軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1017話 イグニスのお見舞いと容態

イヴリン達三人のお見舞いを無事済ませた翌日。

ライト達は学園の帰りにラグナ神殿に寄ることになった。

目的はもちろんイグニスのお見舞いである。

ライト達の保護者兼通行手形役のラウルとは、ラグナ神殿正門前で待ち合わせすることになっている。

ラグーン学園の授業が終わった後、ライト達五人は早速ラグナ神殿に向かった。

ライト達がラグナ神殿正門に辿り着くと、そこには既にラウルがいて待っていた。

ラウルの姿を見つけたライト、皆より一足先にラウルのもとに駆け寄っていく。

「ラウル、ただいまー!待たせちゃった?」

「おう、ライト、おかえりー。そんなに待ってないから気にすんな。つか、少し早めに来て医務室の位置を確認したり、皆が中に入れるように交渉して許可をもらっておいたぞ」

「ホント!? ありがとう!」

正門前で待っていたラウルを長く待たせたのではないか、と心配するライトに、ラウルは全く気にすることなくライト達を迎える。

しかも、ライト達がラグナ神殿に来る前に、ライト達も含めて皆でラグナ神殿内に入れるように交渉しておいてくれたと言うではないか。

その手際の良さ、さすがは万能執事ラウルである。

「ただし、今回はイグニスのお見舞いとして来ているから、中に入れるのは医務室だけな」

「もちろん!他のところには絶対に入らないよ!皆もそれでいいよね?」

「うん!ラウルさん、ありがとう!」

「ラウルさん、こんにちは!」

「今日はよろしくお願いします」

ラウルの注意事項に、ライト他五名は異論などない。

むしろラグナ神殿内に入る手筈を整えてくれたことに、皆お礼を言いながら挨拶をしている。

そうして六人で正門を潜り、ラウルを先頭にして医務室に向かって真っ直ぐ進んでいく。

途中薬草園が少し離れたところに見えたが、何やら物々しい柵に囲まれていた。それは先日の爆発騒動の時に【武帝】の残滓の餌食となってしまった場所である。

本来なら年間を通して何かしらが植わっていて、常に青々とした庭園風になっているのだが。今は草一本生えていない。

【武帝】の残滓が薬草園の薬草全ての力を吸い取ってしまったので、万が一にも不浄の地と化さないようラグナ教の司祭達が毎日浄化魔法をかけて清めている最中なのである。

そうしてラウルの案内で、神殿内の医務室の前に辿り着いたライト達。

まずはラウルが扉を二回ノックしてから医務室に入っていった。

中には左右三台づつ計六台のベッドがあり、右側一番奥の窓側のベッドにだけ人がいる。どうやらそこがイグニスの寝かされているベッドらしい。

ベッドの横にいる、老人と思しき小さな背中をした人にラウルが声をかけた。

「ペレのおやっさん…………」

「…………ああ、ラウルさんか。……おや、イヴリンにリリィ、ジョゼにライト君まで来てくれたのかね。イグニスのために集まってくれて、ありがとうよ」

「「「「……こんにちは……」」」」

ラウルの声にペレがゆっくりと背後を向き、それがラウルであることを知ると小さく微笑んだ。

いつものペレなら、ハキハキとして張りのある声なのに―――今のペレにはそんな元気も気力もないことが、ラウルだけでなくライト達にも分かる。

やはり今回の事件で、ペレにも相当の心労がかかっているのだろう。大事な跡取り孫が、今も意識不明のままずっとベッドで寝たきりなのだ。年老いた祖父でなくとも心が痛むというものである。

「イグニス君は……どうですか?」

「ああ、見ての通りまだ目を覚ましてくれなくてな……司祭様達だけでなく、総主教様や大教皇様まで朝昼晩来てくださって、様々な治癒魔法をかけ続けてくれておるんじゃが……」

ライトの問いかけに、ペレは力なく項垂れ 頭(かぶり) を振る。

司祭のみならず、総主教や大教皇まで全力でイグニスの治療にあたってくれているというのは、何気にすごいことだ。

だが、そうした皆の懸命な治療も虚しく、未だにイグニスは目覚めていなかった。

ライト、イヴリン、リリィ、ジョゼの四人が、ペレの横に立ちイグニスの顔を見る。

顔色は特に悪くないし、その表情も苦悶に喘ぐ訳でもなく至って普通で、本当にただ寝ているだけにしか見えない。

しかし、一昨日のラグナ神殿爆発騒動から丸二日以上経過しているのに未だ目覚めないということは、これがただの気絶や失神などではないことは明らかだ。

「イグニス……どうして起きてこないの?」

「寝坊していい土日は、もうとっくに終わったのに……」

「早く起きて、リリィ達といっしょに校庭で遊ぼうよぅ……」

イヴリン、ジョゼ、リリィの三人は、とても寂しそうにイグニスに話しかけている。

ライトも悲しげな面持ちでずっとイグニスの顔を眺めていた。

だがライトには、今ここで内密に実行しなければならないことがあった。

それは、イグニスのステータスチェックである。

ライトは脳内でイグニスの鑑定を発動する。

ライトの目の前に現れた、青い半透明のホログラムパネル。

そこにはイグニスのステータスが詳細に書かれていた。

その数値は以下の通りである。

====================

【名前】イグニス

【レベル】98

【ジョブ】‒

【ジョブ習熟度】−

【称号】破壊神

【状態】昏睡(霊体損傷/極大)

【HP】804/1923

【MP】98/1210

【SP】−

【BP】−

【力】142 〖物理攻撃力〗284

【体力】301 〖物理防御力〗602+500

【速度】153 〖敏捷〗244〖命中〗183〖回避〗229

【知力】12 〖魔法攻撃力〗22

【精神力】400 〖魔法防御力〗800

【運】1 〖器用〗1〖クリティカル〗100〖ドロップ率〗−

【上】布の服(上)

【下】布の服(下)

【頭】−

【腕】−

【足】普通の靴下

【アクセ】−

====================

ライトの目の前に表示されたイグニスのステータス値に、ライトは唖然とする。

『え、ちょ、待、レベル98? まだ初等部の九歳なのに、何でそんなレベル高いの?…………って、そうか、【武帝】の分体と戦って撃破したことで、一気に膨大な経験値が入ったのか……』

『でもって、称号が【破壊神】か……やっぱりこの子は、生まれながらにしてBCOの破壊神の魂を持つ子なんだな……』

『ていうか、レベル100手前だけあってステータス値がいろいろとすげーな……HPもMPも高いし、体力、速度、精神力なんかもすごく高いけど……運1、器用1、なのにクリティカル100って、一体何事???』

今まで見たこともない破天荒なステータス値に、ライトは心底度肝を抜かれている。

転職神殿で職業システムを利用しているライトでも、レベル50あたりで一度レベルリセットするのが常となっている。今は全職業マスターを目指しているので、レベル上げは当分お預けなのだ。

ちなみにライトが今見ているステータス値は、イグニス少年本体のステータスであって【破壊神イグニス】のものではない。

BCOで討伐対象にもなった【破壊神イグニス】は、HP七桁MP六桁というレイドボス並みのステータスを誇る。

しかし、このイグニス少年本体のステータスもかなり歪だ。

【体力】が多めなのは、体力必須の鍛冶師には当然のことなので分かる。だがそれ以外がかなりおかしい。

【精神力】が最も高いのは、どれだけ鍛冶強化を失敗して罵られようとも、絶対に挫けない破壊神ならではの不屈の精神を表している。

一方で【知力】がものすごく低いのは、鍛冶以外の勉強全般嫌いなことが影響していると思われる。本来なら鍛冶の知識を蓄えるのにも知力が必要なはずなのだが、破壊神イグニスなら『鍛冶の知識だァー? ンなもん気合いと勘でコツを覚えるぜ!』とか言いだしそうだ。

そして【知力】以上に最もおかしいのが【運】である。

【運】は〖器用〗〖クリティカル〗〖ドロップ率〗の三要素に影響する項目で、特に一撃必殺的な攻撃系スキルにはクリティカルの高さが求められる。

故にBCOユーザー達はクリティカルを上げるために【運】にステータス振り分ける必要があった。

しかし、イグニス少年の【運】は何と1。ゼロでこそないものの、1とは最低中の最低数値である。

そのせいか〖器用〗は1なのに、どういう訳か〖クリティカル〗が100になっている。これはステータスアップの法則から完全に逸脱していた。

ユーザー側のライトには知る由もないのだが、実はこれは『イグニス専用ステータス』というやつだ。

それは『運のみ倍率0固定、クリティカルも100固定、ドロップ率無し』という、実にイカれたイグニス専用の方程式である。

あまりにも歪で珍奇なイグニスのステータス値に、しばし目を奪われていたライト。

しかし今最も重要なのは、イグニスの容態を推し量るためのデータである。

ハッ!と我に返ったライトが、それを示す状態の項目を見ると『昏睡(霊体損傷/極大)』とあった。やはりイグニスの容態はかなり深刻なようだ。

『昏睡……しかも霊体損傷、極大……これ、かなり深刻なんじゃ……いや、それより何よりHPが半分以下でMPが一割以下って……相当マズいんじゃないのか?』

『ラグナ神殿の人達が、毎日献身的な治療を施しているはずなのに……何故HPもMPもこんなに少ないんだ?』

『もしかして……イグニス君の昏睡が続いているのは、MPが少ないせいかもしれない……』

昏睡を示す状態以外にも、HPやMPが思っていた以上に低いことに着目したライト。

いや、HPは半分以下ではあるがそれでもまだ四割以上あるからまだいい。問題はMPの方で、MAX値の一割にも満たない状態にあった。

HPが物質的な肉体の健康状態を示すとしたら、MPは霊体の健康状態を示す数値と言えよう。その両方とも低いのは、実に由々しき事態である。

今のMP枯渇寸前状態を、まず何とかしなければならない―――そう考えたライトは、その方法を懸命に脳内で模索する。

『このサイサクス世界では、HPは回復魔法や治癒魔法で数値を回復させることができるが……MPを回復するのは、エーテル類の服用するしか手段がない』

『でも、イグニス君のように意識不明の人に、エーテル類を無理矢理飲ませることなんてとてもできない……幻のツルハシのように、俺がイグニス君に直接MPを充填する訳にもいかないし……』

『なら、病院のように点滴でエーテルを直接体内に入れればいいのか? ……ていうか、そもそもサイサクス世界に点滴なんてあるのか? 少なくとも、この医務室にはないようだが……』

『もし点滴ができないとしたら……こんなの、どうすりゃいいんだ……』

イグニスの状態を見たライトは、心の中で途方に暮れる。

ライトが悩んでいるのは、このサイサクス世界ではMPの回復手段がHP回復に比べて限られていて不利なことにある。

HP体力回復はいくらでも方法があるのだが、MP回復を早めるよう促したりMPを他者に直接譲渡するといった方法が存在しないのだ。

険しい顔でイグニスを見つめるライトに、ラウルがそっとその肩に手を置いて話しかける。

「……ライト、大丈夫だ。イグニスはきっと良くなる。総主教や大教皇が治療してくれてるってんなら、すぐに目が覚めるさ」

「…………」

「ペレのおやっさんも、自分の身体を大事にしてくれ。イグニスが目を覚ました時に、おやっさんが倒れて動けなくなってたら困るだろう?」

「……ああ、そうじゃな、ラウルさんの言う通りじゃ」

ライトを励ました後に、ペレにも励ましの言葉をかけるラウル。

確かにペレがずっと思い詰めたままでは、その老体に非常に良くない。いずれペレも倒れたり寝込んだりしてしまうだろう。

そんなことになったら、一体誰が目を覚ましたイグニスを迎えるのか。ラウルの尤もな言葉に、ペレは力無く頷いた。

そしてライトの横にいたイヴリン達も、イグニスの手を握ったり頬や頭を撫でたりしている。

「イグニス……早く起きてね」

「もし勉強が遅れたら、僕が教えてあげるから」

「いつかリリィの包丁を作ってくれるんでしょ? 約束を破ったら、絶対に許さないんだからね?」

イグニスの幼馴染達の懸命な言葉も、今のイグニスには届かない。

幼馴染の帰還を信じて疑わないイヴリン達の姿に、ライトは涙が出そうになる。

唯一イグニスの容態が危険なことを知っているライトには、その光景は胸が締めつけられる思いだった。

しかし、ここで涙を流す訳にはいかない。今ライトが泣きだしたら、きっと皆今以上に不安に駆られて余計な心配をかけてしまうだろうから。

ライトは必死に涙を堪え、心の中で一つの決意をしていた。