軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

156話:増産体制

約1カ月後の午前中。

大雨のなか、一良はバレッタとリーゼとともに、街なかを馬車で進んでいた。

目的地は街なかの川沿いにある集合工房だ。

数日前に冷蔵庫の試作品が完成したとバレッタから聞き、工房の視察ついでに現地に見に行くことになったのだ。

予定ではジルコニアも一緒に行くはずだったのだが、ここにはいない。

早朝に氷室から氷が工房に到着したと連絡が入り、『先に行って様子を見ておく』と言って朝食もとらずに先に出て行ってしまったからだ。

しっかりと小脇にかき氷機を抱えて行ったらしい。

「すっごい雨だな。ジルコニアさん、ラタで行ったみたいだけど大丈夫かな……」

「きっとずぶ濡れになっちゃいますよね。風邪引いちゃいそうです……」

少しだけ窓を開け、街の様子を眺めながら心配そうに一良とバレッタが言う。

念のため飲ませようと、リポDも1本持ってきていた。

「お母様、本当にかき氷好きだよね。美味しいとは思うけど、あんなにもりもり食べられないよ。『キーン』って頭痛くなるし」

「だよな。でも、ジルコニアさんはいくら食べても頭痛くならないらしいぞ」

「え、そうなんだ。痛くなる人とそうじゃない人がいるんだね」

「人によるみたいだな。俺も平気だけどさ」

「えー、いいなぁ」

ガラガラと馬車は進み、護岸工事を進めていた河川区画にやってきた。

3人して、窓から河を眺めてみる。

モルタルで補強された擁壁は、まったくの無傷だ。

「川はまだまだ大丈夫みたいだな。ていうか、いったいいつまで降るんだこれ。もう7日間降りっぱなしだぞ」

「雨季ですからね。あと1ヵ月くらいは、ずっとこんな感じですよ」

バレッタが空を見上げ、降り続ける雨粒に目を細める。

「そんなに降るんですか。そういえば、グリセア村のほうって洪水が起きるんでしたっけ?」

「はい。そろそろ川の周りは水浸しになってる頃ですね」

「どのくらいの範囲が洪水になるんです?」

んー、とバレッタが思い出すように唸る。

「だいたいいつも、村から歩いて15分くらいのところまで水が来ますね。大きな水たまりみたいなのがあちこちにできて、ぐっちゃぐちゃになりますよ」

「うお、それはすごいですね。川から離れたところに村を作らせるわけだ……雨季は危なくて近寄れないですね」

「そうですね。あの辺ってほとんど平らですし、水浸しになると足元が全然見えなくて危なくて歩けないんです。しばらくお魚は食べられないですね」

「雨が上がったら、残った水たまりに魚拾いに行くんですっけ。俺も行ってみたいな」

「あ、いいな。私も行ってみたい。魚拾いなんてやったことないもん」

「ふふ、じゃあ、雨が上がったら皆で拾いに行きましょっか。村でお魚パーティーしましょう」

談笑しながら、ごうごうと音を立てて流れる川を注意深く観察する。

部分的な補修が完了したためか、今のところ過去に洪水が頻発していた区域でも被害は出ていない。

さらに水量が増したとしても、モルタルで補強した擁壁ならば持ちこたえることができるだろう。

「こんなに雨が降っても、穀倉地帯って大丈夫なのか? ラタ麦とかパン麦って、確か収穫するのは来月末だろ?」

一良の問いかけに、リーゼが頷く。

「大丈夫だよ。あれって水にすごく強いから、苗の半分くらいまで水に浸かっちゃっても腐らないし」

「すごい植物だなそれ。頑丈どころの話じゃないだろ」

「その代わり、日照りには弱いんだけどね。6月中に猛暑がきて水が足りなくなると、実付きが悪くなって不作になっちゃうの。去年なんてほとんど全滅で大変だったよ」

パン麦とラタ麦は11月半ばに種まきが済んでおり、肥料の効果もあって順調に生育している。

今年も去年のような干ばつが来ないことを祈るしかないが、揚水水車は十分な数がそろっているので、多少の干ばつなら全滅という事態は避けられるだろう。

ちなみに、設置されていた水車はすべて撤去済みだ。

「でも、夏イモは水に浸かっちゃうともうダメだよ。少し高い場所に、雨季が終わってから一斉に植えるの」

「あー、芋類って水に浸かっちゃうと一発でダメになるって言うもんな」

そうこう話しているうちに、集合工房に到着した。

大雨のなかでも工房は稼働しているようで、高い壁に囲まれた敷地内からは幾筋もの煙が立ち上っている。

大きな正面扉を警備兵が開き、馬車のまま中に入った。

連れてきた従者が差す四角い大きな傘に入れてもらい、敷地を歩いて建物内に入る。

「こんにちは! 皆さんお疲れ様です!」

入ってすぐに一良が大きな声で挨拶すると、あちこちから「お疲れ様でーす!」と職人たちの返事が返ってきた。

一良は工房に来るたびに、必ずこうして大声で挨拶している。

こんなことをしているのは一良だけだが、一良ほどの地位にいる人物で自ら職人たちに挨拶する者はリーゼ以外皆無だったせいか、職人たちからの評判は上々だったりする。

工房の奥に進むと、1メートルほどの高さの木製冷蔵庫の前で椅子に座ってスプーンを咥えている鎧姿のジルコニアを発見した。

手には、半分ほどに減ったかき氷が盛られた木の椀を持っている。

無骨な鎧姿にかき氷という絵面が、何だかシュールだ。

「ジルコニアさん、冷蔵庫の具合はどうですか?」

一良が声をかけると、ジルコニアはスプーンを口から出してにっこりと微笑んだ。

「美味しいです。やっぱり天然氷は違いますね」

「いや、そうじゃないでしょ」

「ふふ、冗談です」

ジルコニアは冷蔵庫の下段の扉を開き、木のトレーに載っている大きな生肉(ミャギの肉)の塊を取り出した。

どれどれ、と一良たちは歩み寄り、肉に触ってみる。

「お、ひんやりしてますね! って、氷と一緒に入ってるんだから当たり前か」

「朝来てすぐに氷と一緒に入れたんですけど、これだけ冷えるなら十分使えそうです。氷もほとんど溶けてないですし」

試作した冷蔵庫は、木製の箱の内側に銅板を打ち付けたものだ。

箱の壁と銅板との間には、断熱材としておが屑が敷き詰めてある。

上下2段の構造になっており、上段には氷の塊を入れ、下段に流れる冷気で生鮮食品を冷やすのである。

氷式冷蔵庫は電気式冷蔵庫に比べて湿度が保たれるので、食品が乾燥しにくく味が落ちにくいという特徴がある。

上段の裏側には小さな栓がついており、それを抜くと溶けた氷の水が抜ける仕組みとなっている。

「よしよし、なら、このまま量産しちゃいましょうか。構造も単純ですし、夏までせっせと作り続ければけっこうな数がそろいそうです」

「あ、でも、あんまり作りすぎちゃうと氷が足りなくなるんじゃない? これ一度使ったら、『夏だけじゃなくて一年中使い続けたい!』って皆思うんじゃないかな」

「う、確かにそうだな。となると……」

リーゼの指摘を受け、冷蔵庫1台につきどれくらいの氷が必要になるのかと一良は頭を捻った。

真夏では1日につき1貫(3.75キロ)の氷が必要だと、資料には記載されていた。

大きさで言えば、2リットルペットボトル約2本分である。

これを毎日補充するとなると、暑い盛りの7月から9月の終わりまでの2カ月間で2リットルペットボトル120本分の氷が必要である。

なかなかの消費量だが、氷室に貯蔵している氷の量も半端な量ではない。

放棄されていた畑を丸ごと使って氷池を造り、冬の間中氷を生産し続けたため、氷室の天井近くまでいっぱいになるほど、氷を蓄えることができたからだ。

軽く見積もっても、80トン以上の氷が貯蔵されているはずである。

「ええと、真夏の2カ月間で約240リットルだろ。それを80……いや、輸送中とこっちの一時保管場所で溶ける量も見積もって60トンくらいと考えると、えーと……」

「250台分ですね」

ぶつぶつ言っている一良に代わり、バレッタが即答する。

「え、そんなに余裕あるんだ。なら、たくさん作っておく?」

「んー、どうするかな。たくさん作って広めておきたいところではあるけど」

「かき氷屋さんで使う分の氷も取っておいてくださいね。イステール家から直営店を出すつもりなので」

「は、はい」

「とりあえずは10台か20台くらい作って、様子を見てからでもいいんじゃないですか? 初期生産分はお金持ちの家に高値で売れば、新しい氷室と氷池の建造費に充てられますし」

ジルコニアの意見に一良が苦笑していると、バレッタがそんな提案を出した。

現時点での氷の生産量からして今期中に冷蔵庫を広く普及させるのは不可能だ。

冷蔵庫は裕福な一部の貴族や豪商、市民には手ごろな価格でのかき氷の提供が妥当な線だろう。

かき氷用の氷には、日本から業務用の大型製氷機を持ってきてしまうという手もある。

冷蔵庫用のブロック氷は無理でも、かき氷に使う程度の大きさの氷ならば安定的に確保できるはずだ。

「お、それいいですね。新しいもの好きな豪商とか貴族に売り込みますか」

「バレッタ、けっこうあくどいね!」

「そ、その言いかたはちょっと……」

そんなこんなで話はまとまり、冷蔵庫に入れておいた肉で昼食を作ることになった。

調理は調理場の女性陣プラス、バレッタとリーゼの担当である。

「さて、食事ができるまでの間、工房を見て回りますか。ジルコニアさんはもう見たんですか?」

「いえ、ずっとかき氷を食べていたので」

「そ、そうですか。じゃあ、一緒に見て回りますか」

集合工房の敷地はかなり広く、高炉やレンガ窯が建っている広場を囲むようなかたちで、建屋が5棟(鍛冶工房・大工工房・レンガ工房(モルタル製造兼務)・倉庫・食堂&調理場)建っている。

基本的には鉄製品の製造に重点を置いているが、今試作している冷蔵庫のような特殊品の製造もこの場所で行っていた。

2人で工房内を進み、一番大きな建屋である鍛冶工房へやってきた。

あちこちから、水力鍛造機や金槌で鉄を打つ音が響いてくる。

「ツルハシとシャベルと斧と……ええと、これはリゴとトラブラだっけ。生産は順調そうですね」

完成品用の棚に纏められている大量の鉄製の道具に、一良はうんうんと頷く。

鉱山からは連日のように鉄鉱石が届けられ、高炉はフル稼働状態だ。

職人たちも必死で生産を続けており、農具や工具などの生産を中心に順調に進んでいた。

「こなせばこなすだけ給金に業績給が上乗せされますからね。皆一生懸命取り組んでくれています」

一良の提案で、この工房で働く職人たちには基本給とは別に業績給を付与していた。

働けば働くだけ給料がガンガン増えるので、職人たちのやる気は尋常ではない。

皆が休憩時間もそこそこに、毎日夜なべして働きまくっていた。

時折過労でダウンする職人もいるのだが、そういう職人には『特別に調合した滋養強壮の薬』と称したリポDを与えて即復活させている。

工房内を進み、武具を生産している区画へやってきた。

あちこちの壁に、剣や槍といった武器が立てかけられている。

長さ5メートルはあろうかという長槍の束を見つけ、一良が足を止めた。

まだ本腰を入れてというほどではないが、鉄製の武具の生産も始まっている。

「おお、ずいぶんと数がそろってるな……前に兵士さんたちが訓練してるのを見ましたけど、間近で見ると迫力がありますね」

「それは重装歩兵用の長槍ですね。けっこう重たいですよ」

「どれどれ……うお、これは重いですね。こんなに重いもの、よくあんなに軽々と扱えるなぁ」

槍を持って感心している一良を見て、ジルコニアも槍を手にした。

両手で槍を持ち、横にして構えてみる。

「あら、この槍、前のものに比べて少しだけ軽いですね」

「青銅と鉄だと、鉄のほうが1割くらい軽いですからね。そんなに違って感じます?」

「そこまでというほどではないですけどね。若干軽いかな? 程度には感じます。長時間持っていれば、だいぶ違いが感じられると思いますけど」

「なら、ほぼ全ての部位が金属製の鎧とか兜なら、けっこう違いを感じられそうですね」

「そうですね、鎧も見に行ってみましょうか」

槍を元の場所に戻し、防具を作っている区画へと移動する。

比較的若い職人が、汗だくで一心不乱にハンマーを振るい、真っ赤に焼けた鉄の板を金床に打ち付けて曲げ成形をしている。

職人の傍には、同じ形に曲げられた鉄の部品が数十個並べられていた。

「作っているのは何の部品ですか?」

「鎧の肩当ての部分です! 部隊指揮官用のものを作っています!」

職人が手を止めずに答える。

置かれている部品をよく見てみると、大きさの種類がいくつかあることに気が付いた。

どれも種類ごとにまったく同じ形に成形されている。

実に素晴らしい腕前だ。

「何か困っていることとかありませんか? 足りないものとかあったら何でも言ってください」

「もっと人手が欲しいです! 職人もそうですが、小間使いのような雑用をしてくれる人を何人か入れていただけると助かります!」

「分かりました。職人さんの増員はすぐにはできませんが、雑用担当の人員はすぐに手配しておきますね」

「ありがとうございます!」

働いている職人たち1人1人に声をかけ、何か困ったことはないかと聞いて回る。

ほとんどの鍛冶職人から『注文量に対して人手が足りない』と意見が出ていた。

なかには、『工房に詰めっきりで出会いがまったくないので女の子を入れて欲しい』、といった要望もあったりした。

思わず笑ってしまいそうな要望だが、真面目に考えてみると存外に重要な意見であることに気付かされた。

雇用側主催で、女性の多い他業種との交流会を企画してみてもいいかもしれない。

「雑用業務に女性を若干名募集、と。雨季が終わったら街の商店とか屋敷の侍女さんとかに声かけて、職人さんたちを集めてバーベキューパーティーでも企画してみますかね」

一良は持参した手帳にメモを取りながら、工房を見渡した。

働いている職人たちは全員が男性で、女っ気はゼロである。

この集合工房で働いている女性は、調理場で働いている中年女性(職人の奥さん方)だけだ。

「それは楽しそうですね。軍部の男性陣も出会いが少なくて婚期が遅くなりがちですから、彼らも呼んで大々的にやりましょう」

「軍部もですか。モテそうなイメージがあったんで意外ですね」

「何だかんだで、軍部は男ばかりの職場ですからね。でも、屋敷の警備兵は侍女と接する機会が多いので、みんな早婚ですよ。『彼女が欲しいならお屋敷の警備兵になれ』という格言みたいなのが軍部にはあるみたいです」

「そうなんですか。だから侍女さんたちって若い人が多いんですか」

「結婚を機に退職する娘が多いですからね。こちらも意識して、新人には若い娘を取るようにしています」

「復職する人は少ないんですか? もしくは、辞めずにそのまま働き続ける人とか」

「いないことはないですよ。でも、新婚夫婦が同じ職場だと馴れ合われたりして風紀が乱れることがあるので、できるだけこちらで別の職場を斡旋するようにしています。元領主付きの侍女は箔が付いているので、引く手あまたですよ」

「なるほどねぇ」

そんな話をしながら、すべての作業場へ足を運んで話を聞いて回る。

研磨職人は仕事量が限界に達しつつあるとのことで、新人でも何でもいいから人を寄越して欲しいと泣き付かれた。

鍛冶職人に比べて、研磨職人はなり手が少ないらしく、常に人手不足であるらしい。

「研磨に若い人を募集するのと、今使っている足踏み式研磨機の砥石部分に布を巻いて、バフ研磨っていうのもできるようにしましょうかね」

光沢を出す仕上げ加工には、『砥の粉の枝』と呼ばれる山に生えている植物から採れる粉を研磨剤として用いる。

その粉を布に付け、加工品をゴシゴシと磨くと光沢がでるのだ。

以前、ロズルーがバレッタと一緒に山に行った際に採ってきた枝がそれである。

今まで手で磨いていた仕上げ研磨も、バフ研磨ができるようになればだいぶ楽になるだろう。

ちなみに、日本では研磨剤にはダイヤモンドペーストなどの研磨剤を用いている。

次に日本に戻った時に、いくらか仕入れてきてもいいかもしれない。

「色んな方法があるんですね。作業に機械を使うようになってから、どんどん便利になって作業時間も短縮されていってすごいです」

「全部手作業じゃ大変ですからね。職人さんの数も足りてないですし、何とか効率化していかないと」

そんな話をしていると、カンカン、と鐘を叩く音が工房内に響いた。

お昼休みの合図だ。

「うめえ! めちゃくちゃうめえ!」

「リーゼ様さすがです! またお願いします!」

「喜んでもらえてよかったです。また作りに来ますね」

「バレッタちゃん、今日もかわいいね! 今夜飲みに行こうか!」

「え、遠慮しときます」

食堂に集まった職人たちは、リーゼとバレッタお手製のサンドイッチを食べて大いに盛り上がっていた。

大皿には、大量のミャギカツサンドとタマゴサンド、果糖を混ぜたバターをたっぷり塗ったパンに果物を挟んだフルーツサンドが並べられている。

バターはあらかじめ屋敷で作ってきたものを、保冷バッグに入れて持ってきた。

カツサンドに使っているソースは、バレッタお手製の辛口ソースと甘口ソースの2種類である。

「バレッタちゃん、この肉の周りにくっついてるのって、もしかして刻んだパンかい?」

「はい、細かく刻んだパンを、溶き卵を塗った肉にくっつけて揚げるんです」

「ほうほう、こんな料理初めて食べたから驚いたよ。サクサクしてて本当に美味いな。ソースの味も完璧だ。特にこの辛いやつが最高に美味い」

「ふふ、ありがとうございます。奥さんにレシピは教えておいたので、これからはいつでも作ってもらえますよ」

「お、嬉しいねぇ。バレッタちゃんはいい嫁さんになるな! 誰かいい相手はいないのかい?」

「え、ええと……」

「リーゼ様、パンに塗ってあるこの甘いものは何ですか?」

「それはバターといって、ミルクを鍋で温めて――」

「リーゼ様の手料理を食べられるなんて、俺職人になって本当に良かったっす! 感激っす!」

「あ、あはは」

バレッタとリーゼを中心に、わいわいと楽しい食事の時間が過ぎていく。

ふと、一良は隣に立つジルコニアに目を向けた。

ジルコニアはカツサンドを手に、職人たちと楽し気に言葉を交わしているリーゼに目を向けている。

すると、ジルコニアは一良の視線に気付き、小首を傾げて自身の持つ食べかけのカツサンドを見た後、一良にそれを差し出した。

「はい、あーん」

「え? はむぐっ!?」

「ちょ、何をやってるんですかお母様っ!!」

一良の口にカツサンドをねじ込んだジルコニアを見て、リーゼが大声を上げる。

「だって、カズラさんがやってって言うから」

「お、俺は何も言ってな」

「はい、タマゴサンドー」

「ほむぐっ!? ふぉんなにはいらないれふよ!」

「おー、入った入った」

「お、お母様!」

「冗談よ、冗談。うふふ」

くすくすと、ジルコニアは楽し気に笑う。

それにつられて、職人たちからも大きな笑い声が響いた。

すぐに、バレッタが水の入ったコップを持って駆け寄ってくる。

「はい、カズラさん」

「ふ、ふみまへん」

もぐもぐと口を動かしながら、バレッタからコップを受け取る。

サンドイッチを水で流し込み、ふう、と息をつく。

「ふふ、楽しいですね」

そう言って見上げてくるバレッタは、にこにこととても幸せそうだ。

「ずっと、こんな日々が続くといいです」

「……うん」

一良は頷き、ぎゃーぎゃーとわめいているリーゼと、それをなだめるジルコニアに目を向けるのだった。