軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

372話:自信作

数時間後。

食堂で軽い昼食をとり、一良たちはナルソン邸の広場に集まっていた。

ジルコニアは先ほどの出来事などなかったかのように、ごく普通に振る舞っていた。

「それじゃ、出発しましょうか」

一良がトラックに乗り、他の者たちはバイクに乗った。

トラックの荷台には、いつものようにラースたちが乗る。

「マリー、気を付けてね。いってらっしゃい」

マリーの母親のリスティルが、エイラのサイドカーに乗ったマリーに手を振る。

彼女のナルソン邸での侍女の仕事は順調な様子だ。

「うん。いってきます。お母さんも、お仕事頑張ってね。疲れたら休まなきゃダメだよ?」

「大丈夫よ。最近、すごく体の調子がいいから。まるで若返ったみたいだわ」

リスティルも継続して一良が持ってきた食べ物を食べ続けており、病弱だった体が嘘のように健康体になっていた。

これなら、この先病気をすることはないだろう。

「カズラ殿。こちらのことは気にせず、ゆっくりと楽しんできてください」

「ありがとうございます。でも、すぐに戻って来ますよ」

「戻ってきたら、そのままフライス領へ旅行ですかな?」

「そのつもりです。船の手配だけ、よろしくお願いしますね」

「承知しました。では、お気をつけて」

ナルソンに手を振られ、一良たちは門へと向かって進み出した。

通りには大勢の兵士が配置されており、市民が近づかないようにと目を光らせている。

集まっていた市民たちは、トラックとバイク、そしてティタニアの姿に、わあっと歓声を上げた。

「昼間に移動すると、やっぱりこうなっちゃうよなぁ」

先頭を走りながら、一良がぼやく。

「よいことかと。神の存在を知らしめることにもなりますから、人々も自国の繁栄に自信を持つでしょう」

隣を走るバレッタのバイクのサイドカーで、カーネリアンが一良に笑う。

「いずれ、クレイラッツにもおいでください。皆が喜びますので」

「ま、まあ、そのうちに」

ゆっくりと通りを走り抜け、城門を出てグリセア村へと向かう。

背後の歓声が小さくなり、すぐに静かな行軍となった。

穀倉地帯で作業をしている者たちが、こちらに手を振る姿が見える。

「いい景色ですね。平和とは、本当に素晴らしいものだ」

カーネリアンはとても満足そうに、ニコニコしている。

「ふふ。カーネリアン様、ご機嫌ですね」

バレッタが言うと、カーネリアンは「いやあ」と頭を掻いた。

「政治についてカズラ様からご教授していただけると思うと嬉しくて。年甲斐もなく、心が躍ってしまって」

「クレイラッツの政治は、上手くいっていないのですか?」

「今はまだ大丈夫ですが……といっても、毎年、軍司令官以外を総入れ替えしてしまうので、政治の足回りがかなり鈍いのです。代わりに汚職はほぼないのですが、この先もこのままとはいかないでしょうから」

カーネリアンがバレッタを見る。

「ですが、グレイシオール様にご教授していただけるとなれば、もう安心ですね。どんなお話を聞けるのか、楽しみで仕方がありません」

「そ、そうなんですね」

バレッタは笑顔を向けながらも、「大丈夫かな」と心の中でつぶやく。

一良が持ってきた政治の本や百科事典でいくらかの知識はあるが、完璧な政治など存在しないとバレッタは思っている。

むしろ、どの政治形態が一番「マシ」なのかを選ぶようなありさまで、あちらを立てればこちらが立たず、といったものばかりだ。

――うーん。宮崎さん、どんな資料を作ってくれるんだろう。大丈夫かなぁ。

はたして政治のプロであるカーネリアンを納得させる説明ができるだろうかと、バレッタは今から戦々恐々としていた。

「エイラ、さっきからため息ばかりついて、どうしたの?」

隣を走るエイラに、ジルコニアが声をかける。

エイラは出発してからずっと、物憂げな顔だ。

「何でもないです……はあ」

「変な子ねぇ」

そうして数十分走り続け、一行はグリセア村に到着した。

先に無線で連絡をしておいたので、村人たちが総出で出迎えてくれている。

守備隊の老兵たちも、畑仕事の手を止めて集まってきた。

オルマシオールと数十頭のウリボウ、コルツたちもおり、一良に皆が群がる。

「カズラ様、おかえりなさい!」

「おかえりなさい!」

コルツとミュラが元気な笑顔を向ける。

「ただいま。2人とも、ひさしぶりの村はどうだい?」

「何だか、ひさしぶりすぎて変な感じだよ」

「村の前の畑がすごく大きくなってて、びっくりしました」

「はは、そうだよね。兵士さんたちが、すごく頑張ってくれてたみたいでさ」

一良が2人の頭を撫でていると、オルマシオールが「フンフン」、と鼻息を鳴らして一良の腕に顔を押し付けた。

「あ、はい。あれですね、ご褒美ですね?」

「ワフ!」

パタパタと尻尾を振るオルマシオール。

バレッタが荷物からちゅるるの大袋を持ってきて、コルツに差し出した。

「これ、皆でオルマシオール様たちに食べさせてあげてね」

「うん! この前貰ったやつ、1日で全部食べ切っちゃってさ」

コルツがちゅるるを1つ取り出して口を切ると、他のウリボウたちまで群がってきた。

皆、目が血走っており、口を開けながら前足で他者を押しのけようとしている。

数十頭のウリボウが一斉に集まってきたので、かなりの迫力だ。

オルマシオールはその巨体を生かして無理矢理コルツの正面に座り、よだれを垂らしながら待ち構えていた。

そこにティタニアが飛び込み、前足でオルマシオールの顔を押しのけてコルツに向けて口を開けた。

何すんだお前、というようにオルマシオールが右前足で彼女の顔を押し返し、2頭とも何とも形容しがたい顔になっていた。

「うお、すごい勢いだな」

「皆、あれが食べたくて毎日大変だったんですよ。きゅんきゅん鳴いたり、転げまわったりして」

ミュラが他の子供たちにもちゅるるを渡し、巨大なもふもふの塊になりつつあるウリボウ軍団を散らばらせる。

ウリボウたちは、完全にちゅるる中毒である。

「なら、もっとたくさん持ってこないとだね。ミュラちゃんは、何か欲しいものはあるかな?」

「えっ、私ですか?」

「うん。いつも頑張ってくれてるから、ご褒美になんでもあげるよ。何がいい?」

「えっと……あ、そうだ! お父さんから聞いたんですけど、空に向かって打つ爆弾がすごく綺麗だったって。それを見てみたいです!」

「ああ、花火か。それはいいね。よし、たくさん持って来るよ」

「ありがとうございます!」

「それじゃ、またね」

一良が雑木林へとトラックで進み出す。

「あ、カズラさん!」

「ん、どうしました?」

バレッタに呼び止められ、ブレーキを踏む。

「お夕飯を作って待ってますから、早く帰って来てくださいね」

「了解です。すぐに帰ってきますから」

そうして、一良は再びトラックを走らせたのだった。

雑木林を慎重にトラックで進み、石畳の通路を抜けて日本の屋敷へと戻ってきた。

そのまま玄関を出て、庭先に停車した。

「宮崎さん、平日だけど出てくれるかな?」

電話をかけると、2コールで宮崎が出た。

『志野さん、おひさしぶりですっ!』

「おひさしぶりです。例の資料なんですけど、できてますか?」

『できてますよ! 今から取りに来ますか?』

「そうさせてもらえると嬉しいです。でも、お仕事中だったりしません?」

『早引けするんで大丈夫です!』

ということで、お言葉に甘えて資料を受け取らせてもらうことになった。

ファミリーカーに乗り換え、山を下って宮崎の勤める会社へと向かう。

途中、スーパーに寄って、花火の大袋をいくつか購入した。

夏も終わりに近づいているためか、特価品になっていて安く購入できた。

会社の前に到着すると、私服に着替えた宮崎が、一良の車に駆け寄ってきた。

メイクもばっちりであり、服装もかわいい感じで、おめかししているように見える。

あらかじめ、用意していたのだろうか。

「志野さん、こんにちは!」

「こんにちは。すみません、早引けさせちゃって」

「いえいえ! 志野さんのためですから!」

宮崎が満面の笑みで、助手席に乗り込む。

「それじゃあ、カフェでいいですかね?」

「はい!」

駅前に移動し、フラペチーノが美味いと有名なカフェのチェーン店に入った。

2人席に座り、それぞれチョコレートフラペチーノを注文する。

宮崎はさっそく、ノートパソコンを取り出した。

「ふふふ。この資料、けっこう自信作なんですよ」

ノートパソコンを起動し、アプリケーションを起動する。

壮大な音楽とともに、古代の日本の絵画やらヨーロッパの絵画やらが次々に現れた。

画面全体が薄暗くなって表示されていた絵画が背景になり、その上に「古代」「中世」「近世」「近代」「現代」というタブが現れた。

まるで、高級教材のような美麗な作りだ。

「時代分けについては日本を基準にしてみました。海外の政治についても、それぞれのタブを開くと項目が出てきますよ」

「うお、すごいですねこれ」

一良はタッチパネルを操作し、「現代」のタブを押してみた。

大統領制や立憲君主制といった見たことのあるものから、半大統領制や議会統治制といった、あまり耳にしないものなどのタブが新たに表示された。

試しに大統領制のタブを押してみると、現在のアメリカ大統領の写真が背景になり、その仕組みが簡潔に羅列された。

説明文の中には色が付いている単語があり、そこを押すと単語の詳しい説明が表示されるようになっていた。

文字だけではなく、視覚的に理解しやすいようにと、図やちょっとした動画も用意されている。

とんでもない完成度だ。

「すごすぎじゃないですか、これ。教材として売り出せるレベルですよ?」

「あはは。ありがとうございます。でも、ほとんどネットから引用したものばかりですし、写真とかは無断使用なんで売るのは無理ですよ。志野さんのためだけの、一点ものですから」

「こんなに頑張ってくれるなんて……大変だったでしょう?」

「大丈夫です! 志野さんのためですから!」

にこっと、宮崎がかわいらしく微笑む。

「それに、こんな政治形態もあるんだって勉強できて、作ってるうちに楽しくなっちゃいました。だから、大丈夫です!」

「いつもほんとにありがとうございます……あ、そうだ。報酬を出さないと」

「あ、少しだけでいいですよ! ここのカフェ代とかでけっこうですから!」

「いやいや、ちゃんと払わせてください。……あれ? 前にもこんな話したような」

「うっ……」

そんなこんなで、宮崎に報酬を支払った。

最初は20万円を渡そうとしたが「そんなに貰えませんよ!」と拒否されてしまい、なんやかんや話した結果、今度遊びに連れて行くという条件を宮崎に取り付けられ、その代わりに10万円で落ち着いた。

今日の夕食も誘われたのだが、今日は帰らないとと伝えると宮崎はあからさまに凹んでいた。