作品タイトル不明
第53話
「はぁぁ……やっと全部捕まえた……」
動物が死んでも魂になるっていうのは、まだ分かる。
でも――なんでこのモルモットたち、こんなに凶暴なの!?
まるで私が、とんでもないことをしたみたいな勢いで怒ってるんだけど。
今だって、彼岸花の茎でぐるぐるに縛ってるのに、まだ「チチチチッ!」って延々と罵倒してくるし。
「……待って」
そこで私は、ふと違和感に気づいた。
「……まさか」
配信コメント欄の指摘を見て、ようやく思い出す。
「あなたたち、あの……魂を吐き出してた邪教徒たち!?」
“邪教徒”という単語を聞いた瞬間、モルモットたちの怒声がさらに激しくなった。
ギャアギャアと喚き散らしながら、彼岸花の茎を噛み千切ろうとしている。
「えっ、あ、あの……本当にごめんなさい! あのとき、別に傷つけるつもりはなかったんです! 勝手に私の血を飲みに来たの、そっちですし……!」
「それに、冒険者協会の調査でも、かなりヤバいことしてたみたいですし……これ以上騒ぐなら、三途川に投げ込んで魚のエサにしますよ?」
その瞬間。
モルモットたちはぴたりと静かになった。
そして――
口から、ぽわぽわと魂を吐き始める。
「……え?」
魂が、魂を吐いてる。
……えっ、魂ってビビると魂吐くの!?
じゃあ魂の魂って何!?
っていうか――
「なんで吐き出された小さい魂まで、さらに魂吐いてるの!?」
もう何がどうなってるの……?
◇
「魚だぁぁぁ!! 本当に釣れたぞーー!!」
三途川のほうから、突然ものすごい歓声が上がった。
「……えっ」
あの川、ほんとに魚いるんだ……!?
「しかもめちゃくちゃいる!! なにこれ、見たことない魚ばっかなんだけど!? 絶対美味そう!!」
「みんな早く釣りしろ!! 家族に釣り竿供養してもらえ!! さっき試したけど、供えた瞬間マジでこっち飛んできたぞ!!」
「えっ!? 本当に供物届くの!? じゃあ食べ物そのまま供えてもらえばよくない?」
「違うんだよ!! 三途川の魚とか、一生で一回しか食えないかもしれないだろ!? 食わなかったら絶対後悔するって!!」
「息子ーー!! 父ちゃんに核弾頭十発くらい供養してくれ!! お前がこっち来たら、父ちゃんの王位継がせてやるからな!!」
「…………」
なんか……
冥界の雰囲気、想像してたのと全然違うんだけど。
【怖くなくなりましたか?】
ポチはもう遺言を全部記録し終えていて、新しく近づいてくる死者もいなかったから、今は少し落ち着いていた。
やっぱりAIってすごい。
これ、人間だったら何日もかかるよね。
「最初はちょっと怖かったよ。でも途中で気づいたの」
「幽霊って結局、誰かに想われてた子供だったり、親だったり、恋人だったりするんだなって」
「だったら……そんなに怖がる必要、ないのかもって」
【あなたの体に取り憑いて、現世へ逃げようとする幽霊もいますよ。】
「……いや、私自身、まだ帰り方分かってないし」
【それでも不安にならないんですか? よくそんな余裕でピクニックみたいなことをしていますね。】
「帰れるかどうかは、そこまで重要じゃないかなぁ。電池と充電器さえいっぱい供養してもらえれば、別にどこでも生きていけそうだし……」
「それに、ここまで雰囲気出来上がっちゃったら、ちゃんと食べ終わってから帰りたいじゃん?」
花の種類さえ無視すれば――
ここが冥界だなんて、とても思えなかった。
まるで、お祭り会場とキャンプ場をごちゃ混ぜにしたみたい。
彼岸花の花畑の真ん中に寝転がりながら、淡い香りを吸い込んで、そっと目を閉じる。
……なんだろう。
このままずっと、ここで眠っていたくなる。
「んぅ……」
数分ほど、目を閉じて休んでいると。
頭の近くで、二人分の足音が止まった。
夕焼けの光が遮られる。
影が落ちた気配に、私はゆっくり目を開けた。
そこに立っていたのは――
腕を組み、スーツを着た牛。
そして。
同じく腕を組み、スーツを着た馬。
「………………」
私は無言で、もう一度目を閉じた。
うん。
たぶん、目の開け方を間違えた。