軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

399話:過去一の逸材

翌朝。

布団と寝間着の洗濯を済ませた2人は、朝食を食べにバレッタの実家にやって来ていた。

今朝のメニューは、目玉焼き、魚肉ソーセージの醤油炒め、温野菜サラダ、桜エビと夏イモの炊き込みご飯だ。

マリーも含めた女性陣と、バリン、ナルソンも席に着いている。

「ナルソンさん、大丈夫ですか?」

「うー……」

ナルソンは碗を手に、青白い顔で頭を押さえて唸っている。

二日酔いの薬は飲ませたとのことだが、まだ効いてこないようだ。

「カズラ、顔がちょっとやつれてるよ? 一晩中、バレッタに搾り取られちゃった?」

ニヤニヤしながら言うリーゼに、一良とバレッタが顔を赤くする。

バリンも同席しているのだが、黙々と食事を続けている。

「え、えっと。俺たち、これを食べたら日本に出かけるから。もしかしたら、村に戻って来るのは明日になるかもしれない」

「うん、分かった。カズラのご両親に、バレッタが挨拶するんだよね?」

リーゼがバレッタを見る。

「はい。リーゼ様たちのこと、動画を見てもらいながら私たちからも話しておきますね」

「ふふ。バレッタだけじゃなくて、さらに3人も貰うことになったなんて聞いたら、カズラさんのご両親、きっと驚くでしょうね」

くすくすと笑いながら言うジルコニアに、バリンが「えっ?」と驚いた顔を向ける。

そこでようやく、一良とバレッタはバリンに何も話していなかったことに気がついた。

「あ、あの、それはどういう……」

「あら? まだ聞いてないの? 私とリーゼとエイラも、カズラさんの側室にしてもらえることになったの。1カ月後には、子供も作り始めるから」

「ええ……」

バリンが唖然とした顔で、一良を見る。

「す、すみません。うっかり、言い忘れちゃって……その、思うところはあると思うんですけど――」

「お父さん、私たち皆で話し合って決めたことなの。だから、心配しないで」

バレッタが一良を庇うように、口を挟む。

「……まあ、お前たちがそれでいいなら、口出しはせんよ。仲良くな」

「うん」

そうして食事を終え、一良たちは日本に向かった。

件の屋敷を出て、車に乗り込む。

バレッタは昨日買った洋服を着ており、どこから見てもただの外国人だ。

彼女の左手薬指には、婚約指輪が輝いている。

「それじゃ、買いに行きますか」

「はい!」

エンジンをかけ、車を発進させる。

両親との約束の時間にはまだだいぶあるので、その間に結婚指輪を買いに行くことにしたのだ。

アルカディアではそういった文化はないのだが、バレッタが「欲しい!」と言ったので買うことにした。

いつものように山道を下り、カーナビで検索したブライダルリングショップにやって来た。

黒を基調とした大きなガラス窓を備えた建物に、バレッタが「おー」と声を漏らす。

「オシャレなお店ですね」

「ですね。何か、緊張するな……」

ガラス扉を押して店内に入ると、数人の店員が「いらっしゃいませ」とにこやかに挨拶してくれた。

バレッタが、正面のショーケースに歩み寄る。

「わ、すごい」

キラキラと輝くたくさんの指輪に、バレッタは目を輝かせた。

ピンクゴールド、イエローゴールド、プラチナといったリングには、どれもダイヤモンドが光っている。

「すごく綺麗です……これ、ピンクダイヤモンドかな」

「そうみたいですね。いろいろ見て、好きなデザインのものを選ぶといいですよ」

「カズラさんも気に入ったものを選びたいです。これから、一生着けるものなんですから」

ゆっくりと指輪を見て回っていると、若い女性店員が寄ってきた。

「結婚指輪をお探しですか?」

声をかけられたバレッタが、「はい」と笑顔を向ける。

「どれも素敵で迷っちゃって。本当に綺麗ですね」

「ありがとうございます。最近のお勧めは――」

店員に意見を貰いながら、じっくりと選ぶ。

1時間以上かけて、プラチナリングに透明とピンクダイヤモンドが付いているものに決めた。

指のサイズを計って製作依頼をし、礼を言って店を出た。

料金は受け渡し時とのことだ。

「いいものが見つかってよかった。完成が楽しみですね」

「はい。私、一生外さないで着けておきますね」

「俺もそうしますよ。ずっと着けてますから」

「あ、でも、リーゼ様たちも欲しいって言うでしょうから、カズラさんは付け替えてもいいですから」

「はは、ありがとうございます。そうしたほうがよさそうだ」

その後、目に付いたファミレスで昼食を食べ、駅周辺をうろついて時間を潰した。

夕方になり、再び車で屋敷へと戻る。

「今日来るのって、ご両親だけですか?」

紙カップのコーヒーを助手席で飲みながら、バレッタが聞く。

「いや、祖父母も来るんじゃないかな。会うの、かなりひさしぶりだ」

「そうなんですね。ちょっと、緊張します」

「気のいい人たちですし、大丈夫ですよ。祖母はちょっと表情が薄くて話しかたがつっけんどんですけど、お茶目で優しい人ですから」

そんな話をしながら山を登り、屋敷に到着した。

そこには車が10台以上停まっていて、一良が目を丸くする。

「あれ!? 何でこんなに……」

「親戚の人たちでしょうか?」

2人が車を降りると、玄関から年配の男がポケットから煙草を取り出しながら出て来た。

一良の祖父、 志野義忠(しの よしただ) だ。

「あ、じいちゃん!」

「おー、かず坊。ひさしぶりだなぁ!」

義忠が満面の笑みで歩み寄り、一良の肩を叩く。

体つきはかなりがっちりとしていて、身長は160センチほどだ。

皺は少なく髪も黒のほうが多いくらいで、まったく老いを感じさせない出で立ちで、はつらつとしている。

「あなたがバレッタさんだね。祖父の義忠です。よろしくお願いいたします」

義忠が煙草を箱に戻してポケットにしまい、背筋を伸ばす。

かかとを合わせ、ビシッと敬礼をした。

「バレッタです。よろしくお願いします」

敬礼? と思いながらもバレッタが頭を下げると、義忠は屋敷を振り返った。

「じいちゃんは、元軍人なんです。陸軍で戦闘機パイロットをしてたらしくて、めっちゃ礼儀にうるさいんですよ」

「そ、そうなんですね……元軍人さんってことは、ご年齢は……」

「りあ! かず坊のお嫁さんが来たぞ!」

どんなに若くても90歳以上なんじゃ、とバレッタが考えていると、義忠が大声で屋敷内に呼びかけた

するとすぐ、一良たちの前の地面に影が現れた。

何だろう、と2人が上を見た瞬間、その影の上に厚手の黒いコートを着た老婆が着地した。

深い皺と真っ白な髪、どこか北欧を感じさせる整った顔立ちの、色白の女性だ。

「「わあっ!?」」

驚いて仰け反る2人に、老婆がにやりとした笑みを浮かべる。

「いい反応だ。そうこなければな」

「おま、初対面のお嬢さんに、いたずらなんかするなよ。というか、いないと思ったら、ずっと屋根にいたのか」

呆れる義忠に、りあがふふっと笑う。

「いいじゃないか。面白いんだから」

りあはそう言うと、バレッタに向き直った。

「クィーリアだ。よろしく」

彼女が右手を差し出す。

「は? クィーリアって何?」

「りあの本当の名前だよ」

きょとんとする一良に、義忠が答える。

バレッタは先ほどのように名乗りながら、彼女と握手をした。

「バレッタさん。種族は?」

りあが握手をしたまま、バレッタに問いかける。

「しゅ、種族……ですか?」

「ああ。見たところ、人間のようだが」

「に、人間、です」

「ん、そうか。力に自信は?」

「え?」

矢継ぎ早にされる質問に、バレッタが戸惑う。

「なあに、ただの遊びだよ。思いっきり、この手を握ってごらん。先に、『痛い』と音を上げたほうが負けだ」

「ちょ、ちょっと、ばあちゃん! ダメだって!」

一良が慌てて、りあの腕を掴む。

「バレッタさん、すみません。ばあちゃんって、いつもこんな感じでからかうんですよ」

「い、いえ、大丈夫ですよ」

緊張をほぐそうとしてくれているのかな、とバレッタは解釈し、りあに微笑む。

適当なところで、痛いと言って負けを宣言すればいいだろう。

りあは満足そうに、微笑んだ。

「よし。じゃあ、3つ数えたら力を込めるぞ。1つ――」

――そういえば俺、大学生の頃でも、ばあちゃんに力負けしたな。

年末に祖父母の家に行くたびに、一良はりあに握力勝負をさせられていた。

しかし、彼女は握力がかなり強く、一良は一度も勝ったことがないのだ。

「2つ、3つ!」

りあが、ぐぐっと力を込める。

バレッタはそれに合わせて、手加減しながら握る力を少しずつ強めた。

「……っ!?」

予想を上回る力に、バレッタが慌てて力を強める。

りあは涼しい顔で、どんどん力を強くしていく。

まるで万力で絞められているかのようなすさまじい力に、バレッタは徐々に余裕がなくなり、最終的に渾身の力を込めて手を握った。

「ぅ……い、痛い! 痛いです!」

バレッタが悲鳴を上げると、りあはすぐに手を放した。

「うむ。なかなかやるじゃないか。今までの嫁さんたちの中で、文句なしの一番だ」

満足そうに、りあが微笑む。

一良は信じられないといった顔で、右手を摩っているバレッタを見た。

「え。バレッタさん、もしかして、本気を出しました?」

「はい。手を握り潰されるかと思いました……」

「りあはドラゴンだからな。人間じゃ、勝てるわけがないよ」

「「ドラゴン!?」」

一良とバレッタの驚愕の声が重なる。

「ああ。今はこんな見た目だけど、変異してこの姿になってるんだ。若い姿になると、えらい美人だぞ」

「ええ……ドラゴンって、ヨーロッパの神話に出てくるアレでしょ?」

「まあ、似たようなもんだ。火だって吐けるしな」

義忠の言葉に合わせるように、りあが口から紅蓮の炎を空に向かって吐き出した。

「「……」」

何だこれ、と2人が唖然としていると、玄関から母の 睦(むつみ) が顔を出した。

「バレッタさん、いらっしゃい! ささ、中に入って!」

満面の笑みで手招きする睦。

一良とバレッタは顔を見合わせ、玄関へと向かう。

「ちなみにだが、りあたちが本気でやりあったとすると、一番強いのは睦さんだぞ」

義忠が楽しそうに、一良に言う。

「ええ……母さんって、そんなに握力が強いの?」

「いや、力じゃなくて、睦さんは魔眼を持ってるんだ。力を使って目を見られたら、それだけで終わりだよ」

「……そういえば小学生の頃、俺を虐めてきたやつが突然人が変わったように親切になったことがあったけど、まさか」

「もう、わけが分からないですよぅ」

突然の出来事に頭をクラクラさせながら、2人は屋敷へと入るのだった。