軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第30話

「もしあなたがバカじゃないって言うなら……普通の人間がミツバチと花粉を奪い合って、泣きながら何ブロックも追いかけ回されるなんて、ちょっと想像つかないんだけど」

錬金術師は肩をすくめた。

私は一瞬で顔が真っ赤になる。

「……あのときは、本当にお腹すいてたの!!」

錬金術師は丸眼鏡をくいっと押し上げ、親指を立てた。

「私なら、空腹で気絶する寸前でもそんな発想は出てこないわね。あなたの都市サバイバル能力、人類のレベルじゃないわよ。地球人類の域じゃないわね」

「でしょでしょ!」

私は得意げに腰に手を当てる。

【ポチ通知:今の発言は、褒め言葉ではない可能性が高いです】

火災事件がS+級へと格上げされたため、アパートはしばらく封鎖されることになった。

そのせいで、私と錬金術師は一時的に住む場所を失ってしまった。

冒険者協会は臨時の避難先を指定し、指定されたのはG166番ダンジョン内だった。

――というわけで、私たちはしばらく行動を共にし、G166ダンジョンへ向かうことになった。

「……毒の効果を完全に反転させる、ですって? そんな……」

さっき、私は自分のスキルについて改めて説明した。

彼女はある程度察していたみたいだけど、実際に説明してみると、やっぱり信じられないという顔をしていた。

「たぶん、“もうお腹を空かせたくない”っていう願いが天に届いたんだと思う。だから、何を食べても生き延びられる能力をくれたんじゃないかな」

私はリュックから一本の竹を取り出す。

そのまま――ボリボリと噛み始めた。

……店が閉まってて、今夜はもやしが手に入らないから、仕方なく竹をかじってるだけなんだけど。

錬金術師は、じっとこちらを見つめながら考え込む。

「パンダ化の後遺症……? 人間の身体に戻っても、竹への嗜好だけは残ってるとか。薬効が切れても、影響は残るみたいね」

「いや、今まで食べた中で……竹って、普通に美味しいよ? それにダンジョンでたくさん採集したし」

「……」

彼女は顔を覆った。

「よく今まで生きてこられたわね、本当に……」

「んむ! でしょでしょ! 自分をここまで育て上げたの、私の一番の誇りなんだから! コリコリ〜、ボリボリ〜」

私は竹をかじりながら、ぶんぶん頷く。

そのままだと味が薄いので、左手に竹、右手に[砂糖箭毒木]を持ち、

左で一口、右で一口――と交互に食べる。

[毒効果反転が発動しました!]

[草属性親和性+10(永続)を獲得]

[詠唱速度+70%(永続)を獲得]

[赤血球の酸素運搬能力+100%(永続)を獲得]

……あれ?

また箭毒木の反転効果が発動した。

前に食べたときは、何口か食べても一回しか発動しなかったのに。

なるほど……同じ毒は一度“消化”されないと、再発動しないってことか。

それにしても――

「草属性親和性+10」「詠唱速度+70%」って、どれくらいのレベルなんだろう?

魔法職って、お金がかかるイメージがあって、あんまりちゃんと調べたことないんだよね。

MP上限や回復速度、属性親和性を上げるために大量の錬金薬剤が必要になる。

魔法の素質があっても、それだけじゃまともに戦えない。

完全に金持ち専用の職業だよ。

だから、低級魔法の詠唱自体はwikiで調べられても、実際に魔法使いとして戦える冒険者は、ほとんど存在しない。

「G166は世界でも七番目に大きい“魔法市型ダンジョン”。宿泊費はかなり高いはずよ……それなのに、臨時避難先がそこなんて。協会、どういう風の吹き回しなのかしら」

錬金術師は眉をひそめた。

何か引っかかっている様子だ。

「事件の影響とか?」

「それはあり得るけど……それにしても、どうしてG166なのかしら。もっと治安が良くて、家賃も安いダンジョンはいくらでもあるのに」

少し考えてから、彼女は首を振った。

思考を打ち切ったらしい。

私は手を差し出す。

「そういえば、まだ自己紹介してなかったよね。水瀬紗和です。新しい薬の効果を試したいときは、遠慮なく声かけてね。絶対、自分で飲まないでよ……」

「今さら自己紹介なのね……。私は 青野翠(あおの すい) 。これから、あなたとは色々と“協力”することになりそうね」

「協力? 今からでもいい? ちょっと喉渇いた……それに箭毒木、甘すぎて……あと竹が喉に詰まって……」

「………………」

青野は無言でポーションを一本取り出し、私に投げ渡した。

「これ。効果は……私も分からないから、気をつけて」

「ありがとう!」

私は勢いよく栓をひねり、そのままごくごくと飲み干した。

そのまま青野と一緒にG166ダンジョンへ入り、宿屋付近の転送ポイントを選択する。

ここは宿泊エリアらしく、屋台などはほとんどなく、通りは比較的静かだった。

――けれど。

宿屋の中に入った瞬間。

耳をつんざくような歓声が飛び込んできた。

「飲めぇ!! 飲めぇ!! 飲めぇ!! 飲めぇ!!」

一階は酒場になっていた。

店内の客たちが円陣を組み、その中央で二人の人物がグラスを掲げ、飲み比べしている。

一人は、身長二メートルはある大男。

そして、もう一人は――

神代凛華??

え、なんでここに!?

しかも様子がおかしい。

もう完全に、酔いつぶれる寸前じゃない!?

[毒効果反転が発動しました!]

[状態「元素視界(3時間)」を獲得:空気中の魔力の流れが見えるようになる]

視界が一瞬で変わる。

空気の中に、色とりどりの霧のようなものが浮かび上がった。

まるで銀河みたいに、ゆっくりと流れている。

人それぞれ、まとっている色が違う。

炎のように赤いものもあれば、雷みたいに金色のものもある。

そして――私の周囲には、青と緑の霧が多い。

さっきの効果から考えると、水属性と草属性、ってことだよね。

……すごい。

世界が、急に“見える”ようになった。

こんなにも面白いものがあったなんて――

思わず夢中になりそうになる。

でも、今はそれどころじゃない。

私ははっきりと見た。

神代の対面にいる大男の足元から――

水属性を示す青い霧が、勢いよく噴き出しているのを。

しかも、酒を一杯飲むたびに、その量が増えていく。

――こいつ、ズルしてる!!