軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

314話:最初はグー

「まだすべてが決まったわけではありません。脅すような真似は、やめてください」

「しかし、カズラ様! 連中の駆逐は、我らの悲願なのです!」

ミクレムが立ち上がり、大声で一良を睨む。

「今までどれだけ、こいつらに辛酸を舐めさせられてきたことか! あとはカズラ様さえ頷いてくだされば、奴らに裁きの鉄槌を下すことができるのです! どうかバカげた考えを改めてください!」

「こ、こら! お前、カズラ様に何て物言いをするんだ! 口を慎め!」

「ミッチー! いくらなんでも飲みすぎだぞ! 少し落ち着け!」

諫めるサッコルトとルグロを、ミクレムが睨みつける。

「いいや、言わせてもらう! カズラ様、こいつらは野蛮人なのですぞ! 今さら講和など、不可能に決まっています!」

「え?」

「講和……ですか?」

予想もしていなかった一言に、フィレクシアとティティスが驚いた顔になる。

そんな彼女たちに、ミクレムは怒りの表情を向けた。

「ふん。あくまでも選択肢の1つとしてあったというだけだ。せいぜい無駄なあがきをして、地獄に落ちるがいい!」

「……ミクレムさんは、もしも彼らが条件を呑んだら、俺の意見に賛同してくれますか?」

一良が静かに言うと、ミクレムは「くだらない」とでもいうような表情で鼻を鳴らした。

「はっ。彼らがあの条件を呑むなどとは、とても思えませんな」

「答えてください。兵士たちが納得するように、説得してくれますか?」

「ええ、いいですとも。連中が本当に条件を呑むのなら。こいつらに、そんな頭があるとは思えませんがな!」

ミクレムの答えに一良は頷くと、缶詰を置いて立ち上がった。

フィレクシアとティティスの下へと歩み寄り、馬車の扉の鍵を外す。

「2人とも、出てきてください」

一良が扉を開けると、ティティスとフィレクシアは恐る恐るといった様子で馬車を出た。

傍にいるシルベストリアとセレットの威圧感に、フィレクシアが小さく「ひぃっ」と声を漏らす。

「バレッタさん、リーゼ。あれの用意を」

「はい」

「うん!」

それまで黙っていたバレッタとリーゼが立ち上がり、駆けて行く。

「マリーさんも、一緒に来てくれますか?」

「かしこまりました」

「シルベストリアさんたちは、そこにいてください」

「「はっ」」

シルベストリアとセレットが姿勢を正し、返事をする。

「行きましょうか」

そう言って、一良が歩き出す。

ティティスとフィレクシアは困惑しながらも、一良の後に続いた。

小さくなっていく一良たちの背を見送っていたミクレムは、その姿が天幕の陰に消えると、へなへなとその場にしゃがみ込んだ。

「い、生きた心地がしなかった……勘弁してくれ……」

顔中に冷や汗を浮かべたミクレムが、消え入るような声で言う。

そんな彼に、ジルコニアはくすくすと笑いながら酒瓶を差し向けた。

「ふふ。ミッチー様、お上手でしたわ。ささ、もう一杯どうぞ」

「いや、酒の味など、飲み始めから分かっておらん……いいから水をくれ……」

「まあ。この後もミッチー様には頑張ってもらわないといけないのに、そんなことでどうするんですか?」

「そうだぞ、ミッチー。しっかり脅し役をこなしてもらわないと困るぜ?」

ジルコニア、ルグロが笑う。

「いやはや、じゃんけんに勝てて本当によかった……ほれ、水だ」

「こ、この。『1回目の勝負では互いにグーを出してカズラ様に誠意を見せよう』などと騙しおって! この卑怯者!」

「はは。カズラ様も楽しんでくださったことだし、よいではないか。大目に見てくれ」

夜食前に一良に呼び出されたミクレムたちは、ティティスとフィレクシアに対して行おうとしていることの説明を受けた。

一良の提案とあってはミクレムたちは逆らうわけにもいかず、頷いたのだが、脅し役を決めるにあたって「ミクレムかサッコルトのどちらかにお願いしたい」と頼まれた。

一良に暴言を吐く役目と聞かされて2人とも即座に断ったのだが、「どうしても」と頭を下げられてしまったので仕方なく引き受けたのだ。

脅し役は1人でいいとのことだったのでじゃんけんで決めることになったのだが、ルールを一良が説明した際、サッコルトが一計を案じて、ミクレムを騙し討ちしたのだった。

当然ミクレムは激怒したのだが、ルグロが爆笑して「頑張れ」と背中を叩いたので、決まりとなってしまったのだった。

「まったく、人ごとだと思って……しかしですな、殿下。私はこのようなこと、とても賛成はできませんぞ」

ミクレムが水を一口飲み、ルグロに目を向ける。

「カズラ様のおっしゃることは分かりますが、とても上手くいくとは思えません。休戦協定すら平気で破るような連中を、どうして信用できましょうか」

「まあ、そう言うなよ。戦いを止めるなら、今このタイミングしかないんだ。なあ、ナルソンさん?」

ルグロに話を振られ、ナルソンが頷く。

「そうですな……どうなるかは分かりませんが、もし上手くいけば余計な血を流さずに済みます。蛮族とバルベールの連合軍を相手にするのは、できれば避けたいですし」

「だよな。もう、戦争はたくさんだよ……何か甘いものが食いたいな。エイラさん、何かないかな?」

「えっと、果物の缶詰か、チョコレートなどのお菓子……あっ、お汁粉もありますが」

エイラが木箱を漁り、インスタントカップのお汁粉を取り出す。

「何だそれ? どういう料理だ?」

「お米を突いて作ったお餅というものを、あずきという豆で作った甘いスープに入れたものです」

「へえ、そりゃ美味そうだ。作ってくれるかい?」

「かしこまりました」

エイラがカップを開け、焚火にかけられていた鍋からお湯を注ぐ。

「エイラ、どうしたの? 何か嬉しそうだけど」

柔らかい表情で湯を注ぐエイラに、ジルコニアが小首を傾げる。

「いえ、何でもありません」

エイラは微笑むと、お汁粉のカップをルグロに手渡すのだった。

一良がティティス、フィレクシア、マリーを連れて天幕に入ると、先に来ていたバレッタとリーゼがプロジェクタの準備を済ませていた。

バレッタは小テーブルに載せられたノートパソコンの前におり、リーゼは巻き上げ式スクリーンの傍に立っている。

それらの前に置かれたプロジェクタのレンズが、ロウソクの光をキラキラと反射していた。

それを見て、フィレクシアは目を丸くした。

「こっ、これは、透明な黒曜石ですかっ!?」

「あっ!? フィレクシアさん!」

フィレクシアがプロジェクタに駆け寄り、レンズをまじまじと見る。

ティティスが慌てて駆け寄り、彼女を引っ張り戻した。

「カズラ様、申し訳ございません! フィレクシアさん、勝手に動かないでください!」

「ご、ごめんなさいです。こんな透き通った……大きな黒曜石を見るのは初めてで、驚いてしまって」

ティティスに頭を押さえつけられて頭を下げるフィレクシアに、一良は朗らかな表情を向ける。

「いやいや、いいんですよ。おふたりとも、そこのイスに座ってください」

「はい。失礼いたします」

「失礼いたしますです」

ティティスとフィレクシアがイスに座る。

2人の前に置かれたイスに、一良も腰を下ろした。

「先ほどはミクレム将軍が失礼なことを言ってしまい、すみませんでした」

頭を下げる一良に、ティティスが驚いた顔になる。

「そんな、頭をお上げください。今まで我が国が貴国に取った行動を考えれば、憎しみを持つのは当然ですので」

「……休戦協定破りをしたことは、本当に申し訳なかったと思います。でも、国境付近の村や隊商が、あなた方の国の人たちにたくさん襲われてしまったのが原因だったのですよ」

フィレクシアがおずおずと言う。

「あの時カイレン様が動かなかったら、きっと国内では暴動が起こっていたのです。カイレン様も、ああするしかなかったのですよ」

「……」

フィレクシアの言葉に、ティティスがぐっと歯を噛みしめる。

彼女の中では、あの一件はカイレンの自作自演だったのでは、という疑念があるのだ。

そんなはずはない、と自分に言い聞かせてはいるのだが、ジルコニアによるマルケス襲撃の件のせいで疑念を振り払えずにいた。

「許されることではないということも分かっています。でも、こちらにも事情があったということを分かってほしいのです」

「ええ、それは分かっています」

一良が真剣な表情で頷く。

「しかし、ミクレム将軍をはじめとした、アルカディアの人々はそうは思っていないんです。バルベールを駆逐すべき怨敵として、心の底から憎んでいる人がたくさんいます」

「……はい」

フィレクシアがしゅんとして視線を落とす。

「ナルソンさんから聞いたと思いますが、アルカディアは神の助力を受けています。現在、戦いの神であるオルマシオールと、豊穣の神グレイシオールが、この国に力を貸しています」

一良が言うと、フィレクシアは顔をしかめて顔を上げた。

「カズラ様、そういう冗談は――」

「冗談ではありません。私が、そのグレイシオールです」

「……は?」

フィレクシアがぽかんとした顔で一良を見る。

ティティスも、驚いた顔になった。

「アルカディアの神々は、あなた方の行いに激怒しています。あなたがたを完全に滅ぼそうと声を上げている彼らを、私がどうにかして止めている状況なんです」

「あ、あの、おっしゃっている意味が……カズラ様が、神だと……グレイシオールだというのですか?」

ティティスが「信じられない」といった視線を一良に向ける。

フィレクシアは唖然としたまま、口を半開きにしていた。

「はい。といっても、すぐには信じられないということも分かります。今、証拠をお見せしますので」

一良はそう言うと席を立った。

マリーがイスをフィレクシアの隣に移動し、一良が座り座り直す。

「リーゼ、スクリーンを上げてくれ」

「うん」

リーゼが巻き上げ式スクリーンを上げる。

しゅるしゅると上がったそれに、フィレクシアが小さく「おおっ」と声を漏らした。

「カズラ様、それはいったい?」

「映像を映すための台紙です。バレッタさん、お願いします」

「はい」

バレッタがパソコンを操作し、動画を再生する。

複数の回転翼を持つ航空機がいくつも並ぶ、基地の映像がスクリーンに映し出された。

銃で武装した兵士たちが一斉にヘリコプターに乗り込み、基地に残る者たちに手を振られながら一斉に空に飛び立った。