『こんなステキな超イケネコ様、今まで見たことないわ……』

「「「『『?????』』」」」

みるみるうちにシロの耳の皮膚が真っ赤になっていく。

そして己の言葉で我に返ったのか、シロが慌てふためいて悶えだした。

『あらヤダッ、ワタシってば!こんなイケネコ様の前で水浸しだなんて!何てことッ!』

『イヤーーーン、見ないでぇーーー!恥ずかしいーーー!てゆか、恥ずかし過ぎて死ねるぅーーー!』

『うわぁーーーん!おうち帰るぅーーー!!チーちゃん、帰るわよッ!!』

「「「『『…………』』」」」

まるで麺棒を転がすかのように、池の畔でゴロゴロと左右に転げ回って悶絶するシロ。それまでの言動を見るに、どうやらシロはウィカに一目惚れしたようだ。

ウィカは見た目だけでは性別が判別し難いのに、一目見ただけで男の子だということを看破するとは驚きだ。

しかし、生まれて初めて見る超イケネコ様の前で様々な失態?を犯しまくったことに、シロは大泣きしながらすっ飛んでいってしまった。

もちろん地の女王を置き去りにする訳にはいかないので、地の女王を口でむんず!と咥えてからの猛ダッシュである。

地の女王が止めたり諌めたりする間もなく、突風のように去ってしまったシロ。

置き去りにされた格好のライト達も、しばし呆然と立ち尽くしていた。

「…………何だったんだ、今のは?」

『よく分かんない……ボク、何もしてないんだけど……』

「シロちゃんが、ウィカに一目惚れしたっぽい?」

「ウィカは相変わらずモテモテだなぁ」

全く訳が分からないラウルとウィカに、シロの一目惚れを察したライト。

そしてそれを聞いたレオニスが、ウィカのモテモテっぷりに心底感心している。

『…………地の女王ちゃんも帰っちゃったし、とりあえずボク達も目覚めの湖に帰る?』

「そうだな、そうするか」

「あ、地上に帰る前にここの水を汲む時間を少しくれ」

「あ、ぼくも水を持ち帰りたーい」

「お前ら、本当に水に目がないね……」

地の女王もシロもいなくなってしまったので、そのままウィカとともに地上に帰ることにしたライト達。

帰還直前に水の採取を忘れないしっかり者のラウルに、ライトも慌ててアイテムリュックから木製バケツを取り出す。

そんな水マニア達の姿に、レオニスがほとほと感心したように呟く。

そうして一頻り水を汲み終えたライト達は、ウィカの水中移動で目覚めの湖に移動していった。