軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

12話:畑と神様

次の日の朝、一良はバレッタと村長に連れられて、芋の生き残っている畑まで来ていた。

日照りの中でも村人達の努力で何とか生き残った芋たちは、緑色の葉を精一杯広げ、蔓もにょろにょろと伸びており、どれも元気そうである。

「おー、どれも青々として元気そうですね」

「ええ、水路が引かれたおかげですな。たっぷり水をあげることができるので、日照りにも負けません」

一良たちが畑を見ている間にも、畑の世話をしにきた村人達が一良たちに挨拶をしては、芋の葉の隙間から覗いている草を抜いたり、溜め池に水を汲みに行ったりしている。

この畑の傍を通って溜め池へ向かう水路には水は流れていないので、溜め池の水は一杯になっているのだろう。

多くの村人達が代わる代わるやってくる様子から、どうやら村全体で協力して畑の世話をしているようだ。

「この芋は、収穫する時までにはどれくらいの大きさになっているんですか?」

「えっと、これくらいの大きさのものが多いです。一つの苗に5個くらいできますね」

バレッタはそう言いながら、手で小さな輪っかを作って見せた。

輪っかは日本のスーパーで売っているMサイズの鶏卵と同じくらいの大きさであり、随分小ぶりな芋が出来るようである。

一つの苗に5個できるとは言っても、どうにも物足りない気がする。

「肥料は何を与えてるんですか?」

「えっと……ひりょうって何ですか?」

「……え?」

何のことだろう? といった表情で答えるバレッタに、一良は一瞬固まったが、こっちの世界では呼称が違うのだろうと思い直した。

「ええと、作物に栄養を与えるために土に混ぜるものですけど、何か畑に撒いたりしてません?」

「あ、豊作のおまじないのことですね。グレ……神様に豊作をお願いするために、作物の種を撒いた後に、山で狩ったカフクの骨を細かく砕いて畑に撒いたりしますよ」

「……他に何か撒いたりはしないんですか?」

「えっと……他には何も……あ、あの、もしかして骨ではなくてお肉のほうがよかったのでしょうか? 昔からの慣習で砕いた骨を撒いていたんですけど、やっぱり骨なんかよりお肉のほうが……その……好きだったり……しま……す?」

どうやら、この村の農業には肥料という概念が無いらしい。

おまじないのような感じで結果的に肥料のようなものを撒いてはいるようだが、目的が土に栄養を与えることではないので、大した量は撒かないのかもしれない。

あと、神様の好みなんて聞かれても困る。

「神様の好物が骨と肉のどっちかってことは置いといてですね。作物を元気にさせるには、まず土を元気にさせないといけないのですよ」

「土をですか?」

一良の言葉に、バレッタは小首を傾げる。

恐らく、作物とは神様の恵みとか祝福とかのおかげで成長すると考えていたのだろう。

「ええ、そのためには森の中にある腐葉土……落ち葉などが腐って土みたいになっているものとか、残飯とかを一旦土と混ぜて腐らせたものを畑の土に混ぜたりします」

「あの……そんな腐ったものなんて畑に混ぜて、神様は怒らないのでしょうか?」

一良の説明に、バレッタは怪訝そうな表情で一良に問う。

この村の人間にしてみれば、畑に混ぜるという行為が神様に捧げるという意味なのだろう。

「あー、大丈夫ですよ。逆に神様も喜ぶと思いますし、土も元気になりますよ。神様はそれらを使って畑を元気にしてくれるんです」

一良の言葉を聞いて、バレッタと村長は「そうだったのか」と納得している。

作物は神様のおかげで育つという概念からどうにも抜け出せないようだが、今までずっと神様のおかげだと思っていたのに、急に「土を元気にしないと作物は元気にならない」などと言われても意味がわからないだろう。

とりあえずは、神様が腐葉土とかを使って畑を祝福している的なニュアンスで納得してもらうことにした。

「なので、森に行って腐葉土を集めてこないといけないんですけど……」

「わかりました。村の者にも集まってもらって、皆でその腐葉土というものを採りに行きましょう」

村長はそう言うと、近くで畑仕事をしている村人に声をかける。

声を掛けられた村人は作業の手を止め、村長から指示を受けると他の村人を呼びに駆け出していった。

「では、私も他の人たちを呼びに行ってきます。バレッタはリアカーを取ってきてくれ」

「うん」

「あ、私も一緒に取ってきますよ」

こうして、大勢の村人を巻き込んだ腐葉土集めが行われることになったのだった。

それから約20分後。

一良は森の入り口に集められた村人達に期待を込めた視線を投げかけられながら、近場の土をシャベルで掘り起こしていた。

掘り起こされた土を手に取ってみると、若干パサついてはいるが、ごく普通の腐葉土に見える。

「これが腐葉土です。これを沢山集めて畑の土に混ぜてください。そうすれば、神様が腐葉土を使って畑の土を元気にしてくれますから」

一良はそう言うと、手に持った腐葉土を集まった人たちに見せて歩く。

腐葉土を見せられた人たちは、口々に

「そうだったのか」

とか

「カズラ様がそう言うのなら間違いない」

などと言っては感心している。

「それでは、皆で腐葉土を掘り起こしてリアカーに積みましょうか。とりあえずは畑1つにつきリアカー1台分程度を使うことにしましょう」

一良がそう指示を出すと、村人達は一斉に手にしたシャベルで近場の土を掘り起こし始めた。

長年落ち葉が積み重なった森の土は柔らかく、浅い部分だけ掘り返していれば簡単に腐葉土を集めることができそうである。

「さてと……バレッタさん、ちょっといいですか?」

「あ、はい。どうかしましたか?」

一良の傍で腐葉土を掘っていたバレッタは、一良の呼びかけに作業の手を止める。

「私はこれから国に戻って、追加のリアカーと畑に撒く肥料を取ってきます。なので、その間の作業の指示をバレッタさんとバリンさんにお願いしたいんですけど」

「あ、はい。わかりました。父にも伝えておきますね」

「お願いします」

一良はそう言うと、日本へ戻るべく森を出るのだった。

「ね、ねぇコルツ、やっぱりまずいよ。絶対に追いかけるなってみんなにきつく言われてるじゃない……」

「平気だって。それに、これだけ離れてればあのにいちゃんだって気づかないよ」

日本に戻るために雑木林へ向かって歩く一良の50メートル程後方で、二人の子供が所々に生えている木に隠れながら一良を尾行していた。

子供は二人とも5~6歳といったところで、好奇心に瞳を輝かせているコルツと呼ばれた少年を、気弱そうな少女が彼の服を引っ張って止めようとしている。

「で、でも、もしカズラ様にばれたら……」

「だから平気だって……あっ、林に入っていったよ!」

雑木林に入っていく一良を見て、見失ってなるものかとコルツは急いで後をつける。

走り出したコルツに、少女は一瞬ついていくかを迷った様子だったが、すぐに彼を追って走り出した。

「あれ? いなくなっちゃった……」

すぐに一良が入っていった雑木林についたコルツだったが、雑木林のどこを見ても一良の姿が見えない。

雑木林といっても、そこまで木は密集しておらず、たった今この場所に歩いて入っていった一良の姿が見えないというのはどうにもおかしい。

「ほら、やっぱりカズラ様はグレイシオール様なんだよ。そうじゃなかったら見失うはずないよ」

コルツの後を追ってきた少女は、一良を見失ってきょろきょろしているコルツに、ほっとした様子でそう言った。

少女の言葉に、少し腑に落ちない表情をしていたコルツだったが、実際に一良の姿が見えなくなってしまったことは事実である。

「そうなのかなぁ、俺には普通のにいちゃんに見えるんだけどなぁ……ミュラもそう思うだろ?」

「もう、まだそんなこと言ってるの? ほら、早くみんなのところに戻ろうよ」

ミュラと呼ばれた少女は、雑木林の奥を眺めながらなおもぼやいているコルツの手を取ると、村人達が腐葉土を集めている森へと彼を引っ張って歩き出すのだった。

一方、子供に尾行されていたことなど全く気づいていない一良は、いつものように雑木林を抜けて石畳の通路に辿り着く。

そして全く変わらない様子で通路の隅に崩れ落ちている白骨死体に「毎度すいませんね」と声を掛けて前を通ると、日本への敷居を跨いだ。

「さて、またホームセンターに行くか。何かこのまま行くと大口取引先になりそうだな」

いつものように一良は車に乗り込むと、この間農具を買ったホームセンターに車を走らせる。

道すがら見える日本の景色は、僅か数分前までいた異世界とは違い、そこら中にのびのびと野菜が育つ畑が広がっている。

そんな景色を見ながらまったりと車を数十分走らせてホームセンターに到着した一良は、店の外に設置されている園芸コーナーに向かうと、大量に積みあがっている肥料袋の前で立ち止まった。

「ううむ、こりゃ随分と種類が多いな。どれを買っていけばいいんだろうか」

様々な用途別に種類分けされている肥料を前に、どの肥料を買っていけばいいのかと一良は腕組みして悩む。

それぞれの袋に書かれた説明を見て、

「異世界の作物用とか書かれた肥料もあればいいのに……芋用の肥料ってこれでいいのかな」

などとぶつぶつ言いながら一良がうろうろしていると、その様子を見ていた店員が近寄ってきた。

「あの、何かお探しですか?」

「ええ、芋用の肥料を探しているんですけど、どれがいいんですかね?」

「あ、それならこれがいいですよ。ちょっと臭いますけど」

店員はそう言うと、鶏糞と書かれた肥料の前に一良を案内する。

確かに独特な香りがするが、肥料の説明欄には芋類にも使えると記載してある。

「肥料を使うのはジャガイモですか?」

「えーと……まぁ、そんな感じだと思います」

この間村で食べた炊き込みご飯に入っていた小さな芋は、ジャガイモとは少し味が違う気もしたが、芋は芋なので大した違いはないのかなと思うことにした。

「では、鶏糞とは別にこれも撒くといいですよ。それとですね……」

「ふむふむ……では、今説明してもらった肥料を全部買っていきますかね」

ジャガイモの育て方をあれこれと説明してくれる店員の話を一通り聞き、とりあえず言われた肥料を一通り買っていくことにした。

「あ、はい、ありがとうございます。一袋ずつでよろしいでしょうか?」

「いや、全部お願いします。ここに積んであるやつ全部」

「……え?」

「何kgくらいになるのかなー」と肥料を眺めながら呟いている一良を他所に、置いてある品物全部寄越せと言われた店員は少しの間固まっていたが、

「しょ、少々お待ちください」

と一良に一言断ると、店の中に小走りで入っていった。

それから1分程一良が待っていると、先程の店員が胸に「主任」と書かれた名札を付けた別の店員を連れて戻ってきた。

「お客様、この肥料を全部お買い上げになられるとこの者から聞いたのですが……」

「ええ、全部ください。あと折りたたみ式のリアカーも数台欲しいんですけど、何処にありますかね?」

「あの、全部お買い上げですと、鶏糞だけでも400kgはあるのですが……ジャガイモですと、100坪あたりに30kgも撒けば十分ですよ?」

店員の台詞に、「あー、400kgか」と一良は唸る。

その様子に、さすがに必要な量を間違えていたのだろうと思っていた主任店員だったが、その予想はすぐに裏切られることとなった。

「すいませんが、店のトラックをお借りしたいです。できれば積み込みも手伝って欲しいんですけど」

そう言う一良に一瞬たじろいだ主任店員だったが、本当に購入するというのなら仕方がない。

主任店員は傍で目を丸くしている店員に肥料の総額の計算を指示すると、一良をリアカーの売っている場所へと案内するのだった。