軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

226話:ゲロを吐きそうな顔

次の日の朝。

昨夜の残り物でルグロ一家と朝食を済ませた一良たちは、昨日と同様に上映会のセッティングをしていた。

部屋にいるのは、一良、バレッタ、リーゼ、ジルコニアの4人だ。

今日上映するのは、1カ月半程前に行われたバルベールとの戦闘を撮影したものだ。

「カズラさん、会戦の動画ですけど、相手方の軍団長とナルソン様が話しているシーンも映しますか?」

バレッタがノートパソコンを操作しながら、ジルコニアと一緒に巻き上げ式スクリーンの位置を調整している一良に目を向ける。

すでにプロジェクタは起動しており、スクリーンにはパソコンのモニターが表示されていた。

「そうですね。さらっと流す程度に、映しておきましょうか」

「分かりました」

バレッタがマウスを操作して動画を再生し、上映開始地点までスクロールバーを移動させた。

ちなみに、動画はすべてハベルが撮影したものだ。

「そういえば、バルベールの投石機の映像も撮れればよかったのにね。相手もこんな兵器を持ってるんだぞって、説明しやすいしさ」

それぞれの座席にポップコーン入りの皿を置きながら、リーゼが言う。

「ああ、確かにそうだな……」

「カズラさん、どうかしましたか?」

考え込むような表情になった一良に、ジルコニアが小首を傾げる。

「いえ……やっぱり、バルベールにも俺みたいな人間がいるんじゃないかって思って」

「カズラさんみたいな人、ですか? どうしてです?」

「砦を攻められた時に敵方が使ってきた大型投石機ですよ。あれのことが、いまだに引っかかってて」

「ああ、あれですか。あれなら、私が砦で捕虜にされている時に、設計者と会いましたよ」

さらりと言うジルコニアに、一良とバレッタがぎょっとした顔を向ける。

「えっ、そうなんですか!? 初耳なんですけど」

「すみません、カズラさんには言ってなかったですね。ナルソンには話してあるのですが」

「ジルコニア様、その人について詳しく教えてください。もし、カズラさんと同じ世界から来た人だとしたら大変なことです」

バレッタが真剣な表情で言う。

バレッタとしては、その人物が一良と同じ世界から来た人間だという可能性はかなり低いと考えている。

もしそんな人物がいるのなら、バルベールもアルカディアと同様に急速な発展が見られているはずだからだ。

可能性があるとするならば、投石機を使ってきた第10軍団がその人物を秘匿して独占している、ということである。

これらのことは、以前に一良、アイザック、マリーと一緒におにぎりを食べていた時に話した内容だ。

「それはないと思うけど。砦にあった水車とかの機械を『超先進的な道具』って言って、すごく興奮していたし」

「ジルコニア様にそう思わせるための、演技という可能性はありませんか?」

「そんな演技をしてまで、その人が私に身を晒す必要があると思う? 私を解放することになっていたなら話は別だけど、あの時点じゃ私を解放するメリットなんて皆無じゃない。どう考えてもそこまでする意味はないでしょう?」

「……はい、そうですね」

「でしょう? 気にしすぎよ。カズラさんも、安心して大丈夫ですよ」

その言葉に、一良がほっと息をつく。

「そうでしたか。はあ、よかった。できれば、もっと早く知りたかったです」

「ごめんなさい。特に必要な情報でもないかと思って」

「まあ、そうですよね。その人、どんな人でした?」

「17、18歳くらいの女の子でした。その娘が1人で、1から設計したって言ってましたね」

「えっ、17、18歳って、マジですか。そんなに若いのにすごい……って、バレッタさんのほうが若いんでしたね」

一良がバレッタを見る。

バレッタは、まだ16歳だ。

彼女がいてくれるおかげで、さまざま工作機械や新兵器の開発と製造、それに加えて、より効率的な生産ラインの構築と、すべてが順調に推移している。

文句なしに、この国における1番の天才だろう。

「ええ。私も最初は驚きましたけど、バレッタみたいな娘がいるんですし、まあおかしくはないかなって」

「バレッタって、意味が分からないくらい頭がいいもんね。実際会ってみたら、その娘とすごく気が合ったりするんじゃない?」

ジルコニアとリーゼの言葉に、バレッタが苦笑する。

「あ、あはは。なんか、褒められてる気がしないんですけど……ジルコニア様、その人って、真っ白な髪で色白の女の人ですか?」

「そうだけど、どうして知ってるの?」

「前に、砦の防御塔から景色を眺めていた時に、その人がいたんです。ジルコニア様も見ていたと思うのですが」

「ああ……そういえば、そんなこともあったわね。作業をしている人たちを応援して、踊ってたんだっけ」

「はい。なんか場違い感がすごくて、印象に残ってます」

バレッタがそう言った時、コンコン、と部屋の扉がノックされ、エイラの声が響いた。

首脳陣たちが、部屋にやってきたのだ。

席に着く首脳陣を前に、一良がマイクのスイッチを入れる。

一番奥の席にはルティーナが座っており、ルグロ、エルミア国王、ナルソン、ヘイシェル、ダイアスといった順になっていた。

そんな首脳陣のなか、1人だけあからさまに顔色の悪い人物がいた。

――だ、大丈夫か、あの人?

落ち着かない様子で、ちらちらと一良に視線を向けてくるダイアス。

ルグロの言葉を借りるならば、「ゲロを吐きそうな顔」といえるほどに顔色が悪い。

それに引き換え、隣に座るヘイシェルは余裕しゃくしゃくといった様子で、席に着いた時に勧められたポップコーンを口にし、ナルソンに「これは美味いな!」と笑顔を向けている。

一良はとりあえずダイアスの視線には気付いていないふりをしつつ、他の皆に目を向けた。

「皆さん、おはようございます。本日は皆さんに、先日行われたバルベールとの戦いの様子を見ていただこうと思います」

一良の指示で、バレッタが動画を再生する。

場面は、イステール領軍が砦に向かう森の中の街道で第6軍団と対峙しているものだ。

軍団中央から護衛の騎兵とともに進み出たナルソンが、軍団同士のちょうど中間地点で待つマルケスの下へと向かっていく。

カメラがズームされ、2人の顔がアップで映し出された。

その様子に、エルミアをはじめとした首脳陣がぎょっとした顔になった。

「グレイシオール様、よろしいでしょうか?」

ヘイシェルが手を上げ、一良に声をかける。

バレッタが動画を一時停止した。

「はい、なんでしょう?」

「そこにナルソン殿がいるように見えるのですが、これはいったい……」

ヘイシェルが、隣に座るナルソンとスクリーンに映るナルソンを交互に見る。

「それは、約1カ月半前の映像です。その時に起こっていた出来事を、こうしていつでも見ることができるように記録しておいたんですよ」

「な、なんと。そのようなことが……失礼しました。続けていただいて大丈夫です」

「何かあったら、すべて見終わった後にまとめて聞いていただけると。できる限り答えますので。バレッタさん」

「はい」

バレッタが再び動画を再生する。

ナルソンとマルケスの話し合いが終わり、互いに陣営に戻っていく。

ほどなくして太鼓の音が鳴り響き、軍団が前進し始めた。

腹に響く太鼓の音に、ルグロがぽつりと「すげえな……」とつぶやいて周囲を見渡した。

部屋の隅に置かれているスピーカーに気付き、ルティーナと一緒になって「なんだろう」と目を向けている。

「間もなく戦闘が始まります。かなり凄惨な場面になりますが……ルティーナさん、大丈夫ですか?」

スピーカーに目を向けているルティーナに、一良が声をかける。

「あ、はい。大丈夫です」

笑顔で頷くルティーナ。

昨日も地獄の動画でグロいシーンは見ているが、今回のものはリアルな殺し合いだ。

死体を近くで見た一良は嘔吐してしまった経験があるので、心配だった。

「本当に大丈夫ですから。戦場の光景は見慣れているので、平気です」

ルティーナが一良の表情に気付き、そう付け足す。

「え? そ、そうですか」

「はい。お気になさらず」

見慣れているとはどういうことだ、と一良は内心首を傾げつつ、スクリーンに目を向けた。

軍団が進軍し、弓と投石での射撃戦が始まる。

エルミア国王たちは、固唾を飲んでその光景を見守る。

すると、カメラが射撃戦を続ける者たちから外れ、軍団の脇にズームしていった。

「……何だあれは?」

射撃準備を進めているスコーピオンを見て、エルミアが怪訝な顔になる。

「スコーピオンという長距離射撃兵器です。まあ、見ていてください」

スコーピオンの射撃準備が終わる直前、カメラがズームアウトした。

次の瞬間、スコーピオンからボルトが発射され、矢を射続けている敵兵の1人を大きく吹き飛ばした。

ハベルの見事なカメラワークである。

「おおっ!」

「あ、あの距離からでも届くのか」

エルミアとヘイシェルが、驚いた声を上げる。

スコーピオンの援護射撃によって射撃戦はイステール領軍の優勢が決定的になり、敵の射手が後退を始めた。

その後も動画は進み、長槍兵とクロスボウ兵の複合部隊による一方的な戦闘から、撤退する敵を追っての追撃戦の映像が流れる。

「……圧倒的ではないか」

動画を食い入るように見ながら、エルミアが感嘆の声を漏らす。

圧勝だったという報告は受けていたが、まさかここまで一方的な戦いだとは思っていなかったのだ。

兵士たちの巻き上げる土煙で戦場が把握できなくなったところで、動画が終わった。

「以上が、バルベール軍第6軍団との会戦の一部始終です。本当はウリボウの集団の助太刀もあったのですが、こちらの不手際で記録が残っていないんです」

一良の言葉に、再びエルミアが「おお」と声を上げる。

「報告で聞いてはおりましたが、本当にオルマシオール様も我らを救いに現れてくださったのですね」

「はい。ただ、オルマシオールが今回手助けしてくれたのは特別です。彼らは積極的にこの国に関わることを良しとしていないので、そこはご理解ください」

彼らは自身のことを精霊に近い存在だと言っていたが、ここでの説明ではオルマシオールということにしておいたほうが何かと都合がよさそうだ。

エルミアは何か聞きたそうな顔をしているが、とりあえずスルーする。

「では、続いて攻城戦の記録をお見せいたします。さらに複数の新兵器を投入した、この会戦以上の一方的な戦いとなっています。バレッタさん、お願いします」

「はい」

バレッタがパソコンを操作し、砦攻めの動画を再生する。

イステール領軍が砦に籠るバルベール軍に対し、長射程を誇る攻城兵器を接近させているシーンからだ。

カノン砲やカタパルトといった派手な兵器の射撃シーンになると、エルミアたちから大きなどよめきが起こった。

顔色を悪くしていたダイアスも、皆と同じように食い入るように動画を見つめている。

すべての動画上映が終わり、スクリーンにパソコンのデスクトップ画面が映し出された。

「このように、バルベールとの戦いは一方的に推移しました。私が伝えた技術で作った新兵器が、いかにすさまじい威力を持っているのかが分かったと思います」

「うむ。これらの兵器があれば、バルベールなど赤子の手を捻るようなものですな!」

エルミアが興奮した様子で言う。

「これをお見せいただけたということは、我らにもこれらの兵器をお譲りいただけるということでしょうか?」

「はい。ですが、こちらとしても生産が追い付いていない状況ですので、自分たちで使う分はできるだけ自分で作っていただきたいんです。見本と設計図、そして技師を派遣します。ご自身の領地に戻り次第、急ぎ作業に取り掛からせてください」

「かしこまりました。すべての工房の職人を兵器生産に回します」

「お願いします。ただし、これらの製造方法が敵国に漏れると大変なことになりますので、そこは注意してくださいね」

「もちろんです。職人は完全に隔離し、生産に当たらせることにします」

「それと、バルベールの大型艦船に対抗するため、同等の大きさの艦、そして対艦特化型の艦の設計図を用意しました。生産には時間がかかると思いますが、こちらも他の兵器と並行して――」

「カズラ殿、その前にお話ししたいことがあるのですが」

一良の言葉を遮り、ナルソンが口を挟む。

「あ、はい。何ですか?」

「ダイアス殿」

ナルソンがダイアスに目を向ける。

ダイアスは頷くと、エルミアをちらりと見た後、一良に顔を向けた。

「ご、ご報告が遅くなってしまい、大変申し訳ございません。今からだいたい、5年程前の話なのですが……」

ダイアスが、ごくりとつばを飲み込む。

額には玉のような汗が浮かび、酷く動揺しているように見える。

「誤解をしないでいただきたいのですが、私は承諾の返事などはしておりません。あえて乗ったふりをしていただけで、敵を欺くにはまず味方からと考えがあってのことで――」

「ダイアス殿、落ち着け。誰も貴君を責めたりなどはしない」

「う、うむ」

ダイアスが手で汗を拭う。

いったい何の話をするのかと、一良たちは困惑顔だ。

ダイアスはしばらく黙っていたが、意を決したように口を開いた。

「……5年程前から、バルベールの元老院から離反を持ち掛けられておりました」

その場にいるナルソン以外の全員の目が、驚愕に見開かれた。