軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

9話:揚水水車と全力疾走

水路のパーツを作る作業を始めてから6日後の昼。

一良は日本の屋敷にて、水車を納品しに来た社長と従業員から水車を受領していた。

「うわ、こりゃ結構な大きさの部品ですね。運ぶのが大変そうだ」

「そうですねぇ、でも重い部品でも40kg程度なんで、運ぼうと思えば一人でもできますよ」

目の前のトラックに積まれた水車のパーツは殆どが木製で、一部の留め金にだけ金属が使われている。

大きな部品といってもリアカーには積めるサイズなので、運ぶのには問題ないだろう。

「では、玄関を上がったところにあるリアカーに重い部品から順に積んでもらっていいですか? 軽い部品は後で自分で家に運ぶので、積み終わったら残りはここに降ろして帰ってもらって結構ですよ」

「え? 家の中にリアカーがあるんですか?」

「ええ、そうです。あ、これ残りの代金の小切手です。あと運送費は幾らになりますかね?」

社長は玄関を上がったところと聞いて怪訝そうな顔をしていたが、小切手を貰うと「ありがとうございます!」とホクホク顔になり、残りの運送費分の金額を記入した小切手を一良から貰うと、

「おい、そこの支柱から運ぶぞ!」

と、連れてきた従業員に声を掛け、家の中のリアカーに部品を積み込み始めるのだった。

「しかし凄い量だな。リアカーが無かったら絶対運びたくないわ」

水車の部品を半分ほど乗せたリアカーを引き、一良は異世界への敷居を跨ぐ。

そしていつものように雑木林を抜けると、見慣れた村の風景が目に飛び込んできた。

少し離れた畑では、10人程の村人が一良が差し入れした農具を使って畑の手入れをしている。

「さて、これを屋敷に運んだらまた戻らなきゃな。残りの部品を持ってこないと」

後でリアカーをもう一台くらい買ってこないとな、などと言いながら村長の屋敷に向かってリアカーを引き始めると、畑仕事をしていた村人たちが作業の手を止め、一良の姿を見つけて集まってきた。

「おお、それが水車というものの部品ですか。村長のお屋敷に運ぶのですか?」

「ええ、でも部品はまだ半分ほど国に置いてきているので、屋敷にこれを置いたらまた戻らないといけないんですけどね」

「これで半分ですか。随分大きなものなんですね」

そんなことを話しながら、一良は村人たちにもリアカーを押してもらい、バレッタの屋敷に向かってリアカーを引く。

村人たちと雑談をしながらリアカーを引きつつ、一良は「何でみんな『こんなにすぐ戻ってこられる国ってどこなのさ?』って聞いてこないんだろ」と首を捻るのだった。

「おかえりなさい、カズラさん!」

一良たちが屋敷の庭に到着すると、すぐにバレッタが屋敷から出てきた。

到着してから出てくるまでの時間から察するに、どうやらスタンバッていたらしい。

「ただいまです。これ、水車の部品なんですけど、まだ半分ほど国に置いてきているんです。なので、一旦これを降ろしたら残りの部品を取りに戻ります」

「わかりました、降ろすのお手伝いしますね」

リアカーの前足を地面に着け、村人と協力して部品を降ろす。

結構な量の部品があったが、さすがに10人以上の人手があったおかげで、ものの数分で降ろし終えた。

「それでは、もう一度国に戻って残りの部品を取ってきます。部品が揃ったら川に行って組み立てますので、バレッタさんは人を集めておいてください」

「わかりました。父も呼んできましょうか?」

「あ、水路作りが優先なんで、今村に残っている人たちだけで川まで運びましょう。行く途中でまだ水路作りが終わっていないようだったら、必要に応じて手伝うってことで」

数日前から、村長には川から村までの水路を掘る作業の指揮を執ってもらっている。

水路は結構な長さになるので、大多数の村人はそちらの作業に従事しているのだが、水路が出来なければ揚水水車を設置しても意味がない。

予定ではそろそろ完成することになっているので、もし終わっていなかったとしても少しの時間手伝えば完成させることができるだろう。

「では、行ってきます。皆さんは私が戻ってくるまで休んでいてください」

一良は皆にそう言うと、再びリアカーを引いて雑木林の奥にある通路へと向かうのだった。

日本の屋敷から細かい部品を回収し、再び村の屋敷にまで戻った一良は、待機していた村人たちに軽い部品を桶などに入れて持ってもらい、リアカーを引いて川へと向かった。

村から出てすぐの所で、水路を掘っている村長たちを発見したのだが、予定通りに作業は進んでいるようだ。

ちなみに、一良が戻ると雑木林の入り口でバレッタが待っていて、リアカーを引くのを手伝ってくれた。

「おお、もう殆ど完成してますね」

「ええ、あとはここから溜め池までの水路を掘れば終わりですな。このシャベルという道具のおかげで、随分楽に掘ることができましたよ」

水路を掘っていた村長は作業の手を止め、リアカーを引っ張ってきた一良に笑顔を見せた。

他の村人たちも、作業を続けながら一良に会釈をする。

「川の上流と下流からの水路は両方とも掘り終わりました。カズラさんの言ったとおりに、上流の川の脇にも川に沿った深い水路を1本作っておきましたよ」

作業の進み具合を村長から簡単に説明してもらいながら、一良は延々と続いている2本の水路を目で追った。

深さは大体30cm程で、掘られた壁面は何度も叩いて固められており、とりあえずは水が流れても大丈夫だろう。

後で板か石で補強する必要があるかもしれないが。

水路は川の上流付近から村の溜め池に向かうように作っているのだが、村に入る直前で2又に分岐させている。

分岐した一本は村の溜め池へと向かい、もう一本は再び川の下流へと向かっていて、2又の部分に木で作った簡単な水門を2箇所設置することで、溜め池に送るか下流に戻すかを選択できるようになっているのだ。

溜め池の水が一杯になったら村へ通じる水門を閉じてしまえば、川の上流に設置してある水車から汲み上げられた水は、再び川の下流へと戻っていくので、溜め池が溢れるという事態は避けられるはずだ。

これならば、水路に常に流れてくる新鮮な水を炊事や飲用として使うことが出来、溜め池の水は農作業用として分けることができるだろう。

「では、私たちは先に川まで行って水車を組み立てていますね。バリンさんたちは水路が完成したら、先日作った木の水路を持って川に来てください」

「承知しました。すぐに合流できるよう、急いで作業を進めましょう」

一良は村長たちに残りの作業をお願いすると、再びリアカーを引いてぞろぞろと水路を辿って川の上流へと向かうのだった。

一良たちが川に着くと、先ほど村長が言っていたように川から3メートル程離れた場所に、川に沿って数メートルにわたり水路が掘られており、しっかりと板で補強されていた。

深さは川の水が十分引き入れられる程にまで掘られており、水路の幅も申し分ない。

一良は村人たちを数名のグループに分けると、数枚に分かれた説明書を該当する部品とセットで配り、それぞれ組み立てて貰うことにした。

工務店の社長から渡された組み立て図は殆どがイラストで、組み立て順に説明されている解り易いものだったので、日本語が読めないバレッタたちでも「A-1」や「B-1」などと書かれた部品番号に注意すれば、何とか組み立てることができるのだ。

「カズラさん、これをここに挿し込んで、こっちの部品と繋げるのでいいんでしょうか?」

「そうそう、指を挟まないように気をつけて。はい木槌。……あ、ロズルーさん、その部品はそれとは繋がらないですよ。こっちの記号が書いてある部品です」

一良は村人たちが部品を組み立てるのをチェックしながら、水路の幅をメジャーを使って計り、水車の支柱を立てる位置を確認する。

「ええと、こことここに支柱を立てればいいのか。支柱が振動で倒れたりしたら洒落にならんからな。しっかり埋めて踏み固めておかないといけないな」

支柱を立てる位置に石で印を付け、一良もバレッタと同じグループで水車を組み立てる。

そして組み立てから1時間半程が経過し、慣れない組立作業もようやく8割ほど進んで皆で川の水を飲みながら一息ついていると、木の水路や柱を持った村長たちがやってきた。

水路を作る作業をしていた村人達の他にも、赤ん坊の世話をしていた人や、子供や老人の姿も見える。

どうやら全ての村人がやってきたようだ。

……誰も留守番していなくていいのだろうか。

「おお、凄いですな、それが水車ですか」

「あ、お父さん。もう水路は掘り終わったの?」

「うむ、あとはこの木の水路を水車に合わせて置いていくだけだ」

結構な重労働をしてきた後にも拘らず、さすが日頃畑仕事で鍛えている為か、村長も村人たちにも疲れた様子は見えない。

むしろ、慣れない作業をしている一良たちのほうが疲れた顔をしている。

ともあれ、水路が完成したのであれば、さっさと水車も組み上げねばならない。

「すいません、まだ水車が組み立て終わってなくて。もうすぐ組み立て終わりますから、先に水車の支柱を立てる穴をここに掘ってもらっていいですか? あと、作ってもらった水路に水を送る木の水路の設置もお願いします」

「うむ、わかった。他の者も、大変だとは思うが頑張って水車を組み立ててくれ。これが出来れば村は水不足で困ることは無くなるのだからな」

村長が休んでいる村人たちにそう声を掛けると、村人たちは「よし、やるか!」と声を出して、再び水車の組み立てに取り掛かる。

一良も村長にメジャーを渡し、掘る深さを指定すると、再びバレッタと共に水車の組み立てを再開するのだった。

「よし、出来た!」

「こっちも水路の設置と支柱の穴掘りは終わりましたぞ。ここにこの平べったい足の付いた分厚い板を入れればいいのですかな?」

「はい、入れたら埋めながら何度も踏み固めて、しっかり固定してください」

作業を再開してから20分後。

ようやく組立作業も終わり、いよいよ水車を設置する段階となった。

一良は村長たちに指示をして、軸受け式の縦に長い支柱を立てると、何度も踏み固めて絶対に支柱が動かないように固定する。

「では、いよいよ水車を支柱に設置しますか。皆さん、水車を持ち上げるので手伝ってください!」

一良の呼びかけに、様子を見守っていた村人たちは一斉に集まって水車を持ち上げた。

水車の幅に対して人数が多すぎるため、大多数の村人は水車を支えることは出来ないが、それでも掛け声をかけて応援する。

「水車の軸の部分を、支柱のへこんでいるところに乗せてください。軸に負担が掛からないように、両方同時にゆっくりとお願いします」

軸は金属製であり、ちょっとやそっとの加重では変形するといったことはないと思うが、それでも慎重に軸受けに乗せる。

軸受け自体も金属なので、磨耗の点では心配はいらないようだ。

「では、後は水車の下に水受け用の木の水路を設置して、川と水路を繋げるだけです。バリンさん、お願いできますか?」

「うむ」

一良の指示に、村長は村人を集めてすぐに水受けの水路を設置し、続いて水路の上流側と下流側の川の間をシャベルで掘り進めた。

下流側は、流れてきた水が川に流れ落ちる程度には高さがあるため、直接川の水が入ってくることはない。

水路にはある程度の水深を確保しなければならないので、下流側には木の板で30cmほど敷居を作っておく。

また、水流で土が削られないように、壁面をしっかりと板で補強した。

「あと少しで川と繋がりますな……おーい、皆集まれ! 水車が動くぞ!」

村長の呼びかけに、川べりで休んでいた村人や、遠くで遊んでいた子供たちが駆け寄ってくる。

村長は全員が集まったことを確認すると、シャベルで一気に水路と川を隔てる土を取り除いた。

邪魔な障害が取り除かれ、水路には一気に川の水が入り込んでくる。

すると、水路に流れる水の流れに羽が押され、少しずつ水車が回り始めた。

「あ、回り始めた……すごい! 水があんな高いところまで上がってる!」

一良の隣で水車を見ていたバレッタは、水車の羽の横に付けられた揚水用の木箱から、高所に設置された木の水路に続々と吐き出される水を見て、驚きの声を上げた。

周囲でも村人たちが歓声を上げ、設置された木の水路に流れる水を追って駆け出していく。

「カズラさん、私たちも追いかけましょう!」

「えっ? 追いかけるって、まさかここから村まで走るの? どんだけ距離あると……ってちょっと! 引っ張らないで! マジすかぁー!?」

バレッタに手を引かれて強制的に走り出させられた一良や、水を追いかけて走っていく村人たちの後姿を見ながら、村長は

「おいおい、道具の片付けも残っておるというのに」

と呟きながらも、言葉とは裏腹に嬉しそうな笑顔を浮かべながら、やれやれとシャベルや木槌などの道具をリアカーに乗せるのだった。