作品タイトル不明
258話:肩入れ
コルツがウッドベルたちと話している頃。
砦の南門を出た一良、バレッタ、リーゼの3人は、並んで森へと向かって歩いていた。
護衛として、門の前で合流したアイザック、ハベル、そしてニィナをはじめとしたグリセア村の若者が10人ほど付いて来ている。
あと数十メートルで、森の入口だ。
「当たり前だけど、夜の森って真っ暗だなぁ」
目の前に広がるうっそうとした森を見て、一良が言う。
空には半分に欠けた月が浮かんでいて大地を照らしているのだが、森の奥までは光が届いていない。
薄っすらと様子が見て取れる森の入口のその先は、深淵のような漆黒の闇がどこまでも続いているように一良には見えた。
「リーゼ、森の中は見えるか?」
「見えるわけないでしょ。真っ暗じゃない」
「だよなぁ。アイザックさんとハベルさんは?」
一良が歩きながら、背後の2人を見やる。
「いえ、ほとんど見えません」
「私もです。森に入って少しすれば、目が慣れるかとは思いますが」
アイザックとハベルが続けて答える。
彼らはジルコニア救出作戦の折に夜の森に入っていたが、その時は松明などの光源を使うわけにはいかなかったので、ほとんど何も見えずにかなり苦労した経験があった。
「ニィナさんは見えます?」
一良がニィナを振り返る。
「あ、はい。ちょっと暗いですけど、ちゃんと見えますよ」
「えっ? あんなに真っ暗なのに? すごいね!」
リーゼも振り返り、ニィナを見る。
「えへへ。まあ、田舎者ですから。村にいた頃は、夜は暗いのが普通だったので」
「それに比べて、イステリアは夜でも明るくていいよね! 夜中にトイレに起きても、安心して行けるしさ」
「そうそう。こっちと違って、村だと夜におしっこしたくなったら真っ暗なトイレに入らないといけなかったもんなぁ」
「注意しないと、トイレの穴に足を突っ込むことになっちゃうもんね。子供の頃、何回かはまったことあるし」
ニィナや娘たちがわいわいと答える。
少し前から、彼女たちはリーゼとよくおしゃべりする間柄になっていた。
リーゼの部屋の警備担当だったセレットがグリセア村の守備隊に異動になってから、代わりにニィナたちが交代で警備に就くことになり、会話する機会が増えたのが理由の1つだ。
「いいなぁ、皆さん目が良くて。俺とは大違いだ」
「カズラ様は見えないんですか?」
「いやぁ、俺、夜目がまったく利かなくて全然ダメなんです。バレッタさんも見えるんですよね?」
一良が話を振ると、バレッタはすぐに頷いた。
後ろでは、娘たちが「神様も目の良い悪いがあるんだね」などと話している。
「はい、見えますよ。辛うじて薄っすらと、ですけど」
「えっ? 薄っすらと?」
一良がバレッタを怪訝な顔で見る。
「前に一緒にグリセア村からイステリアに遊びに出かけた時は、真っ暗な森の中でもはっきり見えてませんでしたっけ?」
「あの頃は真っ暗闇でも平気だったんですけど……最近、少し目が悪くなっちゃったみたいで」
自覚していたのか、バレッタが気恥ずかしそうに笑う。
バレッタはイステリアに来てから毎晩寝る前に、一良の持ってきた本や資料室の歴史資料を読むことを日課としていた。
読書のお供は、一良から貰ったLEDランタンだ。
非常に明るくて便利な代物なのだが、暗い部屋の中で光源として使うには、あまり目によろしくないのだろう。
「もしかして、毎日夜遅くまで本を読んでたりします?」
「え、えっと……はい」
「薄暗いところで本を読むと目に悪いですよ? 視力って、一度下がったら戻すのは大変なんですから」
「うう、ですよね……こっちにも、眼鏡屋さんがあればいいのに。眼鏡さえあれば、目が悪くなってもへっちゃらですよね」
「いや、へっちゃらっていうのはどうかと……でも、バレッタさんの眼鏡姿、見てみたいなぁ。きっと似合うと思いますし」
「えっ? そ、そうですか?」
「眼鏡? 何それ?」
2人の話に、リーゼが口をはさむ。
「目が悪くなった人でも、付けることで目が良かった時みたいに見えるようになる道具です。こんな形に加工した透明なガラスとかプラスチックの板を、目に当てるものですね」
バレッタが両手で輪っかを作り、目に当てて見せる。
「ふーん……あ、雑誌にそういうの付けてる人が載ってたよね。あれ、オシャレの道具じゃなかったんだ」
「オシャレ用の眼鏡もあるみたいですよ。あと、歳を取って近くの物が見えにくくなった人用の眼鏡もあるみたいです」
「そうなんだ。マクレガーが、『最近、近くの物が見えなくなってきて困る』って前に言ってたんだよね。カズラ、今度にほ……あっちに戻ったら、マクレガーに眼鏡を持ってきてくれない?」
リーゼはニィナやアイザックたちがいることを忘れて「日本」と言いそうになってしまい、慌てて言い直す。
「ああ、いいぞ。老眼用ならざっくりで平気だからな」
「バレッタの眼鏡も用意する? 目が悪くなっちゃってるんでしょ?」
「いや、遠くの物が見えにくいのは近眼っていうんだけど、そっちはちゃんと検査しないと眼鏡は作れないんだ」
「へえ、目の悪さにも種類があるんだね。検査って、どうやるの?」
「紙にCの字を描いて、少しずつ距離を離していくんだよ。Cの線が繋がってない部分が分かるのはどの距離までかを、テストするんだ」
「へえ、なんだか面白そう! 試しに、明日やってみたいな」
リーゼがわくわく顔で提案する。
「ああ、確かに面白そうだな。でも、検査するにしても専用の表がないとダメだから、すぐにはできないぞ」
「えー、そうなの? 自分たちで作れないの?」
「俺も詳しく規定を知ってるわけじゃないからさ。あ、でも、百科事典を見たらもしかしたら――」
「ランドルト環ですね。詳しく載ってましたから、宿舎に戻ったら私が作っておきますよ」
バレッタの申し出に、リーゼが「おおっ!」と声を上げる。
「さっすがバレッタ! そのなんとかっていうの、私も作るの手伝うよ。百科事典って、ほんとに何でも載ってるんだね」
「ふふ、そうですね。いろんなことが書いてあって、すごく楽しかったです」
「リーゼ。バレッタさんは百科事典の全ページを暗記してるんだぞ」
「……え?」
一良の衝撃的な発言に、リーゼがきょとんとした顔で一良を見る。
そして、その向こう側にいるバレッタを見た。
「あれって確か、すんごいページ数があったと思うんだけど……何ページだっけ?」
「え、えっと……24971ページですね」
「それを全部覚えてるの? ほんとに?」
「は、はい。一応は」
おずおずと頷くバレッタに、一良以外の全員が驚愕の眼差しを向ける。
アイザックやニィナたちは百科事典が何なのかは知らないが、膨大なページ数の本の内容をすべて暗記しているという時点で、尋常ではないことは分かる。
「バレッタ、本当に私と同じ人間だよね? その頭、どうなってるわけ?」
リーゼが怖いものでも見るような目でバレッタを見つめる。
「バレッタさん、前に覚え方を教えてくれましたよね。もしかしたら、リーゼはできるかもしれないですよ? 教えてあげたらどうです?」
「ええ……」
明らかに楽しんでいる表情で言う一良を、バレッタが困り顔で見る。
以前、一良に覚え方を話した時は、「バレッタさんしかできない」と即座に否定したのに、と内心困り果てた。
そんなバレッタの心の内などつゆ知らず、リーゼは興味津々といった様子だ。
「えっ、やり方があるの!? 私にも教えて!」
「その……見たものを写真を撮るみたいにして覚えて、頭の中に置いておくんです。見返したい時は、その場面を頭の中で見る感じ――」
「できるわけないでしょ!? バカにしてんの!?」
「ひゃっ!? お、怒らなくてもいいじゃないですかっ!? 本当にそうやってるんですから!」
「あはは、やっぱ普通はできないよなぁ」
「なっ!? カズラさん酷いですよ! こんなの理不尽です! あんまりです!」
無責任に笑っている一良に、バレッタが頬を膨らませる。
「えっ? 俺のせい?」
「カズラさんのせいでリーゼ様に怒られたようなものですよっ!」
そうやって騒ぎながら歩いているうちに、一同は森の入口にたどり着いた。
さて、と一良が後ろの皆を見る。
「それじゃあ、この先は俺とリーゼとバレッタさんで……バ、バレッタさん、ほんとすみませんでした。許してください」
ふくれっ面になっているバレッタに、一良が謝る。
「……カズラさんが私に似合うと思う眼鏡を選んでくれたら許してあげます」
「わ、分かりました。度入りの眼鏡を作るのには専用の測定器具で測ってもらわないとダメなんで、伊達眼鏡でもいいですかね?」
「はい、大丈夫です」
にこっとバレッタが微笑む。
どうやら、機嫌を直してくれたようだ。
実は、バレッタは内心、一良に眼鏡を選んでもらえる口実ができて喜んでいたりするのだが。
「あー、いいなぁ! カズラ、私も!」
「分かった、分かった。ほら、森に入るぞ。皆さん、ちょっと待っててくださいね」
「カズラのセンスが問われるからね! ちゃんと似合うのを選んでよ?」
「分かったって。向こうで見比べるから、後で写真撮らせてくれな。バレッタさんもお願いしますね」
「はい!」
あれこれ話しながら、3人が森へと入っていく。
ハベルはその姿を見送りながら、隣に立つアイザックに目を向けた。
「アイザック様、今さらですけど、リーゼ様のことはもう諦めたほうがいいと思いますよ?」
「うるさい。余計なお世話だ」
ごつん、とアイザックがハベルの頭に拳骨を食らわす。
ハベルは「親切心で言っているのに」とぼやきながら、去っていく一良たちの背を見送るのだった。
「うう、真っ暗じゃん……私もライト持ってくればよかった」
ガサガサと草をかき分けて歩きながら、リーゼが一良の腕にしがみつく。
光源は一良の手にしているペンライトが1つだけだ。
「どこまで歩くの? オルマシオール様が出てきてくれるまで?」
「いや、森の奥まで行ったからって出てきてくれるとは限らないし。というより、リーゼが一緒にいて、会いに来てくれるのかかなり不安なんだよな」
「あー……カズラとバレッタは、別々に会ったことがあるんだっけ」
「うん。俺は何度も話したな。バレッタさんは2回でしたっけ?」
一良がバレッタに話を振る。
「はい。山で炭焼きをしていた時に夢に出てきたのと、バルベールの騎兵から救っていただいた時は直接お話ししました」
「そっか……いいなぁ、2人だけ。なんだか、私だけのけ者みたい」
リーゼが少し寂しそうに言う。
「まあ、そう言うなって。こればっかりは俺じゃどうしようもできないことなんだし」
「うん……」
そうしてしばらく歩き、3人は立ち止まった。
おそらく、300~400メートルは歩いただろうか。
「うーん。やっぱりいきなりは無理があるかな……連絡の取りようがないけどさ」
「いくらオルマシオール様でも、事前連絡なしだと厳しいかもですね」
一良とバレッタが周囲を見渡しながら言う。
「今度会ったら、何か連絡の合図とか決めておいたら? いつもこんなんじゃ、すごく不便だし」
「だな……無線機でも渡して、持っててもらったほうがいいよな。持ってくればよかった」
「でも、オルマシオール様じゃ、ボタン押せないんじゃない? 獣の手足なんだし」
「そこはほら、人間に化けられる相方がいるから大丈夫だよ」
「ああ、黒髪の女の人だっけ? どんな人なの?」
「んー……すっごい美人さんで、人を驚かすのが趣味ってことしか分からないな」
「神様なのに、迷惑な趣味持ってるんだね……」
そのままだらだらしゃべりながら、黒い女性やウリボウたちの出現を待つ。
だが、いくら待っても、彼らは姿を見せない。
「こないなぁ。これはもう、諦めたほうがいいか」
「うー……なんだか眠くなってきちゃった……」
リーゼが疲れた顔で、その場に座り込む。
「もう夜遅いしな。戻ろうか」
「ううん……もう少し待ってみようよ」
「悪いな、付き合わせちゃって」
「……」
「バレッタさん? どうしました?」
やや険しい顔つきになっているバレッタに、一良が小首を傾げる。
「……いえ、何でもないです。座って待ちましょうか」
一良とバレッタも、その場に座り込む。
すると、リーゼが一良の肩に頭を持たれかけた。
「リーゼ?」
「ごめん……眠くて……」
そしてすぐに、リーゼがすやすやと寝息を立て始めた。
これはと一良は思い、隣のバレッタに目を向ける。
バレッタは額に脂汗を浮かべて唇を噛み、両腕を抱いて爪を立てていた。
「バレッタさん、もしかして……」
「たぶん、そろそろ来ると……思います」
バレッタにも、かなりの眠気が襲い掛かっているようだ。
一良は特に何も感じていないのだが。
その時、一良たちの正面から、がさりと落ち葉を踏みしめるような音が微かに聞こえた。
はっとして、2人がそちらに目を向ける。
真っ暗な森の中に、金色に光る2つの玉が浮かんでいた。
闇から滲み出すようにして、巨躯のウリボウがゆっくりと一良たちの数メートル手前にまで歩み寄ってきた。
「何か用か?」
巨躯のウリボウが口を動かし、低い声でしゃべった。
一良が慌てて立ち上がろうとすると、バレッタがその腕を掴んだ。
「バレッタさん?」
「手を……貸してください……」
一良に支えられながら、バレッタが朦朧とした様子で立ち上がる。
ウリボウはそれを見て、ふん、と鼻を鳴らした。
「相変わらず、大した意志の強さだな。よく眠らずにいられるものだ」
「やっぱりこれって、あなたたちがやってたんですね?」
一良が聞くと、ウリボウは軽くうなづいた。
「こうしなければ、余計な人間とも関わることになってしまうからな」
ウリボウがリーゼに目を向ける。
「あいつが言うには、我らが人間たちと深く関わると悪い未来に繋がりやすくなるらしい。次からは、できれば貴君だけで来てもらいたい。大勢いると、この力は通じないようだからな」
「えっ、よくないって……ええと、黒い女性が言ってたんですか?」
「うむ。まあ、私からしてみれば、ここまで肩入れしておいて今さらだとは思うがな」
ウリボウがその場に座り込む。
「それで、我らに何の用だ?」
「えっと……コルツ君について聞きたくて」
「あいつが目をかけていた小僧か。どうかしたのか?」
「しばらく前から、行方不明になってるんです。どこにいるのか、知らないかなと思って」
「知らん。お前の傍にいるようにと、あいつが小僧に言いつけておいたのは聞いているがな。大方、砦のどこかにいるのではないか?」
「いや、それも分からなくて……あの、彼を探すのを手伝ってもらうことはできませんか? 匂いとかをたどったりして」
「ふむ。小僧の匂いが付いた持ち物はあるのか?」
そう言われ、一良が「うっ」とたじろぐ。
手元にも砦にもコルツの持ち物は1つもなく、イステリアに取りに行くにしてもバイクはすべて出払っている。
ルグロの安全のために仕方がなかったとはいえ、1台くらいは残しておくべきだったと今さらながらに後悔した。
「ないのか。まあ、あいつなら匂いも分かるだろうから、後で伝えておいてやる」
「あ、そうか。彼女なら……あの、今近くにはいないんですか?」
「いない。他の連中と一緒に、向こうの国の奴らを見張っているからな。今、この国には、我らの仲間はほとんどいないぞ」
「えっ。もしかして、俺たちのために?」
予想外の言葉に、一良が驚く。
「うむ。この間の戦いのように、貴君らが油断したところに付け入られて万が一でも大敗されては、元も子もないからな。微力ながら、加勢はさせてもらう」
ウリボウがバレッタに目を向ける。
バレッタは一良に支えられながら、辛うじて立っているような状態だ。
「いつまでそうして頑張っているつもりだ。さっさと眠ってしまえ」
「嫌です……カズラさんは、私が守ります……」
バレッタは朦朧としながらも、ウリボウを睨みつける。
「なんだ、私がこの男を食うとでも思っているのか?」
「違います。カズラさんをどこかに連れて行ってしまいそうで……怖いんです」
バレッタが言うと、ウリボウの目つきが少し柔らかくなったようにバレッタには見えた。
「お前たちは、あの2人に似ているな」
「……あの2人?」
バレッタが聞き返す。
「魂だけになって、森で彷徨っていた者たちだ」
その言葉に、バレッタの目に動揺が走る。
何百年も離れ離れで互いを探し続けていたという話を思い出し、心の底から恐怖が湧き起こった。
「さて、私はそろそろ行くとしよう」
ウリボウが立ち上がる。
「そのうち、あいつが訪ねていくだろう。しばらく待っていてくれ」
ウリボウはそう言うと踵を返し、闇の中へと消えていった。
途端に、バレッタの足から力が抜け、その場に膝をつく。
「うわ!? バレッタさっ!?」
一良はバレッタを支えようとしたが、自身も足に力が入らずに膝をついた。
「い、いてて……前にもこんなことあったな。半分眠ってるってやつか。バレッタさん、大丈夫ですか?」
「うう、頭がくらくらしちゃって……足に力が入らないです。カズラさん、大丈夫ですか?」
バレッタが自身の頭に手を当てながら、一良を気遣う。
「大丈夫です。リーゼは……爆睡してますね」
一良が隣を見やると、リーゼは地面に横たわってすやすやと寝息を立てていた。
顔も体も、落ち葉と小枝まみれになっていそうだ。
「前に彼らに会った時、『意識に霧をかけないと語りあえない』みたいなことを言ってたんですよね。そのせいかな」
「意識に霧、ですか。私が前に会った時は、そんなことなかったんですが……」
バレッタがそう言って、「あ」と思い出したように言う。
「そういえば、あの時はオルマシオール様は口を動かしてなかったです。頭に直接話しかけてくる感じでした」
「ふむ。さっきは口を動かしてしゃべってましたし、俺が会った時も同じだったんですよね。やっぱり、夢を見ながら話してる感じだったのかな」
「かもしれないですね。私たちがいるせいで、そうしていたのかも」
バレッタが森の奥を見やる。
もうそこにはウリボウはおらず、暗い森が広がっているばかりだ。
「さてと、そろそろ戻りますかね。皆、心配しているでしょうし」
「はい。リーゼ様、起きてください」
バレッタがリーゼの肩を揺さぶる。
「んにゅ……いひひ、カズラぁ。あん……」
リーゼが横になったまま、ニヤニヤして寝言を言っている。
声色が艶っぽいのだが、いったい何の夢を見ているのだろうか。
「むう、よく寝てるな。俺がおんぶしていきますかね」
「やぁ、カズラ、すごいよぉ……」
「っ!? いえ、起こします! リーゼ様、起きてください!」
バレッタがリーゼの肩を掴んで、ガクガクと揺らす。
「そんなとこダメだって……あっ」
「リーゼ様、起きて! 起きなさい!!」
「……ん。あ、あれ?」
リーゼが薄っすらと目を開け、目の前で顔を赤くしているバレッタを怪訝そうな目で見る。
自分を覗き込んでいる一良を見て、「はあ」と残念そうにため息をついた。
「なんだ、夢かぁ……残念」
「リーゼ様、立ってください。帰りましょう」
バレッタが真顔でリーゼの腕を掴み、立ち上がらせる。
「え、えっと……帰ろうか。はは」
「うー。いいとこだったのに……って、オルマシオール様は?」
「もう終わったよ。ひととおり話して、帰って行った」
「えー? 私が寝てる間に? 起こしてよ」
むう、とリーゼが不満げな顔になる。
「そうは言ってもな……帰りながら説明はするから、皆のところに戻ろう」
そうして、3人は森の入口で待つ皆の下へと戻るのだった。
リーゼはだいぶアレな夢を見ていたようで、道すがら一良の顔をチラチラと見てはニヤついており、バレッタはふくれっ面になっていた。