軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1008話 大事を前に成すべきこと

エリトナ山での魔物狩りを存分にこなした後、火の女王に別れを告げて炎の女王とともに炎の洞窟に戻ったライト。

ちなみに今日の朱雀は、褥の奥にある隠し部屋で昼寝をしていたらしい。

ライト達が帰還した頃には昼寝から目が覚めていて、炎の女王だけでなくライトも快く迎えてくれた。ライトが自分の生みの親の一人であることを、朱雀はちゃんと理解しているのだ。

まだ雛らしさに溢れた朱雀が、ライトの胸元に向かって飛んできた。

「おわッ!」と言いつつ、咄嗟に朱雀を受け止めたライト。手のひらに乗るまん丸な身体は、ライトの両手にすっぽり入る大きさだ。

身体はふわふわもふもふの羽毛に覆われていて、体長の倍くらいある尾羽が一際美しく輝いている。

何しろ全体的にとても愛らしく、まるでぬいぐるみのようだ。

「ふおおぉぉ…………か、可愛いいぃぃ……」

『朱雀様はこれからもっともっと成長されて、いずれは偉大なるお姿になられるであろう。妾はそれが楽しみでならぬ』

「ですね!きっと、いや、絶対に立派な守護神になりますよ!」

『ふふふ、生みの親の一人である汝にそう言ってもらえたら心強い』

ふわもふな朱雀の手触りを十分に堪能したライト。

炎の女王や朱雀との再会を約束し、炎の洞窟を後にした。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

そして次の日の日曜日。

午前中はラウルとともに、カタポレンの畑で過ごしたライト。

巨大サツマイモの収穫を手伝ったり、新しい林檎の木をともに植えたりしていた。

サツマイモの収穫では、まず風魔法で畑の上に広がる蔓を切る。

蔓を切った後、土魔法でサツマイモの畑を地中から一気に掘り起こし、地表に出てきたサツマイモを取り出す。

取り出したサツマイモを、水魔法で洗って土を落としてから風魔法で軽く水気を取る。

そしてこれら魔法を用いた作業は、全てライトの担当だ。これは単なる収穫の手伝いのみならず、ライトの魔法修行でもあるのだから。

ちなみにその間ラウルは何をしているのかというと、ライトが切り取ったサツマイモの蔓をまとめて束ねて己の空間魔法陣に収納したり、地表に出てきたサツマイモを平地に移したり、次に植えるサツマイモの苗を準備したりしている。

傍から見ると、二人の連携作業はなかなかのものだ。

そして新しい林檎の木を植えるラウルの横で、ライトが興味津々に眺めながらラウルに話しかけている。

「ねぇ、ラウル。そしたらこれから他の果物の木も植えるの?」

「そうだなぁ……桃やみかん、葡萄なんかも作れたらいいとは思うが、さすがに今は林檎と野菜だけで手一杯だな……」

「そうだねー。野菜はオーガの人達やヴィーちゃん、グリンちゃんにも大好評だもんねー」

「まぁな。天空島の方は、向こうでも野菜を作れるようになってきたからまだいいが……それでも俺がヴィーちゃん達に野菜を持っていくと、二羽とも喜んで食べてくれるしな」

「そりゃそうだよ!だってラウルの作る野菜は、サイサクス大陸一美味しいもん!」

「お褒めに与り光栄だ」

ラウルは林檎の木に支柱を括り付けながら、テキパキと作業を進めていく。

林檎はラウルが初めて植えた果物の木。ラウルの鉄板スイーツであるアップルパイに欠かせない果物だから、というのが林檎を最初に選んだ理由でもある。

そして初めての林檎の栽培が軌道に乗り始めた今、今度は別の果物の栽培にチャレンジしたい、とラウルが考えるのも当然のことだ。

だが、現実的にはかなり厳しい。

今でさえ、毎日畑に通っては何らかの収穫やら次の野菜栽培を始めている。

今日はライトの手伝いがあるから、一気にサツマイモを収穫したり畑の土の増産などの環境整備等々いつも以上に作業が捗っているが、これ以上手を広げるのは正直ラウルでも難しい。

一日二十四時間と一年三百六十五日という、全ての者に等しい時間の有限さは、如何に万能執事のラウルであっても覆せないのである。、

新しい林檎の木を植えた後は、一番最初に植えた林檎の木になっている実の収穫に移る。

ラウルの話によると、今回の林檎の実は何と三回目の収穫だというではないか。これにはライトもびっくり仰天である。

初めての林檎の実の収穫を終えた後、木の養分回復のためにグランドポーションとコズミックエーテル入りの水を与えながら、一週間程木を休ませる。

そして収穫から一週間後に、植物魔法を木一本につき五分程かけ続けてやると、次の花の蕾が出てくるそうだ。

ラウルの植物魔法によって萌え出た蕾は翌日開花し、それから一週間後には再び赤くて大きな林檎が実りとなるという。

ライトはラウルの説明を聞きながら、ただただ感心するばかりだ。

「てことはさ、このすっごく大きな林檎の実が月に二回も収穫できるってこと?」

「これまでの例で言えば、な」

事も無げに肯定するラウルに、ライトはますます感嘆するばかりだ。

この大きな林檎の実が、ほんの二週間程度でまた作れるなんて……ホンット、ラウルってすごいなぁ……てゆか、凄過ぎじゃね?

これもうラウルに『金剛級農家』の称号がついててもおかしくないよね?

自分の頭よりも大きな林檎の実を眺めながら、ひたすら感嘆するライト。だがラウルは冷静にその懸念を語る。

「ただ、これからどんどん寒くなっていくし、冬の気候の中でもこの先ずっと実をつけるかどうかまでは分からん。こればかりは、実際にやってみなきゃ分からんからな」

「あー、そうだねぇ……森の中の露地栽培だから、ガラス温室の栽培のように気温調節とかできないもんねぇ」

「そゆこと。…………ラグナロッツァの温室の一棟を、高木用に建て替えるかな」

「え"ッ!?…………あー、うん、まぁね、巨大サイズにするんじゃないなら、それもアリかもね?」

思わぬ方向に話が進んだことに、これまたびっくり仰天するライト。

ラグナロッツァの屋敷の敷地内に、ガラス温室を建設してまだ半年しか経っていないというのに、もう拡張工事の検討とは。想定外にも程がある。

ラウルの飽くなき欲望、料理や食材に対する情熱はどこまでも果てしなく、留まることを知らないようだ。

しかし、ライトとしてもラウルの気持ちは分からないでもない。

ガラス温室の建設当時の主目的は家庭菜園=野菜栽培であり、栽培品目に果物は入っていなかった。

それが今や、ラウルはさらにその先に進み果物栽培にまで成功してしまった。こうなると、ラウルが『ラグナロッツァの屋敷の温室で果物も作りたい!』と考えるようになるのは、もはや自明の理である。

ラウルがふわりと宙に浮き、林檎の木に成っている実を見ていく。

赤くなって食べ頃の林檎を両手に取り、下から上にひねるようにしてもぎ取る。これは、林檎のヘタをちゃんと残したまま収穫するためである。

真剣な眼差しで林檎の実を選ぶラウル。

これは、と思う実を見つけては丁寧な作業で収穫し、いそいそと空間魔法陣に収納していく。

ラウルの顔は実に生き生きとしていて、林檎の木の下でラウルの作業を見ているライトも内心でほっこりとしていた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

午前中のラウルの手伝いを終えたライト。

そのままカタポレンの家で昼食を簡単に済ませ、次の仕事に取りかかる。

今日の午後は、前日にエリトナ山で狩った魔物の解体作業をするつもりだ。

ちなみにラウルは午後からオーガの里に出かけていて、レオニスも冒険者ギルド総本部に出かけている。

どちらも夕方になるまで帰ってこないはずなので、解体作業をするなら今のうち!なのである。

「よーし、まずは火山蜥蜴の解体から始めるぞー!」

カタポレンの家の裏手にある解体作業場で、腕まくりをしつつ張り切るライト。

昨日のお出かけの大きな目的だった火山蜥蜴を、アイテムリュックから三体取り出して作業用机の上に置いた。

そのうちの一体を自分の目の前に置き、マイページを開いてまずは解体専用特殊アイテム『解体千本刀』を取り出し右手に持つ。

そして生産職スキル【解体新書】を発動させ、火山蜥蜴三体を次々とテキパキと解体していった。

ちなみにこの火山蜥蜴、ライトのお目当ては爪だが、それ以外の部位もちゃんと分類してとっておく。

皮や骨、牙、目は立派な素材だし、その肉も高級珍味として高値で取引されるらしい、というのはラウルから聞いたことがあるからだ。

火山蜥蜴自体はリポップする通常魔物なのに、何で高級珍味扱いされているんだろ?と、ライトは不思議に思っていたのだが。

ラウル曰く『火山蜥蜴を狩れる者がほとんどいないので、流通量が圧倒的に少ないから』というのが理由らしい。

確かに火山蜥蜴はエリトナ山だけに棲息する固有魔物だし、そのエリトナ山に足を踏み入れられる者自体が少ない。

これにはライトも納得である。

そして、さすがに内臓はどういう扱いなのか分からないので、とりあえずとっておくことにした。もしかしたら肉以上の珍味かもしれないし、もし食べられなくて他の使い道もない無価値だったとしても問題ない。そうなったら捨てればいいだけのことなのだから。

SP回復のためのエネルギードリンク片手に、ご機嫌で火山蜥蜴の解体作業を進めていくライト。

こうして昨日入手した火山蜥蜴の約半分、百体分を約二時間かけて解体し終えた。

ずっと夢中になって解体作業をし続けていたライト、一息つくべくハイポーションを飲みながらマイページを開きとある箇所を眺める。

そのとある箇所とは、ステータス欄の職業習熟度。

ライトの今の職業は【魔術師】の光系四次職【魔導大帝】である。

その習熟度をチェックしたかったのだ。

「ンッフッフッフッフ……【魔導大帝】の習熟度が96%……四つ目の職業マスターももうすぐだな!」

四次職である【魔導大帝】の習熟度が96%になっていることに、ライトの顔は自然とにやける。

第四の職業【魔術師】に就いたのが、今年の九月中旬。

それからライトは、これまで以上に日々精進に精進を重ねてきた。

ラグーン学園に通っている間も常にSP消費を心がけていたし、実際に昼休みや授業の合間の小休憩の時にもずっとスキルの無駄打ちを欠かさず行っていた。

朝の魔石回収兼修行のルーティンワーク時だって、必ず敏捷アップや回避率アップの重ねがけをしては効率良く回収作業をこなし続けた。

もちろん今日のように、土日の休みの日に大きく稼ぐことも忘れない。

こうした日々の努力により、ライトの四つ目の四次職マスターはもうすぐ目の前まできていた。

「あー、そしたらヴァレリアさんへの四つ目の質問、そろそろ考えておかないとなー。……って、あと4%ってのがまた長いんだけども」

「それでも、あと二週間あればイケるかな? 今から二週間後ってーと……十二月の八日九日あたりか」

「…………それ、確かレオ兄がラグナ神殿で【深淵の魂喰い】と対決する予定日の一週間前、だよな?」

四次職の職業をマスター=頂点を極める度に、ヴァレリアからもらえるご褒美。その質問を何にするか、そろそろ決めておかなければならないことにライトは気づく。

このヴァレリアからのご褒美は、ライトが知らないサイサクス世界の秘密をリスク無しで知ることができる、唯一にしてとても貴重な機会。ここで何を問うかによって、ライトの未来やその方針は大きく変わると言っても過言ではない。

そして偶然にも、ライトが四次職をマスターした直後あたりに、レオニスと負の聖遺物【深淵の魂喰い】が直接対決することが決まっている。

ステータスチェックの流れの中で、このことをふと思い出したライトの顔が真剣なものに変わる。

これまでレオニスと聖遺物との対決の場に、ライトは一度も同席することができなかった。

かつてレオニスがそれらと対峙したのは、ラグナ神殿の再調査の時のことであり、それは悪魔潜入事件に関する調査なのでライトの同席は許されなかったのだ。

しかし今回の【深淵の魂喰い】との対峙だけは、ライトも絶対に同席したい!とレオニスに強く申し出ていた。

もちろんレオニスは猛反対したし、今でもまだ頷かないので了承を得られていない。

だが、サイサクス世界で将来冒険者として生きていく上で、廃都の魔城の四帝の存在を避けて通ることはできない。ライト自身、将来レオニスとともに四帝の殲滅を担うためには、絶対に四帝のことを知っておかなければならないのだ。

そして幸いにも、聖遺物に宿る四帝は本体ではなく分体であることが分かっている。

いきなり本体とぶつかるよりは、分体が宿る【深淵の魂喰い】を先に相手にした方がリスクはまだ少ない。

それに、ライトもエンディやオラシオン同様、レオニスが【深淵の魂喰い】と対決を始めた途端に時間停止するかもしれない。

もしそうなれば、レオニスと四帝の直接対決時にライトにまで危害が及ぶ心配はかなり減少する。

これらのことはレオニスも頭では理解しているので、ライトの同席に対する猛反対も度重なるライトの陳情に、次第に軟化していた最中だった。

「……レオ兄があの魔剣と対決する前に、少しでもスキルを増やしておきたいな。いくらリスクが少ないからって、四帝相手じゃ何が起こるか分からんし」

「そしたら、二週間あればマスターなんて余裕はかましてられんな。来週の日曜日の午前中までには【魔導大帝】をマスターして、午後にはヴァレリアさんに会って質問しないと」

「……よし、今から火山蜥蜴の解体を再開するか。残りの二百体分だけでも全部済ませておこう」

大事を前に成すべきこと、今のうちにできることは全てやっておかねばならない。

少なくとも今手持ちの火山蜥蜴の解体を全てこなしておけば、この先のマキシマスポーション作りもどんどん進めていける。

マキシマスポーション作りが進めば、クエストイベントのエクストラの52番目のお題のクリアも早められる。

ライトがマキシマスポーションの増産をここまで急ぎ始めたのには、実は理由がある。

この52番目のお題の報酬は『身代わりの実追加レシピA』となっているのだ。

身代わりの実のレシピが入手できれば、ライトは市販価格で50万Gは下らないというアイテムを自前で作れるようになる。

そしてこの身代わりの実とは、持ち主に対する致死攻撃を一回だけ引き受けてくれる即死回避アイテム。危険な場面に出食わすことも多々ある冒険者にとって、いつか絶対に役立つ日が来る重要かつ必須アイテムなのだ。

ライトはレオニスの生命の危機を減らすために、一日でも早く身代わりの実の自作ができるようになりたかったのである。

もちろんそこに至るまでには、別のお題の報酬『身代わりの実追加レシピB』も入手しなければならないし、レシピ内容によってはさらに月日がかかることだろう。もしかしたら、身代わりの実の自作に至るまでに年単位を要するかもしれない。

だがそれでも、今できることを先にガンガン進めておく必要がある。

レシピAの内容を早く知ることで、そのレシピに書かれた材料集めにも素早く取りかかることができるのだから。

まさに『時は金なり』なのである。

テーブルの上に置かれたエネルギードリンク。瓶の底に僅かに残っていた液体を二口で飲み干すライト。

SP100を回復したライトは、再び火山蜥蜴の解体作業に没頭していった。