軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

254話:お見通しだ!

「……来た」

戦闘隊形でぞろぞろと進んで来る反乱軍の一団を見て、守備隊長とセレットとともに跳ね橋の上に立つシルベストリアがぽつりと言う。

中央に歩兵中隊、両脇に騎兵隊という、一般的な隊形だ。

『シルベストリア様、ロズルーです』

すると、シルベストリアの腰に付けている無線機からロズルーの声が響いた。

シルベストリアが無線機を手に取る。

『村の入り口から見て、右斜め前方の草むらにいます』

シルベストリアがそちらに目を向ける。

目を凝らしてよく見てみるが、彼がどこにいるのかさっぱり分からなかった。

『合図をいただければ、ここから連中の部隊指揮官を矢で仕留められます。どの者かを指定していただければ、連中の中に飛び込んでニーベルを取り押さえますが。どうぞ』

「狙撃って、傍に近寄って狙い撃つってこと? 危ないから、村の中に入ってよ。どうぞ」

『いえ、風もないですし、かなりの遠距離から射殺せます。危険な距離には近づきませんので。どうぞ』

「む、誰と話しているんだ?」

守備隊長がシルベストリアに目を向ける。

「以前、ジルコニア様を砦から救出したロズルーという者です。今まで反乱軍を追尾して、逐一連絡をしてきてくれていたのも彼ですね」

「ああ、たった1人で砦に侵入したという者か」

「はい。ギリースーツという、風景と一体化できる服を着ているらしいんです。あそこら辺の草むらにいるらしいのですが」

守備隊長がシルベストリアの視線を追い、草むらを見る。

だが、どうにもロズルーの姿を見つけられず、小首を傾げた。

「ううむ、分からん。これも、グレイシオール様の道具というわけか」

「ですね。彼の持っている弓も特別製だと聞いています。かなりの射程と正確さを持っているとかで」

「なるほどな。だが、狙撃はいいが、敵陣に飛び込ませるのは危険すぎる。死なれでもしたら、グレイシオール様に顔向けできん。その場で待機するように伝えろ」

「了解です」

シルベストリアが無線機の送信ボタンを押す。

「ロズルーさん、その場で待機で。狙撃が必要な時は、こっちから言うから。どうぞ」

『かしこまりました。標的を選ぶようでしたら、あらかじめご連絡ください。通信終わり』

シルベストリアが無線でやり取りしている間にも、反乱軍は村へと迫って来る。

守備隊長が片手を上げて、兵士たちに合図を出した。

クロスボウを手にした兵士たちが、柵越しに矢先を反乱軍に向ける。

柵の内側にはいくつも台座が作られ、急遽組み立てられた数十機のスコーピオンが設置されていた。

数棟ある監視塔にもスコーピオンが置かれており、兵士たちが配置についている。

守備隊の兵士たちは、イステリア防衛のために守備戦に特化した訓練を受けた者たちだ。

クロスボウとスコーピオンの扱いは、お手の物である。

「シルベストリア、やれ」

反乱軍が罠地帯の数十メートル手前に来たところで、守備隊長が指示を出した。

シルベストリアは頷き、拡声器の電源を入れる。

「反乱軍よ、そこで止まれ!!」

シルベストリアが発した大声に、反乱軍の兵士たちの表情が驚愕に染まった。

誰とはなしに足を止め、反乱軍の前進が止まった。

「うおっ!? な、何だ、あの大声は!?」

御者の隣に腰かけて部隊中央を進んでいたニーベルが、突如響いた大声に驚いた声を上げた。

ニーベルの隣には金髪の少女が座っており、拡声器の大音声に目を丸くしている。

彼に続く反乱軍の兵士たちも、突然の出来事にざわついていた。

「おい、モルス! あれはどういうことだ!?」

ニーベルがモルスを怒鳴る。

モルスは「だからさっき言ったんじゃないか」と内心げんなりしながらも口を開いた。

「先ほど私が申し上げたとおりです。あれ以上、説明のしようがありません」

「それならそうと、しっかり私に伝えておかんか! このバカ者が!」

「……」

怒鳴り散らすニーベルに、モルスは閉口した。

謀略にかけてはニーベルはかなり頭が回るのだが、こと戦闘に関してはズブの素人だ。

戦地において指揮官が慌てふためいたり、味方の指揮官を罵倒するなどもってのほかである。

それが周囲の兵にどういう影響を与えるか、ニーベルはまるで考えていないのだろう。

これは従う相手を間違えたか、とモルスが考え始めた時、ニーベルが御者台で立ち上がった。

「兵士たちよ、静まれ!」

ニーベルが兵士たちに大声で語りかける。

「あれは、連中の仕組んだ――」

「貴様ら反乱軍の企みは、王家にもフライス家にもイステール家にもグレイシオール様にも、すべてまるっとすっきりお見通しだ!!」

「うるさい! 私がしゃべっているだろうが!!」

ニーベルの声に被せるようにして響き渡るシルベストリアの大声に、ニーベルが額に青筋を浮かべて彼女に叫ぶ。

シルベストリアからもその様子は見えているのだが、当然、おかまいなしだ。

むしろ、「わめいてる、わめいてる」とニヤついていたりする。

「哀れな反乱軍兵士たちに告ぐ!」

シルベストリアは跳ね橋の上で仁王立ちし、ビシッと反乱軍を指差した。

「諸君らは、ニーベル・フェルディナントに騙されている! ダイアス様が国を裏切ってバルベールと手を組んでいたなどということは、すべてニーベルの出まかせだ!」

「黙れ! 出まかせは貴様らの――」

「反乱が起こったその日のうちに、ルグロ殿下は砦を発ち、グレゴリアへ急行した! 今こうしている間にも、殿下から真実を告げられたグレゴリア市民たちが、殿下と王家の軍団とともにこちらへ向かっているぞ!」

「な、なんだと!?」

ニーベルが驚愕に目を剥く。

その場にいる兵士たちも、驚いた顔でシルベストリアを見ている。

先ほどから一方的にシルベストリアの声だけが兵士たちの耳には届いており、ニーベルの声は大音声にかき消されてほとんど聞こえてこないのだ。

「なぜ、これほど早くグレゴリアでの情報が砦にいる殿下に伝わったか不思議だろう!? それは、アルカディアに降臨したグレイシオール様のお力によるものだ! どれだけ離れていても、国内で起こっていることは私たちにすべて筒抜けだ!」

ニーベルに話をさせてなるものか、とシルベストリアが言葉を続ける。

反乱軍の兵士たちが動揺している様子はシルベストリアも雰囲気で察しており、畳みかけるのなら今だ、と考えていた。

「今こうして諸君らが聞いている私の大声も、グレイシオール様のお力によるものだ! このような真似、人間にできるわけがないことは諸君らも分かるだろう!? 神は現実に存在しているのだぞ!」

「だ、黙れっ! 兵士たちよ、耳を貸してはならん! あれは邪悪な魔術によるものだ!」

「ニーベルはこの畏れ多い神の力を、邪悪な魔術だとでも言って諸君らをたぶらかそうとするかもしれない!」

ようやく言葉を発せられたと思った傍からそんなことを言われてしまい、ニーベルが顔を真っ赤にして「黙れ!」と再び叫ぶ。

傍にいたモルスは、シルベストリアの台詞を聞いて、「あ、俺がついさっき守備隊長に言った台詞だ」と内心シルベストリアに感心していた。

「諸君ら兵士たちは騙されているだけだ! 王家もグレイシオール様も、それはご理解しておられる! 今投降すれば、グレイシオール様のご慈悲で諸君らの罪は大幅に軽減されるはずだ!」

兵士たちがざわつく。

人知を超えた出来事に、もはや思考が追い付かないのだ。

「兵士たちよ、目を覚ませ! 諸君らはニーベルに騙されていたのだ! ニーベルこそ、諸君らを巻き込んでバルベールに与しようとする造反者だ! ニーベルは諸君らを扇動してイステリアを制圧し、領内の村や街も手当たり次第襲わせて、砦にいる友軍を干上がらせようとしているのだぞ!」

「ふざけるな! お前たち、耳を貸すんじゃない! あいつの言うことはでたらめ……」

ニーベルはそこまで言って、周囲の兵士たちが自分に向けている視線に気づき、「うっ」と言葉を止めた。

皆が、敵意とまではいかないが、明らかに疑いを含んだ視線を向けてきていたからだ。

シルベストリアの言うことは兵士たちが知っている事実をなぞっているし、砦を干上がらせるためという理由は確かに納得がいく。

拡声器による常識外の大音声の効果も相まって、まさかこいつは、と多くの兵士が考え始めていた。

「今ならまだ間に合う! 諸君らの手でニーベルを取り押さえろ! 諸君らが王家とグレイシオール様から赦しを得られる最後のチャンスだ!」

「お、おい、モルス!」

「……」

ニーベルがモルスに目を向けるが、モルスは口を閉ざしたままニーベルを見返すだけだ。

自分でどうにかしてみろ、と目が言っていた。

「っ! 兵士たちよ、騙されるな!! ダイアスが諸君らに強いてきたことを忘れたか!?」

ニーベルが額に玉のような汗を浮かべながら、必死の形相で兵士たちに訴えかける。

「民に重税を課し、器量のいい女は無理やり召し上げ、異議を唱えれば罪をでっちあげて首を刎ねた! 奴がどうしてそんな真似を、今までやり続けてきたと思う!?」

ニーベルが兵士たちに叫ぶように言う。

シルベストリアは口を挟まず、叫んでいるニーベルに目を向けている。

言うべきことはすべて言ったので、あとは兵士たちが自ら動くことを祈るしかない。

「それは、奴が最初からアルカディアを裏切ると決めていたからだ! 自らの保身と引き換えにバルベールに献上する国の民など、どうなっても構わないと思っていたからだ! 私は、そんな悪魔を打ち倒し、領内のすべての民を圧政から解放――」

「悪魔はお前のほうよっ!!」

「ぐあっ!?」

ニーベルの言葉を遮って、御者台に座っていた少女がニーベルを突き飛ばした。

まったく予想していなかった衝撃に、ニーベルが御者台から地面に転落する。

周囲の兵士たちはその場を動かず、唖然とした様子で少女に目を向けた。

「ダイアス様が悪魔ですって!? 大勢の小さな女の子を攫って慰み者にしていたお前がそれを言うの!? 孤児院とは名ばかりの牢獄に、あちこちから攫ってきた子供を百人以上も閉じ込めているお前が!?」

「モ、モルス! そいつを黙らせろ!!」

ニーベルは慌てふためきながらも、モルスに指示を飛ばす。

「その話、詳しく話してみろ」

「モルス!?」

モルスはニーベルには一瞥もくれずに、少女を真っ直ぐに見つめて言った。

少女は頷くと、憎悪に顔を歪ませてニーベルを睨みつけた。

「私、その孤児院にいたんです。父がこの男にすごい額の借金を作ってしまって。私はそのカタとして売られたんです。そうしないと、家族全員、餓死するしかなかったから」

「黙れ! 黙らんか!」

ニーベルが叫ぶと、モルスは腰の剣の柄に手を添え、チャキ、と指で鍔を押し上げた。

「ニーベル様、少しの間、お静かにお願いできますでしょうか?」

「モルス、貴様っ……!」

ニーベルが激高しかけ、押し黙る。

自分を見る兵士たちの目が、恐ろしいほどに冷え切っていたからだ。

「私はこの男に、街はずれにある孤児院に連れて行かれました。そこには、私のように借金のカタに売られてきたり、家族が死んでしまって連れてこられた娘たちが大勢いました」

少女が淡々と、自身が目にしてきたことを話す。

孤児院で目にした、大勢の少女たちのこと。

世話をしてくれるのも年上の少女たちで、彼女たちは隠していたが、14、15歳くらいになるとニーベルに夜伽を強制されていたこと。

その娘たちも数年経つと、どこかへ連れて行かれて二度と戻ってこなかったこと。

話が進むにつれて少女の目には涙があふれ、それは頬を伝ってぽたぽたと足元に零れ落ちた。

「ダイアス様は、そんな地獄のような場所にいた私を救ってくださったんです。他の侍女たちと同じ待遇で使ってくださって、夜伽を強制されたことなど一度もありません。奴隷みたいな生活を送らされていた私を、ダイアス様は救ってくれた」

いまだに地面に尻もちをついているニーベルを、少女が睨みつける。

「ある日、私はダイアス様に何日かお休みを頂いて、貯めたお給金を手に両親を訪ねて故郷へ向かいました」

少女の話に、ニーベルが「まずい」といった顔になった。

だが、今すぐ少女の言葉を止めては、これから彼女が話すことが真実だと証言するようなものだ。

「両親は、とっくの昔に死んでいました。私が売られてから、ほんの一カ月後に。家に押し入った野盗に斬り殺されたという話でしたが、それと同じような話を孤児院にいた娘が何人も――」

皆が口を閉ざす中、少女の声だけが辺りに響いていった。