軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1013話 水の女王の秘策

翌日の月曜日から、ライト達はいつも以上に多忙な平日を過ごしていた。

レオニスとラウルは、ライトやマキシの提案通りそれまで知り合った様々な友にレオニスへの助力を頼むためにあちこちを駆けずり回った。

神樹族の方は、彼女達と馴染みも縁も深いラウルに任せて、レオニスは属性の女王達のもとを訪ね回ることになった。

まずは一番身近な目覚めの湖を訪問することにしたレオニス。水の女王が起きているであろう午前十時頃に、カタポレンの家の浴槽から直接湖に移動した。

そこではいつものように、水の女王やアクア、ウィカ、イードが快く出迎えてくれた。

湖の中央に浮かぶ小島で、水の女王達はレオニスが出したおやつをつまみながら話に聞き入っていた。

『へええええ……廃都の魔城の四帝が入った武器、ねぇ……人族が住むところには、そんな恐ろしいものが四つもあるだなんて。私、初めて知ったわ』

『ホントにね。ていうか、レオニス君、そんな大変な使命を背負っていたんだね……僕は君のことを、改めて尊敬するよ』

「よせよ、アクア。水神のお前にそんなこと言われたら照れるじゃねぇかー」

『いやいや、僕は本当に尊敬しているんだよ。君がただ単に足も泳ぎも速過ぎて、追いかけっこが超得意な人間というだけじゃなかったことにね』

「お、おう……ありがとよ……」

ラウル特製チョコクッキーをまくまくと食む水の女王に、同じく大好物のスペシャルミートボールくんを美味しそうに頬張るアクア。

レオニスから聞く様々な話に、皆感心することしきりといった様子だ。

ただし最後の方のアクアの言葉は、あまり褒め言葉には思えないが。でもアクアとしては、最上級の賛辞を送ったつもりだったりする。

そう、アクアは本当にレオニスという人間を心の底から尊敬しているのだ。

『ねぇ、レオニス。そしたら貴方は、これからその聖遺物の一つの剣?を直すために、大量の魔力を必要としている、ということよね?』

「ああ。四帝を倒すには、あの剣を失う訳にはいかん。しかし、俺一人の魔力では足りないかもしれん……だから、水の女王やアクアにも力を貸してほしいんだ。これまでにも皆からは加護とか勲章とか、たくさんのことをしてもらっておいてまだねだるなんて、我ながら図々しいとは思うんだが……」

『そんなことないわよ!レオニスだって、私達のことをたくさん助けてくれてるもの!ねぇ、アクア様?』

『うん、水の女王の言う通りだよ。僕達にできることなら何でも手伝うから、遠慮なく言ってよね』

「ありがとう、水の女王、アクア」

助力を請うことを申し訳なさそうに恥じ入るレオニスに、水の女王もアクアも決して厭うことなく快く受け入れる。

水の女王やアクアの隣にいるウィカやイードも、口出しこそしないがそのニコニコとした笑顔は全力でレオニスを応援していることが分かる。

目覚めの湖の仲間達の気持ちに、レオニスはただただ感謝するばかりだった。

するとここで水の女王が、アクアに向かって話しかけた。

『ねぇ、アクア様。そしたら私がレオニスに【水の宝珠】を作ってあげたいのだけど、どうかしら?』

『ああ、【水の宝珠】か……うん、僕達がそのラグナ神殿?という人里のド真ん中に直接出向く訳にもいかないし、それが一番いいんじゃないかな?』

「【水の宝珠】? それは何だ?」

水の女王の口から出てきた謎の【水の宝珠】なる言葉に、レオニスがいち早く反応する。

そんなレオニスに、水の女王が解説し始めた。

『【水の宝珠】というのはね、属性の女王だけが作ることのできる魔力の塊よ』

「それは【水の乙女の雫】なんかとは違うものなのか?」

『本質的には同じものだけど、大きさや規模からして全然違うのよ。私の場合【水の乙女の雫】は涙がもとになっていて、一個の大きさは指の爪一つ分くらいでしょ? でも【水の宝珠】は、それよりもっともっと大きくて、雫の何十倍も大きいのよ』

「そんなものがあるのか……」

【水の宝珠】とは、読んで字の如しで大きな珠の形をした魔力の塊だという。要は乙女の雫の上位版である。

レオニスは【水の乙女の雫】のことは知っていたが、【水の宝珠】は全く知らなかった。それもそのはず、属性の女王達から宝珠をもらった人間など、今まで誰一人としていなかったのだから。

つまりレオニスは、サイサクス世界で人類史上初の属性の女王から宝珠を授けられた人族、ということなのである。

『でね、宝珠というのは女王一人だけでは作れないの。その女王の住処である神殿を守る、神殿守護神様とともに力を合わせることで作ることができるのよ』

「それは……すごいものが出来上がりそうだな」

『当然よ!レオニスはそこで見てなさい♪』

水の女王が語る【水の宝珠】の作り方に、レオニスは驚きを隠せない。

かつて水の女王からもらった【水の乙女の雫】ですら、魔術師ギルドの鑑定で『類を見ない程の高濃度の魔力を有している』と評されていた。

その雫よりも、質量ともにはるかに上回る品となれば、一体どれだけの魔力を有することになるのか。レオニスにももう想像がつかなかった。

そんなレオニスの驚きの顔に、水の女王はフッフーン☆と鼻高々に得意げな顔ですくっ!とその場で立ち上がる。

腰に手を当ててふんぞり返る水の女王。そのドヤ顔は嫌味など全くなく、むしろ微笑ましいくらいである。

しかし、そんな愛らしいドヤ顔はすぐに消えて真剣な表情になる水の女王。

アクアの方に身体を向き直し、改めてアクアに声をかける。

『じゃ、今から早速作るわね。アクア様も、よろしくお願いいたしますね!』

『任せてー』

水の女王が両手を高く掲げ、空中に水の塊を出現させた。

最初は拳大だった水の塊が、みるみるうちに巨大化していく。

レオニス達の上空で、最終的には50メートルくらいの球体になった水の塊。そこにアクアが近づいていき、水の塊を手のひらに乗せるかのように右前肢で下から触れた。

水神にして湖底神殿の守護神であるアクア自らが、水の塊に魔力を注いでいるのである。

するとその水の塊が、これまたみるみるうちにシュルシュルと縮んでいく。水に篭められた大量の魔力が凝縮しているのだ。

そうしてしばらくすると、水の塊は最終的にレオニスの手くらいの大きさになった。【水の宝珠】の完成である。

「これが【水の宝珠】……美しいな……」

アクアの右前肢に乗せられた【水の宝珠】に、ほぅ……と感嘆のため息を洩らしながら見入るレオニス。

それは完全な真円で、まるで柔らかい日差しに満ちた春の空を思わせるような、澄み切った美しい水色をしていた。

珠の中は雫同様、絶えずゆらゆらと揺らめいている。時折光が反射したようにキラキラとした輝きが見えて、ずっと見ていても飽きない煌めきに満ちていた。

『さ、レオニス君、受け取って』

「ぉ、ぉぅ、ありがとう…………おッ、結構重たいな」

アクアの右前肢から、出来上がったばかりの【水の宝珠】がレオニスの手に渡された。

間違っても落とさないよう、両手で受け取ったレオニス。思った以上に重量があり、ずっしりとした重みにレオニスが少しびっくりしている。

手触りはすべすべとしていて、なおかつ水の魔力特有のひんやりとした冷たさも感じられる。

見た目の大きさもさることながら、内包する魔力の膨大さは雫と比べるまでもないことがレオニスにも分かる。

「これ、どうやって使えばいいんだ?」

『この宝珠に触るだけでいいわ。触った者に足りない魔力を与えて補ってくれるのよ』

「そうか、魔石を使うのと同じ要領でいいんだな。……って、このまま素手で触っても問題ないよな?」

『ええ。貴方の魔力が大幅に減っていたりしなければ、普通に触っても問題ないわよ』

「そっか、それなら良かった」

宝珠の使い方を尋ねるレオニスに、水の女王が適宜解説していく。

水の女王の話によると、【水の宝珠】は内包する魔力が減るにつれて小さくなっていくのだという。誰かに魔力を分け与えるにつれ小さくなっていき、魔力を使い切った時には消滅するのだとか。

水晶や宝石を媒体にした魔石の場合、魔力を使い切った後は石が残るが、【水の宝珠】は魔力そのものを凝縮しているので跡形もなく消えてしまうのである。

『私達から貴方してあげられるのは、これくらいしかないけれど……その聖遺物?の修復に、少しでも役に立てたら嬉しいわ』

「これくらいだなんてとんでもない!これだけ大量の魔力供給源をもらえたんだ、これ以上心強いことはないさ。水の女王、アクア、こんな貴重なものをくれて本当にありがとう」

『どういたしまして。僕もレオニス君の力になれて嬉しいよ。レオニス君もいろいろと大変だろうけど、頑張ってね』

「ああ、また今度改めてアクア達に礼をしなきゃな」

【水の宝珠】という、未知にして超貴重なアイテムを譲ってもらえたことに、改めてアクア達に礼を言うレオニス。

友の危機に無償で力を貸してくれる、彼ら彼女らの心根の優しさにレオニスは心から感謝の念を抱く。

一方で、レオニスのお礼という言葉を聞いたアクアが、突如その目をキラーン☆と輝かせた。

『レオニス君、お礼とか別にいいからさ、また今度僕と追いかけっこしようよ!』

「ン? 追いかけっこか? もちろんいいぞー、いつでも受けて立つからな!…………ああ、でも、とりあえず聖遺物の修復を終えた後でいいか?」

『もちろん!レオニス君が万全な状態の時でないと、追いかけっこで僕が勝っても意味ないからね!』

アクアの要望を快く受け入れるレオニス。

だが、さすがに今すぐ追いかけっこをする訳にもいかない。【晶瑩玲瓏】を修復するまで当分はものすごく忙しくなるし、超多忙な合間を縫ってまで無理して追いかけっこをしたところで、心から楽しむことなどできないだろう。そしてそれはアクアも同じであった。

アクアはレオニスとの追いかけっこで、まだ一度も勝てたことがない。アクアにとって、追いかけっこでレオニスに勝つことが目標であり悲願だ。

しかし、疲れたレオニスと追いかけっこをして勝ったところで意味がない。

レオニスの体調が万全な時に、正々堂々真っ向勝負で勝ってこそ本当の意味で完全な勝利となるのだ。

「俺も早いとこ仕事を終えられるように頑張るから、アクアも少しだけ待っててくれな」

『うん。その日を楽しみにしているよ。というか、僕だって今度こそ君に負けないんだからね? そろそろ負ける覚悟をしといてよ?』

「言ったなー? 俺だってまだそう簡単に負けてやらんからな?」

『フフフ、またレオニス君が遊びに来てくれる日を心待ちにしているからね』

当代最強の人族と水神、二者の約束が固く交わされた瞬間だった。