軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第103話 世界を救った勇者

静かな嗚咽がしばらく続いた後、一番最初に口を開いたのはレオニスだった。

「……フェネセンよ。実物のライトは夢で見るよりも可愛くて、賢くて、優しくて、良い子だろう?」

少しだけ目が赤くなったレオニスが、ほんのり微笑みながらフェネセンに問いかける。

その言葉を聞いたフェネセンは、涙をぐしぐしと手で拭いながら微笑んだ。

「……うん、吾輩の夢見後の予想や軽く湧いた興味なんて、砂粒以下にも思えるくらいにはるかに素晴らしい、本当に、本当に聡明な子だねぇ」

「そうだろうとも。ライトは俺の、大事な大事な相棒だからな!」

とびっきりの笑顔で、レオニスは高らかに宣言した。

ライトはレオニスの相棒発言に、ちょっとだけびっくりしていた。

「……相棒?ぼくが?レオ兄ちゃんの?」

「そうとも、お前は俺の立派な相棒だ」

「ぼく、まだ冒険者登録もできてないけど……」

「それが何だってんだ?今はまだそうでも、いずれは俺と同じ冒険者になるんだろう?」

「うん、それはもちろんそうだけど……」

冒険者として尊敬するレオニスから相棒認定されたことの嬉しさよりも、戸惑いの方が先に立ち返事に詰まるライトに、今度はフェネセンが声をかける。

「そうだよ、ライト君は立派な冒険者になれるよん。それどころか、もう既に世界を救った立派な勇者じゃないか!」

「えッ、勇者!?」

かつて『勇者候補生』だったライトが、候補生ではなく勇者そのものとフェネセンに讃えられたことに、ライトはびっくりした。

レオニスは、この世界に勇者はいない、と言っていた。

なのに、フェネセンはライトを勇者と手放しで讃える。

いないはずの勇者に喩えられたライトは、ただただ驚愕する他なかった。

「そうだよ?ここにいる、世界一強い金剛級冒険者と世界一有能な大魔導師。この二人をたった今、君は救ってみせたじゃないか!」

「これを、世界を救った勇者と言わずして、何と言うんだい?」

「吾輩は今、ライト君の言葉に救われた。そしてそれは、レオぽんも同じはずだ。それもレオぽんの場合は、今回だけでなく過去幾度となく、ね」

ライトを大絶賛したフェネセンは、その後すぐに目を伏せて俯き、ライトに向けて静かに語り続ける。

「冒険者というのはね、怪我や病気などの肉体的な要因で続けられなくなることも多いけど、精神的な問題でやめることも多いんだ」

「そう、恐怖や虚無感、無力感などで心が完全に折れきってしまったら、そこから立ち直るのは非常に困難なんだ」

「吾輩、そういう折れてしまった冒険者を今までたくさん見てきたよ。一人や二人じゃない、それこそ何十人何百人と見てきた」

「そして、そこから再び立ち上がって冒険者の世界に戻ってこれた人を―――吾輩は一人も知らない」

今までの己の人生を振り返るかのように、遠くを見つめるフェネセン。

「家族、恋人、親友、恩師―――自分の命よりも大事に慕う人を亡くした者は、良くてその復讐を終えるまでは我武者羅に突き進めても、復讐完遂後は抜け殻になってしまうことがほとんどなんだ」

「『時間薬』なんて言葉もあるが、冒険者という稼業は長年のブランクを抱えたままで戻ってこれるほど甘い世界でもない。気力も体力も衰えたまま戻っても、すぐに大怪我したり下手すれば命を落としてお終いだ」

「そういった意味でも、心が折れた冒険者は二度と冒険者の世界には戻ってこれない」

フェネセンの話に、レオニスも小さく頷く。

フェネセンだけでなく、レオニスもまたそういう仲間を幾度となく見送ってきたのだろう。

「レオぽんもね、8年前のあの時に―――いつ心が折れてもおかしくなかったんだ」

「その、いつ折れて砕け散ってもおかしくなかったレオぽんの心を、正気のまま冒険者の世界に繋ぎとめたのは……間違いなくライト君、君という存在だ」

「ライト君、君は自分の功績を誇っていい」

フェネセンはライトを真っ直ぐに見つめる。

その表情はいつになく真剣で、ライトもフェネセンの澄んだ浅葱色の瞳に吸い込まれるように、無言で見つめ続ける。

「レオぽんの心を守ったことで、伝説級の冒険者をこの世界に繋ぎとめることができたのだから」

「君がいなければ、今頃レオぽんはとっくの昔に冒険者を辞めていて―――世界はレオニスという金剛級冒険者を失っていただろうさ」

「……ね?レオぽん?」

フェネセンはレオニスの方に顔を向け、その名前だけを呼び問いかける。

「……ああ。全く以てフェネセンの言う通りだ」

渋々といった表情で、フェネセンからの問いに肯定する。

フェネセンに全て言い当てられたことが、若干悔しいようだ。

「確かに俺はあの日、グランの兄貴という大事な存在を失った。その挙句に、グランの兄貴の最愛の人、レミ姉の行方も掴めず―――」

「ようやく見つけた時には、レミ姉も既にグランの兄貴の後を追ってしまった後だった」

レオニスは目を伏せながら、静かに語る。

「だが、二人の子であるライト、お前がいた」

「お前の存在は、全てを失いかけていた俺にとって唯一無二の希望の光だった」

「お前が傍にいてくれなければ、俺は今頃ここにはいなかっただろう」

「自棄になって飲めない酒にでも溺れるか、あるいは世の全てを憎み無法者に堕ちるか―――いずれにしろ、間違いなくろくでもない人生になっていたはずだ」

「だから俺には、ライトには一生かかっても返しきれない恩がある」

「グランの兄貴とレミ姉が遺してくれたライトを、立派な一人前になるまで育てていくつもりだ」

「俺の生涯全てをかけてでもな」

ライトの前にしゃがんで、優しい眼差しで頭を撫でるレオニス。

ライトはその言葉に打ち震え、レオニスの首にガバッと抱きついた。

「レオ兄ちゃん……ぼくの方こそ、いろいろ迷惑ばかりかけるけど……」

「これからもずっと、ずっと、いっしょにいてね……」

「ああ、約束する。ずっといっしょだ」

レオニスの肩に顔を埋めるライトと、抱きつくライトの背中をぽんぽん、と優しく撫でるレオニス。

ずっと共に歩んでいくことを固く誓う二人だった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「……さて。これからどうするかな」

暗く重苦しかった空気も薄れ、三人の気分も少しづつ上向きになってきた頃にレオニスが呟いた。

「レオ兄ちゃん、今日はカラスの様子を見にラグナロッツァの家にいっしょに行くって話をしてたけど……どうする?」

「……ああ、そうだったな。フェネセンの闖入ですっかり飛んじまったな」

「ン?吾輩、闖入者?ごめんね?」

「お前ね、闖入者以外の何者でもないだろうがよ……」

しばらくは怒る気力も起きないのか、小さなため息をつきながら軽くツッコミするだけのレオニス。

この三人の中で一番立ち直りが早いのは、間違いなくフェネセンであろう。

そんなフェネセンを見て、ライトはふと思い立つ。

「ねぇ、レオ兄ちゃん。フェネぴょんって、偉大な大魔導師なんだよね?そしたら、フェネぴょんにカラスを診てもらうのって、どうかな?」

「ん?そうだな……フェネセンなら、カラスの容態とか回復方法が分かるかもしれん」

「ン?カラス?」

ライトが発した『カラス』という言葉に、フェネセンはピクリと反応した。

「んーとね、こないだラグナロッツァの家の前で、大きなカラスが行き倒れててね?」

「ふむふむ」

「レオ兄ちゃんが何回も回復魔法かけてくれて、とりあえず瀕死の状態から何とか助けられたんだけど」

「へむへむ」

「それから五日経つんだけど、まだ目を覚まさないの……」

「ほむほむ」

何やら謎い相槌を打つフェネセン。

もはや誰もツッコミしないあたり、ライトもフェネセンの奇っ怪な言動に徐々に慣れつつあるようだ。

「もしかして、夢で見たあの黒い鳥は―――」

「ん?フェネぴょん、どうしたの?」

フェネセンが何やら思案している。

「さっき、吾輩は君達の夢を見てここに来たって言ったでしょ?」

「実は君達の夢には続きがあってね。君達が夢に出てきた後、場面が突然切り替わってカラス?が出てきたの」

「むっちりムチムチぷりっぷりの丸々とした黒い鳥が、ベッドで寝かされている場面」

「ぃゃー、吾輩自身もそれが一体何なのかさっぱり分からなくてさぁ。その黒い鳥に全く心当たりもないから、どこに向かえばいいかも 全然(じぇーんじぇん) 分かんないし」

フェネセンの言う、むっちりムチムチぷりっぷりの丸々な黒い鳥。

今ラグナロッツァの屋敷にいる八咫烏に、100%当てはまっている。

「それに、吾輩が行くべき場所の夢を連続して見るなんて、吾輩の人生で初めてのことでさ。どうするべきか悩みに悩んだのよ」

「とりあえず、分かる方のレオぽんのとこに先に来たって訳なんだけどね?」

「……ン、そうか、そういうことか」

フェネセンはその一連の出来事に、自身が納得のいく回答を得たようだ。

対するライトは、いまいちよく理解できないようで、フェネセンに問うた。

「そういうことって、どういうこと?」

「多分ね、レオぽんのもとを訪ねることで、そのカラスに巡り会うことを示唆していたんだ」

「そしておそらく、吾輩がそのカラスに出会うことの方が喫緊で重要度が高い。カラスのいる場所に辿り着くために、レオぽんのところに立ち寄るように導かれたのだから」

「もちろんレオぽんの研究を手伝うことも、とても重要なんだけどね?」

「ンで、吾輩の夢に出てくるくらいだから、その黒い鳥はただのカラスではないよね?」

今度はフェネセンがライトに問うた。

「うん、その子多分、八咫烏なんだよね」

「何、八咫烏とな?……てゆか、多分、てどゆこと?」

「八咫烏って、三本足が最大の特徴でしょ?その三本目の足が、見えないの。隠蔽魔法?か何かで隠してるって、レオ兄ちゃんは言ってたけど」

「ほええ、それはまた何とも奇っ怪な八咫烏だねぇ」

「うん、謎は多いけど、どうもラウルのお友達っぽいし、何とか助けてあげたいんだよねぇ……あッ、ラウルってのはラグナロッツァの家にいる執事の妖精さんね」

ライトがラウルの名前を口にした途端、フェネセンは目をキラーン!と輝かせた。

「ほほぅ、ラウルっちのお友達、とな?それはそれは、是非とも吾輩もお友達の救助に尽力せねばなるまいねぇ!」

「……ん?ラウルっち、とな?フェネぴょん、ラウルのこと知ってるの?」

「うんうん、知ってるよ?吾輩、ラウルっちともお友達だからさッ!」

ラウルのことを『ラウルっち』という甚だ怪しい愛称で呼ぶあたり、どうやらラウルとフェネセンは本当に見知った仲らしい。

「じゃ、とりあえず三人で今からラグナロッツァの家に行くか」

レオニスの一声に従い、三人はライトの部屋の隅にある転移門の方にに歩いていった。